◇パリ五輪・陸上競技(8月1日~11日/フランス・パリ)
パリ五輪の男子110mハードルで、村竹ラシッド(JAL)が日本人で初めて決勝の舞台に立つ。「準決勝の壁」を見事に越えてみせた。
中学時代は中学で、高校で陸上を続ける時は高校で、「辞めようと思っていた」。まさか「仕事」になるとは思ってもいなかったという。
村竹に衝撃を覚えたのは高2の終わり。室内の60mハードルで当時ほぼ無名の選手が3年生を抑えて優勝をかっさらった。聞けばケガで半年ほど練習しておらず、ハードルもほとんど跳べていなかったというから驚かされた。3年生になった村竹は13秒台に突入し、インターハイを制して一躍トップハードラーへと駆け上がった。
その村竹が大学に進学してから、一度だけ「辞めよう」と思ったことがある。
大学2年時の6月。東京五輪を懸けた日本選手権に臨んだ。予選で13秒28をマークして東京五輪の参加標準記録を初めて突破。いきなり、五輪代表候補に「なってしまった」のだ。「心が追いつかなかった。自分なんかが行っていいのか」。その迷いが出た。決勝は不正スタートによる失格。先輩の泉谷駿介(現・住友電工)が日本記録で地元五輪を決める走りを、ただ見届けるしかできなかった。
「こんなにつらい思いをするくらいなら、陸上なんてやらないほうがいいんじゃないか」。しばらく部屋から引きこもり、1週間ほどグラウンドに足を向かなかったという。
ただ、山崎一彦コーチや、先輩、後輩がいた。大学の同期には、この同じパリ五輪で8位に入った三浦龍司(SUBARU)、400mハードルの出口晴翔(ゼンリン)、宇野勝翔(オリコ)ら、意識の高い選手たちもそろっていた。村竹は再び走り出した。バックアップメンバーとして迎えた東京五輪では、海外にルーツがあるだけに、世界のトップハードラーの動きをその脳裏に焼き付けた。
「この日のために3年間やってきました」
今年の日本選手権で初優勝。夢の五輪代表をつかみとり、そして、本番で決勝進出の快挙を成し遂げた。
ケガをしていた時のインカレでは、スタンドで喉がつぶれるほど毎日仲間に声援を送る、温かな心の持ち主。「世界を目指す選手があんなに応援してくれるので手を抜けるわけがありません」。仲間たちは村竹の姿にそう話していた。
先輩の泉谷は準決勝敗退。その悔しさは近くで見てきて理解できるはず。日本記録でも並ぶ縁牌は、今や最高のライバル。「泉谷さんのために」なんていう言葉はお互いに必要ない。いずれ、決勝の舞台でメダルを争う相手。口にせずとも、村竹はいろいろな思いを持ってファイナルに立つ。
世界王者のグラント・ホロウェイ(米国)、前回王者のハンズル・パーチメント(ジャマイカ)ら上位の力と差があるが、自分の走りをすればメダル争いの“ワンチャンス”はある。村竹は「世界の強豪相手に全身全霊でぶつかりたい」と、その一瞬にすべてを懸ける。
男子110m決勝は日本時間8月9日深夜4時45分にスタートする。
男子110mH決勝のスタートリストをチェック!
2レーン H.パーチメント(ジャマイカ) 3レーン E.リョピス(スペイン) 4レーン D.ロバーツ(米国) 5レーン R.ブロードベル(ジャマイカ) 6レーン G.ホロウェイ(米国) 7レーン O.ベネット(ジャマイカ) 8レーン F.クリッテンデン(米国) 9レーン 村竹ラシッド(日本)
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.09.17
逆襲を期する駒澤大学 駅伝シーズンに向けて虎視眈々
2024.09.16
世界女王・北口榛花に特製『やり投ハイチュウ』贈呈!「やりより重たい」
-
2024.09.16
-
2024.09.16
-
2024.09.15
2024.09.15
高2・新妻遼己が5000mで13分44秒64 久保凛は1500mも大会新V/近畿ユース
-
2024.09.16
-
2024.09.13
2024.08.20
BROOKSの新作ランニングシューズ「Ghost MAX 2」が9月3日より発売開始!
-
2024.08.30
-
2024.08.21
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.09.17
逆襲を期する駒澤大学 駅伝シーズンに向けて虎視眈々
強力な学年が卒業して〝危機感〟を共有 学生駅伝3冠を狙った昨シーズン、駒澤大学は出雲、全日本で優勝しながらも、最後の正月決戦では2位にとどまった。主軸をなしていた強力な学年が抜けて新チームは〝危機感〟を共有。今季は篠原倖 […]
2024.09.17
世界陸連会長・セバスチャン・コー氏がIOC会長選に立候補 現役時代に男子1500mで2度の金メダル
9月16日、国際オリンピック委員会(IOC)はトーマス・バッハ会長の任期満了に伴って行われる次期会長選に立候補した7人を発表し、世界陸連(WA)のセバスチャン・コー会長が立候補したことを明らかにした。 コー氏は67歳。現 […]
2024.09.16
世界女王・北口榛花に特製『やり投ハイチュウ』贈呈!「やりより重たい」
女子やり投でパリ五輪金メダルに輝いた北口榛花(JAL)が9月16日に帰国し、都内で会見を開いた。その席でサプライズが待っていた。 7月16日にサポート契約を結んだ森永製菓から、やり投を模したケースにハイチュウなど、お菓子 […]
2024.09.16
やり投世界一・北口榛花「悩み、もがき続けた1年」五輪金メダルとDLトロフィーとともに凱旋帰国
女子やり投の北口榛花(JAL)が9月16日に帰国し、都内で会見を開いた。 光り輝くパリ五輪金メダルとダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルを手に帰国した北口。冒頭で「オリンピックとダイヤモンドリーグ・ファイナルと重要な試合 […]
2024.09.16
女子やり投アジア選手権入賞の久世生宝が今季限りで引退 「感謝の気持ちでいっぱい」
女子やり投の久世生宝(コンドーテック)が9月15日、10月の佐賀国民スポーツ大会を最後に現役引退することを明らかにした。 久世は岡山県出身の29歳。幼少期から陸上に親しみ、中学では短距離が専門。倉敷中央高校進学後、体力強 […]
Latest Issue 最新号
2024年10月号 (9月13日発売)
●Paris 2024 Review
●別冊付録/学生駅伝ガイド 2024 秋
●福井全中Review
●東京世界選手権まであと1年
●落合晃の挑戦