2023.07.13
タイ・バンコクで開催された第25回アジア選手権の男子10000m。中盤から独走した田澤廉(トヨタ自動車)が29分18分44秒で日本勢42年ぶりの金メダルに輝き、今江勇人(GMOインターネットグループ)が29分34秒28で4位に入った。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、そのレースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
率直に、環境に苦しめられたレースだったなというのが第一印象です。
田澤選手はブダペスト世界陸上のターゲットナンバー入りをすごく意識して、今江選手とともに2分50秒ペースで行こうとしていました。しかし、思うようにペースを作れず、自分で前に出てからもシャドラック・キムタイ選手(カザフスタン)についてこられた。精神的に重圧がかかる展開だった上に、あの高湿度の条件。相当にきつかったのではないでしょうか。
独走になってからも、なかなかペースを保てませんでしたが、その中で本当に我慢したと思います。
私も2007年の大阪世界選手権で同じような環境のレースを経験していますが、暑さだけならまだ耐えられるのですが、湿度が高いと非常に難しいレースになります。
身体は通常、汗をかき、その汗が皮膚上で蒸発することで熱が奪われ、体温が下がります。しかし、湿度が高いと汗をかいても乾くことなく溜まっていき、熱が身体の内側にどんどんこもっていくことになります。
そうなるとレース中に対応するのはなかなか難しく、脱水症状や熱中症に陥ってしまう可能性があります。田澤選手も中盤から差し込み(腹痛)があったり、終盤はふらつく場面もありました。暑熱対策に関しては課題を残すレースになったかもしれません。
とはいえ、それでも1人で押し切り、金メダルをつかみ取ったことは田澤選手の強さ。もし、誰か競り合う選手がいれば、28分台には乗せられたのではないでしょうか。日本人選手ではなかなかいない長身で、エネルギー効率の非常に高いフォームは魅力。一定のペースで押していく時の強さは、非常に素晴らしいと思います。
今回、こういった経験を積んだことを生かして、これまでの日本人選手にはない世界へと突き進んでほしいですね。
ブダペスト世界陸上については、ワールドランキングを上げられず、出場枠のターゲットナンバー(27)入りは難しくなりました。アジア選手権優勝者として可能性を残してはいますが、現状ではワールドランキングでターゲットナンバー入りしているアジア人選手が1人います。「同エリア内から当該優勝者より高いワールドランキングを有する競技者のエントリーがない場合に限る」という参加資格獲得条件によって、上位選手のキャンセルがない限り、田澤選手は参加資格を得られません。
もし得られた場合は、昨年のオレゴン世界選手権の経験を生かし、自分の強みを発揮できるレースを見せてほしいと思います。ただ、世界のレースで入賞を狙うためには、戦略も必要でしょう。
これはパリ五輪に向けても課題になること。上位集団の揺さぶりに合わせてしまうと、田澤選手の良さが消えてしまいます。ペース変化に合わせられる対策を練りながらも、自分の良さを消さない。“二兎”を追うことは非常に難しいですが、それを追い求めていってほしいなと考えています。
また日本全体としても、世界のボトムアップを真摯に受け止め、国内でしのぎを削って高め合う必要があるでしょう。世界の情勢をしっかりと把握した上でのターゲットナンバー対策をしつつ、自分のパフォーマンスを上げることも目指す。両軸での強化が求められていくと思います。
今江選手については、初めての日本代表にもかかわらず、非常にクレバーな走りを見せていました。自分の限界をしっかりと見極め、中盤はインドの選手についていくことで回復を図り、最後までしっかりと身体を動かせていた。あの環境の中で、素晴らしいレースをしたのではないでしょうか。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.02.22
石井優吉がショートトラック800m1分46秒41の日本新!
2025.02.22
JMCランキング暫定1位の西山雄介がコンディション不良により欠場/大阪マラソン
2025.02.22
【男子ハンマー投】アツオビン・アンドリュウ(花園高3) 61m59=一般規格高校歴代2位
-
2025.02.22
-
2025.02.22
-
2025.02.21
-
2025.02.21
2025.02.17
日本郵政グループ女子陸上部 「駅伝日本一」へのチームづくりとコンディショニング
2025.02.16
男子は須磨学園が逆転勝ち! 女子は全国Vの長野東が強さ見せる/西脇多可高校新人駅伝
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.22
-
2025.02.16
2025.02.02
【大会結果】第77回香川丸亀国際ハーフマラソン(2025年2月2日)
2025.02.02
大迫傑は1時間1分28秒でフィニッシュ 3月2日の東京マラソンに出場予定/丸亀ハーフ
-
2025.02.14
-
2025.02.09
-
2025.02.02
-
2025.01.26
-
2025.01.31
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.02.22
石井優吉がショートトラック800m1分46秒41の日本新!
2月21日、米国ペンシルベニア州カレッジステーションでペンシルベニア州立大の学内学内競技会が同校の室内競技場(1周200m)で行われ、男子800mで石井優吉(ペンシルベニア州立大)が1分46秒41のショートラック日本記録 […]
2025.02.22
JMCランキング暫定1位の西山雄介がコンディション不良により欠場/大阪マラソン
◇大阪マラソン2025(2月24日/大阪・大阪府庁前スタート・大阪城公園フィニッシュ) 大阪マラソンの主催者は2月22日、招待選手の西山雄介(トヨタ自動車)がコンディション不良により欠場することを発表した。 西山は22年 […]
2025.02.22
【男子ハンマー投】アツオビン・アンドリュウ(花園高3) 61m59=一般規格高校歴代2位
2月22日、京都市の京産大総合グラウンド競技場で第11回京都陸協記録会が行われ、一般規格の男子ハンマー投でアツオビン・アンドリュウ(花園高3京都)が高校歴代2位となる61m59をマークした。 アツオビンは昨年のU20日本 […]
2025.02.22
円盤投・堤雄司が自己2番目の61m76でV 女子100mH青木益未は13秒04 福田翔太、郡菜々佳も優勝/WAコンチネンタルツアー
世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ブロンズラベルのインターナショナル・トラック・ミート2025が2月22日、ニュージーランドのクライストチャーチで行われ、男子円盤投で堤雄司(ALSOK群馬)が61m76のセカンドベス […]
2025.02.22
「インターハイでも勝ちたい」高校2年の栗村凌がU20男子を制す 女子は真柴愛里が貫禄/日本選手権クロカン
◇第40回U20日本選手権クロスカントリー(2月22日/福岡・海の中道海浜公園) U20日本選手権クロスカントリーが行われ、男子(8km)では栗村凌(学法石川高2福島)が23分20秒で優勝を果たした。 今年も全国から有力 […]
Latest Issue
最新号

2025年3月号 (2月14日発売)
別府大分毎日マラソン
落合 晃×久保 凛
太田智樹、葛西潤
追跡箱根駅伝&高校駅伝