バハマ・ナッソーで開催された2024世界リレー(5月4日、5日/日本時間5日、6日)で男子の4×100mと4×400mがパリ五輪出場権を獲得した。初日の予選で、4×100mは38秒10で1着通過して五輪切符を決めると、決勝は38秒45で4位。メダルまではわずか0.01秒差だった。4×400mも予選を1着通過(3分00秒98)し、決勝は3位と0.04秒差の4位(3分01秒20)だった。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、2日間の熱闘を振り返ってもらった。
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世界リレーの最大の目的は、パリ五輪の出場権を獲得することです。特に、五輪本番でメダルを目指す男子の4×100m、4×400mにとっては、決勝に進むことで五輪のシードレーン(中央4レーン分)が確約されるため、決勝進出を果たせた価値は非常に大きいです。
決勝をどう評価するかについては、最大の目標がメダルよりも五輪出場権獲得にある以上、難しいところ。ただ、それぞれに収穫のあったレースだったことは間違いありません。
4×100mについては、予選で1走にサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(東レ)が入りました。世界大会は先手を取りに行くことが重要なので、出場権を狙うこのレースの戦略、メンバーを考えても有効だったと思います。
サニブラウン選手が勢いをつけ、栁田大輝選手(東洋大)、上山紘輝選手(住友電工)、三輪颯太選手(慶大)がきっちりとつないで、38秒10の1着通過。先行して逃げ切るという思惑を遂行したサニブラウン選手の1走は、非常に素晴らしかったです。
決勝は1走がサニブラウン選手から山本匠真選手(広島大)に入れ替わり、38秒45で4位。確かにタイムは予選から落としましたが、それでもメダルまで0.01秒差と、メダル圏内で戦えた価値は大きいのではないでしょうか。
一方で、五輪を見据えた時に、37秒40で優勝した米国には1秒近く離されたという現実も受け止めなくてはなりません。日本が目指すタイムはそこ(37秒5前後)。パリ五輪で金メダル獲得を目指すために、どんなオーダーを構成するのか。やはり、アンカーにサニブラウン選手を置けるチームを作る必要があるでしょう。
そのうえで、2走の栁田選手には「日本の2走は自分のポジションだ」という責任感が増したように感じられました。予選は珍しく力みが見られましたが、世界のトップスプリンターたちの重圧に耐え、上位でつなぐという日本の2走としての役割をしっかりと捉えているからでしょう。決勝は、予選よりもリラックスした走りができていました。
3走の上山選手には、そのパフォーマンスはもちろんのこと、五輪出場権を取るという目的、そのプロセスを完成させるために、絶対的に大事なピースだったと思います。バトンパスの練習でも、いろいろな選手と何度もやらないといけないポジション。いろいろな価値が詰まった上山選手の3走だと感じました。メダルへのピースとなるためには、もう1段階上のスピードが求められるでしょう。
アンカーの三輪選手、決勝で1走を務めた山本選手も、今の実力をしっかりと出し切ったと思います。ともに初めての世界大会ながら、大きな経験を積むことができたのではないでしょうか。
今回出場したメンバーを含め、パリでは2走までにリードできるかが求められます。これまで、日本の4×100mで1走を務めてきた選手たちが苦戦を強いられていますが、そういった固定概念を取り払う必要もある。最終的に代表メンバーをどう見極め、どう適材適所にはめていくのか。2大会ぶりのメダル獲得、悲願の金メダルへは、そこが大きなカギとなるでしょう。
男子4×400mについては、4×100m以上に1走からの流れが大切になります。その点で、日本記録保持者の佐藤拳太郎選手(富士通)を抜てきする戦略はピタリとはまったと感じます。
予選は2走を西裕大選手(MINT TOKYO)が務め、バックストレートでトップに立つ展開。200m選手としてのスピードをしっかりと発揮したと思います。彼が2走に入ったことで、日本歴代3位の44秒85を持つ佐藤風雅選手(ミズノ)を3走に置くことができました。どんな展開でも対応できるオーダーにできたことも、大きかったのではないでしょうか。
アンカーの川端魁人選手(中京大クラブ)も、豊富な国際大会の経験値を生かしたクレバーな走りでした。3分00秒98の2着でフィニッシュ。1着だった米国が失格となったことで、組1着での通過が決まりましたが、概ね狙い通りの展開だったと感じました。
決勝は3走に中島佑気ジョセフ選手(富士通)が入り、佐藤風選手が2走へ。1走の佐藤拳選手は3時間前に男女混合4×400m(1走)を走った影響とは思えませんが、佐藤風選手へのバトンパスが間延びし、予選のように前半から好位置につける展開に持ち込めませんでした。
ただ、今までの日本ならここで立て直しきれなかったでしょう。実際に、昨年のブダペスト世界陸上でも1走で出遅れ、後手に回る展開から3分00秒23で5着にとどまり、予選敗退を喫しています。
しかし今回は、佐藤風選手、中島選手もメダル争いの流れに食らいつき、川端選手が3位のベルギーを0.04秒差まで追い詰めました。ミスをしてもメダル争いができる強さを身につけつつあるのではないでしょうか。この「3位」を狙える位置に、常にいることが何よりも大切。それを繰り返すことで、メダルへのチャンスが訪れます。
パリへの課題としては、個人種目の400mでファイナルを見据える佐藤拳選手、佐藤風選手、中島選手が、4×400mまで力を残せる状態を作れているか。ファイナルまで行けば400mを3本走ることになり、そこから4×400mの決勝まであと2本。合計5本を出し切る力が求められます。
4×400mの選手層は、4×100mほど厚くはありません。その中で、ブダペスト世界陸上は3分00秒23を出しても予選敗退となった事実に目を向ける必要があります。2分台を常に出せるオーダーを組めるか。インドの持つアジア記録(2分59秒05)を奪還できるように、本番に向けて力をつけていってほしいと思います。
◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)
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