8月1日~11日の日程で開催されているパリ五輪ん陸上競技。その男子100mが日本時間3日午後6時55分から予選、同4日午前3時05分から準決勝、同午前4時50分から決勝が行われた。ノア・ライルズ(米国)が9秒79(+1.0)で初の五輪金メダルを獲得。日本勢はサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)がただ1人準決勝に進出し、日本歴代2位の9秒96(+0.5)をマークしたが、組4着にとどまり、日本勢92年ぶりのファイナル進出は果たせなかった。日本選手権2連覇の坂井隆一郎(大阪ガス)、東田旺洋(関彰商事)はいずれも予選敗退だった。2008年北京五輪男子4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、レースを振り返ったもらった。
◇ ◇ ◇
準決勝のサニブラウン選手は力を出せる状態にありながら、出し切れなかったという印象です。いい形で前半をいけていたし、中間も勝負できる場所にいました。しかし、彼にしては珍しく、自分のつかみたいものをつかめる場所にいながら、それをつかめませんでした。
終盤に姿勢が前のめりになり、身体が左右に振れる部分もありました。頂点を目指すマインドを持っていているサニブラウン選手ですら、最後の最後で「欲しいものを取りに行ってしまう」ことを抑えきれなかった。それができるのが決勝を戦う選手たちであり、だからこそ、あれほど素晴らしいレースになるのですが……。サニブラウン選手をもってしても、その差を埋められなかった。五輪と世界選手権の違いを改めて実感しました。
決勝進出ラインが9秒93にまで引き上げられましたが、参加標準記録が10秒00になっている以上、想定はできること。0.03秒足りなかったことへの本人の悔しさは、我々には計り知れません。しかし、五輪の決勝の舞台に立つチャンスを持っているのは、日本人では現時点ではサニブラウン選手しかいないというのも事実でしょう。
必要な時に、必要な力を出せる能力は本当に得難いもの。あれほどのレベルになった準決勝で、しっかりと自己ベストを出せる、しかもそれを最後に走りが崩れた中で出せたわけですから、やはりつかみたいものを「つかめる位置にいる」のは間違いないでしょう。
大会2週間前のレースでは10秒20かかっていましたが、自分自身が求めるところで、スイッチが入る身体、マインドを持っているサニブラウン選手だからこそ、来年の東京世界選手権、さらには4年後のロサンゼルス五輪へのステップアップに注目していきたいと思います。
東田選手と坂井選手は、現時点での力はある程度発揮できたのではないでしょうか。東田選手は世界大会初出場で、自己ベストにあと0.09秒の10秒19。坂井選手は日本選手権2連覇の実力者として、持ち味のスタートの強さは見せられたと感じました。
そのうえで、2人ともに通用しなかったということ。10秒1~2では、もはや話にならないということを、2人はもちろん、日本にいたスプリンターたちは痛感したはずです。
この舞台に来たら、「ミスが出た」ではなく、「うまくいかせないといけない」ですし、9秒台を出すためのアプローチを改めて見つめ直す必要があるでしょう。
自身の持ち味をより高めていくのか、それとも課題克服することで全体のベースを上げるのか。何が通用するのか、しないのかを考えるのではなく、通用させるしかないというマインドで、取り組み方を考えていく必要があります。世界で戦うには、9秒台を持っていること、それを再現できることが大前提になるのですから。
世界の選手たちに目を向けると、しびれる決勝を見せくれたなと思います。その中で、ライルズ選手は、あれだけスタートが遅れても、やるべきことをやり続けたことが金メダルにつながりました。
一方で、キシェーン・トンプソン選手は大舞台の経験がなかったこともあって、ラストは力んでいました。どれほどの舞台で戦ってきたのか。その経験を積み重ねてきたライルズ選手だからこそ、最後に、背中をちょっと押してくれたのでしょう。
ウサイン・ボルト選手が全盛期だった頃のように、9秒6台は出ていません。しかし、若い選手が非常に多く、9秒7~8の現在の水準が0.1秒上がっていく可能性は十分にあります。そこに日本人選手がどのように挑んでいくのか。今回の決勝は「お金を払っても観たいレース」でしたが、その舞台に日本人選手が立てる日を、心待ちにしています。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.09.16
世界女王・北口榛花に特製『やり投ハイチュウ』贈呈!「やりより重たい」
2024.09.16
女子やり投アジア選手権入賞の久世生宝が今季限りで引退 「感謝の気持ちでいっぱい」
-
2024.09.16
-
2024.09.15
2024.09.15
高2・新妻遼己が5000mで13分44秒64 久保凛は1500mも大会新V/近畿ユース
-
2024.09.16
-
2024.09.13
2024.08.20
BROOKSの新作ランニングシューズ「Ghost MAX 2」が9月3日より発売開始!
-
2024.08.30
-
2024.08.21
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.09.16
世界女王・北口榛花に特製『やり投ハイチュウ』贈呈!「やりより重たい」
女子やり投でパリ五輪金メダルに輝いた北口榛花(JAL)が9月16日に帰国し、都内で会見を開いた。その席でサプライズが待っていた。 7月16日にサポート契約を結んだ森永製菓から、やり投を模したケースにハイチュウなど、お菓子 […]
2024.09.16
やり投世界一・北口榛花「悩み、もがき続けた1年」五輪金メダルとDLトロフィーとともに凱旋帰国
女子やり投の北口榛花(JAL)が9月16日に帰国し、都内で会見を開いた。 光り輝くパリ五輪金メダルとダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルを手に帰国した北口。冒頭で「オリンピックとダイヤモンドリーグ・ファイナルと重要な試合 […]
2024.09.16
女子やり投アジア選手権入賞の久世生宝が今季限りで引退 「感謝の気持ちでいっぱい」
女子やり投の久世生宝(コンドーテック)が9月15日、10月の佐賀国民スポーツ大会を最後に現役引退することを明らかにした。 久世は岡山県出身の29歳。幼少期から陸上に親しみ、中学では短距離が専門。倉敷中央高校進学後、体力強 […]
2024.09.16
女子やり投・右代織江が引退 08年インターハイ、19年茨城国体優勝
9月15日、女子やり投の右代織江(アースコンシャス)が自身のSNSを更新。今季限りで現役を引退すことを発表した。 右代は北海道出身の34歳。十種競技日本記録保持者の右代啓祐(国士舘クラブ)を兄に持ち、中学から陸上を始めた […]
2024.09.16
11年世界選手権男子400m銅メダルのケヴィン・ボルレーが引退 “ボルレー兄弟”で4×400mRでも活躍
男子400mのケヴィン・ボルレー(ベルギー)が、9月14日のDLファイナルとなったメモリアルヴァンダムで引退レースを行った。 1988年に双子としてジョナサンとともに生まれたケヴィン。ジュニア期から400mを中心に活躍し […]
Latest Issue 最新号
2024年10月号 (9月13日発売)
●Paris 2024 Review
●別冊付録/学生駅伝ガイド 2024 秋
●福井全中Review
●東京世界選手権まであと1年
●落合晃の挑戦