2023.05.30
2015年は「すべてにおいて計画的に、冷静にできた」
日本選手権には07年の初出場から18年まで12年連続で出場。欠場の19年、20年を挟んで21年(100mで予選敗退)が最後の出場となった。自身にとってうまくいった大会、逆にうまくいかなかった大会など、さまざまに振り返ってもらった。
初めて出た日本選手権は必死でしたね。肉離れをしていたこともあって、100mは8位、200mは準決勝を棄権。シニア1年目の洗礼を浴び、これじゃ戦えない、しっかりとやろうと感じました。ただ、悔しいというよりは、同い年の高橋萌木子さんが100mで優勝したことで「私も目指せるんだ」と、素直にそう思えた大会でもあります。
一番良い流れだったのは、15年でしょうか。16年の北京五輪を見据え、14年のアジア大会までに作り上げたものにある程度手応えを感じていたので、15年に向けてはやることが絞られてきたタイミングでした。16年へ、手応えを得たいシーズン。その過程の中で、日本選手権を含め、すべてにおいて計画的に、冷静に、一つひとつを能動的に積み重ねることができました。
それが16年の200m決勝の日本新(22秒88)にもつながってくるのですが、この年は100mがあまり良くなかったので、「終わり良ければすべて良し」ではありますが、すべてが完璧だったとは言えません。

16年日本選手権の福島千里。史上最多に並ぶ6年連続2冠を日本新で飾る会心のレースだった
失敗したな、と思うのは2013年です。あの時はモスクワ世界選手権の参加標準記録を持っていなくて、100mも200mも常に全力で臨むつもりでした。でも、100mの予選でスタートを失敗してしまい、スーッと走るだけのレースになったんです。それなのに11秒38が出て、参加B標準(11秒36)にあと0.02秒。「抜かなければ良かった」と後悔したことがあります。決勝は11秒41どまり。「やってしまった」と思いましたね(苦笑)。
2021年が最後の日本選手権になりましたが、「最後かな」と思いつつも、それよりも「速く走らないと」という気持ちで臨みました。アキレス腱の痛みはありましたが、「痛いか、痛くないか」ではなく、常に「速く走れるかどうか」「勝つか負けるか」を目指して最善を尽くしていました。
「ここまでやったらアキレス腱は爆発するけど、ここまでだったら大丈夫」というコントロールが難しかったですが、私の気持ちは「終わったら足が痛くなってもいいから、速く走りたい」。そうじゃなかったら、もっと前に辞めていたのではないかと思います。
(つづく)
◎ふくしま・ちさと/1988年6月27日生まれ、北海道出身。糠内中→帯広南商高→北海道ハイテクAC→札幌陸協→セイコー。五輪には2008年北京、12年ロンドン、16年リオの3大会連続、世界選手権は09年ベルリン、11年テグ、13年モスクワ、15年北京の4大会連続で出場。10年アジア大会100m、200m2冠など女子スプリントを世界水準に引き上げた。自己ベストの100m11秒21(10年)、200m22秒88(16年)はともに日本記録。
構成/小川雅生
※一部事実関係に誤りがあり、修正しました。
「世界で戦う目標に向けての日本選手権」という位置づけ
日本選手権には100mは2008年、200mは09年に初優勝。その後、100mは2年ぶりに制した10年から16年まで7連覇、200mは11年から6連覇を達成し、6年連続の「スプリント2冠」の偉業を成し遂げた。これは、1998年~2003年の新井初佳に並ぶ史上最多の偉業である。福島さんいとっての「日本選手権」とは、どんなものだったのか――。 私にとって日本選手権は、オリンピック、世界選手権など世界大会の代表選考会という位置づけのほうが常に大きかったです。日本一を目指すというよりも、世界大会の選考会という考え方です。世界で戦うことを見据えた時に、日本選手権は私にとって「1番になればいい」という大会ではなかったからです。 シーズンの組み立て方としては、春のグランプリシリーズ、日本選手権、世界大会と3つのピークを作るイメージで臨んでいました。その中間にある日本選手権は、前半シーズンのまとめとして、夏の世界大会に向けての手応えをつかんでおきたいという大会。春先の課題を克服して日本選手権に臨み、そこで手応えをつかんで世界大会への準備に向かう、という流れを作るために、日本選手権では常にベストを狙う心づもりでやっていました。 だから、日本選手権のレース中に心掛けていたことは、100mも200mも、予選からあまり力を抜かないことです。失敗したと思うレースはもちろんありましたが、中途半端なレースはしないと決めていました。トップスピードを1度出しておくことで、その後のレースでも出しやすくなるという感覚があったことも確かです。ただ、世界で戦うという目標に向けて、ここで(力を)抜いている場合じゃない、抜ける立場じゃないという思いのほうが強かったです。 予選からしっかりといくことに関して、怖さは全然なかったですね。2種目出場と、そのラウンドを重ねることを前提に練習してきていますし、100m決勝の前に200m予選があっても勝てる準備をして臨んでいましたから。 メンタル的にも、大会への気持ちの持って行き方に苦労したことはあまりありません。もともと、気持ちで身体を引っ張っていくタイプじゃないんです。目の前のやるべきことを一つひとつ、1日1日を積み重ねていく中で、身体の調子が整ってくることで気持ちも盛り上がってくるというタイプでした。2015年は「すべてにおいて計画的に、冷静にできた」
日本選手権には07年の初出場から18年まで12年連続で出場。欠場の19年、20年を挟んで21年(100mで予選敗退)が最後の出場となった。自身にとってうまくいった大会、逆にうまくいかなかった大会など、さまざまに振り返ってもらった。 初めて出た日本選手権は必死でしたね。肉離れをしていたこともあって、100mは8位、200mは準決勝を棄権。シニア1年目の洗礼を浴び、これじゃ戦えない、しっかりとやろうと感じました。ただ、悔しいというよりは、同い年の高橋萌木子さんが100mで優勝したことで「私も目指せるんだ」と、素直にそう思えた大会でもあります。 一番良い流れだったのは、15年でしょうか。16年の北京五輪を見据え、14年のアジア大会までに作り上げたものにある程度手応えを感じていたので、15年に向けてはやることが絞られてきたタイミングでした。16年へ、手応えを得たいシーズン。その過程の中で、日本選手権を含め、すべてにおいて計画的に、冷静に、一つひとつを能動的に積み重ねることができました。 それが16年の200m決勝の日本新(22秒88)にもつながってくるのですが、この年は100mがあまり良くなかったので、「終わり良ければすべて良し」ではありますが、すべてが完璧だったとは言えません。 [caption id="attachment_103324" align="alignnone" width="800"]
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