◇ブダペスト世界陸上(8月19日~27日/ハンガリー・ブダペスト)3日目
ブダペスト世界陸上3日目のアフタヌーンセッションが行われ、男子110mハードルで泉谷駿介(住友電工)が日本人初ファイナルで5位入賞の快挙を成し遂げた。
フィニッシュし、スパイクを脱ぎながら国旗を掲げるメダリストたちを見つめる。泉谷は確かに、この夢舞台を駆け抜けた。
準決勝で13秒16の組1着で通過した泉谷。堂々の6レーンに入った。左に世界選手権2連覇中の絶対王者グラント・ホロウェイ(米国)。「ダイヤモンドリーグとも全然違って、みんなピリピリしていました」。そうした中でも「緊張感はなく、いつも通りできたのでメンタルは強くなったのかな」。
運命の号砲が鳴る。その瞬間、異変が起きた。「ブロックを蹴った瞬間、両脚のふくらはぎがつりました」。だが、泉谷は驚異的な運動能力で順応を見せ、「腸腰筋周りを使って、足首を固めて(接地は)タッチくらい。焦っちゃって周りを気にしていられなかったです」。そう言う表情も、楽しさであふれていた。
あとは「これ以上つらないように」走ったが、それで13秒19(±0)をマークして5位。「楽しい気持ちでいっぱいでした」。それがレース後の第一声だった。
中学時代は走高跳と四種競技、高校時代からは類い稀な身体能力で混成競技、三段跳に取り組んだ。高2のインターハイで入賞を逃し、「どうすれば強くなれるか」と心を入れ替えた。顧問から言われた「自信と過信は違う」という言葉は今も大切にしている。先生と家族の協力で食事面を改善して才能が開花。3年目には八種競技でインターハイを制した。
順大に進学してから本格的にハードルに注力。U20世界選手権銅メダル、ユニバーシアード銅メダルと国際舞台で活躍し、活況だった日本スプリントハードルの起爆剤となって、その進化のスピードを大きく加速させた。今でも「100mもやりたいし、走幅跳や三段跳にも出たい」と言う。とにかく陸上競技が大好きで、山崎一彦コーチいわく「ずっと同じ練習も飽きずにできる」。
19年のドーハ世界選手権はケガで出られず。21年東京五輪、昨年のオレゴン世界選手権と準決勝の厚い壁に跳ね返された。オレゴンのレース後は海外勢の『圧』を前に「これ以上何をすればいいのか」とこぼした。
だが、その「何か」から逃げなかった泉谷は、「経験しかない」と海外転戦を経験。今季はダイヤモンドリーグも経験し、初となったローザンヌ大会で優勝し、ロンドン大会ではホロウェイに次いで2位に入った。「海外転戦を経験して引き出しが増えた」からこそ、準決勝でトップ通過、アクシデントにも動じない強さを身につけた。
数々の歴史を塗り替えてきた泉谷。「メダルは近いようで遠い。トップ選手は本番に強い」。3本しっかりそろえた上で、「自分の走り」をした者だけがたどり着ける場所。泉谷が見つめていた先に、まさにその3人がいた。
「優勝した人たちが盛り上がっていたので、すごいな、自分も来年そこに立ちたいなって思って見ていました」
パリ五輪、そして東京世界選手権へ。泉谷の挑戦はまだ始まったばかり。
【動画】夢のファイナルを駆け抜けた泉谷駿介。男子110mH決勝をチェック!
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