2023.12.28
山梨学大の上田誠仁顧問の月陸Online特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます!
第40回「いよいよ100回目の箱根駅伝!~山梨の地からすべての学生ランナーへエール~」
箱根駅伝が100回目の歴史を刻もうとしている。
大正時代に金栗四三氏、沢田英一氏、野口源三郎氏ら若き先達の熱い思いと実行力で創設され、大正・昭和・平成・令和と今の時代まで引き継がれてきた。
積み重ねてきた歴史と伝統に思いを馳せれば、100回目の継走を紡ごうとする箱根駅伝に対する思いの糸は尊い。
打ち寄せる波は、世の流れがどうあろうと変わらぬように見えるが、岩を削り、浜を動かす、の例えがある。箱根駅伝は過去の歴史の中で数々の困難や苦難を乗り越え、今の世に伝えなければならないメッセージを携えて100回を迎えようとしている。
箱根駅伝が、今の世のスポーツ文化を醸成しつつ今日に至っているとすれば、真摯に過去と向き合いこれからを思いたい。
まずは大会を支えていただいた多くのファンの皆様方と、さまざまなかたちでご協力いただいた関係各位の熱意に支えられてきたことに感謝したい。
さらには箱根駅伝創設の前年に設立された学生競技団体である関東学生陸上競技連盟が、綿々と継承してきた学生幹事を中心として、加盟大学の協力のもと大会の運営と開催に従事してきた伝統と継承を讃えたい。
参加各大学が襷にかけた渾身の走りの場を1年間かけて準備し、当日も多岐にわたる大会運営のオペレーションを淡々と処理してゆく姿に、歴代のOB幹事も温かく支える風土が育まれている。
だからこそ、連盟の各種専門委員会はもちろん、共催の読売新聞社、特別後援の日本テレビ放送網株式会社、後援の報知新聞社をはじめ、特別協賛・協賛・運営協力に至るまで一貫して箱根駅伝を支え、応援する姿勢がぶれないことも開催を重ねてこられた理由の一つであろうと捉えている。
大会実行委員会が編成された8月下旬から今日まで延べ30回以上の会議が行われ、各種申請や依頼を含めると、学生幹事や関係者は選手たちが鍛錬する日々とともに全力で駆け抜けるような日々であったと実感している。
そして迎える100回記念大会。
なんと出場校の23校中10000m上位10名の平均タイムは駒澤大学の28分21秒16を筆頭に20校が29分未満(20位の東農大で28分59秒97)というハイレベルとなっている。
予選会10位通過の東海大が28分32秒14でランキング4位、予選会トップの大東大が28分36秒16でランキング6位。昨年予選会で辛酸をなめた中央学大が28分46秒46で9位ながら27分台の自己ベストを持つエース(吉田礼志選手)を育成してきている。
10000mの平均タイムがそのまま駅伝の順位を占う指標になりえないことは、百も承知である。とはいえ、史上最速最強の呼び声高い駒大にどのような戦いを挑むのか、優勝と上位争いから目が離せない。
さらにはシード権をいずれの大学がつかみ取るかなど、過去になく激烈なものとなることは必至だ。それぞれの順位争いを多チャンネルで視聴したいくらいである。
視点を変えると、選手たちの熱き走りを、日本テレビ放送網を通じて完全生中継する技術や配慮も、選手の走力とともに向上してきていることを、中継を通してご理解いただけると思う。
道路規制とコース整理には、ことのほか配慮と準備が必要であることは言うに及ばず。近年はそれに加えて人流の整理や交通網を含めた導線の確保が求められるようになってきている。
安心と安全の構築のために、沿道にお集まりになる観衆の方々にも、大会を運営する当事者意識が芽生えることだろう。駅伝の進行とともに、審判・補助員・警察官と警備員らと協力し合いながら流れるようにご声援いただき、選手の後押しをしていただけたらと願っている。駅伝は道路規制と解除を淀みなく実施しながら走路を確保するという非常に難易度の高いオペレーションを余儀なくされるからだ。
以前のコラムにも書かせていただいたように、駅伝は実力を競う「競走」である。選手が通過する沿道も含めた空間は、審判や補助員・警察官や警備員を含めた協力がなくてはならず、それを「協創」と呼ばせていただきたい。
「する・みる・支える」の視点からとらえると、歴史を築いてこられた多くの先人たちのご苦労と献身を含め、今回の大会を現地から離れた場所で声援を送り、報道に興味を抱いて記事をお読みになる方、さらにはこの大会によって交通渋滞などご迷惑をおかけした方々も含めて、共に創り上げる「共創」という箱根駅伝が醸し出すスポーツ文化が今後もさらなる醸成を深めなければならないだろう。
まさしく100回を迎えた箱根駅伝は、競走を支える協創、そしてそれらを支える人々と共に創り上げる「共創」へと思いと行動を一致させることで、未来へと襷の継走が可能となるのではないだろうか。
年の瀬を越えようとするこの時期は気運も盛り上がってくるので、またしても大仰なことを書いてしまったが、つい先日このような言葉を駆けられ箱根駅伝に対する初心の一歩を気付かされてしまった。
現在指導しているミドル(中距離)チームは、甲府市にある湯村山の坂道を利用して朝練習をしている。ちょうど折り返し地点が、毎朝ラジオ体操をする方々がお集まりになる場所だ。ラジオから曲が流れてくると、学生時代の手ほどきを思い返しつつ手本?になればとの思いでご一緒させていただいている。
ほぼ毎日80歳以上の方々20名ほどが顔をそろえる。緑ヶ丘運動公園からちょうど1kmの地点である。この寒空にご自宅から2km前後は歩いてこられていると思われる。体操を終え、毎回元気に下山されながら、「学生さんたちの頑張る姿に元気を分けてもらっていますよ」と温かく声をかけていただいている。
その中で最高齢92歳の平賀方子さんが帰り際に「いよいよ箱根ですね。毎年楽しみにしているんですよ。どのチームも一生懸命チームのために一心に走っている姿にひたすら『頑張れ』と応援しています。すべての学生さんにこの思いが届いていると信じていますよ」との言葉が驚くほど心にしみ込んだ。
何故かというと「すべての学生さん」という思いと言葉が心の琴線に触れたからだ。
箱根駅伝が持つ魅力は、すべての学生競技者がこのような思いと信じる気持ちを襷に込めて未来へ運ぶからこそ生み出されるのである。
2024年1月2日午前8時
東京・大手町、読売新聞社前
第100回東京箱根間往復大学駅伝競走
凛として一瞬の静寂を打ち破る
スタートの号砲を待つ!
※箱根駅伝番組公式サイト「メッセージ~私と箱根駅伝~」にて上田誠仁氏のコラムが掲載!
上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
第40回「いよいよ100回目の箱根駅伝!~山梨の地からすべての学生ランナーへエール~」
箱根駅伝が100回目の歴史を刻もうとしている。 大正時代に金栗四三氏、沢田英一氏、野口源三郎氏ら若き先達の熱い思いと実行力で創設され、大正・昭和・平成・令和と今の時代まで引き継がれてきた。 積み重ねてきた歴史と伝統に思いを馳せれば、100回目の継走を紡ごうとする箱根駅伝に対する思いの糸は尊い。 打ち寄せる波は、世の流れがどうあろうと変わらぬように見えるが、岩を削り、浜を動かす、の例えがある。箱根駅伝は過去の歴史の中で数々の困難や苦難を乗り越え、今の世に伝えなければならないメッセージを携えて100回を迎えようとしている。 箱根駅伝が、今の世のスポーツ文化を醸成しつつ今日に至っているとすれば、真摯に過去と向き合いこれからを思いたい。 まずは大会を支えていただいた多くのファンの皆様方と、さまざまなかたちでご協力いただいた関係各位の熱意に支えられてきたことに感謝したい。 さらには箱根駅伝創設の前年に設立された学生競技団体である関東学生陸上競技連盟が、綿々と継承してきた学生幹事を中心として、加盟大学の協力のもと大会の運営と開催に従事してきた伝統と継承を讃えたい。 参加各大学が襷にかけた渾身の走りの場を1年間かけて準備し、当日も多岐にわたる大会運営のオペレーションを淡々と処理してゆく姿に、歴代のOB幹事も温かく支える風土が育まれている。 だからこそ、連盟の各種専門委員会はもちろん、共催の読売新聞社、特別後援の日本テレビ放送網株式会社、後援の報知新聞社をはじめ、特別協賛・協賛・運営協力に至るまで一貫して箱根駅伝を支え、応援する姿勢がぶれないことも開催を重ねてこられた理由の一つであろうと捉えている。 大会実行委員会が編成された8月下旬から今日まで延べ30回以上の会議が行われ、各種申請や依頼を含めると、学生幹事や関係者は選手たちが鍛錬する日々とともに全力で駆け抜けるような日々であったと実感している。 [caption id="attachment_124900" align="alignnone" width="800"] 11月に開催された箱根駅伝100回記念シンポジウムの様子[/caption] そして迎える100回記念大会。 なんと出場校の23校中10000m上位10名の平均タイムは駒澤大学の28分21秒16を筆頭に20校が29分未満(20位の東農大で28分59秒97)というハイレベルとなっている。 予選会10位通過の東海大が28分32秒14でランキング4位、予選会トップの大東大が28分36秒16でランキング6位。昨年予選会で辛酸をなめた中央学大が28分46秒46で9位ながら27分台の自己ベストを持つエース(吉田礼志選手)を育成してきている。 10000mの平均タイムがそのまま駅伝の順位を占う指標になりえないことは、百も承知である。とはいえ、史上最速最強の呼び声高い駒大にどのような戦いを挑むのか、優勝と上位争いから目が離せない。 さらにはシード権をいずれの大学がつかみ取るかなど、過去になく激烈なものとなることは必至だ。それぞれの順位争いを多チャンネルで視聴したいくらいである。 視点を変えると、選手たちの熱き走りを、日本テレビ放送網を通じて完全生中継する技術や配慮も、選手の走力とともに向上してきていることを、中継を通してご理解いただけると思う。 道路規制とコース整理には、ことのほか配慮と準備が必要であることは言うに及ばず。近年はそれに加えて人流の整理や交通網を含めた導線の確保が求められるようになってきている。 安心と安全の構築のために、沿道にお集まりになる観衆の方々にも、大会を運営する当事者意識が芽生えることだろう。駅伝の進行とともに、審判・補助員・警察官と警備員らと協力し合いながら流れるようにご声援いただき、選手の後押しをしていただけたらと願っている。駅伝は道路規制と解除を淀みなく実施しながら走路を確保するという非常に難易度の高いオペレーションを余儀なくされるからだ。 以前のコラムにも書かせていただいたように、駅伝は実力を競う「競走」である。選手が通過する沿道も含めた空間は、審判や補助員・警察官や警備員を含めた協力がなくてはならず、それを「協創」と呼ばせていただきたい。 「する・みる・支える」の視点からとらえると、歴史を築いてこられた多くの先人たちのご苦労と献身を含め、今回の大会を現地から離れた場所で声援を送り、報道に興味を抱いて記事をお読みになる方、さらにはこの大会によって交通渋滞などご迷惑をおかけした方々も含めて、共に創り上げる「共創」という箱根駅伝が醸し出すスポーツ文化が今後もさらなる醸成を深めなければならないだろう。 まさしく100回を迎えた箱根駅伝は、競走を支える協創、そしてそれらを支える人々と共に創り上げる「共創」へと思いと行動を一致させることで、未来へと襷の継走が可能となるのではないだろうか。 年の瀬を越えようとするこの時期は気運も盛り上がってくるので、またしても大仰なことを書いてしまったが、つい先日このような言葉を駆けられ箱根駅伝に対する初心の一歩を気付かされてしまった。 現在指導しているミドル(中距離)チームは、甲府市にある湯村山の坂道を利用して朝練習をしている。ちょうど折り返し地点が、毎朝ラジオ体操をする方々がお集まりになる場所だ。ラジオから曲が流れてくると、学生時代の手ほどきを思い返しつつ手本?になればとの思いでご一緒させていただいている。 [caption id="attachment_124901" align="alignnone" width="2560"] 甲府市にある湯村山にて毎朝ラジオ体操をする地域のみなさん。左端が上田氏、右奥で走り込むのは山梨学大の中距離ブロック[/caption] ほぼ毎日80歳以上の方々20名ほどが顔をそろえる。緑ヶ丘運動公園からちょうど1kmの地点である。この寒空にご自宅から2km前後は歩いてこられていると思われる。体操を終え、毎回元気に下山されながら、「学生さんたちの頑張る姿に元気を分けてもらっていますよ」と温かく声をかけていただいている。 その中で最高齢92歳の平賀方子さんが帰り際に「いよいよ箱根ですね。毎年楽しみにしているんですよ。どのチームも一生懸命チームのために一心に走っている姿にひたすら『頑張れ』と応援しています。すべての学生さんにこの思いが届いていると信じていますよ」との言葉が驚くほど心にしみ込んだ。 何故かというと「すべての学生さん」という思いと言葉が心の琴線に触れたからだ。 箱根駅伝が持つ魅力は、すべての学生競技者がこのような思いと信じる気持ちを襷に込めて未来へ運ぶからこそ生み出されるのである。 2024年1月2日午前8時 東京・大手町、読売新聞社前 第100回東京箱根間往復大学駅伝競走 凛として一瞬の静寂を打ち破る スタートの号砲を待つ! ※箱根駅伝番組公式サイト「メッセージ~私と箱根駅伝~」にて上田誠仁氏のコラムが掲載!上田誠仁 Ueda Masahito/1959年生まれ、香川県出身。山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授。順天堂大学時代に3年連続で箱根駅伝の5区を担い、2年時と3年時に区間賞を獲得。2度の総合優勝に貢献した。卒業後は地元・香川県内の中学・高校教諭を歴任。中学教諭時代の1983年には日本選手権5000mで2位と好成績を収めている。85年に山梨学院大学の陸上競技部監督へ就任し、92年には創部7年、出場6回目にして箱根駅伝総合優勝を達成。以降、出雲駅伝5連覇、箱根総合優勝3回など輝かしい実績を誇るほか、中村祐二や尾方剛、大崎悟史、井上大仁など、のちにマラソンで世界へ羽ばたく選手を多数育成している。2022年4月より山梨学院大学陸上競技部顧問に就任。 |
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