HOME 国内、特集、日本代表
【高平慎士の視点】謝震業の地元V、10代の躍進にアジアのレベルアップ実感 桐生と小池には4継での雪辱を期待/アジア大会
【高平慎士の視点】謝震業の地元V、10代の躍進にアジアのレベルアップ実感 桐生と小池には4継での雪辱を期待/アジア大会

謝震業(中国、左)と桐生祥秀(日本生命)

中国・杭州で開催されている第19回アジア大会の2日目午後セッションに行われた男子100m。日本の桐生祥秀(日本生命)と小池祐貴(住友電工)はいずれも準決勝敗退となり、決勝は地元・中国の謝震業が追い風参考ながら9秒97(+2.4)で金メダルに輝いた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

まずは決勝について、謝震業(中国)が、重圧のある中で強さを見せました。8月のブダペスト世界陸上よりも、地元開催のアジア大会にピークを持ってきていたようで、予選からしっかり作ってきたなという印象を持っていました。

日本の鵜澤飛羽選手(筑波大)のように、上体を揺さぶって脚を回転させていくタイプで、アジア記録(19秒88)を保持する200mでより強さを発揮する選手でした。この大会は100mに絞って仕上げてきていますが、このまま100mにシフトしてくるのか、それともこのスピードを200mに生かすのか。

100mであれば日本の選手たちと五輪のファイナルを争う1人になるでしょう。200mであれば、よりファイナルが現実的な水準まで持ってくるのでは、と感じました。

そんな謝震業選手ですが、予選を見た段階ではもう少し圧倒的な優勝になるかと思っていました。準決勝、決勝ではレースの流れをうまく作れなかったようにも感じましたが、むしろ2位のプリポル・ブーンソン選手(タイ)の驚異的な走りがそう見せたのかもしれません。

広告の下にコンテンツが続きます

ブダペスト世界選手権で100m銀、200m銅メダルを獲得したレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)の“アジア版”のような選手。昨年に100m10秒09、200m20秒19と2種目でU18アジア新記録を樹立しています。U20世界選手権100mでも4位に入りました。

まだ17歳ながら準決勝で自己新の10秒06(+1.4)をマークし、決勝は追い風参考ながら10秒02で銀メダルというのは驚きです。10秒11で銅メダルだったムハンマド・アズィーム・ビン・モード・ファウミ選手(マレーシア)も19歳。アジアのレベルアップをリアルに感じます。

タイも、マレーシアも、ここから先の育成をどこまで進められるかという課題はあるかもしれません。ただ、それがうまくいった時には、日本勢も含むアジアのスプリントはさらに世界に近づいていくのではないでしょうか。

日本もそうですが、アジア各国はこのアジア大会を重視してきました。コロナ禍の影響でイレギュラーな開催(1年延期)だったこと、また世界陸連が設定した大会カテゴリーではアジア選手権が上にあることから、今年の日本は種目によってトップ選手が回避するかたちとなりました。

ただ、代表になった桐生祥秀選手、小池祐貴選手は日本スプリントの中心選手として、少なくともファイナルに残るという役割を果たしてほしかったと感じました。

桐生選手はケガ明けからの急仕上げ、小池選手はアメリカに拠点を変えてコーチとの感覚を擦り合わせている段階。それぞれ、この大会に臨む過程に難しさはあったと思います。それでも、代表選手たちは、その後ろには選考されたなかった選手たちがいるということへの責任があります。

桐生選手は昨年の休養を経て、再スタートの1年でした。その中で5月の木南記念予選で10秒03をマークするなど、一定の成果を残したシーズンにはできたのではないでしょうか。あとは、桐生選手の持ち味である爆発力を狙ったレースで発揮できるか、またラウンドをこなす体力を取り戻せるか。10秒03を再現できるようであれば、五輪イヤーが楽しみです。

小池選手も、本来であればスタートで予選、準決勝と2本続けて失敗することは考えられません。ただ、やりたいことと、自身の感覚を冷静に見極められる選手。この冬季でそれができれば、来年もしっかりと代表争いに絡んでくるでしょう。

明日には4×100mリレー予選が控えています。日本の4継を牽引してきた2人には、もう一仕事を期待したいですね。

◎高平慎士(たかひら・しんじ)
富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

中国・杭州で開催されている第19回アジア大会の2日目午後セッションに行われた男子100m。日本の桐生祥秀(日本生命)と小池祐貴(住友電工)はいずれも準決勝敗退となり、決勝は地元・中国の謝震業が追い風参考ながら9秒97(+2.4)で金メダルに輝いた。2008年北京五輪4×100mリレー銀メダリストの高平慎士さん(富士通一般種目ブロック長)に、そのレースを振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ まずは決勝について、謝震業(中国)が、重圧のある中で強さを見せました。8月のブダペスト世界陸上よりも、地元開催のアジア大会にピークを持ってきていたようで、予選からしっかり作ってきたなという印象を持っていました。 日本の鵜澤飛羽選手(筑波大)のように、上体を揺さぶって脚を回転させていくタイプで、アジア記録(19秒88)を保持する200mでより強さを発揮する選手でした。この大会は100mに絞って仕上げてきていますが、このまま100mにシフトしてくるのか、それともこのスピードを200mに生かすのか。 100mであれば日本の選手たちと五輪のファイナルを争う1人になるでしょう。200mであれば、よりファイナルが現実的な水準まで持ってくるのでは、と感じました。 そんな謝震業選手ですが、予選を見た段階ではもう少し圧倒的な優勝になるかと思っていました。準決勝、決勝ではレースの流れをうまく作れなかったようにも感じましたが、むしろ2位のプリポル・ブーンソン選手(タイ)の驚異的な走りがそう見せたのかもしれません。 ブダペスト世界選手権で100m銀、200m銅メダルを獲得したレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)の“アジア版”のような選手。昨年に100m10秒09、200m20秒19と2種目でU18アジア新記録を樹立しています。U20世界選手権100mでも4位に入りました。 まだ17歳ながら準決勝で自己新の10秒06(+1.4)をマークし、決勝は追い風参考ながら10秒02で銀メダルというのは驚きです。10秒11で銅メダルだったムハンマド・アズィーム・ビン・モード・ファウミ選手(マレーシア)も19歳。アジアのレベルアップをリアルに感じます。 タイも、マレーシアも、ここから先の育成をどこまで進められるかという課題はあるかもしれません。ただ、それがうまくいった時には、日本勢も含むアジアのスプリントはさらに世界に近づいていくのではないでしょうか。 日本もそうですが、アジア各国はこのアジア大会を重視してきました。コロナ禍の影響でイレギュラーな開催(1年延期)だったこと、また世界陸連が設定した大会カテゴリーではアジア選手権が上にあることから、今年の日本は種目によってトップ選手が回避するかたちとなりました。 ただ、代表になった桐生祥秀選手、小池祐貴選手は日本スプリントの中心選手として、少なくともファイナルに残るという役割を果たしてほしかったと感じました。 桐生選手はケガ明けからの急仕上げ、小池選手はアメリカに拠点を変えてコーチとの感覚を擦り合わせている段階。それぞれ、この大会に臨む過程に難しさはあったと思います。それでも、代表選手たちは、その後ろには選考されたなかった選手たちがいるということへの責任があります。 桐生選手は昨年の休養を経て、再スタートの1年でした。その中で5月の木南記念予選で10秒03をマークするなど、一定の成果を残したシーズンにはできたのではないでしょうか。あとは、桐生選手の持ち味である爆発力を狙ったレースで発揮できるか、またラウンドをこなす体力を取り戻せるか。10秒03を再現できるようであれば、五輪イヤーが楽しみです。 小池選手も、本来であればスタートで予選、準決勝と2本続けて失敗することは考えられません。ただ、やりたいことと、自身の感覚を冷静に見極められる選手。この冬季でそれができれば、来年もしっかりと代表争いに絡んでくるでしょう。 明日には4×100mリレー予選が控えています。日本の4継を牽引してきた2人には、もう一仕事を期待したいですね。 ◎高平慎士(たかひら・しんじ) 富士通陸上競技部一般種目ブロック長。五輪に3大会連続(2004年アテネ、08年北京、12年ロンドン)で出場し、北京大会では4×100mリレーで銀メダルに輝いた(3走)。自己ベストは100m10秒20、200m20秒22(日本歴代7位)

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.22

愛知製鋼にケニア出身の24歳サイモン・ガサ・ムンガイが加入

愛知製鋼は4月22日、サイモン・ガサ・ムンガイが新たに加入したとチームのSNSで発表した。 ケニア・マウセカンダリ高出身の24歳。ケニアでは昨年12月のケニアクロスカントリーシリーズ第6戦の10kmシニア男子で5位(32 […]

NEWS 東京世界陸上が朝日新聞社とスポンサー契約締結 報道、スポーツ支援の実績で貢献目指す

2025.04.22

東京世界陸上が朝日新聞社とスポンサー契約締結 報道、スポーツ支援の実績で貢献目指す

公益財団法人東京2025世界陸上財団は4月22日、朝日新聞社とスポンサー契約を締結したことを発表した。 朝日新聞社は1879年1月25日に創刊。以来、全国紙として国内外のさまざまなニュース、情報を発信してきたほか、スポー […]

NEWS セイコーGGP男子400m パリ五輪代表の佐藤拳太郎、佐藤風雅、中島佑気ジョセフ出場 海外勢は東京五輪4位チェリー参戦

2025.04.22

セイコーGGP男子400m パリ五輪代表の佐藤拳太郎、佐藤風雅、中島佑気ジョセフ出場 海外勢は東京五輪4位チェリー参戦

日本陸連は4月22日、セイコーゴールデングランプリ(5月18日/東京・国立競技場)の出場選手第7弾を発表した。 発表されたのは男子400m。日本勢は佐藤拳太郎(富士通)に加え、佐藤風雅(ミズノ)、中島佑気ジョセフ(富士通 […]

NEWS M&Aベストパートナーズがお披露目会!4月から選手10人で本格始動 神野大地「一枚岩になって戦っていく」

2025.04.22

M&Aベストパートナーズがお披露目会!4月から選手10人で本格始動 神野大地「一枚岩になって戦っていく」

株式会社M&Aベストパートナーズは4月21日、東京都内で同社の陸上部「MABPマーヴェリック」のお披露目会を開いた。 チームは2023年12月に発足。プロランナーとして活動する青学大OBの神野大地をプレイングマネージャー […]

NEWS 男子4×100mR代表にサニブラウン、鵜澤飛羽、西岡尚輝らが選出! 9月の世界陸上につながる一戦/世界リレー

2025.04.21

男子4×100mR代表にサニブラウン、鵜澤飛羽、西岡尚輝らが選出! 9月の世界陸上につながる一戦/世界リレー

日本陸連は4月21日、来月行われる世界リレーの代表メンバーを発表した。 大会は男女の4×100mリレー、4×400mリレー、そして男女混合の4×400mリレーの5種目を実施。日本からは男子4×100mリレーのみを派遣する […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top