2020.09.30
昨年の沖縄インターハイ男子走幅跳で、藤原孝輝(洛南)は高校生史上初の8mジャンパーとなった。高校2年生でマークした8m12は、日本歴代9位タイ、U20日本記録も28年ぶりに更新する快記録。190㎝に迫る長身の身体が、砂場ギリギリまで跳ぶ姿に会場は大きく沸いた。
2020年は、インターハイでは走幅跳連覇、13秒97を持つ110mハードルとの2冠、そして洛南高がいつも掲げる男子総合優勝を目指して突き進みながら、シニアへの挑戦をするつもりだった。
だが、インターハイが史上初の中止、おぼろげに見えた東京五輪も延期。試合はおろか、仲間との練習もできない日々が続いた。夏になり、ようやく迎えた2020年シーズン。藤原はどんな思いで過ごし、これからを見据えているのだろうか。
インターハイ中止も「切り替えられた」
これまで男子学校対抗で最多8度の優勝を誇る洛南高は、インターハイに並々ならぬ熱意を捧げている。仲間たちと厳しい争いを勝ち抜くことで、アスリートとして、人間として、成長につながるからだ。最大目標としていたインターハイの中止が決まったのは、4月26日だった。
「洛南としても毎年目指してきた大会。1番の目標がなくなりました。中止が決まった時は少しショックも受けましたが、練習が再開してチームメイトと会ってからは落ち着いていて、次に向かって切り替えられていたと思います」
日々の努力こそ大切であり、それを発揮する最高の舞台がインターハイ。たとえインターハイがなくなっても、努力を止めることはない。とは言っても、やはりいつもと違う夏に寂しさは感じている。
「毎年、インターハイが終わった後に、やり切った先輩たちの達成感ある表情を見ていました。あんな先輩たちになりたい、と。でも、今年はシーズンが始まってすぐに、競技生活が一区切りとなる感じなので、すごく不思議な感じでした。先輩たちはインターハイが終わって、さぁ次はどうする、となるのですが、雰囲気が少し違います。やっぱり高校生として集大成だったなと、なくなってみて思いますね。夏合宿でも、2年生が練習の先頭を走るなど、少しずつ代替わりをしている状況です」
大会がなくなったことはもちろん、やはり仲間とともに練習できなかった日々の影響は大きかった。
「気持ち的には切り替えて秋に向けて取り組んでいます。ただ、練習面では3月から5月までの身体作りが万全ではありませんでした。少し痛いところも出てきたり、技術もまだ修正できていなかったり」
夏合宿中の様子。インターハイがなくなっても、競技に対する取り組みは変わらない
スピードが上がったことで走幅跳は苦戦
7月の京都選手権でシーズンインした藤原は、走幅跳で7m49、110mハードルは14秒17と高校生としては十分すぎる結果だった。その後も200mに積極的に出場してスピードを磨き、110mハードルでも14秒08までタイムを短縮。順調に見えるが、走幅跳については歯がゆい試合が続いた。
「試合を重ねるたびに、しっかり身体も技術も作っていかなくてはいけないな、と。難しいです」
明らかにスピードは増し、「走っていてもスピード感が違う」と言う。実際、200mでも21秒68のベスト、4×100mリレーでも洛南高のアンカーを務められるほど。
「大きな身体の変化はありませんが、お尻周りは少しずつ(筋肉が)ついてきたと思います。体重も少し増えました。それが良い面でもあり、悪い面でもあって。スピードが上がったぶん、踏み切りがなかなか合わないんです。助走の感覚もやっと少し戻ってきたくらいだと思います」
8月23日のゴールデングランプリで、初めてシニアと対峙。国立競技場のこけら落としとなった大会は7m42。その後すぐに福井でチームメイトとともに合宿を積み、そのままAthlete Night Games in FUKUIに挑み、7m61(+2.1)をマークした。
国立競技場で行われたゴールデングランプリが初のシニア大会だった
走幅跳ではなかなか思うような記録になっていないが、ほとんどが20cmある踏み切り板を踏んだかどうか、もしくはだいぶ手前から跳ぶことも見られる。実測では平均して7m80前後を跳んでいることから、こちらも高校生としては考えられないアベレージと言える。だが、どうしても“8m”という一つの目安で見てしまう状況にある。それは自分も、他者からも。
さらに今シーズンは、打倒・藤原を掲げる高校走幅跳陣が、7m後半の跳躍を次々と見せている。それは、藤原の大きな功績の一つだ。
「8mジャンパーというプレッシャーは、昨年の秋以降も感じていないと思っていました。でも、今考えたら、意識しないようにしていただけで、自分で思っている以上に重圧に感じていたと思います。高校生の大会だと、自分の順位が危なくなると焦ってしまう部分があります」
高校生には酷かもしれないが、自らも高みを目指しているからこそ、そのプレッシャーに打ち勝ち、大きく羽ばたかなくてはならない。
「今年の目標は日本選手権と全国高校陸上。気持ち的に挑戦したいのは日本選手権です。純粋な気持ちで挑戦したい。初めての日本選手権。シニアの大会は2つ経験して、どういう雰囲気かわかったので、その中でどう自分のパフォーマンスを発揮できるか挑戦していきたいです」
焦ることはない。勝ちにこだわりつつも、高校生らしく今できる最大のパフォーマンスをするためにチャレンジすればいい。それが、洛南高が最も大事にしていることだ。
「今の時点では8mを超えられていないので、まずは8mをもう一回跳ぶこと。直近の一番大きな目標としては、来年の日本選手権までに8m22(東京五輪の参加標準記録)を跳べるように頑張っていきたいです」
まだまだ細身で土台を作る真っ最中。まだどの種目で伸びるかもわからないほど、無限の可能性を秘める。まずは、世界に通用する日本ロングジャンパー陣の胸を借り、挑戦する。それが、世界へ飛び出すための第一歩だ。
ふじはら・こうき/2002年5月31日生まれ。滋賀県出身。滋賀・高穂中→洛南高。189cm、62kg。走幅跳8m12(高校記録)、110mハードル13秒97(高校歴代6位)。
文/向永拓史

インターハイ中止も「切り替えられた」
これまで男子学校対抗で最多8度の優勝を誇る洛南高は、インターハイに並々ならぬ熱意を捧げている。仲間たちと厳しい争いを勝ち抜くことで、アスリートとして、人間として、成長につながるからだ。最大目標としていたインターハイの中止が決まったのは、4月26日だった。 「洛南としても毎年目指してきた大会。1番の目標がなくなりました。中止が決まった時は少しショックも受けましたが、練習が再開してチームメイトと会ってからは落ち着いていて、次に向かって切り替えられていたと思います」 日々の努力こそ大切であり、それを発揮する最高の舞台がインターハイ。たとえインターハイがなくなっても、努力を止めることはない。とは言っても、やはりいつもと違う夏に寂しさは感じている。 「毎年、インターハイが終わった後に、やり切った先輩たちの達成感ある表情を見ていました。あんな先輩たちになりたい、と。でも、今年はシーズンが始まってすぐに、競技生活が一区切りとなる感じなので、すごく不思議な感じでした。先輩たちはインターハイが終わって、さぁ次はどうする、となるのですが、雰囲気が少し違います。やっぱり高校生として集大成だったなと、なくなってみて思いますね。夏合宿でも、2年生が練習の先頭を走るなど、少しずつ代替わりをしている状況です」 大会がなくなったことはもちろん、やはり仲間とともに練習できなかった日々の影響は大きかった。 「気持ち的には切り替えて秋に向けて取り組んでいます。ただ、練習面では3月から5月までの身体作りが万全ではありませんでした。少し痛いところも出てきたり、技術もまだ修正できていなかったり」
スピードが上がったことで走幅跳は苦戦
7月の京都選手権でシーズンインした藤原は、走幅跳で7m49、110mハードルは14秒17と高校生としては十分すぎる結果だった。その後も200mに積極的に出場してスピードを磨き、110mハードルでも14秒08までタイムを短縮。順調に見えるが、走幅跳については歯がゆい試合が続いた。 「試合を重ねるたびに、しっかり身体も技術も作っていかなくてはいけないな、と。難しいです」 明らかにスピードは増し、「走っていてもスピード感が違う」と言う。実際、200mでも21秒68のベスト、4×100mリレーでも洛南高のアンカーを務められるほど。 「大きな身体の変化はありませんが、お尻周りは少しずつ(筋肉が)ついてきたと思います。体重も少し増えました。それが良い面でもあり、悪い面でもあって。スピードが上がったぶん、踏み切りがなかなか合わないんです。助走の感覚もやっと少し戻ってきたくらいだと思います」 8月23日のゴールデングランプリで、初めてシニアと対峙。国立競技場のこけら落としとなった大会は7m42。その後すぐに福井でチームメイトとともに合宿を積み、そのままAthlete Night Games in FUKUIに挑み、7m61(+2.1)をマークした。

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