8月1日~11日の日程で開催されているパリ五輪の陸上競技。日本時間10日午後3時スタートで行われた男子マラソンで、日本勢の男子長距離種目が終了した。マラソンで赤﨑暁(九電工)が2時間7分32秒の自己新をマークして6位、3000m障害で三浦龍司(SUBARU)が長距離勢史上初の2大会連続入賞となる8位を占めた。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、大会を振り返ったもらった。
◇ ◇ ◇
まずは、マラソンで赤﨑暁選手が素晴らしい走りを見せてくれました。
難コースということは言われていましたが、想像をはるかに上回るもの。序盤から有力選手が次々と脱落していたように、坂の適性がある、またはトレーニングをしっかりとしてきた選手でないと克服できないようなコース設定だったと思います。
それを赤﨑選手は完璧に駆け抜けたと言っていいでしょう。中盤は先頭を引っ張る場面がかなりあり、アップダウンに対して自信を持って走っている姿が印象的でした。「世界と戦った」とはっきりと言えるレースぶりで、メダルの可能性を本当に感じさせてくれました。
この結果は、マラソンを走り切るだけではなく、この難コースを想定したトレーニングを積んできたという何よりの証拠です。今年2月の青梅マラソンも、アップダウンの厳しいコースにもかかわらず1時間29分46秒の好タイムで制覇。2位に4分30秒近い大差をつけて圧勝しています。こういったコースだからこそ、日本勢は戦える。日本らしいい粘り強さを、世界に見せてくれました。
確かに、スピードをつけてマラソンへ、という流れが王道ではあります。しかし、泥臭く、地道に力をつけていくというアプローチもあります。赤﨑選手には、拓大の先輩である中本健太郎さん(12年ロンドン五輪5位/現・安川電機監督)と重なる部分があり、全身の脱力がありながら、前方に滑らかに進む走りがこういった難コースに生きたのではないでしょうか。
赤﨑選手の地元・熊本の先達、金栗四三氏らが提唱した「箱根駅伝から世界へ」の言葉を、見事に体現しました。
13位だった大迫傑選手(Nike)、23位だった小山直城(Honda)も、自分の現状を見ながら、粘り強い走りを見せてくれました。目標はもっと高いところにあったと思いますが、日本代表としての責任をしっかりと示してくれたと思います。
3000m障害の三浦龍司選手も、2大会連続の入賞は本当に素晴らしい。今持っている力を、最大限発揮したレースだったように感じます。
メダルを目指すという点に関しては、考えさせられるレースとなりました。これは5000mや10000mにも言えることですが、世界トップの層が厚くなり、入賞ラインのレベルが非常に上がっているということです。
これまでの世界大会では、暑さの影響などで入賞ラインでも急激に落ち込む選手がいました。しかし、今大会は大集団で進み続け、それが最後まで崩れないレースがほとんどでした。そのため、「途中でタメを作って、ラストに出す」「落ちてきた選手を拾う」という戦略はもう通じないでしょう。いかに先頭集団に最後まで残り、そこからさらにギアを上げられるか。世界大会ではこういったレースが求められていくのではないかと思います。
3000m障害の青木涼真選手(Honda)、10000mの葛西潤選手(旭化成)、ケガを抱えていた太田智樹選手(豊田自動車)とも、それぞれに現状の力を尽くしたレースでした。あとは、今回の経験を今後にどう生かしていくか。
世界との差は確かに大きいです。しかし、「5000mで12分台を出したい」「10000mで26分台を出したい」と言った声が聞こえてきています。選手たちには達成されるまで、これからもそれを言い続けてほしいのです。
目標を言い続けることで、壁が破られた時に何かが変わっていくと思います。これまで、本稿では「3000mのスピードが大切」と何度か述べてきましたが、さらに距離を縮めて1500mのスピードを出せる身体に、スタミナをつけていくという取り組みが必要になってくるかもしれません。一方で、地道に力をつけていくという日本らしい取り組みも必要。
両方のアプローチを、とにかくやり続けることが大切で、あきらめず、世界と勝負するにはどうすればいいのかを考え続ける。そして地道に、コツコツとやり続ける。
その先に、壁を越える日がやって来ると思います。
◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ)
摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00、10000m27分45秒59。
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