HOME 特集

2023.06.02

【竹澤健介の視点】敗戦を踏まえ、“作戦通り”のレースを作った塩尻和也の強さ光る 選手層厚くなれば世界への扉開く
【竹澤健介の視点】敗戦を踏まえ、“作戦通り”のレースを作った塩尻和也の強さ光る 選手層厚くなれば世界への扉開く

23年日本選手権男子5000mに優勝した塩尻和也

雨の中で行われた第107回日本選手権の男子5000m。ハイペースで進んだレースは、残り1000mを切って抜け出した塩尻和也(富士通)が13分19秒85でこの種目初優勝、2018年の3000m障害以来2度目の日本一の座を手にした。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇

全体としてハイレベルで、日本のこの種目全体のボトムアップを感じさせるレースになったのではないでしょうか。

前半から外国人ランナーが一定のハイペースを刻み、良いリズム、良い流れを作り出しました。その中で、26歳の塩尻和也選手(富士通)は他の選手に合わせることなく、常に自分のリズムで走れていたと思います。そして、最後まで逃げ切れるという位置でスパート。まさに「レース巧者」と言える走りでした。

10000mのブダペスト世界選手権代表選考会だった5月4日のゴールデンゲームズinのべおかでも、同じようなロングスパートで制しています。一方で、5月21日のセイコーゴールデングランプリ3000mでは、ラスト勝負で遠藤日向選手(住友電工)に敗れました。

今回は、その2レースを踏まえ、しっかりと対策を練ってきたのでしょう。外国勢がペースを作る展開を想定し、ポジションも常に先頭に近いところをキープ。そして、瞬間的なスパートでは劣ることを踏まえて、残り1000mを切ってグッと加速。塩尻選手の作戦通りのレースで、それを自分自身で作っている点からも、これまでとは違った力強さを感じます。

広告の下にコンテンツが続きます

遠藤選手はセイコーゴールデングランプリと同じ展開を想定していたと思います。ただ、序盤の位置取りが中段ぐらいで、2000m過ぎに上野裕一郎選手(セントポールクラブ)が先頭に出てペースアップした時に、一度ポジションを上げる動きがありました。そこで少しエネルギーを使ってしまった部分が、ラストに響いたかもしれません。

世界では一定ペースではなく揺さぶりが入り、タイムでは測れない独特の展開となります。日本人選手はこの種目の世界大会でなかなか予選を突破をできていませんが、ペース変化に対応しながら、勝負どころの「ヨーイドン」で同じ位置にいられることがファイナルへの第一条件。それを想定したレースを作っていくことも、これから大切なことだと思います。

2年連続3位だった清水歓太選手(SUBARU)は塩尻選手と同学年。5000mは若手が活躍する場になりがちですが、中堅世代がしっかりと牽引してくれることで、勢いだけじゃない良い流れができてきたと感じます。また、勝負所での力の差はまだまだありつつも、4位になった佐藤圭汰選手(駒大)や8位の吉居大和選手(中大)ら学生の台頭が、この種目の大きな刺激を与えているのは間違いありません。

スピード強化が世界の扉を開くために必要だということは、みんながわかっていること。それは、豪華メンバーがそろったことを見てもわかります。ここに、東京五輪代表の松枝博輝選手、坂東悠汰選手(富士通)がもう1度盛り返してくれば、さらに層が厚くなって世界への距離を縮めていくことができるのではないでしょうか。

◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ)
摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00(日本人学生最高)、10000m27分45秒59。

雨の中で行われた第107回日本選手権の男子5000m。ハイペースで進んだレースは、残り1000mを切って抜け出した塩尻和也(富士通)が13分19秒85でこの種目初優勝、2018年の3000m障害以来2度目の日本一の座を手にした。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ 全体としてハイレベルで、日本のこの種目全体のボトムアップを感じさせるレースになったのではないでしょうか。 前半から外国人ランナーが一定のハイペースを刻み、良いリズム、良い流れを作り出しました。その中で、26歳の塩尻和也選手(富士通)は他の選手に合わせることなく、常に自分のリズムで走れていたと思います。そして、最後まで逃げ切れるという位置でスパート。まさに「レース巧者」と言える走りでした。 10000mのブダペスト世界選手権代表選考会だった5月4日のゴールデンゲームズinのべおかでも、同じようなロングスパートで制しています。一方で、5月21日のセイコーゴールデングランプリ3000mでは、ラスト勝負で遠藤日向選手(住友電工)に敗れました。 今回は、その2レースを踏まえ、しっかりと対策を練ってきたのでしょう。外国勢がペースを作る展開を想定し、ポジションも常に先頭に近いところをキープ。そして、瞬間的なスパートでは劣ることを踏まえて、残り1000mを切ってグッと加速。塩尻選手の作戦通りのレースで、それを自分自身で作っている点からも、これまでとは違った力強さを感じます。 遠藤選手はセイコーゴールデングランプリと同じ展開を想定していたと思います。ただ、序盤の位置取りが中段ぐらいで、2000m過ぎに上野裕一郎選手(セントポールクラブ)が先頭に出てペースアップした時に、一度ポジションを上げる動きがありました。そこで少しエネルギーを使ってしまった部分が、ラストに響いたかもしれません。 世界では一定ペースではなく揺さぶりが入り、タイムでは測れない独特の展開となります。日本人選手はこの種目の世界大会でなかなか予選を突破をできていませんが、ペース変化に対応しながら、勝負どころの「ヨーイドン」で同じ位置にいられることがファイナルへの第一条件。それを想定したレースを作っていくことも、これから大切なことだと思います。 2年連続3位だった清水歓太選手(SUBARU)は塩尻選手と同学年。5000mは若手が活躍する場になりがちですが、中堅世代がしっかりと牽引してくれることで、勢いだけじゃない良い流れができてきたと感じます。また、勝負所での力の差はまだまだありつつも、4位になった佐藤圭汰選手(駒大)や8位の吉居大和選手(中大)ら学生の台頭が、この種目の大きな刺激を与えているのは間違いありません。 スピード強化が世界の扉を開くために必要だということは、みんながわかっていること。それは、豪華メンバーがそろったことを見てもわかります。ここに、東京五輪代表の松枝博輝選手、坂東悠汰選手(富士通)がもう1度盛り返してくれば、さらに層が厚くなって世界への距離を縮めていくことができるのではないでしょうか。 ◎竹澤健介(たけざわ・けんすけ) 摂南大陸上競技部ヘッドコーチ。早大3年時の2007年に大阪世界選手権10000m、同4年時の08年北京五輪5000m、10000mに出場。箱根駅伝では2年時から3年連続区間賞を獲得した。日本選手権はエスビー食品時代の10年に10000mで優勝している。自己ベストは500m13分19秒00(日本人学生最高)、10000m27分45秒59。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.23

【世界陸上プレイバック】―95年イエテボリ―エドワーズが三段跳で世界記録の圧巻のパフォーマンス!山崎一彦が400mHで同種目初のファイナリストに

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。 これ […]

NEWS 前回9秒97wの栁田大輝に期待! 800m初戦の落合晃、前回2冠・山形愛羽、ハンマー投・村上来花らも注目/日本学生個人

2025.04.23

前回9秒97wの栁田大輝に期待! 800m初戦の落合晃、前回2冠・山形愛羽、ハンマー投・村上来花らも注目/日本学生個人

今年7月にドイツボーフムで開かれるワールドユニバーシティゲームズの代表選考会を兼ねた日本学生個人選手権は4月25日~27日、神奈川・レモンガススタジアム平塚で行われる。ユニバ代表を懸けた学生たちの熱戦を展望する。 トラッ […]

NEWS 東京世界陸上ボランティア研修がスタート!「ともに楽しんで大会を作り上げたい」

2025.04.23

東京世界陸上ボランティア研修がスタート!「ともに楽しんで大会を作り上げたい」

公益財団法人東京2025世界陸上財団は、9月に控える東京世界選手権(9月13日~21日)を支えるボランティアの研修を東京都内で4月19日からスタートした。24日までの6日間で、最初のステップとなるオリエンテーションが行わ […]

NEWS U20世界選手権女子200m銅メダルリスト・ダグラスが100m11秒26でV ケネディは投てき2冠/カリフタゲームス

2025.04.23

U20世界選手権女子200m銅メダルリスト・ダグラスが100m11秒26でV ケネディは投てき2冠/カリフタゲームス

4月19日から21日まで、トリニダード・トバゴでカリフタゲームスが行われ、U17男子砲丸投(5kg)ではK.ケネディ(ジャマイカ)が18m90で優勝した。ケネディは2009年生まれ。この大会ではU17円盤投(1.5kg) […]

NEWS 年間最優秀男子選手賞に棒高跳デュプランティスを選出! 「とても光栄」 ローレウス賞

2025.04.23

年間最優秀男子選手賞に棒高跳デュプランティスを選出! 「とても光栄」 ローレウス賞

スポーツ界において優れた功績を残した個人や団体を称える「ローレウス世界スポーツ賞」の2024年の授賞者が4月21日に発表され、3年連続で候補者に挙がっていた男子棒高跳世界記録保持者のA.デュプランティス(スウェーデン)が […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top