2020.08.13
【五輪の系譜】高橋尚子×野口みずき
金メダルを取れた最大の要因は
「今日」を大事に!
2020年東京五輪の開催が決まってから、「月刊陸上競技」の誌上対談として何度も企画に挙がっていた女子マラソンの五輪金メダル2人の顔合わせが、このほどやっと実現した。2000年シドニー大会の高橋尚子さん(当時・積水化学)と、04年アテネ大会の野口みずきさん(当時・グローバリー)。日本の陸上史上、オリンピックで金メダルを獲得した女子選手は、現段階で2人しかいない。1年延期された東京五輪で、その系譜をつなぐ選手が現れることを切に願って、6歳違いの〝姉妹〟のような金メダリスト2人の口調は、圧倒されるほどに熱を帯びていった。
●構成/小森貞子 撮影/樋口俊秀
お互いの五輪レースをどう観たか
── 早速ですが、野口さんはシドニー五輪の高橋さんの走りを観て、マラソン挑戦を決意したそうですね。
野口 はい。たぶん長野県の菅平だったと思いますが、合宿中だったんですよ。高橋さんが優勝して「ワーッ」という歓声を独り占めしているのを観て、「格好いいなぁ。私もあれを味わいたい」と思いました。私は1999年に初めてハーフを走ったばかりで、フルマラソンはまだやったことがなかったんですけど、スイッチが入りました。ハーフでも苦しいのですから、その倍のフルは絶対にきついと想像できます。でも、あれだけ気持ち良いシーンが待っているのなら、その世界に飛び込みたいと思いましたね。
──実際、高橋さんはフィニッシュした後「楽しい42.195㎞でした」と笑顔でコメントしています。
高橋 練習のほうがはるかにきつかったので、レースは楽だったんですよ。きつかったのは最後の2.195㎞ぐらいかな。普通の人にとって42㎞は長い距離ですけど、私たちにすれば練習のきつさとそれまで走ってきた距離を考えたら、レースの42㎞なんてあっという間の出来事。逆に、今までチームで「がんばろうね」と励まし合ってやってきた充実した日々が終わっちゃう、半分寂しいような気持ちすらあったんです。半分はホッとした気持ちですけどね。
野口 シドニーの高橋さんの言葉は、98年のアジア大会(バンコク)の走りがあったからこそですよね。高温多湿の中で、最初から16分台(5㎞ごと)で行って、独走の金メダル(2時間21分47秒=当時アジア最高)。あの走りができる人は高橋さんしかいないと思います。
高橋 そう言ってくれるみずきちゃんとは、マラソンは1度も対戦してないんだよね。ハーフが1回かな。歳が6つ離れてるので、どちらかと言うと妹みたいな存在ですね。私自身はアテネ五輪の代表になれなかったんですけど、夏までには気持ちを切り替えていて、みずきちゃんのレースは合宿先のボルダー(米国)で観ていました。小出(義雄)監督や選手、関係者、7人ぐらいいましたかね。
野口 楽しそうですね。
高橋 そうなの。30㎞ぐらいからはもう一人旅になっていたから、シャンパンを用意して、フィニッシュした瞬間に、みんなで「乾杯」って言いながら騒いだのを覚えています(笑)。有森裕子さんがバルセロナ、アトランタと2大会連続でメダルを取られて、私がシドニーで取って、そのタスキを日本の選手が次につないでくれたのがすごくうれしくて、みんなで「良かった、良かった」と。アテネ五輪は3人とも入賞したんだよね。結果が良ければ、みんながつらい思いをしなくて済むじゃないですか。
そういう意味で心配だったのが、次の北京五輪(2008年)。みずきちゃんが代表入りしながらケガで出られなくなって、つらい思いをしているんじゃないか、精神的に落ち込んでいるんじゃないかと、米国にいてすごく気になっていたんです。私がメールしていいのか1日ぐらい悩んだ挙げ句、それ以前にメール交換をしていたので、「何かあったら逃げ場所になるからこっちにおいでよ」とメールを送ったら、「送信できません」と返ってきて、すごいショックで……(笑)。
野口 すみません。すごく気遣ってくれていた、というのがわかったのが、それから数年後でした(笑)。
高橋 その後、みずきちゃんがスイス・サンモリッツでやっていた高地トレーニングを、ボルダーでもやるようになって、お近づきになれました。
野口 2016年の最後のレース前は千葉のほうで合宿して、千葉に住んでいる高橋さんに悩みを聞いてもらいましたね。「姉さん……」みたいな感じで泣きながら(笑)。
この続きは2020年8月12日発売の『月刊陸上競技9月号』をご覧ください。
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【五輪の系譜】高橋尚子×野口みずき
金メダルを取れた最大の要因は 「今日」を大事に!

お互いの五輪レースをどう観たか
── 早速ですが、野口さんはシドニー五輪の高橋さんの走りを観て、マラソン挑戦を決意したそうですね。 野口 はい。たぶん長野県の菅平だったと思いますが、合宿中だったんですよ。高橋さんが優勝して「ワーッ」という歓声を独り占めしているのを観て、「格好いいなぁ。私もあれを味わいたい」と思いました。私は1999年に初めてハーフを走ったばかりで、フルマラソンはまだやったことがなかったんですけど、スイッチが入りました。ハーフでも苦しいのですから、その倍のフルは絶対にきついと想像できます。でも、あれだけ気持ち良いシーンが待っているのなら、その世界に飛び込みたいと思いましたね。 ──実際、高橋さんはフィニッシュした後「楽しい42.195㎞でした」と笑顔でコメントしています。 高橋 練習のほうがはるかにきつかったので、レースは楽だったんですよ。きつかったのは最後の2.195㎞ぐらいかな。普通の人にとって42㎞は長い距離ですけど、私たちにすれば練習のきつさとそれまで走ってきた距離を考えたら、レースの42㎞なんてあっという間の出来事。逆に、今までチームで「がんばろうね」と励まし合ってやってきた充実した日々が終わっちゃう、半分寂しいような気持ちすらあったんです。半分はホッとした気持ちですけどね。 野口 シドニーの高橋さんの言葉は、98年のアジア大会(バンコク)の走りがあったからこそですよね。高温多湿の中で、最初から16分台(5㎞ごと)で行って、独走の金メダル(2時間21分47秒=当時アジア最高)。あの走りができる人は高橋さんしかいないと思います。 高橋 そう言ってくれるみずきちゃんとは、マラソンは1度も対戦してないんだよね。ハーフが1回かな。歳が6つ離れてるので、どちらかと言うと妹みたいな存在ですね。私自身はアテネ五輪の代表になれなかったんですけど、夏までには気持ちを切り替えていて、みずきちゃんのレースは合宿先のボルダー(米国)で観ていました。小出(義雄)監督や選手、関係者、7人ぐらいいましたかね。 野口 楽しそうですね。 高橋 そうなの。30㎞ぐらいからはもう一人旅になっていたから、シャンパンを用意して、フィニッシュした瞬間に、みんなで「乾杯」って言いながら騒いだのを覚えています(笑)。有森裕子さんがバルセロナ、アトランタと2大会連続でメダルを取られて、私がシドニーで取って、そのタスキを日本の選手が次につないでくれたのがすごくうれしくて、みんなで「良かった、良かった」と。アテネ五輪は3人とも入賞したんだよね。結果が良ければ、みんながつらい思いをしなくて済むじゃないですか。 そういう意味で心配だったのが、次の北京五輪(2008年)。みずきちゃんが代表入りしながらケガで出られなくなって、つらい思いをしているんじゃないか、精神的に落ち込んでいるんじゃないかと、米国にいてすごく気になっていたんです。私がメールしていいのか1日ぐらい悩んだ挙げ句、それ以前にメール交換をしていたので、「何かあったら逃げ場所になるからこっちにおいでよ」とメールを送ったら、「送信できません」と返ってきて、すごいショックで……(笑)。 野口 すみません。すごく気遣ってくれていた、というのがわかったのが、それから数年後でした(笑)。 高橋 その後、みずきちゃんがスイス・サンモリッツでやっていた高地トレーニングを、ボルダーでもやるようになって、お近づきになれました。 野口 2016年の最後のレース前は千葉のほうで合宿して、千葉に住んでいる高橋さんに悩みを聞いてもらいましたね。「姉さん……」みたいな感じで泣きながら(笑)。 この続きは2020年8月12日発売の『月刊陸上競技9月号』をご覧ください。
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