HOME 駅伝

2024.11.25

JP日本郵政グループが“本命”積水化学の連覇を阻む チームが考える「勝てた理由」/クイーンズ駅伝
JP日本郵政グループが“本命”積水化学の連覇を阻む チームが考える「勝てた理由」/クイーンズ駅伝

4年ぶり4回目の優勝を果たしたJP日本郵政グループ

◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km)

ともに、長く日本の女子長距離界を牽引してきた33歳の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)と、36歳・新谷仁美(積水化学)の息詰まるデッドヒート。10.0km区間の5区で直接対決し、先頭で走り出した鈴木に、22秒遅れの2番手でスタートした新谷が4kmあたりで追いついた。

そこからの残り6kmは、新谷がわずかに鈴木の前に出たと思えば、すかさず鈴木が新谷の真横に並んでけん制する、手に汗握る展開に。仙台二高前の第5中継所まで、あと1km。小刻みな起伏が続くコースの終盤、まず得意の下りで鈴木が逃げた。

だが、ラスト500mの上りで再び新谷が前へ。意地のぶつかり合いを制したのは鈴木。「とにかく気持ちで負けないぞ」と必死の形相で渾身のスパートを放ち、新谷に1秒先着して、「行け~!」と叫びながら太田琴菜にタスキを渡した。

「亜由子さんがすごい勢いで(中継所に)突っ込んできたんです」と太田。「これは頑張るしかない」と腹が据わった。太田はギリギリ6番目でメンバー入りした選手というのだから、駅伝の流れはどこでどう転ぶかわからない。

積水化学のアンカー・森智香子が最初の1kmを2分55秒で入り、いったんは太田をかわしてトップを走る。前回は優勝テープを切り、2連覇がほぼ確実視された今回も最終区を任された森だ。自ずと力は入る。

広告の下にコンテンツが続きます

森は太田を決定的に引き離せないまま、3.3kmで逆に追いつかれ、並ばれた。そして5.4kmで、優勝への決定打となった太田のスパート。延々5区から続いたJP日本郵政グループと積水化学の死闘は、競技場に入る前に決着がついた。

JP日本郵政グループは、2時間13分54秒で4年ぶり4回目の優勝。太田がチームでただ1人の区間賞に輝き、今大会の最優秀選手に選ばれた。「正直、トップでタスキをもらった時は『いける』というより『怖いな』と思ったんですけど、積水さんが前に出ても絶対に引かないぞと思っていました」と太田は言う。「粘っていればチャンスが来る」と信じていた。

JP日本郵政グループも優勝候補の一角にいたが、強力な布陣で連覇を狙った積水化学に勝つことまでは想定していなかったのだろう。髙橋昌彦監督は「120点の出来。見事なレースでした」と、驚きを隠さなかった。

4年連続3区のエース・廣中璃梨佳は故障上がりで、これが今季初レース。読めない部分はあった。勝因を聞かれると、髙橋監督は「常に積水化学を意識しながら、1人ひとりが区間上位でしっかりつないでくれたこと」と、駅伝の鉄則を地で行く答え。

2014年の創部一期生で、15年から10年連続でこの駅伝に出続けてきた鈴木は「節目の年に優勝できたのは巡り合わせですかね」と笑顔を見せながら、「みんな、このチームが好きなんです」と、“チーム愛”を一番の勝因に挙げた。

それに被せるように、1区で好スタートを切ったキャプテンの菅田雅香が鈴木の言葉を引き継ぐ。「勝てたのは本当にチームワークです。このチームならがんばりたい。そう思えるんです」。話しながら感極まったのか、菅田の目から思わず涙がこぼれる。

すると、メンバー全員に想いが伝わり、最後はみんな目頭を熱くしていた。

24歳の誕生日がうれしい復帰戦となった廣中も「ケガで本当に苦しい1年でしたけど、それでも踏ん張れたのはメンバーの存在なんです」と、ためらいなく言い切った。

文/小森貞子

◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) ともに、長く日本の女子長距離界を牽引してきた33歳の鈴木亜由子(JP日本郵政グループ)と、36歳・新谷仁美(積水化学)の息詰まるデッドヒート。10.0km区間の5区で直接対決し、先頭で走り出した鈴木に、22秒遅れの2番手でスタートした新谷が4kmあたりで追いついた。 そこからの残り6kmは、新谷がわずかに鈴木の前に出たと思えば、すかさず鈴木が新谷の真横に並んでけん制する、手に汗握る展開に。仙台二高前の第5中継所まで、あと1km。小刻みな起伏が続くコースの終盤、まず得意の下りで鈴木が逃げた。 だが、ラスト500mの上りで再び新谷が前へ。意地のぶつかり合いを制したのは鈴木。「とにかく気持ちで負けないぞ」と必死の形相で渾身のスパートを放ち、新谷に1秒先着して、「行け~!」と叫びながら太田琴菜にタスキを渡した。 「亜由子さんがすごい勢いで(中継所に)突っ込んできたんです」と太田。「これは頑張るしかない」と腹が据わった。太田はギリギリ6番目でメンバー入りした選手というのだから、駅伝の流れはどこでどう転ぶかわからない。 積水化学のアンカー・森智香子が最初の1kmを2分55秒で入り、いったんは太田をかわしてトップを走る。前回は優勝テープを切り、2連覇がほぼ確実視された今回も最終区を任された森だ。自ずと力は入る。 森は太田を決定的に引き離せないまま、3.3kmで逆に追いつかれ、並ばれた。そして5.4kmで、優勝への決定打となった太田のスパート。延々5区から続いたJP日本郵政グループと積水化学の死闘は、競技場に入る前に決着がついた。 JP日本郵政グループは、2時間13分54秒で4年ぶり4回目の優勝。太田がチームでただ1人の区間賞に輝き、今大会の最優秀選手に選ばれた。「正直、トップでタスキをもらった時は『いける』というより『怖いな』と思ったんですけど、積水さんが前に出ても絶対に引かないぞと思っていました」と太田は言う。「粘っていればチャンスが来る」と信じていた。 JP日本郵政グループも優勝候補の一角にいたが、強力な布陣で連覇を狙った積水化学に勝つことまでは想定していなかったのだろう。髙橋昌彦監督は「120点の出来。見事なレースでした」と、驚きを隠さなかった。 4年連続3区のエース・廣中璃梨佳は故障上がりで、これが今季初レース。読めない部分はあった。勝因を聞かれると、髙橋監督は「常に積水化学を意識しながら、1人ひとりが区間上位でしっかりつないでくれたこと」と、駅伝の鉄則を地で行く答え。 2014年の創部一期生で、15年から10年連続でこの駅伝に出続けてきた鈴木は「節目の年に優勝できたのは巡り合わせですかね」と笑顔を見せながら、「みんな、このチームが好きなんです」と、“チーム愛”を一番の勝因に挙げた。 それに被せるように、1区で好スタートを切ったキャプテンの菅田雅香が鈴木の言葉を引き継ぐ。「勝てたのは本当にチームワークです。このチームならがんばりたい。そう思えるんです」。話しながら感極まったのか、菅田の目から思わず涙がこぼれる。 すると、メンバー全員に想いが伝わり、最後はみんな目頭を熱くしていた。 24歳の誕生日がうれしい復帰戦となった廣中も「ケガで本当に苦しい1年でしたけど、それでも踏ん張れたのはメンバーの存在なんです」と、ためらいなく言い切った。 文/小森貞子

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.03.28

【世界陸上プレイバック】五輪ボイコットきっかけに創設!クラトフヴィロヴァが女子400mと800mで今も大会記録に残る2冠 日本は室伏重信ら出場も入賞ゼロ

今年、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪大会を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。これま […]

NEWS 【高校生FOCUS】女子三段跳・山﨑りりや(鳴門渦潮高)日本高校女子初の13m到達、大学で学生記録挑戦

2025.03.28

【高校生FOCUS】女子三段跳・山﨑りりや(鳴門渦潮高)日本高校女子初の13m到達、大学で学生記録挑戦

FOCUS! 高校生INTERVIEW 山﨑りりや Yamasaki Ririya 鳴門渦潮高3徳島 高校アスリートをフォーカスするコーナー。年度末を迎えますが、振り返ってみれば、2024年度は高校生による日本記録樹立を […]

NEWS 3泊4日の全国高体連合宿終了! 「高め合える仲間がいっぱいできた」 来年度は宮崎で開催予定

2025.03.28

3泊4日の全国高体連合宿終了! 「高め合える仲間がいっぱいできた」 来年度は宮崎で開催予定

大阪・ヤンマースタジアム長居を主会場に行われた2024年度の日本陸連U-19強化研修合宿・全国高体連陸上競技専門部強化合宿が3月28日、3泊4日の全日程を終えた。全国から集まった選手たちは交流を深め、試合での再会を誓った […]

NEWS 資格停止中の競歩・池田向希がCASに不服申し立て「一日も早く競技 を再開」

2025.03.28

資格停止中の競歩・池田向希がCASに不服申し立て「一日も早く競技 を再開」

旭化成は3月28日、所属選手である競歩の池田向希が受けたアンチ・ドーピング規則違反による4年間の資格停止処分について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服申し立てを行ったと発表した。 男子20km競歩で東京五輪銀メダリスト […]

NEWS 【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー

2025.03.28

【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー

3月28日、東京都多摩市の国士大多摩陸上競技場で第7回国士大競技会が行われ、高校用規格の男子円盤投(1.75kg)において福宮佳潤(東京高1)が50m73をマークした。この記録は高校1年生の歴代ランキングで2位。高1で史 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報

page top