2023.12.20
チェコ遠征で感じた“世界”
心身ともに充実していることが成績にも現れている。2年生になる直前の3月には、TOKOROZAWAゲームズの3000mで、順大の三浦龍司や吉岡大翔(当時は佐久長聖高)、城西大の三本柱(ヴィクター・キムタイ、斎藤将也、山本唯翔)といった他大のエース格に競り勝って1着。前半戦は5000mを中心に好記録を連発し、関東インカレ1部も3位入賞を果たした。
9月には、先輩の石塚陽士、伊藤大志(いれも3年)と共にチェコ・プラハに遠征し、10kmレースに出場した。そこでは刺激的な出会いもあった。
「レース前日にジョグに行ったら、向こうから話しかけてくれて、一緒に練習して、いろいろ話をしました。レース当日も、次の日も一緒に朝ごはんを食べました」
その選手はタデッセ・ウォルク(エチオピア)。2021年のU20世界選手権で3000m金メダル、5000m銀メダルという実績の持ち主だ。山口らが出場したレースも、優勝したのはタデッセだった。
「大学4年生の年代の選手で、10000mを26分45秒で走っていても(シニアでは)国の代表になれない。すごい環境で走っていると思いました。日本は良くも悪くも恵まれ過ぎている。『世界、世界……』って言っていても、このままだと辿りつくことはできないなっていう感覚がありました」
同世代の実力者に大きな刺激を受け、そこから練習の質も量も上げていった。
そして、秋を迎えた。出雲駅伝は、2週間前に体調不良になった影響で納得のいく走りはできなかったが、それでも2区区間3位にまとめた。
全日本は2区区間4位。ほぼ同時にスタートした駒大の佐藤圭汰に5㎞過ぎに突き放され、青学大・黒田朝日にも抜かれてしまった。そう見ると、失敗レースに思われるかもしれないが、山口にとっては「やっときっかけをつかめた」レースだったという。
スタート直後からハイペースで入るのは、もともと山口のスタイルではない。2週間後の上尾ハーフで見せた、後半に上げていく走りのほうが得意で、言わば“他流試合”に挑んだ。佐藤に離された直後には一気に差が開いたものの、終盤には持ち直している。
「最初から突っ込んで、佐藤君にはボロボロにされたが、まとめることができました」
山口のバリエーションが広がったレースになった。
上尾ハーフでさらに自信を深め、いよいよ箱根駅伝に臨む。「他大学からアドバンテージを取れるような存在になれていると思う。スピードが生かせる区間を走りたいですね。上尾ハーフでは集団でも走れたので1区も走ってみたい。3区だったら丹所(健)さん(東京国際大/現・Honda)の日本人最高記録(1時間0分55秒)を狙いたい」。
1年越しの箱根デビューで、山口は鮮烈な活躍を見せそうだ。
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全日本大学駅伝2区では飛躍のきっかけをつかんだ山口智規(撮影/和田悟志)
やまぐち・とものり/2003年4月13日生まれ。千葉県銚子市出身。千葉・銚子二中→福島・学法石川高。5000m13分34秒95、10000m29分35秒47、ハーフ1時間1分16秒
文/和田悟志
大迫傑が持っていた大学記録を更新
11月19日、上尾シティハーフマラソンのスタート前、早大の山口智規(2年)はいつも以上にリラックスしているように見えた。 「今日は練習の一環なので、3分ペースで行こうと思います」 号砲が鳴る直前にはこんなことを話していた。 その言葉に反して、山口は日本人トップで競技場に戻ってきた。しかも、序盤に大きなリードを奪った山梨学大の留学生、ブライアン・キピエゴ(1年)に最後は9秒差にまで迫った。 記録は1時間1分16秒。自己ベストを大きく更新したばかりか、東京五輪男子マラソン6位の大迫傑(現・Nike)が13年前の上尾ハーフで打ち立てた早大記録(1時間1分47秒)を31秒短縮した。 「“1年生の大迫さん”には負けられない。あこがれの先輩なので、目指していく上で絶対に超えなきゃいけない記録だと思っていました」 早大記録を出せる手応えはあった。ただ、「あそこまでいけるとは……」と言うように、山口にとっても想定以上の出来だった。 山口は千葉県銚子市の出身。中学時代は陸上競技部に所属しながらも、リトルシニアで小3から始めた野球を続けていた。ポジションはショート。陸上でも県トップクラスの成績を挙げていたが、野球でも県内の強豪校から声がかかるほどの実力の持ち主だった。高校進学の際にも、どちらを選ぶか「すごく迷った」という。 一方で、中学生の頃から早大にあこがれており、「(系属校の)早実で野球をやろうかな」と考えたこともあった。父から「早稲田に行きたいなら、(陸上で)学法石川高(福島)はどう?」と勧められ、「陸上のほうが伸びそうだ」と可能性を感じていたこともあって、越境して学法石川高への進学を決めた。 高校では1年目で5000m13分台をマークし、2年時からはチームのエースとして活躍した。3年時には5000mで高校歴代3位(当時)の13分35秒16をマークしている。 そして、念願かなって早大に進学。1年目から主力となり、全日本大学駅伝では4区区間3位と好走し、チームの6位の力となった。しかし、箱根駅伝は直前に胃腸炎になった影響で、出走できなかった。チームはシード権奪回に成功したが、山口には悔しさが残った。 「1月2日に復路も走れないことが決まって、あの時は本当に悔しかったです。でも、あの悔しさがあったから、今強くなれているのかなと思います」 箱根後すぐに気持ちを切り替えると、走力を向上させるためにランニングエコノミーの改善、筋力の強化に取り組み始めた。 「動き自体にエラーが起こりやすかったので、改善しないと力がついてこないと思いました。プライオメトリクスというジャンプトレーニングに取り組んだことで、地面のとらえ方がうまくなり、動きが変わりました。ウエイトトレーニングに取り組んだことで爆発的な力が出るようになりました」 また、昨季までは「プレッシャーに弱い」と話していたが、メンタルトレーニングや大学のメンタルトレーニング論の授業で、精神面の成長もあった。 「1年目は周りばかりを気にして、緊張から思うような走りができないことが多かったんですけど、今はマインドが変わりました。いろんな経験を積んで、安定感が出てきたと思います」チェコ遠征で感じた“世界”
心身ともに充実していることが成績にも現れている。2年生になる直前の3月には、TOKOROZAWAゲームズの3000mで、順大の三浦龍司や吉岡大翔(当時は佐久長聖高)、城西大の三本柱(ヴィクター・キムタイ、斎藤将也、山本唯翔)といった他大のエース格に競り勝って1着。前半戦は5000mを中心に好記録を連発し、関東インカレ1部も3位入賞を果たした。 9月には、先輩の石塚陽士、伊藤大志(いれも3年)と共にチェコ・プラハに遠征し、10kmレースに出場した。そこでは刺激的な出会いもあった。 「レース前日にジョグに行ったら、向こうから話しかけてくれて、一緒に練習して、いろいろ話をしました。レース当日も、次の日も一緒に朝ごはんを食べました」 その選手はタデッセ・ウォルク(エチオピア)。2021年のU20世界選手権で3000m金メダル、5000m銀メダルという実績の持ち主だ。山口らが出場したレースも、優勝したのはタデッセだった。 「大学4年生の年代の選手で、10000mを26分45秒で走っていても(シニアでは)国の代表になれない。すごい環境で走っていると思いました。日本は良くも悪くも恵まれ過ぎている。『世界、世界……』って言っていても、このままだと辿りつくことはできないなっていう感覚がありました」 同世代の実力者に大きな刺激を受け、そこから練習の質も量も上げていった。 そして、秋を迎えた。出雲駅伝は、2週間前に体調不良になった影響で納得のいく走りはできなかったが、それでも2区区間3位にまとめた。 全日本は2区区間4位。ほぼ同時にスタートした駒大の佐藤圭汰に5㎞過ぎに突き放され、青学大・黒田朝日にも抜かれてしまった。そう見ると、失敗レースに思われるかもしれないが、山口にとっては「やっときっかけをつかめた」レースだったという。 スタート直後からハイペースで入るのは、もともと山口のスタイルではない。2週間後の上尾ハーフで見せた、後半に上げていく走りのほうが得意で、言わば“他流試合”に挑んだ。佐藤に離された直後には一気に差が開いたものの、終盤には持ち直している。 「最初から突っ込んで、佐藤君にはボロボロにされたが、まとめることができました」 山口のバリエーションが広がったレースになった。 上尾ハーフでさらに自信を深め、いよいよ箱根駅伝に臨む。「他大学からアドバンテージを取れるような存在になれていると思う。スピードが生かせる区間を走りたいですね。上尾ハーフでは集団でも走れたので1区も走ってみたい。3区だったら丹所(健)さん(東京国際大/現・Honda)の日本人最高記録(1時間0分55秒)を狙いたい」。 1年越しの箱根デビューで、山口は鮮烈な活躍を見せそうだ。 [caption id="attachment_123691" align="alignnone" width="800"]
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2025年3月号 (2月14日発売)
別府大分毎日マラソン
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