2020.06.15
【学生駅伝ストーリー】
77歳の“新指揮官”青葉監督が目指す名門・日大「箱根シード権への道」
正月の箱根駅伝に出場するため、シード校を保持する10校以外は10月の予選会を通過しなければならない。
かつて昭和の時代に4連覇(1935~38年)を達成するなど黄金期を謳歌した日大もその1つだ。
チームは6月1日に新監督を迎えて新体制がスタート。いまだ活動が制限されている状況下、いかにして秋の駅伝シーズンに向かおうとしているのか。
大東大を率いた名指揮官が就任
箱根駅伝で12回の総合優勝を誇る名門・日大が苦しんでいる。2012年、18年は予選会落選も経験し、今年1月の大会では20校中18位。2014年の7位を最後にシード権からも遠ざかっている。
この現状に、昨年の日本インカレ3000m障害を制した主将の川上瑠美梨(4年)は、「10000mの平均タイムを見ても、力はあるはずなのに試合で結果が出ない。何でだろう、というもどかしい時期が続いています」と心情を吐露する。
そんななか、チームは6月1日付けで特別長距離部門監督に前関東学連会長でOBの青葉昌幸氏が就任したことを発表した。
この時期での監督交代はさることながら、驚くべきは77歳という年齢だ。近年では2019年の箱根駅伝まで拓大の指揮官を務めた岡田正裕氏(当時73歳)が高齢監督として知られているが、青葉氏はさらにその上を行く。もともと2018年度よりコーチとして日大スタッフに加わっていたが、実質的には武者由幸前監督の“アドバイザー”という立ち位置だった。
「5月18日に大学へ呼ばれ、この話を聞いた時は驚きました。ただ、やるからには箱根駅伝のシード校へと返り咲き、1年でも早く次の監督へバトンタッチしたいです」(青葉監督)
青葉監督は秩父農工高(現・秩父農工科学高)時代に1500mでインターハイ出場経験を持ち、日大時代は中距離種目を中心に活躍した。日本選手権では東京五輪イヤー(1964年)だった3年時に3000m障害を制し、その翌年には1500mも優勝。ブダペストで開催されたユニバーシアードで1500m6位、岐阜国体では800mで当時の学生記録(1分49秒7)を樹立している。
大学卒業後は埼玉県庁を経て、25歳だった1968年に大東大監督へ就任。当時は新興校だったチームを数年で強豪校へと押し上げ、学生三大駅伝では出雲1回、全日本7回、箱根4回の計12度も優勝に導いた。90年度には駅伝3冠も達成し、アトランタ五輪男子マラソン代表の実井謙二郎など多数の長距離ランナーを育成している。
6月までは全体練習を自粛
チームは新型コロナウイルス感染症拡大の影響でしばらく全体練習を自粛しており、春以降は半分ほどの選手が実家に帰省していた。それでも、名伯楽を迎えた6月1日には選手全員が寮に戻ってきており、いよいよ本格的に“青葉体制”がスタートしつつある。
主将の川上は急な監督交代の発表に「選手も驚きました」と本音を口にしながら、「大御所ですので最初は『話しかけづらいかなと思ったのですが、練習の意図を細かく説明してくださるなど、頻繁にコミュニケーションを図りながら練習を進めています」と現状を説明する。
「6月中は自主練習が中心となりますが、学生には『責任を持ってやりなさい』と伝えています」と青葉監督。近年、箱根駅伝など大舞台で結果を残せていないことに関しては、「合宿などを見ていても、スピード持久力は全体的に高いと思っています。10000mの自己記録平均は他大学と比較しても見劣りしていませんから。ただ、その能力を試合で生かし切れていない。ケガで練習を継続できていない選手が多いので、まずは脚筋力の基礎・基本を徹底的に強化していきたい」とチームの再建に意欲を示す。
チームには2年前のインターハイ1500mで日本人トップの2位を占めた樋口翔太(2年)や、岡山・倉敷高のエースとして全国高校駅伝優勝の実績を誇る八木志樹(2年)など、高校時代に活躍した選手は少なくない。加えて、10000m28分44秒31を持つ駅伝主将の横山徹、川上の4年生コンビと留学生のチャールズ・ドゥング(2年)がチームを牽引する立場として君臨。これら戦力を新指揮官がどう育成していくのか。手腕の見せ所だ。
今後の試合日程は白紙だが、チームとしては10月に予定されている箱根駅伝予選会のトップ通過、全日本大学駅伝と箱根駅伝のシード権獲得を目指している。
「まだ日程は決まっていませんが、夏合宿も短いスパンで実施する予定です。チームとして掲げた目標を達成するために、チーム一丸となってがんばっていきたいです」(川上主将)
77歳の新指揮官を迎えた日大の新たな船出に注目だ。
文/松永貴允
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箱根駅伝で12回の総合優勝を誇る名門・日大が苦しんでいる。2012年、18年は予選会落選も経験し、今年1月の大会では20校中18位。2014年の7位を最後にシード権からも遠ざかっている。 この現状に、昨年の日本インカレ3000m障害を制した主将の川上瑠美梨(4年)は、「10000mの平均タイムを見ても、力はあるはずなのに試合で結果が出ない。何でだろう、というもどかしい時期が続いています」と心情を吐露する。 そんななか、チームは6月1日付けで特別長距離部門監督に前関東学連会長でOBの青葉昌幸氏が就任したことを発表した。 この時期での監督交代はさることながら、驚くべきは77歳という年齢だ。近年では2019年の箱根駅伝まで拓大の指揮官を務めた岡田正裕氏(当時73歳)が高齢監督として知られているが、青葉氏はさらにその上を行く。もともと2018年度よりコーチとして日大スタッフに加わっていたが、実質的には武者由幸前監督の“アドバイザー”という立ち位置だった。 「5月18日に大学へ呼ばれ、この話を聞いた時は驚きました。ただ、やるからには箱根駅伝のシード校へと返り咲き、1年でも早く次の監督へバトンタッチしたいです」(青葉監督) 青葉監督は秩父農工高(現・秩父農工科学高)時代に1500mでインターハイ出場経験を持ち、日大時代は中距離種目を中心に活躍した。日本選手権では東京五輪イヤー(1964年)だった3年時に3000m障害を制し、その翌年には1500mも優勝。ブダペストで開催されたユニバーシアードで1500m6位、岐阜国体では800mで当時の学生記録(1分49秒7)を樹立している。 大学卒業後は埼玉県庁を経て、25歳だった1968年に大東大監督へ就任。当時は新興校だったチームを数年で強豪校へと押し上げ、学生三大駅伝では出雲1回、全日本7回、箱根4回の計12度も優勝に導いた。90年度には駅伝3冠も達成し、アトランタ五輪男子マラソン代表の実井謙二郎など多数の長距離ランナーを育成している。6月までは全体練習を自粛
チームは新型コロナウイルス感染症拡大の影響でしばらく全体練習を自粛しており、春以降は半分ほどの選手が実家に帰省していた。それでも、名伯楽を迎えた6月1日には選手全員が寮に戻ってきており、いよいよ本格的に“青葉体制”がスタートしつつある。 主将の川上は急な監督交代の発表に「選手も驚きました」と本音を口にしながら、「大御所ですので最初は『話しかけづらいかなと思ったのですが、練習の意図を細かく説明してくださるなど、頻繁にコミュニケーションを図りながら練習を進めています」と現状を説明する。 「6月中は自主練習が中心となりますが、学生には『責任を持ってやりなさい』と伝えています」と青葉監督。近年、箱根駅伝など大舞台で結果を残せていないことに関しては、「合宿などを見ていても、スピード持久力は全体的に高いと思っています。10000mの自己記録平均は他大学と比較しても見劣りしていませんから。ただ、その能力を試合で生かし切れていない。ケガで練習を継続できていない選手が多いので、まずは脚筋力の基礎・基本を徹底的に強化していきたい」とチームの再建に意欲を示す。 チームには2年前のインターハイ1500mで日本人トップの2位を占めた樋口翔太(2年)や、岡山・倉敷高のエースとして全国高校駅伝優勝の実績を誇る八木志樹(2年)など、高校時代に活躍した選手は少なくない。加えて、10000m28分44秒31を持つ駅伝主将の横山徹、川上の4年生コンビと留学生のチャールズ・ドゥング(2年)がチームを牽引する立場として君臨。これら戦力を新指揮官がどう育成していくのか。手腕の見せ所だ。 今後の試合日程は白紙だが、チームとしては10月に予定されている箱根駅伝予選会のトップ通過、全日本大学駅伝と箱根駅伝のシード権獲得を目指している。 「まだ日程は決まっていませんが、夏合宿も短いスパンで実施する予定です。チームとして掲げた目標を達成するために、チーム一丸となってがんばっていきたいです」(川上主将) 77歳の新指揮官を迎えた日大の新たな船出に注目だ。 文/松永貴允 <関連記事> 【追跡 箱根駅伝】青学大・原晋監督が振り返る 「箱根王座」奪還に挑んだ1年間『月刊陸上競技』2020年3月号誌面転載記事 【学生駅伝ストーリー】東海大黄金世代、それぞれの4年間(1)館澤亨次 頼れる主将 【学生駅伝ストーリー】“高校最速”から学生長距離界のトップへ。お互いをライバルと認め合う早大・中谷雄飛と駒大・田澤廉 【学生駅伝ストーリー】「パリ五輪ではマラソンで勝負」東京国際大・伊藤達彦が4年間で急成長できた理由 【学生駅伝ストーリー】相澤晃を育てた「ガクセキ・メソッド」と東洋大での4年間
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