2023.08.30
山に囲まれた環境で幼少期を過ごす

2019年沖縄インターハイでは3000mSCで決勝に進んだ山本唯翔(左)
新潟県十日町市生まれ。日本有数の豪雪地帯だ。特に山本の育った松代地区は標高150m~600mの丘陵地帯に集落が点在する。里山の原風景「棚田」が数多く残る地域として知られている。小学生の頃から起伏のある山道を走ることが大好きだった。校内マラソンでも1位をとった。雪の時期はクロスカントリースキーを小学校6年間続け、自然と起伏にタフな体力を身につけていった。
正月は箱根駅伝を見るのが小さい時から好きだった。「親せきで必ず集まって見ていました。当時は同じ十日町出身の服部勇馬さん(東洋大→トヨタ自動車)が走っていて、すごくかっこいいなと思いました。東洋大の柏原竜二さんも印象に残っています」。山本は駅伝への憧れを抱いていく。
松代中時代の3000m自己記録は9分13秒13。「学校の200m土トラックや、周辺の起伏のある山道を毎日走っていました。雪の時期は体育館の中を走ったり、階段で1階から4階までダッシュをしたり」。学校全体を使って走れるところを探し工夫して練習を重ねた。
実家を離れ、長距離に力を入れ始めていた胎内市の開志国際高に進む。将来箱根駅伝を走るため、強くなるために寮生活を決断した。インターハイ路線は高校2年時に3000m障害で北信越大会9位。その年の冬には学校として初の全国高校駅伝出場を決め、山本は3区を走った(区間21位)。
高校3年になると、5000mと3000m障害の2種目でのインターハイ出場を目指した。しかし、北信越の5000mはレベルが高かった。留学生2人に加え、平林清澄(福井・美方高→國學院大)、伊藤大志(長野・佐久長聖高→早大)、服部凱杏(長野・佐久長聖高→立大)、田中悠登(福井・敦賀気比高→青学大)に阻まれ、9位で全国を逃した。
傷心の5000m決勝からわずか2時間後。3000m障害の予選が控えていた。ハードなスケジュールで身も心もボロボロだったが、「ここであきらめたらいけない」と奮起。「うまく気持ちを切り替えて、全国に行きたいという気持ちを前面に出しました」。
その結果、予選通過を決めて決勝でも5位。見事全国行きを決めた。山本自身、この時のレースが一番印象深く心に刻まれている。
そんな中学・高校時代の山本を、城西大の五十嵐真悟コーチが見ていた。実は山本と同じ十日町の松代中学出身で、育った環境も性格もよく知っていた。山本は「地元が一緒というのも何かの縁」と、城西大へ進んだ。
学生世界3位の称号を手に
「山の妖精」が世界の舞台で羽ばたいた――。8月に中国・成都で開かれたワールドユニバーシティゲームズ男子10000mで、山本唯翔(城西大4年)が銅メダルを獲得した。 レース当日、日本と同じような蒸し暑い気象条件。山本はスローな展開を予測していた。櫛部静二監督からは「特にアフリカ系の選手はタイム以上に強さがあるから用心しよう」とアドバイスを受けており、「スローではあった中でも上げ下げがあるレースでした。特に5000m過ぎてからの揺さぶりで、集団も絞られていきました」と振り返る。 6000m過ぎにウガンダとトルコの選手が抜け出し、4人ほどの3位集団で山本は粘った。終盤はケニアの選手と一騎打ちに。「粘りに粘って、ケニアの選手が離れ、最後までペースを落とさず押せたことが3位につながりました」。 メダル獲得を目標に挑んだ。「陸上人生でメダルを取ったことがなかったのでうれしかった」と語る。一方、「前の2人の持ちタイムは自分より下だった。そういう選手に負けたのは悔しい。『うれしさ半分、悔しさ半分』みたいな感じです」 初めて挑む国際大会。独特の雰囲気を感じ取り、「アップを始めてから急に緊張してきました。招集所で他の選手を見て『自分より強そう』と勝手に思い込んでしまって……。気持ちの面で初めから負けていました」と反省を口にする。 一方で、「どういう状況でも冷静に対処できる選手にならないといけません。海外では必ずしも日本のレースとは一緒じゃないと実感できました」と収穫を得たことは今後の糧にするつもりだ。 フィニッシュ後には日本の国旗を背負い、上位2選手と健闘を称えあった。「日本代表として中国に行き、恥のない走りを心掛けました。メダルを獲得でき、これまで陸上をやってきて良かったなという思いもあります」。この先も競技を続けていく山本にとって、世界陸上や五輪を目指すモチベーションも生まれたようだ。山に囲まれた環境で幼少期を過ごす
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箱根駅伝5区区間新を経て、「山の妖精」が向かう先とは
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