一番「自分は陸上選手」と感じられるのが駅伝

西鉄での未来を語る設楽悠太
――Hondaを退社する際に「まだ叶えたい夢がある」と話していました。その思いとは?
設楽 走る以上は、やっぱり子供たちに目標とされる選手になりたいと思っています。もう一つは駅伝です。ここ3年は、補欠として元旦のニューイヤー駅伝を見てきました。でも、あの舞台は「走りたい」という思いが強くあった。引退までの年数が数えられるぐらいの年齢になってきたことを考えると、「引退、ラストレースはニューイヤー駅伝がいい」という思いになりました。
――選手寿命が延びている今、31歳という年齢で引退を考えるのは早い気がしますが……。現役生活において、今はどの時点に来ていると感じていますか?
設楽 自分の中ではあまり年齢を考えたくないというか、年齢を言い訳にしたくないので、気にしないようにしています。でも、30歳を過ぎたあたりから、少しずつ引退のことを考えるようになりました。正直に言うと、どこで引退するかまでは考えてないです。今は、チームに必要とされるまでは走りたいという感じですね。
――2018年にはマラソンで16年ぶりに日本記録を更新し、歴史を大きく動かしました。マラソンでも勝負できる力がある中で、駅伝に主眼を置こうと思っている理由は?
設楽 単純に、駅伝が好きだからだと思います。一人だったら途中であきらめるところもあるのですが、次の区間の選手が待っていることで、きついところでももう一度頑張ろうという気持ちになれます。小さい時から駅伝をやってきたので、みんなと同じ目標に向かって取り組むことが好きなのかな。
――駅伝があったから、成長してこられたという実感があるのですね。
設楽 かなりありますね。箱根駅伝で3年連続の区間賞(うち1回は区間新)を取って、ニューイヤー駅伝でも1、2年目に区間新を出してからは、区間賞をとって当たり前と見られるようになりました。周りのプレッシャーを感じることもありましたけど、そう見られているのはありがたいですし、応援してくれる人には走りで応えたいという気持ちで走ってきました。だからなのか、駅伝を走っている時が、一番「自分は陸上選手だな」って感じるんですよね。
――マラソンの育成が進まない時期は、駅伝が悪影響を及ぼしている、と言われてきた時期もありました。駅伝を大切に思ってきた設楽さんは、どんな気持ちでそれを聞いていたのでしょう。
設楽 考えは人それぞれなので、特に気にしたことはありません。説明するのは難しいですが、僕は駅伝もマラソンも一つとして考えてきました。それを分けないほうがいいと思うし、分けないことが結果にもつながると今も思っています。
――マラソンについては、今後はどのように向き合っていきますか。
設楽 マラソンはここ2、3年はまったく結果が出せていないので、もう一度、記録で過去の自分を超えたいという思いはあります。でも、今はマラソンより駅伝なので、マラソンに対しての思いやこだわりはあまりないですね。やっぱり、駅伝をやりたくて西鉄に入ったので、まずはそこを大事にしたいです。
――双子の兄・啓太さんとは、実業団からチームが分かれましたが、悠太選手にとって、啓太選手の存在とは?
設楽 今でも、目標とする選手です。タイムで見たら僕のほうが上なのかなというのはありますが、あいつを超えたつもりはないですね。もし、啓太が1つ違いの兄だったら、ここまで競技を続けていないですね。たぶん、5年前に日本記録を出したところで辞めています。やはり双子だからこそ、ここまで長く競技を続けられているので、存在自体がモチベーションだと思います。
――今、一番自分に期待していることは?
設楽 ニューイヤー駅伝での区間賞ですかね。任された区間で結果を残せるように、しっかりと準備します。あとは、過去の自分の記録はを塗り替えたいと思っています。自分の中で限界を作りたくない。まだまだやれると思っていますし、常にいいイメージを持ちながら練習していきます。
――西鉄・設楽悠太の見どころは?
設楽 いつも通り、自分らしさは出していきたいですね。
――自分らしさとは?
設楽 自由ですね(笑)。縛られるのは好きじゃないので、伸び伸びやっていきます。
◎したら・ゆうた/1991年12月18日生まれ。男衾中(埼玉)→武蔵越生高(埼玉)→東洋大学出身。双子の兄・設楽啓太(現・日立物流)とともに活躍し、東洋大時代には箱根駅伝に4年連続出走し、2年時に7区区間新記録で区間賞、3・4年時は3区区間賞を獲得した。10000mでは27分台(27分54秒82)に突入。2014年にHondaに入社後はトラックで世界へ。15年北京世界選手権、16年リオ五輪にいずれも10000mで出場した。17年にマラソンに挑戦すると、18年の東京で日本記録を16年ぶりに更新する2時間6分11秒をマークした。2023年3月にHondaを退社し、7月に西鉄に入社。
文・写真/田端慶子

西鉄でも「目標に向かってトライ&エラーを繰り返すだけ」
――埼玉で生まれ育ち、大学(東洋大)、実業団(Honda)でも活動拠点は埼玉。地元を離れ、縁もゆかりもない九州の実業団チームに移籍しようと思ったのはなぜですか? 設楽 「駅伝で結果を残したい」というのが、陸上選手である上で、一番優先したい目標です。複数のチームから声をかけていただきましたが、西鉄陸上部から真っ先に「駅伝で力を貸してほしい」という言葉をかけていただき、決断しました。全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)でチーム最高順位に入るという明確な目標があるので、そこに貢献できればと思っています。 ――西鉄での練習拠点は? 設楽 社の所属は、東京に拠点がある国際物流事業本部ですが、1年の半分以上は合宿だったり、福岡での練習だったりで、チームと一緒に過ごす予定です。時期によっては東京にいることもありますが、環境を変えることも自分が強くなるためのポイントだと思っていたので、そこも受け入れています。 ――7月には西鉄陸上部の合宿に初参加しました。設楽選手以外は、全員が九州出身というチームの印象は? 設楽 年齢も一番上なので、受け入れてもらえるのかなという不安がありました。それでも一緒に過ごしていくうちに、ずっと一緒にやっていたチームメイトのように接してくれて、練習後も一緒にゲームをするなど、楽しく過ごせました。名前も覚えたので、少しずつ不安が解消されていっている感じです。これからですね。 ――設楽選手と練習することで、チームメイトに及ぼす影響も計り知れないと思います。練習を結果につなげる秘訣を伝えるとしたら? 設楽 僕は、たくさん失敗してきました。周りからも笑われたり、バカにされたりしてきましたけど、たくさん失敗をしたから強くなれたと思っています。今回ダメでも、次に頑張ればいい、と常に気持ちを切り替えてきました。 実際に、うまく走れなかったレースがあっても、悪かった点を考えることはありません。考える時間があったら走ったほうがいいし、走っている時に感覚として「何が悪かったのか」に気がつくことができるんです。結局は、走りながら考えていくしかないと思います。みんな、しっかりと自分の目標を立てているので、それに向かってトライ&エラーを繰り返していくだけだと思います一番「自分は陸上選手」と感じられるのが駅伝
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