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2024.04.12

女王シファン・ハッサンインタビュー「好奇心を持つこと」「失敗を恐れず前を向いて」挑戦し続けるメンタリティー
女王シファン・ハッサンインタビュー「好奇心を持つこと」「失敗を恐れず前を向いて」挑戦し続けるメンタリティー

シファン・ハッサン(オランダ) 写真/NIKE

東京マラソン翌日の3月4日、女子10000mとマラソンで世界歴代2位の自己記録(29分06秒82&2時間13分44秒)を持つシファン・ハッサン(オランダ)がインタビューに応じた。

東京マラソンでは2時間18分05秒で4位にとどまったが、東京五輪を戦った思い深い東京で3度目のマラソンに挑戦したことを喜び、「忍耐が必要だと改めて感じました」と前向きに振り返っていた。

世界の第一線で活躍を続けるランナーが、競技観や人生観、トレーニングで大切にしていることなどを語った。

――東京マラソンではお疲れさまでした。あらためてレースの感想をお願いします。

ハッサン 東京の街に戻って来られてうれしいです。昨日は最高の結果ではなかったけれど、沿道で驚くほど応援してもらえました。結果に関わらずハッピーですし、日本の方は長距離が大好きなことも知っていましたから、ベストを尽くしました。

――今回履いたシューズ「ナイキ アルファフライ 3」の履き心地はいかがでしたか。

ハッサン 私のために作られたかと思うくらい素晴らしい出来でした。長い距離を走ると1週間は身体がきついのですが、回復も早くて、すぐに走れてしまいます。

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――Nikeのシューズの進化について、どんな感想をお持ちですか。また、数多くシューズのテストをやってきたと思いますが、開発者とのやりとりは楽しいですか?

ハッサン とてもハッピーになります。テストの時にはまだ売られていないシューズをトライするのも楽しいし、私の意見が反映されるのもうれしい。2024年にまたいろんなシューズ出てくると思いますが、すべてのものが進化していく中で、私の意見が採用されるのはうれしいです。

――ハッサン選手は現在もトラックでも活躍を続けながら、マラソンにも挑戦されています。

ハッサン マラソンに取り組み始めたのは3回目でまだ試している途上ですが、実はそんなに練習は変えていません。冬はたくさん走り、山や森も走ります。冬が終わればトラックに戻る。トラックを全力で走ることも好きなので、いろんなことをミックスして行うことが好きです。

マラソンは持久力も必要だし、我慢強く走らなければいけません。トラックもきついけどすぐに終わります。マラソンのトレーニングにおいては、(接地で)プッシュし過ぎないようにして、(出力を)抑えるようにすることもあります。昨年4月のロンドンマラソンの後は、トラックへの移行においてメンタル面できつかった部分がありました。トラックからマラソンへの移行はできますが、その逆は難しいと思います。

――走る以外にはどんなトレーニングをしていますか。

ハッサン 週に2回ジムに行きます。私はトラックもやるので、米国にいる時はロッククライミングもします。いろんなことを楽しくやっていますね。

――ケガをしないために気をつけていることはどんなことですか?

ハッサン プラン通りに、ただ馬のように走るのではなく、スマートに走ること。繰り返し同じことをするだけでなく、いろいろな動きをミックスさせることも大切です。

――競技へのモチベーションをどのように保っていますか。

ハッサン トレーニングを信じています。自分がどれだけ頑張ってきたかを理解しているので、身体が動いてくれると信じているのです。また、常に新しいことへチャレンジしているので、好奇心を持つことで、努力をするモチベーションにしています。

若い頃は結果やトレーニングで一喜一憂しましたが、大人になるにつれて『思ったようにことは進まない』と感じました。大事なのは毎日ベストを尽くすこと。そうすれば明日、新しい自分に会えるのです。

――人生で大切にしている哲学は?

ハッサン 好奇心を持つこと。人間は自分が思うよりもずっと良いものです。楽しいことをして、限界だと思わず、もっともっといけると思っています。もっと先を見て、努力をすれば、どんな人でも改善することができます。どんなことができるのかを考えて、失敗を恐れず前に向かっていくことだと思います。

――アスリートとして変わらないものはどんなことですか。

ハッサン 変わらずプロとして活躍すること、ランニングだけでなく、すべてのことについて学び続けることです。

――ずばり、強さの秘訣は?

ハッサン 好奇心が旺盛で、誰もやらないことをやることでしょうか。単に努力するだけでなく、学んで考え続けていることだと思います。周りに素晴らしい人たちがいて、支えてもらっている。幸運にも恵まれました。

――東京マラソンに一緒に出場したキプチョゲ選手についてどんな印象をお持ちですか。

ハッサン 父親のような感じです。私も学びたい。いつも「なんでそんなに勝てるの?」と聞いています。最高のロールモデル。すべてのランナーの尊敬の的だと思いますし、とても尊敬しています。

――走ることはあなたの人生に何をもたらしましたか。

ハッサン 私はランニングから辛抱強さを学びました。たくさん健康になりましたし、あきらめなくなりました。やり続けることが大事。東京五輪の1500m予選では転んでしまいましたが、あきらめずに1着でフィニッシュできました。何が起きてもあきらめないこと、辛抱強く努力を続けること。それによって改善、向上する。ランニングを通じて大人になれたと思います。

――今後の目標を教えてください。

ハッサン パリ五輪でメダルを取りたいと思いますし、どの種目になるかわからないですが、また東京にも戻ってきたいです。次回の東京でも、またたくさんのファンのみなさんの前で走りたいと思います。

シファン・ハッサン(オランダ)
1993年1月1日生まれ、31歳。エチオピア生まれのオランダ人。2015年北京世界選手権女子1500mで銅メダルを獲得すると、以降は中長距離種目で国際大会のメダル常連に。19年のドーハ世界選手権では1500mと10000mの変則2冠を達成し、21年の東京五輪では5000mと10000mの2冠、1500mでも銅メダルと3つのメダルを獲得した。同年には10000mで29分06秒82の世界記録(現・歴代2位)を樹立し、23年4月のロンドンでマラソンデビュー。同年10月のシカゴで世界歴代2位の2時間13分44秒をマークした。

東京マラソン翌日の3月4日、女子10000mとマラソンで世界歴代2位の自己記録(29分06秒82&2時間13分44秒)を持つシファン・ハッサン(オランダ)がインタビューに応じた。 東京マラソンでは2時間18分05秒で4位にとどまったが、東京五輪を戦った思い深い東京で3度目のマラソンに挑戦したことを喜び、「忍耐が必要だと改めて感じました」と前向きに振り返っていた。 世界の第一線で活躍を続けるランナーが、競技観や人生観、トレーニングで大切にしていることなどを語った。 ――東京マラソンではお疲れさまでした。あらためてレースの感想をお願いします。 ハッサン 東京の街に戻って来られてうれしいです。昨日は最高の結果ではなかったけれど、沿道で驚くほど応援してもらえました。結果に関わらずハッピーですし、日本の方は長距離が大好きなことも知っていましたから、ベストを尽くしました。 ――今回履いたシューズ「ナイキ アルファフライ 3」の履き心地はいかがでしたか。 ハッサン 私のために作られたかと思うくらい素晴らしい出来でした。長い距離を走ると1週間は身体がきついのですが、回復も早くて、すぐに走れてしまいます。 ――Nikeのシューズの進化について、どんな感想をお持ちですか。また、数多くシューズのテストをやってきたと思いますが、開発者とのやりとりは楽しいですか? ハッサン とてもハッピーになります。テストの時にはまだ売られていないシューズをトライするのも楽しいし、私の意見が反映されるのもうれしい。2024年にまたいろんなシューズ出てくると思いますが、すべてのものが進化していく中で、私の意見が採用されるのはうれしいです。 ――ハッサン選手は現在もトラックでも活躍を続けながら、マラソンにも挑戦されています。 ハッサン マラソンに取り組み始めたのは3回目でまだ試している途上ですが、実はそんなに練習は変えていません。冬はたくさん走り、山や森も走ります。冬が終わればトラックに戻る。トラックを全力で走ることも好きなので、いろんなことをミックスして行うことが好きです。 マラソンは持久力も必要だし、我慢強く走らなければいけません。トラックもきついけどすぐに終わります。マラソンのトレーニングにおいては、(接地で)プッシュし過ぎないようにして、(出力を)抑えるようにすることもあります。昨年4月のロンドンマラソンの後は、トラックへの移行においてメンタル面できつかった部分がありました。トラックからマラソンへの移行はできますが、その逆は難しいと思います。 ――走る以外にはどんなトレーニングをしていますか。 ハッサン 週に2回ジムに行きます。私はトラックもやるので、米国にいる時はロッククライミングもします。いろんなことを楽しくやっていますね。 ――ケガをしないために気をつけていることはどんなことですか? ハッサン プラン通りに、ただ馬のように走るのではなく、スマートに走ること。繰り返し同じことをするだけでなく、いろいろな動きをミックスさせることも大切です。 ――競技へのモチベーションをどのように保っていますか。 ハッサン トレーニングを信じています。自分がどれだけ頑張ってきたかを理解しているので、身体が動いてくれると信じているのです。また、常に新しいことへチャレンジしているので、好奇心を持つことで、努力をするモチベーションにしています。 若い頃は結果やトレーニングで一喜一憂しましたが、大人になるにつれて『思ったようにことは進まない』と感じました。大事なのは毎日ベストを尽くすこと。そうすれば明日、新しい自分に会えるのです。 ――人生で大切にしている哲学は? ハッサン 好奇心を持つこと。人間は自分が思うよりもずっと良いものです。楽しいことをして、限界だと思わず、もっともっといけると思っています。もっと先を見て、努力をすれば、どんな人でも改善することができます。どんなことができるのかを考えて、失敗を恐れず前に向かっていくことだと思います。 ――アスリートとして変わらないものはどんなことですか。 ハッサン 変わらずプロとして活躍すること、ランニングだけでなく、すべてのことについて学び続けることです。 ――ずばり、強さの秘訣は? ハッサン 好奇心が旺盛で、誰もやらないことをやることでしょうか。単に努力するだけでなく、学んで考え続けていることだと思います。周りに素晴らしい人たちがいて、支えてもらっている。幸運にも恵まれました。 ――東京マラソンに一緒に出場したキプチョゲ選手についてどんな印象をお持ちですか。 ハッサン 父親のような感じです。私も学びたい。いつも「なんでそんなに勝てるの?」と聞いています。最高のロールモデル。すべてのランナーの尊敬の的だと思いますし、とても尊敬しています。 ――走ることはあなたの人生に何をもたらしましたか。 ハッサン 私はランニングから辛抱強さを学びました。たくさん健康になりましたし、あきらめなくなりました。やり続けることが大事。東京五輪の1500m予選では転んでしまいましたが、あきらめずに1着でフィニッシュできました。何が起きてもあきらめないこと、辛抱強く努力を続けること。それによって改善、向上する。ランニングを通じて大人になれたと思います。 ――今後の目標を教えてください。 ハッサン パリ五輪でメダルを取りたいと思いますし、どの種目になるかわからないですが、また東京にも戻ってきたいです。次回の東京でも、またたくさんのファンのみなさんの前で走りたいと思います。 シファン・ハッサン(オランダ) 1993年1月1日生まれ、31歳。エチオピア生まれのオランダ人。2015年北京世界選手権女子1500mで銅メダルを獲得すると、以降は中長距離種目で国際大会のメダル常連に。19年のドーハ世界選手権では1500mと10000mの変則2冠を達成し、21年の東京五輪では5000mと10000mの2冠、1500mでも銅メダルと3つのメダルを獲得した。同年には10000mで29分06秒82の世界記録(現・歴代2位)を樹立し、23年4月のロンドンでマラソンデビュー。同年10月のシカゴで世界歴代2位の2時間13分44秒をマークした。

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