2024.01.28
投げキッスは走れなかった高校時代の後輩へのメッセージ
そして最後の箱根駅伝で区間7位の快走。タイムは1時間12分18秒、前回大会で自身が出した5区の国士大記録を51秒更新した。この走りを100点満点で自己採点してもらうと、山本は「90点です。区間5位、1時間11分30秒を目標にしていたので、それが達成できなかったぶん、10点マイナス。10kmぐらいのところで寒くて足がケイレンしそうになって、思った以上に攻めることができなかったんです」と、少し悔しそうな表情を見せた。それでも小川博之駅伝監督は「雷我は魂の走りを見せてくれた」と主将の力走を称えた。
芦ノ湖フィニッシュ時の「投げキッス」は、目立ちたいという気持ちからのパフォーマンスではなかった。そこには高校時代の後輩へのメッセージが込められていたのだ。
山本は福井・敦賀気比高3年時、全国高校駅伝に出場し、6区を走っている。その駅伝でチームメイトとして1区を走ったのが1学年後輩の田中悠登(現・青学大3年)、4区を走ったのが2学年後輩の斎藤将也(城西大2年)だった。田中も斎藤も下級生時からそれぞれチームの中心選手として脚光を浴びている。仲の良い後輩たちの活躍は、山本にとっても大きな刺激になっていた。
田中は昨秋の全日本大学駅伝では青学大のアンカーを務めており、今回の箱根駅伝でも8区にエントリーされていた。その田中がケガで苦しんでいるらしいという情報が入ってきた。山本自身もこの1年間、故障に泣かされてきただけに、田中の気持ちは痛いほどわかっている。
「悠登をなんとか元気づけてあげられないかと考えたんです。今は違うチームですけど、悠登とはいろんな思い出があるんで。全日本大学駅伝のとき悠登は青学のアンカーで、投げキッスのポーズをしてゴールしていたんです。今回の箱根駅伝で自分がいい走りをして、ゴールのあのポーズをやってみせれば、悠登もそれを見て、また頑張ろうって思ってくれるんじゃないかと」
お前には来年がある。来年は箱根の大舞台で、お前がこのパフォーマンスをやる番だ、と。「投げキッスゴール」は後輩への無言のメッセージだった。
レースを終えて、山本のスマートフォンには田中から「見てました!投げキッスありがとうございます!」とメッセージが届いたという。
大学4年間をもって、山本は競技人生に区切りをつけ、地元の福井に戻ると決めた。箱根駅伝の第100回大会が競技者として最後の大舞台となった。主将としてチームのために見せた4人抜きの力走。そしてフィニッシュ時のパフォーマンスで高校の後輩へ送ったメッセージ。強いインパクトを残して山本は箱根路に、そして陸上競技に別れを告げた。
山本雷我(やまもと・らいが:国士大)/2002年2月7日生まれ。福井県越前市出身。敦賀気比高卒。自己ベストは5000m14分29秒14、10000m29分33秒84、ハーフ1時間4分51秒。
文/小川誠志
主将として悩み苦しんだ1年間
「攻めるしかない!」 山本雷我(4年)は覚悟を決め、箱根の急峻へ向け走り出した。小田原中継所でタスキを受け取った時点で順位は15位。10位の法大とは1分31秒差があった。チームの目標はシード権獲得だ。 大学2年時、3年時に続く、自身3度目の5区は雨中のレースになった。序盤、中央学大の柴田大輝(3年)に一度追いつかれるも、得意の上りに入ってから突き放す。そこから山本は4人抜きの力走を披露。10位・順大に3秒差と迫る往路11位で芦ノ湖にたどり着き、右手で投げキッスのポーズを取ってフィニッシュした。 「苦しい1年でした。駅伝主将である自分が主要な大会に出られず、チームに走りでは何も貢献できなくて。これでやっと主将としての役割を果たすことができました」 山本はホッとした表情でそう語り、笑顔を見せた。 復路の5人もシード権を目指して粘り強く走り抜き、国士大は復路15位、連続出場している過去8年間で最高位の総合12位でフィニッシュした。34年ぶりのシード権には届かなかったが、前回の総合19位から大きくジャンプアップ。11時間1分52秒の総合タイムも大学最高記録だった。 前回の箱根駅伝後、山本は立候補して駅伝主将に就任。駅伝チームを自分が引っ張るという意気込みでシーズンに入ったが、故障が続いたことから本来の力を出せず、苦しい1年になった。 6月の全日本大学駅伝関東選考会で国士大は7位に入り、7年ぶりに伊勢路を走ったが、山本は選考会、11月の本大会ともに出走していない。10月の箱根駅伝予選会も走ることができなかった。ふがいなさに1人、部屋で涙したこともあったという。 秋からは徐々に調子を取り戻し、10月に5000m、10000mで自己ベストを更新。11月には激坂最速王決定戦(登りの部)を制し、改めて上りの強さをアピールした。投げキッスは走れなかった高校時代の後輩へのメッセージ
そして最後の箱根駅伝で区間7位の快走。タイムは1時間12分18秒、前回大会で自身が出した5区の国士大記録を51秒更新した。この走りを100点満点で自己採点してもらうと、山本は「90点です。区間5位、1時間11分30秒を目標にしていたので、それが達成できなかったぶん、10点マイナス。10kmぐらいのところで寒くて足がケイレンしそうになって、思った以上に攻めることができなかったんです」と、少し悔しそうな表情を見せた。それでも小川博之駅伝監督は「雷我は魂の走りを見せてくれた」と主将の力走を称えた。 芦ノ湖フィニッシュ時の「投げキッス」は、目立ちたいという気持ちからのパフォーマンスではなかった。そこには高校時代の後輩へのメッセージが込められていたのだ。 山本は福井・敦賀気比高3年時、全国高校駅伝に出場し、6区を走っている。その駅伝でチームメイトとして1区を走ったのが1学年後輩の田中悠登(現・青学大3年)、4区を走ったのが2学年後輩の斎藤将也(城西大2年)だった。田中も斎藤も下級生時からそれぞれチームの中心選手として脚光を浴びている。仲の良い後輩たちの活躍は、山本にとっても大きな刺激になっていた。 田中は昨秋の全日本大学駅伝では青学大のアンカーを務めており、今回の箱根駅伝でも8区にエントリーされていた。その田中がケガで苦しんでいるらしいという情報が入ってきた。山本自身もこの1年間、故障に泣かされてきただけに、田中の気持ちは痛いほどわかっている。 「悠登をなんとか元気づけてあげられないかと考えたんです。今は違うチームですけど、悠登とはいろんな思い出があるんで。全日本大学駅伝のとき悠登は青学のアンカーで、投げキッスのポーズをしてゴールしていたんです。今回の箱根駅伝で自分がいい走りをして、ゴールのあのポーズをやってみせれば、悠登もそれを見て、また頑張ろうって思ってくれるんじゃないかと」 お前には来年がある。来年は箱根の大舞台で、お前がこのパフォーマンスをやる番だ、と。「投げキッスゴール」は後輩への無言のメッセージだった。 レースを終えて、山本のスマートフォンには田中から「見てました!投げキッスありがとうございます!」とメッセージが届いたという。 大学4年間をもって、山本は競技人生に区切りをつけ、地元の福井に戻ると決めた。箱根駅伝の第100回大会が競技者として最後の大舞台となった。主将としてチームのために見せた4人抜きの力走。そしてフィニッシュ時のパフォーマンスで高校の後輩へ送ったメッセージ。強いインパクトを残して山本は箱根路に、そして陸上競技に別れを告げた。 [caption id="attachment_127103" align="alignnone" width="800"] 2024年箱根駅伝5区で区間7位と好走した山本雷我(国士大)[/caption] 山本雷我(やまもと・らいが:国士大)/2002年2月7日生まれ。福井県越前市出身。敦賀気比高卒。自己ベストは5000m14分29秒14、10000m29分33秒84、ハーフ1時間4分51秒。 文/小川誠志
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.11.22
田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
2024.11.21
立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.17
不破聖衣来が香港で10kmレースに出場 9位でフィニッシュ
2024.11.20
【箱根駅伝2025名鑑】早稲田大学
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.01
吉田圭太が住友電工を退部 「充実した陸上人生を歩んでいきたい」競技は継続
2024.11.07
アシックスから軽量で反発性に優れたランニングシューズ「NOVABLAST 5」が登場!
-
2024.10.27
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.11.22
田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設
来春、開幕する陸上リーグ「グランドスラム・トラック」の“レーサー”として、女子中長距離の田中希実(New Balance)が契約したと発表された。 同大会は1990年代から2000年代に男子短距離で活躍したマイケル・ジョ […]
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
11月21日、株式会社コラゾンは同社が展開する麹専門ブランド「MURO」を通じて、早大競走部駅伝部とスポンサー契約を結んだことを発表した。 コラゾン社は「MURO」の商品である「KOJI DRINK A」および「KOJI […]
2024.11.21
立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン
第55回防府読売マラソン大会事務局は、女子招待選手の立迫志穂(天満屋)が欠場すると発表した。調整不良のためとしている。 立迫は今年2月の全日本実業団ハーフマラソンで1時間11分16秒の11位。7月には5000m(15分3 […]
2024.11.20
M&Aベストパートナーズに中大・山平怜生、城西大・栗原直央、國學院大・板垣俊佑が内定!神野「チーム一丸」
【写真】M&Aベストパートナーズ陸上部内定式の様子をチェック! 先日はMABP陸上部新卒入社選手の内定式。@MABP_athletes 板垣俊佑 選手(國學院大学)栗原直央 選手(城西大学)山平怜生 選手(中央大 […]
2024.11.20
第101回(2025年)箱根駅伝 出場チーム選手名鑑
・候補選手は各チームが選出 ・情報は11月20日時点、チーム提供および編集部把握の公認記録を掲載 ・選手名の一部漢字で対応外のものは新字で掲載しています ・過去箱根駅伝成績で関東学生連合での出場選手は相当順位を掲載 ・一 […]
Latest Issue 最新号
2024年12月号 (11月14日発売)
全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会