2023.10.17
福島大学陸上競技部は日本女子短距離に多大な功績を残した名門として知られるが、長年チームを率いてきた川本和久氏が昨年5月に他界。その後、競技者としても指導者としても川本氏の薫陶を受けた吉田真希子氏が監督のバトンを引き継いだ。この夏にはチームユニフォームをデザインから新調。その過程は、伝統として守っていく〝福島大らしさ〟と、新たに切り拓いていくべきチームの在り方とを、部員全員で考え、共有する貴重な機会となった。
相談3日後にデザイン案が来る驚きのスピード対応
福島大の吉田真希子監督が、クレーマージャパンに電話を入れたのは、7月も半ばを過ぎた頃のことだった。
「それまでお願いしていたメーカーがアパレル事業を行わないことになり、チームユニフォームを注文できるところを新たに探さなければならなかったんです」
製品は、9月14日~17日に熊谷で開催される日本インカレまでに用意する必要があった。ゼロからスタートすることを考えると、すでにタイトなスケジュールだ。だが、チームカラーの〝ローズピンク〟にはこだわりたいし、デザインや機能面についても妥協したくない……。吉田監督はさまざまな縁でつながっていたクレーマージャパンに相談したところ、この想いを理解し、叶えるべく奔走してくれた。
快諾を得た吉田監督は、以後、そのスピード感に驚かされ続けることになる。
「まず3日後には、私が伝えていたイメージを基にしたデザイン案がいくつも送られてきたんです。ピンクってすごく幅が広い色味なので、〝福島大のローズピンク〟を共有するのは簡単ではないだろうと思っていたのですが、その段階で〝ローズピンク〟だけでもたくさんのバリエーションを示してくれました」
翌週にはウエアの採寸が行われ、2週間後には発注へ。デザインの検討と試作は同時進行していた。
偉大な指導者がゼロから築いた「女子スプリントの名門」
福島大陸上競技部と言えば、「女子スプリントの名門」という言葉がパッと浮かんでくる。前監督の川本和久氏が1980年代に福島大へ着任して以降、類いまれな情熱と指導力で強豪大学へと育て上げ、次々とトップアスリートを輩出。日本記録変遷史には多くの卒業生が名を連ねているし、日本インカレでも大所帯で挑んでくる有力校を相手に、2007年・2008年に女子総合で連覇も果たしている。その川本氏ががん闘病の末、昨年5月に他界。以降、現役時代の終盤はプレーイングコーチの立場で、引退後はコーチとして川本氏を支えつつ指導法を学んできた吉田監督がすべての舵をとることになった。
ただ、真にチームを率いる立場となった時、「川本先生がやってきたことをそのままやっていたら、それは停滞を意味する」と吉田監督。さらに前へ進むために新しい風を吹き込んでいく必要があると考えた。
「川本先生はリーダーとして先頭に立ってチームを引っ張って来られた方でしたが、私の場合は〝ともに並んで〟というスタンスのほうが自分らしい。そこで、〝ついて来い〟ではなく〝一緒に行こう〟というチームをつくっていくことを目指すことにしたんです」

ユニフォーム新調を名門復活へのきっかけにしたいと話す福島大の吉田真希子監督
伝統を大切にしつつ、チームの未来を考えた新デザイン
そうした変換期を迎えていた中、今回のユニフォーム新調は思いがけない効果をチームにもたらすことになった。「最初は、川本先生が残されたデザインを踏襲するかたちでつくろうとしていたのですが、クレーマージャパンの担当者から『チームとしての未来に向けて次の展開を考えていく時に、今までの伝統も大切にしつつ、新しいアイデアを組み込んでは』と提案されたんです」と吉田監督。
「なるほど、確かに」と受け入れ、色見本やデザイン案、サンプルを見ながら学生たちと一緒に検討を重ねていくなかで、それは自然と起きていた。
「〝福島大のローズピンク〟ってどんな色なんだろう。きれいというだけでなく、強さも出したいよね。このローズピンクがぴったりなんじゃないか。強さを際立たせるためにこれを差し色にしてみようと、みんなで言い合うなかで、気がついたら、〝福島大らしさとは何か〟〝どんなチームにしていきたいのか〟といったことをディスカッションしていたんです。まあ、最後の最後は私が〝これ!〟って決めたわけですが(笑)、そうやって一つひとつをみんなで考えながら進めたプロセスは、とても意味がありました」

〝福島大らしさ〟を象徴したローズピンク基調の新ユニフォーム。左が男子用、右が女子用。クレーマージャパン製らしく快適かつパフォーマンス発揮に寄与するために選びぬかれた素材を採用し、カッティングなども動きやすさを追求した工夫が随所に施されている。クレーマージャパンでは、近年問題視される盗撮被害について15年以上前から取り組み、透過撮影防止の素材を用いたウエアも展開。また、2018年~2021年まで日本パラ陸上競技連盟のオフィシャルパートナーとして代表ウエアを担当した
2011年の東日本大震災によって、その後の数年は入部者が激減。戻ってきたかと思った矢先で、今度はコロナ禍に見舞われ、競技会出場だけでなく、あらゆることが大きく制限される日々を余儀なくされた。「残念ながら競技力は低迷しているのが現状です。だからこそ、これまで大切にしてきた〝福島大らしさ〟は忘れることなく、ここからまた新しくチームを創っていきたい」と言う。
お披露目となった東北地区大学総体で34年ぶり男女総合V
日本インカレを目指して進めていた新ユニフォームは、クレーマージャパン側の尽力もあって、9月1日、2日に行われた東北地区大学総体の直前に納品。この対校戦が〝お披露目の場〟となった。
「部員たちに、『ユニフォームは、昔の侍で言えば鎧。今日は、それを着ていれば強いと誰もが認識するユニフォームをつくっていく1日目だから、みんなでがんばろう!』と呼びかけて送り出しました。すると、選手が次々と自己新記録をマークしてどんどん波に乗っていったんです」
最終的に、男女ともに総合優勝。男子は実に1989年以来の総合Vで、これによって34年ぶりとなる男女総合優勝を達成することができた。揺るぎなく大切にしたい〝福島大らしさ〟を象徴するローズピンクを基調に、デザインや機能面、そして仕上がりまでの過程で今までになかった新たな風が吹き込まれたユニフォームが、チームとしても、そして個々の選手にとっても、験のいいポジティブなイメージを持つ〝鎧〟となった瞬間だった。
「ローズピンクって、〝献身〟とか〝実り〟とか、そういう意味があるんです。チームに対して、みんなでエネルギーを投じていくような、そんなチームにしたい。そこに向かって、より主体的にやっていけるようしていきたいですね」と吉田監督。
伝統校としての誇りを胸に、福島大学は、新たな歴史を刻んでいく。
※この記事は『月刊陸上競技』2023年11月号に掲載しています
文/児玉育美、撮影/有川秀明
相談3日後にデザイン案が来る驚きのスピード対応
福島大の吉田真希子監督が、クレーマージャパンに電話を入れたのは、7月も半ばを過ぎた頃のことだった。 「それまでお願いしていたメーカーがアパレル事業を行わないことになり、チームユニフォームを注文できるところを新たに探さなければならなかったんです」 製品は、9月14日~17日に熊谷で開催される日本インカレまでに用意する必要があった。ゼロからスタートすることを考えると、すでにタイトなスケジュールだ。だが、チームカラーの〝ローズピンク〟にはこだわりたいし、デザインや機能面についても妥協したくない……。吉田監督はさまざまな縁でつながっていたクレーマージャパンに相談したところ、この想いを理解し、叶えるべく奔走してくれた。 快諾を得た吉田監督は、以後、そのスピード感に驚かされ続けることになる。 「まず3日後には、私が伝えていたイメージを基にしたデザイン案がいくつも送られてきたんです。ピンクってすごく幅が広い色味なので、〝福島大のローズピンク〟を共有するのは簡単ではないだろうと思っていたのですが、その段階で〝ローズピンク〟だけでもたくさんのバリエーションを示してくれました」 翌週にはウエアの採寸が行われ、2週間後には発注へ。デザインの検討と試作は同時進行していた。偉大な指導者がゼロから築いた「女子スプリントの名門」
福島大陸上競技部と言えば、「女子スプリントの名門」という言葉がパッと浮かんでくる。前監督の川本和久氏が1980年代に福島大へ着任して以降、類いまれな情熱と指導力で強豪大学へと育て上げ、次々とトップアスリートを輩出。日本記録変遷史には多くの卒業生が名を連ねているし、日本インカレでも大所帯で挑んでくる有力校を相手に、2007年・2008年に女子総合で連覇も果たしている。その川本氏ががん闘病の末、昨年5月に他界。以降、現役時代の終盤はプレーイングコーチの立場で、引退後はコーチとして川本氏を支えつつ指導法を学んできた吉田監督がすべての舵をとることになった。 ただ、真にチームを率いる立場となった時、「川本先生がやってきたことをそのままやっていたら、それは停滞を意味する」と吉田監督。さらに前へ進むために新しい風を吹き込んでいく必要があると考えた。 「川本先生はリーダーとして先頭に立ってチームを引っ張って来られた方でしたが、私の場合は〝ともに並んで〟というスタンスのほうが自分らしい。そこで、〝ついて来い〟ではなく〝一緒に行こう〟というチームをつくっていくことを目指すことにしたんです」 [caption id="attachment_116097" align="alignnone" width="800"]
伝統を大切にしつつ、チームの未来を考えた新デザイン
そうした変換期を迎えていた中、今回のユニフォーム新調は思いがけない効果をチームにもたらすことになった。「最初は、川本先生が残されたデザインを踏襲するかたちでつくろうとしていたのですが、クレーマージャパンの担当者から『チームとしての未来に向けて次の展開を考えていく時に、今までの伝統も大切にしつつ、新しいアイデアを組み込んでは』と提案されたんです」と吉田監督。 「なるほど、確かに」と受け入れ、色見本やデザイン案、サンプルを見ながら学生たちと一緒に検討を重ねていくなかで、それは自然と起きていた。 「〝福島大のローズピンク〟ってどんな色なんだろう。きれいというだけでなく、強さも出したいよね。このローズピンクがぴったりなんじゃないか。強さを際立たせるためにこれを差し色にしてみようと、みんなで言い合うなかで、気がついたら、〝福島大らしさとは何か〟〝どんなチームにしていきたいのか〟といったことをディスカッションしていたんです。まあ、最後の最後は私が〝これ!〟って決めたわけですが(笑)、そうやって一つひとつをみんなで考えながら進めたプロセスは、とても意味がありました」 [caption id="attachment_116096" align="alignnone" width="800"]
お披露目となった東北地区大学総体で34年ぶり男女総合V
日本インカレを目指して進めていた新ユニフォームは、クレーマージャパン側の尽力もあって、9月1日、2日に行われた東北地区大学総体の直前に納品。この対校戦が〝お披露目の場〟となった。 「部員たちに、『ユニフォームは、昔の侍で言えば鎧。今日は、それを着ていれば強いと誰もが認識するユニフォームをつくっていく1日目だから、みんなでがんばろう!』と呼びかけて送り出しました。すると、選手が次々と自己新記録をマークしてどんどん波に乗っていったんです」 最終的に、男女ともに総合優勝。男子は実に1989年以来の総合Vで、これによって34年ぶりとなる男女総合優勝を達成することができた。揺るぎなく大切にしたい〝福島大らしさ〟を象徴するローズピンクを基調に、デザインや機能面、そして仕上がりまでの過程で今までになかった新たな風が吹き込まれたユニフォームが、チームとしても、そして個々の選手にとっても、験のいいポジティブなイメージを持つ〝鎧〟となった瞬間だった。 「ローズピンクって、〝献身〟とか〝実り〟とか、そういう意味があるんです。チームに対して、みんなでエネルギーを投じていくような、そんなチームにしたい。そこに向かって、より主体的にやっていけるようしていきたいですね」と吉田監督。 伝統校としての誇りを胸に、福島大学は、新たな歴史を刻んでいく。 ※この記事は『月刊陸上競技』2023年11月号に掲載しています 文/児玉育美、撮影/有川秀明RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.02.22
【大会結果】第108回日本選手権クロスカントリー(2025年2月22日)
2025.02.21
編集部コラム「奥が深い」
-
2025.02.21
-
2025.02.21
-
2025.02.21
2025.02.17
日本郵政グループ女子陸上部 「駅伝日本一」へのチームづくりとコンディショニング
2025.02.16
男子は須磨学園が逆転勝ち! 女子は全国Vの長野東が強さ見せる/西脇多可高校新人駅伝
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.16
2025.02.02
【大会結果】第77回香川丸亀国際ハーフマラソン(2025年2月2日)
2025.02.02
大迫傑は1時間1分28秒でフィニッシュ 3月2日の東京マラソンに出場予定/丸亀ハーフ
-
2025.02.14
-
2025.02.09
-
2025.02.02
-
2025.01.26
-
2025.01.31
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.02.22
【大会結果】第108回日本選手権クロスカントリー(2025年2月22日)
【大会結果】第108回日本選手権クロスカントリー(2025年2月22日/福岡・海の中道海浜公園) ●男子10km 1位 三浦龍司(SUBARU) 28分24秒 2位 井川龍人(旭化成) 28分25秒 3位 塩尻和也 […]
2025.02.22
今年も福岡でクロカン日本一決定戦! 日本選手権&U20日本選手権クロカンに有力選手が多数出場
第108回日本選手権クロスカントリー、第40回U20日本選手権クロスカントリーは今日2月22日、福岡・海の中道海浜公園の1周2kmのコースを舞台に行われる。 日本選手権は男子が10km、女子が8kmで争われ、男子にはパリ […]
2025.02.21
編集部コラム「奥が深い」
毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]
2025.02.21
ひらまつ病院にニューイヤー駅伝3年連続出走の三田眞司が加入 「チームの最高順位に貢献」
ひらまつ病院は2月16日付で、サンベルクスに所属していた三田眞司が加入したと発表した。 29歳の三田は神奈川県出身。光明学園相模原高では3年時に全国都道府県対抗男子駅伝4区9位と力走。国士大では3年時に全日本大学駅伝で3 […]
2025.02.21
斎藤将也、不破聖衣来、菖蒲敦司らが欠場を発表/日本選手権クロカン
福岡クロカン事務局は第108回日本選手権クロスカントリーの2月21日時点での欠場者リストを公開した。 男子では斎藤将也(城西大)や谷本昂士郎(順大)ら5人が新たに欠場を発表。女子は不破聖衣来、新井沙希(ともに拓大)、板井 […]
Latest Issue
最新号

2025年3月号 (2月14日発売)
別府大分毎日マラソン
落合 晃×久保 凛
太田智樹、葛西潤
追跡箱根駅伝&高校駅伝