2024.02.14
男子走幅跳の橋岡優輝(富士通)はこう言って苦笑いを浮かべる。
「2023年に関して、僕は“引退”していたようなもの。まともに試合に出ていない。振り返るほどのこともないんじゃないでしょうか」
1年間、ケガに苦しんだシーズン。1月に左ハムストリングスを肉離れし、4月には右ハムストリングスを痛めた。ブダペスト世界選手権はワールドランキングで何とか出場。これまで、ドーハ世界選手権、東京五輪で入賞し、一昨年のオレゴンでも決勝に進んだ。そのすべてで参加標準記録を突破して出場しきただけに、ランキングでの出場、そしてシニア世界大会初の予選敗退は“屈辱”でもあった。
それでも、「オフモードだった」ところに急きょ舞い込んだダイヤモンドリーグ・ファイナル初出場の吉報。急きょ調整して臨み、3位に入るあたりその勝負強さを物語る。
橋岡は22年シーズン後から、米国を活動の中心に置いた。盟友のサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)だけでなく、トレイヴォン・ブロメル(米国)、アンドレ・デグラス(カナダ)、さらには東京五輪100m金のラモント・マルセル・ジェイコブス(イタリア)といった、世界的スプリンターと汗を流す日々だ。
ラナ・レイダー・コーチからは「スプリンターになれ」と指導される。日本では味わえない環境に、「周りには絶対に勝てないけど、必死に食らいつく」のが楽しいと笑みがこぼれる。オフは週に1回で、「練習がきつくて毎日ヘロヘロになるので、どこにも行けないです」。

年末年始に一時帰省した橋岡は都内でトレーニング
「今まで助走ではタイミングで(地面を)とらえて、“乗せていく”ところを重視していました。ただ、それだと少し頭打ちになっていて、やっぱりもう少しスピードが必要だと感じていました。それを、ほぼスプリンターに近い動きに変える。真逆とまではいかないですが、全然違いますよね」
ケガもあってなかなか噛み合わすことができなかったが、冬季は順調に過ごして感覚を捉え始めているようだ。
橋岡はU20世界選手権でも金メダルを手にしてきた世界的ジャンパーの1人。そのキャリアは順調そのもので、記録も着実に伸ばし、世界の舞台でも順位を上げてきた。環境を変えずとも、いずれメダル争いはできたはず。それでも新たな環境を求めた。苦しむのはわかっていても。
「上に行くために必要なこと。動きを戻そうという選択肢はまったくなかったです。戻したところで8m50は見えるけど、そこを目指しているわけじゃない」
シーズン序盤からパリ五輪参加標準記録の8m27をクリアし、海外転戦をしながら経験を積んでいくつもりでいる。その先に、2度目のオリンピックが待っている。
「とりあえず、メダル。どの色が良い色かはみなさんがわかっているはず。1日1日の練習を大切に、考えながら過ごしていきます」
誰よりも遠くへ。ただそのためだけに、茨の道を突き進む。
文/向永拓史
米国での日々や昨シーズンの振り返り、より繊細な感覚など、2月14日発売の月刊陸上競技2024年3月号で特集している。

|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.03.26
スズキの田原遼太郎が現役引退 800mインターハイ出場 大学時代は関西インカレ1万m優勝
2025.03.26
東京世界陸上ボランティアに3100人が採用 周辺協力者含めて3400人で構成
-
2025.03.26
-
2025.03.26
-
2025.03.26
-
2025.03.25
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.19
-
2025.03.25
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.26
セイコーGGPと日本選手権で東京世界陸上の運営トレーニング実施「大会運営に必要な能力・経験」の蓄積目指す
公益財団法人東京2025世界陸上財団は3月26日に理事会を開き、本番での運営能力向上を図るため、運営トレーニングを実施することを発表した。 トレーニングの対象大会は、本番のメイン会場である国立競技場で行われるセイコーゴー […]
2025.03.26
スズキの田原遼太郎が現役引退 800mインターハイ出場 大学時代は関西インカレ1万m優勝
スズキは所属する田原遼太郎が現役を引退し、社業に専念することを発表した。 田原は大阪府出身の26歳。中学から陸上を始め、当初は800mなど中距離に取り組み、13年全中では準決勝まで進んでいる。大阪高でもトラックや高校駅伝 […]
2025.03.26
東京世界陸上ボランティアに3100人が採用 周辺協力者含めて3400人で構成
公益財団法人東京世界陸上財団は3月26日に理事会を開催し、ボランティアの採用結果について発表した。 11月1日から12月17日までの期間で募集し、当初想定していた募集人数3000人程度を大きく上回る8,276人が応募。そ […]
2025.03.26
東京世界陸上8日目イブニングセッションのチケットが完売!売り上げ総数は30万枚突破
公益財団法人東京2025世界陸上財団は3月26日、東京世界選手権のチケットの販売状況について、大会8日目(9月20日)のイブニングセッションのチケットが完売したこと、これまでの売り上げ総数が30万枚を突破したことを発表し […]
2025.03.26
東京世界陸上へ準備は最終段階へ!25年度事業計画を発表「準備・計画から実施のフェーズへ」
東京2025世界陸上財団は3月26日に理事会を開き、2025年度事業計画書を発表した。 9月13日の大会開幕まで半年を切り、「ここまで準備を順調に進めてきた」と武市敬事務総長。計画には「本番に向けての運営トレーニングでの […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報