2023.12.27
同じ熱量で頑張ってきた仲間とともに
出雲駅伝はある程度早くから見送りを決め、「全日本、箱根に向けて“溜め”を作る」ことに注力。ある程度の準備はできたはずだった全日本では「1kmは突っ込んで、2kmでは落ち着いて走った。そんなに感覚は悪くなかった」。それでもタイムは上がらず「どうしてだろう」という結果に終わっている。
出雲10位、全日本11位と、苦しい駅伝が続く。「選手それぞれ、力を出すことができていません。チーム力はあるのですが」。その原因の一つには「上級生の選手層の厚さ」とも。「安心感や厚みが足りない。だから、吉岡(大翔)らが伸び伸び走らせてあげられていない」と責任を感じている。裏を返せば「戦力としては過去2年と大差はない」。どう力を発揮できるチームに仕立てられるか。
1年時は1区、そして2、3年と2区を走ってきた。決して“大エース”という役割ではない。「これまで1、2区しかないので、今回も序盤区間だと思います」とし、「できれば1区で」と笑う。実は「1年生の最初は下りも得意だと思っていたので6区を走りたいと思ったこともありましたが、今は苦手です」。
“花の2区”を2度経験した三浦。「2区は最長区間ですし、絶対的なスタミナ、タフさは必要。最初にレースが動く場所ですし、重要度は高い。いろいろな準備が必要です」とコースの印象を語る。
オリンピアンである三浦が走れば、世間の人々は“そういう目”で見る。周囲の求める結果と、自分の走りや結果に対する感触。そのギャップは、埋めがたい。「仕方ないこと」と割り切っているが、悔しさがないはずはない。
それでも、三浦は箱根駅伝を走る。果たして今回は1区か、2区か。それとも。
「15人いる同期は、それぞれ目指す場所や実力は違っても、同じ熱量で頑張ってきた仲間。だから僕らも奮起できたんです。石井(一希)とは1年目から同じ大会に出てきた戦友。ここぞというところで期待に応えてくれます。最高学年として、後輩たちに残せるのはシード権。そして同じ目標に向かって頑張ること。それは最後までやりとおしたい」
100回目を迎える箱根駅伝に、世界トップランナーの1人がいる。どんな選手でも、同じ熱量で、同じようにタスキをつなぐ。だから箱根駅伝は100回続いてきた。
世界へと巣立つための土台を作り、送り出してくれた順天堂大学。そのユニフォームを着て、タスキをかける最後の駅伝。「世界のMIURA」ではなく、「順天堂大学の三浦龍司」として、最高の仲間とともにあの舞台を駆け抜ける。
文/向永拓史
駅伝主将として過ごした1年
世界選手権の上位争いをするような選手、コーチたちは驚くかもしれない。三浦龍司というランナーが、ダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルで5位になった後は、まとまった休養を挟むことなく距離を延ばして調整することを。それだけ異質な道を3年間、繰り返してきた。 3000m障害で日本記録を持ち、21年東京五輪と今夏のブダペスト世界選手権で6位入賞。世界トップランナーの1人といっても過言ではない。3000m障害を主戦場とする選手の多くは1500mや3000mでスピードを磨くし、レースに出るとしても5000mまでというのがほとんど。10000mやハーフに出ることは稀だが、走ったとしても調整や練習の一環。だが、三浦は1月2日に20kmもの距離を“ガチンコ”で走ってきた。もちろん、パリ五輪イヤーの2024年も、走る。 「駅伝は好きですよ。個人競技ではなく、チームで戦うからこそ達成感や充実感が増しますから」 全身がヒリヒリするような“個”のぶつかり合いとは違う、駅伝を目指し、走る日々でしか味わえないものがある。 今年は駅伝主将に自ら手を挙げた。1学年上の先輩だった西澤侑真(現・トヨタ紡織)の影響が大きかった。自分の陸上人生、いや、人生において、この経験は大きなものになる。「引っ張っていくタイプではない」し、朝起きるのが苦手だったりもする。それでも、三浦は手を挙げた。 ただ、「どうしても海外レースが中心になってしまう」。三浦は、同期の藤原優希に「一緒にやってほしい」と声をかけた。 「前回の箱根駅伝を走ったあと、藤原の姿勢や走りに変化がありました。同じキャプテンをする上で実績的な部分も必要です。Cチームから上がってきて、いろいろな視点を持っているし、後輩たちもコミュニケーションを取りやすい。そういう人物がリーダーであるのは大きな意味があります。(キャプテンに)ふさわしい存在です」 前半シーズンは世界選手権を中心にスケジュールを組み立てたため、想定通りチームを離れる日が多かった。「全体への声かけも難しかったですし、今までキャプテンをされてきた方々のようにはできませんでした」。ただ、「藤原がいてくれるからこそ、頼っていました」と言う。三浦は個別に1年生や伸び悩んでいる選手たちに声をかけつつ、9月以降は駅伝に向けて自身も調整していった。同じ熱量で頑張ってきた仲間とともに
出雲駅伝はある程度早くから見送りを決め、「全日本、箱根に向けて“溜め”を作る」ことに注力。ある程度の準備はできたはずだった全日本では「1kmは突っ込んで、2kmでは落ち着いて走った。そんなに感覚は悪くなかった」。それでもタイムは上がらず「どうしてだろう」という結果に終わっている。 出雲10位、全日本11位と、苦しい駅伝が続く。「選手それぞれ、力を出すことができていません。チーム力はあるのですが」。その原因の一つには「上級生の選手層の厚さ」とも。「安心感や厚みが足りない。だから、吉岡(大翔)らが伸び伸び走らせてあげられていない」と責任を感じている。裏を返せば「戦力としては過去2年と大差はない」。どう力を発揮できるチームに仕立てられるか。 1年時は1区、そして2、3年と2区を走ってきた。決して“大エース”という役割ではない。「これまで1、2区しかないので、今回も序盤区間だと思います」とし、「できれば1区で」と笑う。実は「1年生の最初は下りも得意だと思っていたので6区を走りたいと思ったこともありましたが、今は苦手です」。 “花の2区”を2度経験した三浦。「2区は最長区間ですし、絶対的なスタミナ、タフさは必要。最初にレースが動く場所ですし、重要度は高い。いろいろな準備が必要です」とコースの印象を語る。 オリンピアンである三浦が走れば、世間の人々は“そういう目”で見る。周囲の求める結果と、自分の走りや結果に対する感触。そのギャップは、埋めがたい。「仕方ないこと」と割り切っているが、悔しさがないはずはない。 それでも、三浦は箱根駅伝を走る。果たして今回は1区か、2区か。それとも。 [caption id="attachment_124757" align="alignnone" width="800"] 駅伝W主将を務めてきた三浦と藤原[/caption] 「15人いる同期は、それぞれ目指す場所や実力は違っても、同じ熱量で頑張ってきた仲間。だから僕らも奮起できたんです。石井(一希)とは1年目から同じ大会に出てきた戦友。ここぞというところで期待に応えてくれます。最高学年として、後輩たちに残せるのはシード権。そして同じ目標に向かって頑張ること。それは最後までやりとおしたい」 100回目を迎える箱根駅伝に、世界トップランナーの1人がいる。どんな選手でも、同じ熱量で、同じようにタスキをつなぐ。だから箱根駅伝は100回続いてきた。 世界へと巣立つための土台を作り、送り出してくれた順天堂大学。そのユニフォームを着て、タスキをかける最後の駅伝。「世界のMIURA」ではなく、「順天堂大学の三浦龍司」として、最高の仲間とともにあの舞台を駆け抜ける。 文/向永拓史
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