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北口榛花が笑顔の世界一!!「やり投を選んで良かった」最終投てきで劇的逆転V パリ五輪内定第1号/世界陸上
北口榛花が笑顔の世界一!!「やり投を選んで良かった」最終投てきで劇的逆転V パリ五輪内定第1号/世界陸上

ブダペスト世界選手権で金メダルを獲得し、“世界一”の笑顔を見せた北口榛花

◇ブダペスト世界陸上(8月19日~27日/ハンガリー・ブダペスト)7日目

ブダペスト世界陸上7日目のアフタヌーンセッションが行われ、女子やり投の北口榛花(JAL)が金メダルを獲得した。前回オレゴンの銅メダルに続く連続表彰台。女子ではマラソンを除いて初の優勝で、投てき種目としては11年テグの男子ハンマー投・室伏広治以来の快挙だった。

「うれしすぎて身体が軽いんです。浮いているんじゃないかとふわふわしています」。そう言うとミックスゾーンに豪快な笑い声が響き渡った。

極限まで追い込まれた状況。フロル・デニス・ルイス・フルタド(コロンビア)が1回目に65m47の南米新のビッグスローを見せるなか、北口は3回目に63m00を投げて2位でトップ8に入った。だが、4回目に3位に順位を落とすと、6回目を前にシーズン通して競り合っているリトル・マッケンジー(豪州)が63m38を投げて2位に浮上。北口はメダル圏外の4位となった。

「やっぱりメダル(を狙う)と言っても一番がほしい。やっぱり誰にも負けたくない」

高校時代から6回目にめっぽう強かった。「自分は最終投てきに強いんだぞというところを見せたかった」。手拍子を求めると、大きな渦となって北口の背中を押す。力強く助走すると、理想とする高く、大きな軌道でやりが飛ぶ。自身の日本記録(67m04)に次ぐ自己2番目の66m73。大歓声に包まれたスタジアムが揺れた。

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ディヴィッド・シェケラック・コーチから「高く投げろ」と言われ、「高く、少し右に、というのを心掛けた」。だが、「全然覚えていない」。気がついたら「騒ぎ過ぎていた」。フルタドのやりの軌道が低いのを確認すると、再び喜びを爆発させた。

前日までは昼寝をしようにも「緊張して心臓がバクバクした」。だが、競技場に入って「知っている人の顔がたくさんあって安心したのか、緊張が解けた」と言う。

今季はダイヤモンドリーグ・シレジア大会で日本新となる67m04をマーク。これは今季世界最高だった。「ワールドリーダーとして臨んで、すごくプレッシャーもありましたし、今までの世界選手権と違うものを感じました」。

それもあってか、1回目に「右のふくらはぎがすこしつった」と明かす。試技の間に走って確認し、なんとか事なきを得たが、2回目以降はフルタドに先行されたことで「投げられるはずなのに」と力みが出た。

シェケラック・コーチは「力が入って動きが小さくなり、やりが低かった。少しずつ高さが出た」と振り返る。だが、最終投てきで圧巻の一撃。「彼女のセカンドベスト。素晴らしかった」とシェケラック・コーチは手放しで賞賛した。

「誰も見たことがない景色が見たい」「世界一になりたい」。そう思い描いてから、長い道のりだった。競泳やバドミントンに取り組み、旭川東高でやり投を始めた。最初は競泳と並行しながらだった。高1の秋にずっと続けてきた競泳への思いを断って陸上に専念。2年でインターハイを制し、3年目には18歳以下の世界ユース選手権で日本女子初の世界一に輝いた。

「世界で一番になってから、本当に自分が世界一になれると信じてやり投を選びました」

ただ、その後は茨の道だった。大学1年目は右肘を痛め、翌年にはコーチ不在に。目指しているものはあるのに、どうやってたどり着けばいいのか。『世界一』への道しるべがなかった。

それを求めて、北口は海を渡った。自らSNSで交渉してシェケラック・コーチのいるチェコへ。やり投大国に染まったが、「自分が好きで行ったのですが、やっぱり時差もあるし、友達も家族もいない。ご飯も違う。すごく寂しくなる時もあった」。それでも、「やり投で世界一になる」と夢のために、多くを犠牲にして人生を懸けた。

シェケラック・コーチの家族をはじめ、チェコにもたくさんお世話になる人が増えた。今回、隣国ということもあり、「結構、来てくれていたので、その中で金メダルを取れてうれしい」と喜ぶ。チェコのメディアからのインタビューにはチェコ語で応え、隣にいる記者からの英語には、英語で応えた。元々、語学や海外への思いは強かったが、こうした姿は、まさに日本陸連のダイヤモンドアスリートが目指してきた「国際人」そのものだった。

これでパリ五輪の代表内定第一号。次回、25年東京世界選手権のワイルドカードも手にした。

不振にあえいでいた時期。競泳も、バドミントンも、勉強の道もあきらめてやり投を選んだことが、本当に正しかったか何度も自問自答した。最初に日本記録を出した時でされ、「まだ選んで良かった、とは言えません」。この日、もう一度聞いてみた。

「やり投を選んで良かった。やっと『良かった』と思える気がします」

運命を切り開いたチェコと同じ東欧の国・ブダペストのハンガリー。この日、北口榛花は誰も見たことがない景色を見た。

◇ブダペスト世界陸上(8月19日~27日/ハンガリー・ブダペスト)7日目 ブダペスト世界陸上7日目のアフタヌーンセッションが行われ、女子やり投の北口榛花(JAL)が金メダルを獲得した。前回オレゴンの銅メダルに続く連続表彰台。女子ではマラソンを除いて初の優勝で、投てき種目としては11年テグの男子ハンマー投・室伏広治以来の快挙だった。 「うれしすぎて身体が軽いんです。浮いているんじゃないかとふわふわしています」。そう言うとミックスゾーンに豪快な笑い声が響き渡った。 極限まで追い込まれた状況。フロル・デニス・ルイス・フルタド(コロンビア)が1回目に65m47の南米新のビッグスローを見せるなか、北口は3回目に63m00を投げて2位でトップ8に入った。だが、4回目に3位に順位を落とすと、6回目を前にシーズン通して競り合っているリトル・マッケンジー(豪州)が63m38を投げて2位に浮上。北口はメダル圏外の4位となった。 「やっぱりメダル(を狙う)と言っても一番がほしい。やっぱり誰にも負けたくない」 高校時代から6回目にめっぽう強かった。「自分は最終投てきに強いんだぞというところを見せたかった」。手拍子を求めると、大きな渦となって北口の背中を押す。力強く助走すると、理想とする高く、大きな軌道でやりが飛ぶ。自身の日本記録(67m04)に次ぐ自己2番目の66m73。大歓声に包まれたスタジアムが揺れた。 ディヴィッド・シェケラック・コーチから「高く投げろ」と言われ、「高く、少し右に、というのを心掛けた」。だが、「全然覚えていない」。気がついたら「騒ぎ過ぎていた」。フルタドのやりの軌道が低いのを確認すると、再び喜びを爆発させた。 前日までは昼寝をしようにも「緊張して心臓がバクバクした」。だが、競技場に入って「知っている人の顔がたくさんあって安心したのか、緊張が解けた」と言う。 今季はダイヤモンドリーグ・シレジア大会で日本新となる67m04をマーク。これは今季世界最高だった。「ワールドリーダーとして臨んで、すごくプレッシャーもありましたし、今までの世界選手権と違うものを感じました」。 それもあってか、1回目に「右のふくらはぎがすこしつった」と明かす。試技の間に走って確認し、なんとか事なきを得たが、2回目以降はフルタドに先行されたことで「投げられるはずなのに」と力みが出た。 シェケラック・コーチは「力が入って動きが小さくなり、やりが低かった。少しずつ高さが出た」と振り返る。だが、最終投てきで圧巻の一撃。「彼女のセカンドベスト。素晴らしかった」とシェケラック・コーチは手放しで賞賛した。 「誰も見たことがない景色が見たい」「世界一になりたい」。そう思い描いてから、長い道のりだった。競泳やバドミントンに取り組み、旭川東高でやり投を始めた。最初は競泳と並行しながらだった。高1の秋にずっと続けてきた競泳への思いを断って陸上に専念。2年でインターハイを制し、3年目には18歳以下の世界ユース選手権で日本女子初の世界一に輝いた。 「世界で一番になってから、本当に自分が世界一になれると信じてやり投を選びました」 ただ、その後は茨の道だった。大学1年目は右肘を痛め、翌年にはコーチ不在に。目指しているものはあるのに、どうやってたどり着けばいいのか。『世界一』への道しるべがなかった。 それを求めて、北口は海を渡った。自らSNSで交渉してシェケラック・コーチのいるチェコへ。やり投大国に染まったが、「自分が好きで行ったのですが、やっぱり時差もあるし、友達も家族もいない。ご飯も違う。すごく寂しくなる時もあった」。それでも、「やり投で世界一になる」と夢のために、多くを犠牲にして人生を懸けた。 シェケラック・コーチの家族をはじめ、チェコにもたくさんお世話になる人が増えた。今回、隣国ということもあり、「結構、来てくれていたので、その中で金メダルを取れてうれしい」と喜ぶ。チェコのメディアからのインタビューにはチェコ語で応え、隣にいる記者からの英語には、英語で応えた。元々、語学や海外への思いは強かったが、こうした姿は、まさに日本陸連のダイヤモンドアスリートが目指してきた「国際人」そのものだった。 これでパリ五輪の代表内定第一号。次回、25年東京世界選手権のワイルドカードも手にした。 不振にあえいでいた時期。競泳も、バドミントンも、勉強の道もあきらめてやり投を選んだことが、本当に正しかったか何度も自問自答した。最初に日本記録を出した時でされ、「まだ選んで良かった、とは言えません」。この日、もう一度聞いてみた。 「やり投を選んで良かった。やっと『良かった』と思える気がします」 運命を切り開いたチェコと同じ東欧の国・ブダペストのハンガリー。この日、北口榛花は誰も見たことがない景色を見た。

【動画】最終投てきで大逆転!北口の金メダルを決める1投

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北口榛花(JAL) 
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