2022.12.21
箱根駅伝Stories
新春の風物詩・箱根駅伝に挑む選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。12月19日から区間エントリーが発表される29日まで、全校の特集記事を掲載していく。
出雲駅伝、全日本大学駅伝と、ともに2位と好成績をあげた國學院大。その立役者となったのが両駅伝でアンカーを務めた伊地知賢造(3年)だ。1年時から主力として活躍し、前回大会ではエースが集う“花の2区”を走った。前田康弘監督からの信頼も厚い3年生は、3度目の箱根路でどのような走りを見せるつもりなのか。
じっくり走り込んだ高校時代
「中学時代は青学大がずっと箱根駅伝で勝っていたんです。いつか青学大の陸上部に入りたいと思っていて、中学の卒業式で『青学で箱根駅伝に出ます』みたいなことを言っていました」
國學院大の主力として“4本柱”の1人に数えられる伊地知賢造(3年)が、中学生だった3年間、箱根駅伝で勝ち続けていたのが青山学院大だった。その絶対王者に、陸上少年が憧れたのは、当然のことだっただろう。
あれから6年もの月日が流れ、箱根駅伝の舞台で、かつて憧れていたチームに挑む。中学生だった当時は、将来がこんなことになるとは思いもしなかったに違いない。
伊地知が本格的に陸上を始めたのは中学1年生の時。小4から中1までを大阪で過ごした伊地知少年にとって、小6の時に出場した駅伝大会は楽しい思い出として残った。
だが、走る楽しさを覚えた一方で、数秒差で区間賞を逃した悔しさも忘れられなかった。そういった経験や、2歳上の兄が在籍していたこともあって、中学に入学すると迷うことなく陸上競技部に入った。
当初は「市の大会でもまったく勝てなかった」という。中2の時に、大阪から生まれ故郷の埼玉に戻ってからも陸上を続けたが、腰椎分離症になり、選手生命の危機に直面したこともあった。
だが、歩くところから再開し、補強運動で身体作りをしていくと、中学3年の時には全国大会に出場するまでに成長した。
当然、私立の強豪高校から勧誘を受けたが、腰椎分離症の経験があったので二の足を踏んだ。「強豪で揉まれるよりも、公立高校で自分のペースででき、かつ、しっかり競技をできる環境を探していた」と、かつて早大時代に箱根駅伝で2度の区間賞経験のある小林正幹や、10000m27分台ランナーの小山直城(Honda)らを輩出した公立の松山高に進学した。
高校時代の5000mの自己ベストは14分43秒97。高3時の全国高校ランキングでは100傑(14分18秒85)にも大きく届かない。「ケガもありましたが、結果的にそこまでしか行けなかったということだと思います。でも、自分はスピードを追い求めるというよりも、長い距離をじっくりと走るというタイプで、松山高校はそういう練習が多かった。環境はすごく自分に合っていたと思います」
松山高での3年間は、現在の伊地知のスタイルを形成する大事な期間になった。
次のページ 國學院大へは“逆指名”で入学
じっくり走り込んだ高校時代
「中学時代は青学大がずっと箱根駅伝で勝っていたんです。いつか青学大の陸上部に入りたいと思っていて、中学の卒業式で『青学で箱根駅伝に出ます』みたいなことを言っていました」 國學院大の主力として“4本柱”の1人に数えられる伊地知賢造(3年)が、中学生だった3年間、箱根駅伝で勝ち続けていたのが青山学院大だった。その絶対王者に、陸上少年が憧れたのは、当然のことだっただろう。 あれから6年もの月日が流れ、箱根駅伝の舞台で、かつて憧れていたチームに挑む。中学生だった当時は、将来がこんなことになるとは思いもしなかったに違いない。 伊地知が本格的に陸上を始めたのは中学1年生の時。小4から中1までを大阪で過ごした伊地知少年にとって、小6の時に出場した駅伝大会は楽しい思い出として残った。 だが、走る楽しさを覚えた一方で、数秒差で区間賞を逃した悔しさも忘れられなかった。そういった経験や、2歳上の兄が在籍していたこともあって、中学に入学すると迷うことなく陸上競技部に入った。 当初は「市の大会でもまったく勝てなかった」という。中2の時に、大阪から生まれ故郷の埼玉に戻ってからも陸上を続けたが、腰椎分離症になり、選手生命の危機に直面したこともあった。 だが、歩くところから再開し、補強運動で身体作りをしていくと、中学3年の時には全国大会に出場するまでに成長した。 当然、私立の強豪高校から勧誘を受けたが、腰椎分離症の経験があったので二の足を踏んだ。「強豪で揉まれるよりも、公立高校で自分のペースででき、かつ、しっかり競技をできる環境を探していた」と、かつて早大時代に箱根駅伝で2度の区間賞経験のある小林正幹や、10000m27分台ランナーの小山直城(Honda)らを輩出した公立の松山高に進学した。 高校時代の5000mの自己ベストは14分43秒97。高3時の全国高校ランキングでは100傑(14分18秒85)にも大きく届かない。「ケガもありましたが、結果的にそこまでしか行けなかったということだと思います。でも、自分はスピードを追い求めるというよりも、長い距離をじっくりと走るというタイプで、松山高校はそういう練習が多かった。環境はすごく自分に合っていたと思います」 松山高での3年間は、現在の伊地知のスタイルを形成する大事な期間になった。 次のページ 國學院大へは“逆指名”で入学國學院大へは“逆指名”で入学
高校1年生の時に見た箱根駅伝で、國學院大の1区を任された浦野雄平(現・富士通)が区間2位と好発進したのが印象に残った。 また、浦野や土方英和(現・旭化成)のように、高校時代に大きな実績がなくても、大学では第一線で活躍する國學院大の選手たちの姿を見て、いつしか國學院大を志すようになっていた。 「伸びしろのある学校に行きたかったし、國學院なら自分も何か変われるんじゃないかと思ったんです」 [caption id="attachment_71022" align="alignnone" width="1800"] 高校2年時の関東高校駅伝では1区を走った[/caption] 高校の顧問の先生を通じて前田康弘監督に連絡をとり、國學院大の練習に参加する機会を得た。ちょうど定期テスト期間で、学業にも力を入れていた伊地知は少し迷いもしたが、「これが前田監督にアピールする最後のチャンスかもしれない」。絶好のチャンスをみすみす逃すわけにはいかなかった。 そして、その走りを評価され、無事に國學院大に進学することができた。 國學院大に入学してからは1年目から駅伝で活躍を見せている。これまで学生三大駅伝には皆勤(コロナ禍で中止になった1年時の出雲駅伝を除く)で、前回の箱根駅伝では各校のエースが集う“花の2区”を担っている。 國學院大の“4本柱”のうち、中西大翔(4年)と山本歩夢(2年)がスピードを生かせる区間に起用されることが多いのに対して、平林清澄(2年)と伊地知はタフさが求められる区間に配置されることが多い。 前田監督に伊地知について、このように評する。 「なんというか昭和感があるじゃないですか。安定感がある。僕が駒大にいた頃の藤田さん(敦史/現・駒大ヘッドコーチ)を見ているようです。スピードはないかもしれませんが、長い距離になればなるほど持ち味を発揮して、決して外さない。そういうすごいものを感じます」 さらにこうも付け加える。 「だから『マラソン』という言葉も普通に出てくるんですよね」 箱根駅伝後に伊地知は平林とともにマラソン挑戦を予定している。 今夏は8月に月間走行距離が1100kmを超えた。マラソン挑戦を意識して走り込んできたことは様々なメリットをもたらした。 1つはフォームの面。上半身がぶれなくなり、ロスの小さい走りが身についた。 もう1つが、より頭を使って走るようになったということだ。「コースを読んだり、相手の状態を読んだり、自分自身の今の体力ゲージを把握したり。今年はそうした能力がかなりレベルアップしたんじゃないかなと思います」 それらが顕著に表れたレースが2つある。5月の関東インカレ(2部)ハーフマラソンでは勝負勘に冴え渡り、15km以降は独走で優勝。11月の全日本大学駅伝(8区)では、3秒差で区間賞こそ逃したものの、51秒前にいた青学大を逆転して2位でフィニッシュテープを切っている。いずれも、伊地知の“強さ”が光るレースだった。 次のページ 2区でも5区でも準備はできている2区でも5区でも準備はできている
今回の箱根駅伝でも重要な区間を任されるのは確実だ。 「1年前より確実に力はついていますし、経験値もかなり上がっています。プランをしっかり立てて、冷静に対処して行けば、おのずと結果が出てくると思う。どの区間でも走れる力が今はあると思うので、しっかり力を発揮できるような準備をしたいですし、前にも後ろにも安心感を与えられる走りをしたいなと思います」 伊地知の口ぶりには自信がみなぎる。 [caption id="attachment_89333" align="alignnone" width="800"] 全日本大学駅伝では2年時からアンカーを務め、区間賞、区間2位と絶大な安定感を誇る[/caption] 出番はおそらく、前回と同じ2区か、山上りの5区になる。 「前回はエース区間でボコボコにされたので、やり返したいっていう感情が芽生えました。前回2区を走った経験は今に生きていると思います。 5区だったとしても、上りは苦手ではないと思っていますし、夏合宿などでは上りの対策をかなりしてきています」 どうやら2区でも5区でも、準備は万端なようだ。 「どの区間を走りたいというよりも、優勝がしたいんです。『優勝するためだったら、どこでも走ります』と、監督には言っています」 思わず漏れ出た“優勝”の二文字こそ、伊地知の本音なのだろう。チームが最高の結果を残すために、伊地知は自分の役割をまっとうする覚悟を持って臨む。 今季の國學院大は下級生に好選手が多く、今回優勝すれば、来年、再来年と黄金期が到来することも考えられる。 かつて伊地知少年が青山学院大に憧れたように、箱根路で躍動する國學院大の選手たちの姿に胸を躍らせる中学生もきっと多いはずだ。 いじち・けんぞう/2001年8月23日生まれ。埼玉県鶴ヶ島市出身。170cm・53kg。埼玉・鶴ヶ島藤中→松山高。5000m14分09秒88、10000m28分29秒95、ハーフ1時間2分22秒 文/和田悟志
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