2023.10.16
◇マラソングランドチャンピオンシップ(MGC/10月15日、東京・国立競技場発着)
「すごくリラックスして走れていたので、自分のリズムで行けば大丈夫。自信はありました」とレース直後、鈴木優花(第一生命グループ)は栄誉の月桂冠を戴いて、晴れやかな笑顔で言い切った。大東大時代からモットーにしていたという「冷静かつ大胆に」が、レースだけでなく言葉にもにじみ出る。
先頭を行く一山麻緒(資生堂)と細田あい(エディオン)との差は、30km地点で10秒。その後、一山は細田を振り切り、鈴木は一緒にいた加世田梨花(ダイハツ)を置き去りにして、一山を鈴木が追う展開に。
「追いつけると思っていたんです。無理に上げ過ぎるとピタッと止まるので、自分のリズムを心掛け、並んだところで再びスパートされるのも想定していました」
鈴木が一山を捕らえたのが、上り勾配の38.4km地点。すかさず前に出ると一山に再スパートをする余力はなく、39km手前から鈴木が逃げの態勢に入った。篠突く雨のレースで鈴木の走りにもスピード感はなくなっているが、1歩1歩踏みしめるように坂を上がり、先頭でトラックへ。ラスト2.195kmは女子最速の7分28秒でカバーし、2時間24分28秒の自己ベストで優勝。大学2年のユニバーシアード大会ハーフマラソンで金メダルを獲った時から抱いた「マラソンでパリ五輪へ」の夢を、24歳で実現させた瞬間だった。
第一生命グループからは尾崎好美(2012年ロンドン)、田中智美(16年リオデジャネイロ)に次ぐ3人目の女子マラソン五輪代表。先輩たちと同様に鈴木も、マラソンでオリンピック出場経験のある山下佐知子監督と、米国・ボルダーで2ヵ月に及ぶ高地トレーニングを積んだ。
「やるしかないと思ってひたすら練習をこなしたんですけど、無心になることによってこんなに練習を積み重ねられるんだと、初めて知りました」と驚いた表情で話す鈴木は、「同期の田中希実さんなんかと比べて自分はまだまだだな」と思いがちだったと明かすが、今回のマラソン練習で「そのネガティブ思考から脱却できた」ことを喜ぶ。
山下監督は鈴木のポテンシャルの高さから「身体づくりさえすればそれ相応の走りができる」と読んで、「フィジカル・トレーニングで体幹をしっかり鍛え、左右差や弱点を丁寧に埋めた」と言う。合宿の後半は「量より質を重視した」そうだ。
大東大の後輩たちと外園隆監督はMGC当日、2週間後に迫った全日本大学女子駅伝のメンバーを決める大事な練習があって、沿道で応援できなかった。鈴木からは「大学女子駅伝の前にMGCがあるから、みんなの力になれるような走りをしますね」と熱いメッセージが。男子で優勝した小山直城(Honda)が母校・東農大の10年ぶり箱根駅伝出場決定に励まされたように、鈴木の優勝は大東大悲願の女子駅伝初制覇へ、大きなメッセージになるのかもしれない。
「初めてのオリンピックは恐れることなく堂々と挑戦したい」と、鈴木はパリ五輪への思いを語った。山下監督と歩むマラソン・ロードは「まだ始まりに過ぎません」。男子の山田敬蔵、佐々木悟、女子の浅利純子らを輩出した秋田県から、活きのいいマラソンランナーがまた世界の舞台へ羽ばたく。
文/小森貞子
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