HOME 国内、世界陸上、日本代表
35km競歩銅メダルの川野将虎「今までの取り組み間違いではなかった」守り抜いた伝統と誇り/世界陸上
35km競歩銅メダルの川野将虎「今までの取り組み間違いではなかった」守り抜いた伝統と誇り/世界陸上

ブダペスト世界選手権男子35km競歩のメダリスト。右が銅メダルを獲得した川野将虎

◇ブダペスト世界陸上(8月19日~27日/ハンガリー・ブダペスト)6日目

ブダペスト世界陸上6日目のモーニングセッションが行われ、男子35km競歩で川野将虎(旭化成)が2時間25分12秒で銅メダルを獲得した。今大会日本勢最初のメダル。また、川野は前回オレゴンの銀メダルに続いて2大会連続でのメダルとなった。

アルバロ・マルティネス(スペイン)とブリアン・ダニエル・ピンタド(エクアドル)との三つ巴。「この集団にしっかりついて、ギリギリまでついて、絶対にメダルを獲得するんだという強い思いで歩きました」。

残り3kmを前に離され、後ろからはエヴァン・ダンフィー(カナダ)が迫るが、「スタミナには自信があったので、最後はフォームだけ意識しました」と、きっちり3位を死守した。

「苦しい道のりでした」。そう言うのも無理はない。前回のオレゴンでは金メダルまであと1秒の2位。そこから、『1秒をけずりだす』ための取り組みが始まった。

しかし、来年のパリ五輪で35km競歩が実施されないことを見据え、2月の日本選手権20km競歩に向けてスピードを強化。その反動からやや貧血気味となり、川野が目指し続けてきた伝統的な美しくなめらかなフォームが崩れてしまう。4月の日本選手権35km競歩では代表権はつかんだものの3位。「個人としては惨敗という結果に終わってしまいました」。

広告の下にコンテンツが続きます

そうした経緯から「自分の強みはやっぱりスタミナ」だと再確認。東洋大時代から師事する酒井瑞穂コーチと一から作り直してきた。貧血面は自炊していたところから母校の協力を得て寮食を取り回復。福島・猪苗代で何度か合宿を経て、状態が上向いてきた。対海外勢を意識し、体幹を含めてウエイトトレーニングで身体も強化。筋肉量も昨年から3kg増えたという。

最も成長を見せたのはレース運び。負けん気の強さが持ち味でもあるが、感情で動いてしまうレースも少なくなかった。しかし、今回は終始、冷静にレースを運ぶ。「後半に向けてしっかり自分の歩きを整えて、最後の勝負所でしっかり勝負するんだという思いでした」。途中、フランス代表が一人飛び出したが、「そこは特に考えずに、ベテランの選手たちとレースを進めました」。

こうした成長ができたのは、川野には守りたいものがあったから。競歩を始めた高校時代から、長い50km競歩で世界に出ることを目指してきた。実際に東京五輪では6位入賞。だが、それを最後に50km競歩が実施されないことが決まる。

「日本の競歩は今村(文男)部長をはじめ、長い距離で作り上げられてきた伝統があります」。35kmに移行すると、オレゴンで銀。そして、パリ五輪での未実施が決まった中でのブダペストで結果を残した。

さらに、今大会ではメダル・入賞が期待された男子20km競歩が表彰台を逃すなか、「このままでは日本の競歩は終われない。日本の競歩はこれまでたくさんメダルをつないできたので、自分がつなぐんだという気持ちがありました」と、日本競歩の強さ、誇りを示した。

スピード化や高速ピッチが主流となるなかでも、「ヨーロッパ選手のような伝統的な技術、スタミナ作り」で結果を出すこだわりもある。取り組みに迷った時期もあったが、それでも瑞穂コーチをはじめ、自分が選んだ道を信じ、貫き通した。

「瑞穂コーチをはじめ、本当に多くの方々の支えのお陰で最高の状態でスタートに立つことができました。今までの取り組みが間違いなかったということを証明できました」

パリ五輪は20km競歩で代表を狙うことになる川野。夢に描いてきた『ロング』の競歩は一区切りとなるが、これまで通り自分を信じ、支えてくれる人たちを信じ、一歩ずつ理想の歩きを追求して世界の舞台を歩いていく。

◇ブダペスト世界陸上(8月19日~27日/ハンガリー・ブダペスト)6日目 ブダペスト世界陸上6日目のモーニングセッションが行われ、男子35km競歩で川野将虎(旭化成)が2時間25分12秒で銅メダルを獲得した。今大会日本勢最初のメダル。また、川野は前回オレゴンの銀メダルに続いて2大会連続でのメダルとなった。 アルバロ・マルティネス(スペイン)とブリアン・ダニエル・ピンタド(エクアドル)との三つ巴。「この集団にしっかりついて、ギリギリまでついて、絶対にメダルを獲得するんだという強い思いで歩きました」。 残り3kmを前に離され、後ろからはエヴァン・ダンフィー(カナダ)が迫るが、「スタミナには自信があったので、最後はフォームだけ意識しました」と、きっちり3位を死守した。 「苦しい道のりでした」。そう言うのも無理はない。前回のオレゴンでは金メダルまであと1秒の2位。そこから、『1秒をけずりだす』ための取り組みが始まった。 しかし、来年のパリ五輪で35km競歩が実施されないことを見据え、2月の日本選手権20km競歩に向けてスピードを強化。その反動からやや貧血気味となり、川野が目指し続けてきた伝統的な美しくなめらかなフォームが崩れてしまう。4月の日本選手権35km競歩では代表権はつかんだものの3位。「個人としては惨敗という結果に終わってしまいました」。 そうした経緯から「自分の強みはやっぱりスタミナ」だと再確認。東洋大時代から師事する酒井瑞穂コーチと一から作り直してきた。貧血面は自炊していたところから母校の協力を得て寮食を取り回復。福島・猪苗代で何度か合宿を経て、状態が上向いてきた。対海外勢を意識し、体幹を含めてウエイトトレーニングで身体も強化。筋肉量も昨年から3kg増えたという。 最も成長を見せたのはレース運び。負けん気の強さが持ち味でもあるが、感情で動いてしまうレースも少なくなかった。しかし、今回は終始、冷静にレースを運ぶ。「後半に向けてしっかり自分の歩きを整えて、最後の勝負所でしっかり勝負するんだという思いでした」。途中、フランス代表が一人飛び出したが、「そこは特に考えずに、ベテランの選手たちとレースを進めました」。 こうした成長ができたのは、川野には守りたいものがあったから。競歩を始めた高校時代から、長い50km競歩で世界に出ることを目指してきた。実際に東京五輪では6位入賞。だが、それを最後に50km競歩が実施されないことが決まる。 「日本の競歩は今村(文男)部長をはじめ、長い距離で作り上げられてきた伝統があります」。35kmに移行すると、オレゴンで銀。そして、パリ五輪での未実施が決まった中でのブダペストで結果を残した。 さらに、今大会ではメダル・入賞が期待された男子20km競歩が表彰台を逃すなか、「このままでは日本の競歩は終われない。日本の競歩はこれまでたくさんメダルをつないできたので、自分がつなぐんだという気持ちがありました」と、日本競歩の強さ、誇りを示した。 スピード化や高速ピッチが主流となるなかでも、「ヨーロッパ選手のような伝統的な技術、スタミナ作り」で結果を出すこだわりもある。取り組みに迷った時期もあったが、それでも瑞穂コーチをはじめ、自分が選んだ道を信じ、貫き通した。 「瑞穂コーチをはじめ、本当に多くの方々の支えのお陰で最高の状態でスタートに立つことができました。今までの取り組みが間違いなかったということを証明できました」 パリ五輪は20km競歩で代表を狙うことになる川野。夢に描いてきた『ロング』の競歩は一区切りとなるが、これまで通り自分を信じ、支えてくれる人たちを信じ、一歩ずつ理想の歩きを追求して世界の舞台を歩いていく。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.26

9月に米国で開催予定だった世界ロードランニング選手権が中止

4月25日、世界陸連は今年9月に開催を予定していた世界ロードランニング選手権を中止することを発表した。 世界ロードランニング選手権は、1992年に始まった世界ハーフマラソン選手権を前身とする大会。2006年に改称し、23 […]

NEWS 【大会結果】日本学生個人選手権(2025年4月25日~27日)

2025.04.26

【大会結果】日本学生個人選手権(2025年4月25日~27日)

【大会結果】日本学生個人選手権(2025年4月25~27日/神奈川・平塚、ハンマー投のみ東海大) ●男子 100m   200m   400m   800m   1500m  前田陽向(環太平洋大4)  4分03秒64 […]

NEWS 乙津美月が女子走幅跳6m33で逆転V!! 男子110mH阿部竜希は東京世界陸上標準突破/日本学生個人

2025.04.26

乙津美月が女子走幅跳6m33で逆転V!! 男子110mH阿部竜希は東京世界陸上標準突破/日本学生個人

◇日本学生個人選手権(4月25日~27日/神奈川・レモンガススタジアム平塚)1日目 ワールドユニバーシティゲームズ代表選考会を兼ねた日本学生個人選手権が行われ、女子走幅跳は乙津美月(日女体大)が6m33(+1.6)で逆転 […]

NEWS 編集部コラム「どこよりも早い!?アジア選手権展望」

2025.04.25

編集部コラム「どこよりも早い!?アジア選手権展望」

毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]

NEWS 選考レース10000m伊藤蒼唯が強烈スパートでトップ! 「1番を取れてすごくうれしい」/日本学生個人

2025.04.25

選考レース10000m伊藤蒼唯が強烈スパートでトップ! 「1番を取れてすごくうれしい」/日本学生個人

◇日本学生個人選手権(4月25日~27日/神奈川・レモンガススタジアム平塚)1日目 日本学生個人選手権内でワールドユニバーシティゲームズ代表選考会の男子10000mが行われ、伊藤蒼唯(駒大)が28分53秒75でトップだっ […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top