2020.09.27
まもなく始まる大学駅伝シーズン。今回は、夏合宿取材の中から帝京大をクローズアップ。なかでも期待のルーキー、小野隆一朗に迫った。
高所練習で苦戦も伸びしろ
帝京大の夏は、例年であれば選抜合宿の万座高原(群馬)から始まるが、今年の夏は妙高高原(新潟)での全体合宿が先にあった。新型コロナ禍による各自練習の期間が6月下旬まで続いたため、妙高で現況を把握してから万座合宿のメンバーを選抜しようという意図からだった。
そして、妙高では、小野隆一朗、西脇翔太、末次海斗の1年生3人が、しっかりアピールし、万座合宿のメンバーに選出された。
なかでも、小野は今季の注目選手だ。昨年末の全国高校駅伝ではエース区間の1区(10㎞)を担い区間4位と好走。タイムも日本人歴代5位となる28分55秒の好記録をマークしている。育成型のチームにあって、即戦力としても期待が懸かる。
自主練習期間だった今季の前半は故障もあったが、7月に学内で行われた5000mタイムトライアルでは14分30秒で走れるほど復調し、妙高合宿も「ほぼ完璧」(中野孝行監督)にこなして、堂々と18人の選抜メンバーを勝ち取った(万座合宿には例年は20人+数人が選抜されるが、今夏は新型コロナウイルス感染予防のため、18人のみの参加だった)。
しかし、期待のルーキーであっても、標高1800~2000mの高所で行われる万座合宿では苦戦した。
「高校の時を含めても高地でのトレーニングは初めて。想像していた通り、きつかったですね」
小野はそんな言葉を口にする。万座合宿2日目にあった20km走は、表情をあまり変えることなく、難なくこなしていたようにも思えたのだが……。実は、高所順化がなかなかうまくいかなかった。
標高1800~2000mの高所は、海抜0mと比較すると、酸素濃度が約80%となる。酸素が薄い環境下でのトレーニングに初めて臨むとあって、苦戦するのは当然だが、小野は、万座合宿中に息苦しさを訴え、病院に駆け込んだこともあった。標高800mまで下り、病院に着いた時には呼吸も楽になり、事なきを得たという。
「選抜合宿のメンバーに選ばれているという自覚をもって、練習を作っていくのは当たり前。どれだけ質の高い練習ができるかだと思います」と小野は話していたが、結局、万座合宿での小野の消化具合は「6~7割」ほどにとどまった。
ただ、苦戦する中にも、中野監督は、小野の新たな魅力を見出した。
「苦しくても、追い込める選手、リミッターを解除できる選手なんだということがわかりました。精神力の強さを感じました。よく考えてみれば、私も、現役の時に初めて高地に行った時には全く走れませんでした。小野もこれまで高所でのトレーニングをやったことがなかったのだから、逆に、これを伸びしろと考えることもできます」
小野にとってはほろ苦さも味わったが、万座合宿は、さらにレベルアップする機会にもなっただろう。
食事で笑顔を見せる小野。合宿は大きな経験となったようだ
士別合宿は「パーフェクト」
9月初旬にあった士別合宿(北海道)では、小野は元気な姿を見せた。普通の1年生であれば、夏の疲れが出始める頃だ。実際に、西脇と末次は士別合宿でも選抜メンバーに名を連ねたが、合宿終盤には練習量を落としていた。
一方で小野は、30㎞走も走りきるなど、士別合宿の消化具合は「パーフェクトに近かった」(中野監督)。
この士別合宿の仕上げには、5000m×5本(レストは5分)という練習があるのだが、小野は、①15分14秒、②15分19秒、③15分12秒、④14分49秒(※4本目は、残り2000mからフリー)で走り、なかなかの仕上がり具合を見せている。
「西村(知修)が1年生だった時よりも、小野のほうが内容は良い」と中野監督は、自身が初めて指揮を執った箱根駅伝本戦で、ルーキーながら7区3位と好走した西村を引き合いに出し、小野を高く評価している。
ちなみに、西村が1年生だった13年前も同様の練習を士別で行っているが、西村のタイムは、①15分21秒、②15分22秒、③15分14秒、④15分23秒だった。当時の練習はレストが3分と短かったので単純な比較はできないが、小野は4本とも西村のタイムを上回っている。こんなところからも、並のルーキーではないことが伺える。ロードで実績のある選手だけに、いやがうえにも、1年目から駅伝での活躍が期待される。
もちろん小野自身もその気だ。
「駅伝に出場するのは大前提。ずっとテレビの中だけの世界だったんですけど、これからは自分が走るかもしれない舞台でもある。そこに合わせられるように頑張っていきたい」と活躍を誓っている。
駅伝出場に意欲を示す小野
層の厚い帝京大のキーマンになれるか
だが、そんな期待のルーキーであっても、今季の帝京大でレギュラーの座を勝ち取るのはそんなに簡単ではない。それほど上級生の壁は厚い。
星岳、小野寺悠、鳥飼悠生といった前回の箱根駅伝で活躍した4年生は自主練習期間から好調で、この夏もチームを牽引してきた。
さらに、前期はなかなか調子が上がらず、万座合宿は不参加だった遠藤大地(3年)が、士別合宿では選抜メンバーに復帰。「パーフェクトにこなし、ようやくエンジンがかかってきた」(中野監督)。また、谷村龍生(4年)や橋本尚斗(3年)ら大学駅伝経験者に加え、森田瑛介、安村晴樹(ともに3年)といった新たな戦力も台頭してきた。
士別合宿の最後の仕上げの5000m×4本で小野が好タイムで走ったと書いたが、その小野をもってしても、最後の1本は実はチーム内順位では13番目だった。「足並みがようやくそろってきた」と中野監督が言うように、小野が悪いわけではなく、上級生が良すぎたのだ。星、小野寺、遠藤ら8人は、3本目も14分台(14分55秒)で走り、4本目はさらに14分36秒にまでタイムを上げるなど、かなりハイレベルだった。
もちろん1回の練習だけでチーム内での力関係を測れるわけではない。だが、ルーキーの下からの突き上げが、チーム内のメンバー争いをいっそう激化させているのは間違いない。“リミッターを解除できる選手”と中野監督が評価するように、小野は本番で力を発揮できる選手だ。全日本大学駅伝、箱根駅伝で正選手の座をつかむことができれば、それぞれ4位以内、3位以内という目標を成し遂げるのに、キーマンになってきそうだ。
選手層の厚い帝京大。大学駅伝での戦いぶりに注目だ
文・写真/西村康
高所練習で苦戦も伸びしろ
帝京大の夏は、例年であれば選抜合宿の万座高原(群馬)から始まるが、今年の夏は妙高高原(新潟)での全体合宿が先にあった。新型コロナ禍による各自練習の期間が6月下旬まで続いたため、妙高で現況を把握してから万座合宿のメンバーを選抜しようという意図からだった。 そして、妙高では、小野隆一朗、西脇翔太、末次海斗の1年生3人が、しっかりアピールし、万座合宿のメンバーに選出された。 なかでも、小野は今季の注目選手だ。昨年末の全国高校駅伝ではエース区間の1区(10㎞)を担い区間4位と好走。タイムも日本人歴代5位となる28分55秒の好記録をマークしている。育成型のチームにあって、即戦力としても期待が懸かる。 自主練習期間だった今季の前半は故障もあったが、7月に学内で行われた5000mタイムトライアルでは14分30秒で走れるほど復調し、妙高合宿も「ほぼ完璧」(中野孝行監督)にこなして、堂々と18人の選抜メンバーを勝ち取った(万座合宿には例年は20人+数人が選抜されるが、今夏は新型コロナウイルス感染予防のため、18人のみの参加だった)。 しかし、期待のルーキーであっても、標高1800~2000mの高所で行われる万座合宿では苦戦した。 「高校の時を含めても高地でのトレーニングは初めて。想像していた通り、きつかったですね」 小野はそんな言葉を口にする。万座合宿2日目にあった20km走は、表情をあまり変えることなく、難なくこなしていたようにも思えたのだが……。実は、高所順化がなかなかうまくいかなかった。 標高1800~2000mの高所は、海抜0mと比較すると、酸素濃度が約80%となる。酸素が薄い環境下でのトレーニングに初めて臨むとあって、苦戦するのは当然だが、小野は、万座合宿中に息苦しさを訴え、病院に駆け込んだこともあった。標高800mまで下り、病院に着いた時には呼吸も楽になり、事なきを得たという。 「選抜合宿のメンバーに選ばれているという自覚をもって、練習を作っていくのは当たり前。どれだけ質の高い練習ができるかだと思います」と小野は話していたが、結局、万座合宿での小野の消化具合は「6~7割」ほどにとどまった。 ただ、苦戦する中にも、中野監督は、小野の新たな魅力を見出した。 「苦しくても、追い込める選手、リミッターを解除できる選手なんだということがわかりました。精神力の強さを感じました。よく考えてみれば、私も、現役の時に初めて高地に行った時には全く走れませんでした。小野もこれまで高所でのトレーニングをやったことがなかったのだから、逆に、これを伸びしろと考えることもできます」 小野にとってはほろ苦さも味わったが、万座合宿は、さらにレベルアップする機会にもなっただろう。 食事で笑顔を見せる小野。合宿は大きな経験となったようだ士別合宿は「パーフェクト」
9月初旬にあった士別合宿(北海道)では、小野は元気な姿を見せた。普通の1年生であれば、夏の疲れが出始める頃だ。実際に、西脇と末次は士別合宿でも選抜メンバーに名を連ねたが、合宿終盤には練習量を落としていた。 一方で小野は、30㎞走も走りきるなど、士別合宿の消化具合は「パーフェクトに近かった」(中野監督)。 この士別合宿の仕上げには、5000m×5本(レストは5分)という練習があるのだが、小野は、①15分14秒、②15分19秒、③15分12秒、④14分49秒(※4本目は、残り2000mからフリー)で走り、なかなかの仕上がり具合を見せている。 「西村(知修)が1年生だった時よりも、小野のほうが内容は良い」と中野監督は、自身が初めて指揮を執った箱根駅伝本戦で、ルーキーながら7区3位と好走した西村を引き合いに出し、小野を高く評価している。 ちなみに、西村が1年生だった13年前も同様の練習を士別で行っているが、西村のタイムは、①15分21秒、②15分22秒、③15分14秒、④15分23秒だった。当時の練習はレストが3分と短かったので単純な比較はできないが、小野は4本とも西村のタイムを上回っている。こんなところからも、並のルーキーではないことが伺える。ロードで実績のある選手だけに、いやがうえにも、1年目から駅伝での活躍が期待される。 もちろん小野自身もその気だ。 「駅伝に出場するのは大前提。ずっとテレビの中だけの世界だったんですけど、これからは自分が走るかもしれない舞台でもある。そこに合わせられるように頑張っていきたい」と活躍を誓っている。 駅伝出場に意欲を示す小野層の厚い帝京大のキーマンになれるか
だが、そんな期待のルーキーであっても、今季の帝京大でレギュラーの座を勝ち取るのはそんなに簡単ではない。それほど上級生の壁は厚い。 星岳、小野寺悠、鳥飼悠生といった前回の箱根駅伝で活躍した4年生は自主練習期間から好調で、この夏もチームを牽引してきた。 さらに、前期はなかなか調子が上がらず、万座合宿は不参加だった遠藤大地(3年)が、士別合宿では選抜メンバーに復帰。「パーフェクトにこなし、ようやくエンジンがかかってきた」(中野監督)。また、谷村龍生(4年)や橋本尚斗(3年)ら大学駅伝経験者に加え、森田瑛介、安村晴樹(ともに3年)といった新たな戦力も台頭してきた。 士別合宿の最後の仕上げの5000m×4本で小野が好タイムで走ったと書いたが、その小野をもってしても、最後の1本は実はチーム内順位では13番目だった。「足並みがようやくそろってきた」と中野監督が言うように、小野が悪いわけではなく、上級生が良すぎたのだ。星、小野寺、遠藤ら8人は、3本目も14分台(14分55秒)で走り、4本目はさらに14分36秒にまでタイムを上げるなど、かなりハイレベルだった。 もちろん1回の練習だけでチーム内での力関係を測れるわけではない。だが、ルーキーの下からの突き上げが、チーム内のメンバー争いをいっそう激化させているのは間違いない。“リミッターを解除できる選手”と中野監督が評価するように、小野は本番で力を発揮できる選手だ。全日本大学駅伝、箱根駅伝で正選手の座をつかむことができれば、それぞれ4位以内、3位以内という目標を成し遂げるのに、キーマンになってきそうだ。 選手層の厚い帝京大。大学駅伝での戦いぶりに注目だ 文・写真/西村康
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.11.22
WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価
2024.11.22
パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー
2024.11.22
田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設
-
2024.11.21
-
2024.11.21
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.01
吉田圭太が住友電工を退部 「充実した陸上人生を歩んでいきたい」競技は継続
2024.11.07
アシックスから軽量で反発性に優れたランニングシューズ「NOVABLAST 5」が登場!
-
2024.10.27
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.11.22
WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価
世界陸連(WA)は11月20日、ワールド・アスレティクス・アワード2024の「加盟国賞」の最終候補6カ国を発表した。この賞は年間を通して陸上競技の成長と知名度に貢献する功績をおさめた連盟を表彰するもので、各地域連盟から1 […]
2024.11.22
パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー
11月21日、米国テキサス州オースティンで世界陸連(WA)クロスカントリーツアー・ゴールドのクロス・チャンプスが開催され、男子(8.0km)はパリ五輪5000m7位E.クルガト(ケニア)が22分51秒で、女子(8.0km […]
2024.11.22
田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設
来春、開幕する陸上リーグ「グランドスラム・トラック」の“レーサー”として、女子中長距離の田中希実(New Balance)が契約したと発表された。 同大会は1990年代から2000年代に男子短距離で活躍したマイケル・ジョ […]
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
11月21日、株式会社コラゾンは同社が展開する麹専門ブランド「MURO」を通じて、早大競走部駅伝部とスポンサー契約を結んだことを発表した。 コラゾン社は「MURO」の商品である「KOJI DRINK A」および「KOJI […]
2024.11.21
立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン
第55回防府読売マラソン大会事務局は、女子招待選手の立迫志穂(天満屋)が欠場すると発表した。調整不良のためとしている。 立迫は今年2月の全日本実業団ハーフマラソンで1時間11分16秒の11位。7月には5000m(15分3 […]
Latest Issue 最新号
2024年12月号 (11月14日発売)
全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会