2024.02.28
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第42回「スポーツの世界における“矛と盾”~切磋琢磨の末に生まれる新時代の息吹~」
矛盾という言葉の意味は「韓非子」に記されている。
「何でも突き通す矛(剣)」と「どんな攻撃でも防ぐ盾」を売る商人に対して、ある客が「あなたの矛であなたの盾を貫いたらどうなりますか?」と問うてみたところ、商人は答えることができなかった。そこから、つじつまの合わないことを「矛盾」(むじゅん)と言うようになったそうだ。
しかしながら、今回は100回の歴史を重ねてきた箱根駅伝を終え振り返った時、「むじゅん」として使われる漢字の「矛」と「盾」を別の捉え方に思い至った。
故事成語の出典である韓非子による「つじつまが合わぬ矛盾」を語るのではなく、勝負の世界で好敵手としての「盾と矛」の存在としてのイメージが浮かんできたからだ。
より鋭き剣となって最強とうたわれた盾を突き破らんとすることと同じく、より逞しき盾となって鋭き剣に打ち破られんとすることは、ライバル関係であるお互いの必然である。
“好敵手”いわゆる良きライバルの存在があればこそ、レベルの向上を目指す飽くなき探求心が生まれ、日々の鍛錬が継続される。
しのぎを削る矛と盾の勝負に着目しがちであるが、そのようになるまでにどのように鍛え上げてきたのかに興味が尽きない。
いずれにせよ、ライバルとして相手の力を知り、それを認め、超えようとすることがスポーツの醍醐味であり魅力でもあるからだ。
箱根駅伝の勝負のゆくえは臨場感満載の中継や専門誌で伝えられている。その背景には前回王者の駒澤大学に挑み、見事大会新記録で制した青山学院大学を筆頭に、すべての大学が、前方の盾を突き破ろうと挑戦し、後方からの矛に突き崩されまいと、鍛錬の1年間を過ごしてきたことに疑う余地はない。チーム内での鍛錬と精進は“切磋琢磨”の日々と言える。
すでに丸亀国際ハーフマラソンなど次年度を見据えた強化とせめぎ合いは始まっている。箱根駅伝の余韻も冷めやらぬ1月下旬、駒澤大学の佐藤圭汰選手(2年)が米国のボストンで行われた室内競技会において5000m13分09秒45の室内日本記録を更新。
……と書き終えたところで、2月25日の大阪マラソンでは國學院大學の平林清澄選手(3年)が2時間6分18秒の日本学生新記録・初マラソン日本人最高記録を樹立して優勝した。30km過ぎから先頭を譲らない圧巻の走りであった。
ともに「箱根から世界へ」との思いを牽引するランナーとして、今年の活躍を期待したい。
そして、箱根駅伝での結果を受けて、それぞれのチームが監督と学生スタッフとともにどのようにチーム作りを進めてゆくのか注目だ。
大学は毎年選手の入れ替えが行われ、経験を積んだ主将や主務も巣立って行く。それと同時に新たに主将や主務の引継ぎが行われ、歴史を継承すべくチーム作りが始まっている。
3月は卒業式を迎える。現在から未来を見つめるだけでは夢(フィクション・仮想)に過ぎず、卒業して行く先輩やチームの歴史の中にあって、過去から学ぶ姿勢を持つことでノンフィクション(現実)の中で目標を追うことができる。順天堂大学時代に体育経営学の北森義明先生のチームマネージメント(チームビルディング)の講義で、そのように拝聴したことがある。
より強き矛と盾になるためのチーム作りを行うとすれば、未来を予見する鋭い洞察力と現状を把握する観察眼、そして過去から学ぶ姿勢と経緯の検証を謙虚に進めることが必要であろう。
「優れた矛の存在無くして優れた盾の存在はあり得ない」と読み取るならば、すべてのチームがしっかりとしたチーム運営を司り、昨年以上の戦力と結束力を築き上げて再び激戦の箱根路に挑んでくることを信じている。
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
第42回「スポーツの世界における“矛と盾”~切磋琢磨の末に生まれる新時代の息吹~」
矛盾という言葉の意味は「韓非子」に記されている。 「何でも突き通す矛(剣)」と「どんな攻撃でも防ぐ盾」を売る商人に対して、ある客が「あなたの矛であなたの盾を貫いたらどうなりますか?」と問うてみたところ、商人は答えることができなかった。そこから、つじつまの合わないことを「矛盾」(むじゅん)と言うようになったそうだ。 しかしながら、今回は100回の歴史を重ねてきた箱根駅伝を終え振り返った時、「むじゅん」として使われる漢字の「矛」と「盾」を別の捉え方に思い至った。 故事成語の出典である韓非子による「つじつまが合わぬ矛盾」を語るのではなく、勝負の世界で好敵手としての「盾と矛」の存在としてのイメージが浮かんできたからだ。 より鋭き剣となって最強とうたわれた盾を突き破らんとすることと同じく、より逞しき盾となって鋭き剣に打ち破られんとすることは、ライバル関係であるお互いの必然である。 “好敵手”いわゆる良きライバルの存在があればこそ、レベルの向上を目指す飽くなき探求心が生まれ、日々の鍛錬が継続される。 しのぎを削る矛と盾の勝負に着目しがちであるが、そのようになるまでにどのように鍛え上げてきたのかに興味が尽きない。 いずれにせよ、ライバルとして相手の力を知り、それを認め、超えようとすることがスポーツの醍醐味であり魅力でもあるからだ。 箱根駅伝の勝負のゆくえは臨場感満載の中継や専門誌で伝えられている。その背景には前回王者の駒澤大学に挑み、見事大会新記録で制した青山学院大学を筆頭に、すべての大学が、前方の盾を突き破ろうと挑戦し、後方からの矛に突き崩されまいと、鍛錬の1年間を過ごしてきたことに疑う余地はない。チーム内での鍛錬と精進は“切磋琢磨”の日々と言える。 すでに丸亀国際ハーフマラソンなど次年度を見据えた強化とせめぎ合いは始まっている。箱根駅伝の余韻も冷めやらぬ1月下旬、駒澤大学の佐藤圭汰選手(2年)が米国のボストンで行われた室内競技会において5000m13分09秒45の室内日本記録を更新。 ……と書き終えたところで、2月25日の大阪マラソンでは國學院大學の平林清澄選手(3年)が2時間6分18秒の日本学生新記録・初マラソン日本人最高記録を樹立して優勝した。30km過ぎから先頭を譲らない圧巻の走りであった。 [caption id="attachment_129501" align="alignnone" width="800"] 駒大・佐藤圭汰選手(左)と國學院大・平林清澄選手[/caption] ともに「箱根から世界へ」との思いを牽引するランナーとして、今年の活躍を期待したい。 そして、箱根駅伝での結果を受けて、それぞれのチームが監督と学生スタッフとともにどのようにチーム作りを進めてゆくのか注目だ。 大学は毎年選手の入れ替えが行われ、経験を積んだ主将や主務も巣立って行く。それと同時に新たに主将や主務の引継ぎが行われ、歴史を継承すべくチーム作りが始まっている。 3月は卒業式を迎える。現在から未来を見つめるだけでは夢(フィクション・仮想)に過ぎず、卒業して行く先輩やチームの歴史の中にあって、過去から学ぶ姿勢を持つことでノンフィクション(現実)の中で目標を追うことができる。順天堂大学時代に体育経営学の北森義明先生のチームマネージメント(チームビルディング)の講義で、そのように拝聴したことがある。 より強き矛と盾になるためのチーム作りを行うとすれば、未来を予見する鋭い洞察力と現状を把握する観察眼、そして過去から学ぶ姿勢と経緯の検証を謙虚に進めることが必要であろう。 「優れた矛の存在無くして優れた盾の存在はあり得ない」と読み取るならば、すべてのチームがしっかりとしたチーム運営を司り、昨年以上の戦力と結束力を築き上げて再び激戦の箱根路に挑んでくることを信じている。上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
2024.11.21
立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.17
不破聖衣来が香港で10kmレースに出場 9位でフィニッシュ
2024.11.20
【箱根駅伝2025名鑑】早稲田大学
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.16
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.01
吉田圭太が住友電工を退部 「充実した陸上人生を歩んでいきたい」競技は継続
2024.11.07
アシックスから軽量で反発性に優れたランニングシューズ「NOVABLAST 5」が登場!
-
2024.10.27
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
11月21日、株式会社コラゾンは同社が展開する麹専門ブランド「MURO」を通じて、早大競走部駅伝部とスポンサー契約を結んだことを発表した。 コラゾン社は「MURO」の商品である「KOJI DRINK A」および「KOJI […]
2024.11.21
立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン
第55回防府読売マラソン大会事務局は、女子招待選手の立迫志穂(天満屋)が欠場すると発表した。調整不良のためとしている。 立迫は今年2月の全日本実業団ハーフマラソンで1時間11分16秒の11位。7月には5000m(15分3 […]
2024.11.20
M&Aベストパートナーズに中大・山平怜生、城西大・栗原直央、國學院大・板垣俊佑が内定!神野「チーム一丸」
神野大地が選手兼監督を務めるM&Aベストパートナーズが来春入社選手として、中大・山平怜生、國學院大・板垣俊佑、城西大・栗原直央の3人が内定した。神野が自身のSNSで内定式の様子を伝えている。 山平は宮城・仙台育英 […]
2024.11.20
第101回(2025年)箱根駅伝 出場チーム選手名鑑
・候補選手は各チームが選出 ・情報は11月20日時点、チーム提供および編集部把握の公認記録を掲載 ・選手名の一部漢字で対応外のものは新字で掲載しています ・過去箱根駅伝成績で関東学生連合での出場選手は相当順位を掲載 ・一 […]
Latest Issue 最新号
2024年12月号 (11月14日発売)
全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会