HOME バックナンバー
Close-up東京五輪内定 藤井菜々子~人生を変えてくれた競歩への恩返し~
Close-up東京五輪内定 藤井菜々子~人生を変えてくれた競歩への恩返し~

藤井菜々子(エディオン)

女子20㎞競歩 藤井菜々子(エディオン)
人生を変えてくれた競歩への恩返し

能美大会女子20km競歩で優勝して東京五輪代表に内定した藤井

3月の全日本競歩能美大会女子20㎞で優勝した藤井菜々子(エディオン)が、東京五輪代表に内定した。全中を、都大路を目指して走り続けた少女は、ひょんなことから歩き始めることになった。「メインは長距離」。そう頑なだったが、歩き続け、尊敬する先輩に触れることで人生が変わった。迷わずにまっすぐ歩を進めた先に、世界が待っていた。少しだけ遠ざかった大舞台。だが、藤井にとっては、それもまた楽しい道のりの途中にある。
文/花木 雫

ケガから急ピッチで仕上げて五輪内定

2月の日本選手権女子20㎞競歩を右太もも靱帯炎で欠場していた藤井菜々子(エディオン)にとって、東京五輪代表の最終選考会となる3月15日の全日本競歩能美大会は大事な一戦だった。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、レースの開催も含めて不安定な状況が続いたこともあり、「1月の合宿でケガをしてからの2カ月間は、日々戸惑いと焦りがあり、本当に苦しい期間でした」と振り返る。

高校時代は疲労骨折などのケガが多かったものの、社会人になってから大きな故障とは無縁。「レースに出られるのか、東京五輪に出られるのか。不安がありました」と打ち明ける。

練習を再開して本格的に歩き出したのは、出場予定だった日本選手権の直後。しかし、そこからは急ピッチで調子を戻し、能美大会には、万全とは言わないまでも「痛みもなく強い気持ちで臨めた」と言う。

昨年2月の日本選手権で五輪派遣設定記録(1時間30分00秒)は突破済みで、あとは優勝すれば五輪代表に決まる状況。「記録よりトップでフィニッシュすることだけを考えていました」。雨予報もあったが、当日は晴れ間ものぞいた。

広告の下にコンテンツが続きます

規模縮小の中でレースはスタート。序盤から1㎞4分50秒前後のスローな展開に。渕瀬真寿美(建装工業)と競り合いとなったが、残り3㎞から満を持してスパート。初優勝を果たし、東京五輪代表に内定した。

自己ベストより4分以上遅い1時間33分20秒ながら、「思い描いたプラン通り」と藤井。「最後まで落ち着いて歩けました。多くの方々のサポートがあったから、試練を乗り越えて代表に内定できました。今はホッとしています」と、周囲への感謝を口にした。「世界選手権とは違ったプレッシャーを感じました」と、改めて五輪選考独特の雰囲気を肌で感じ取ったという。

プロセスで苦しんだぶん、収穫もあった。故障の原因の1つに挙げる「腰の使い方からくる右膝が内向きに入る」歩型も、患部周囲の筋力アップや、体幹を鍛え直すことで修正することができた。フォーム全体のバランスも良くなり、能美では注意も警告も出ることなく歩き切った。「スピードの切り替えもスムーズでした」と歩型にも自信を深めたようだ。

レース展開でも新しい感覚を得た。これまでは第一人者・岡田久美子(ビックカメラ)の後ろにつくことが多かったが、すでに日本選手権でひと足先に代表内定を獲得して能美は不在。準備段階から自分でレースを組み立てて主導権を握って勝つことを想定し、実践できたことも成長の証だ。

昨年のドーハ世界選手権は、初出場ながら7位入賞。今回、東京五輪代表に内定し、岡田と並んで日本女子競歩界を牽引する存在になったと言える。それでも「世界選手権は一度も先頭争いに加わることなく、後半で順位を上げていった結果」と淡々と話す藤井。「後半のペースアップやスピード面など、まだまだ世界のトップとは差があります」と、自分の現在地を冷静に受け止めている。

競歩で快進撃も「メインは長距離」

高校時代はインターハイ5000m競歩を連覇(ゼッケン15番が藤井)。3年時は6位だった同級生の林奈海(藤井の右、現・順大)とダブル入賞

代表内定獲得に向けて苦しみと成長を感じたのがケガなら、競歩の道へ進むきっかけとなったのも高校時代のたび重なる故障だった。「高校時代は肝心なところでいつも疲労骨折ばかりしていました」と苦笑いを見せる。

小さい頃から走るのが大好きで、陸上を始めたのは山口に住んでいた小学校3年生の時。小4からは福岡のクラブチーム・那珂川ジュニアに入部した。「最初は短距離で5・6年生の頃から長距離にも取り組むようになりました」。那珂川北中(福岡)に入学してからは800mと1500mを中心に全中出場を目標に練習に励んだ。だが、800mは0秒64、1500mは1秒90、全中の参加標準記録に届かなかった。あと一歩のところで全国の舞台に立つことはできなかった藤井は、多くの中学生ランナーたちと同様に、全国高校駅伝を目指し、地元の名門・北九州市立高に進んだ。

しかし、運命の歯車はどこでどう回り出すかわからない。高2のシーズン直前。インターハイの県大会につながる支部大会前に発症した疲労骨折が、その後の陸上人生を大きく変えることになる。

※この続きは2020年4月14日発売の『月刊陸上競技5月号』をご覧ください。

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

女子20㎞競歩 藤井菜々子(エディオン) 人生を変えてくれた競歩への恩返し

能美大会女子20km競歩で優勝して東京五輪代表に内定した藤井 3月の全日本競歩能美大会女子20㎞で優勝した藤井菜々子(エディオン)が、東京五輪代表に内定した。全中を、都大路を目指して走り続けた少女は、ひょんなことから歩き始めることになった。「メインは長距離」。そう頑なだったが、歩き続け、尊敬する先輩に触れることで人生が変わった。迷わずにまっすぐ歩を進めた先に、世界が待っていた。少しだけ遠ざかった大舞台。だが、藤井にとっては、それもまた楽しい道のりの途中にある。 文/花木 雫

ケガから急ピッチで仕上げて五輪内定

2月の日本選手権女子20㎞競歩を右太もも靱帯炎で欠場していた藤井菜々子(エディオン)にとって、東京五輪代表の最終選考会となる3月15日の全日本競歩能美大会は大事な一戦だった。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、レースの開催も含めて不安定な状況が続いたこともあり、「1月の合宿でケガをしてからの2カ月間は、日々戸惑いと焦りがあり、本当に苦しい期間でした」と振り返る。 高校時代は疲労骨折などのケガが多かったものの、社会人になってから大きな故障とは無縁。「レースに出られるのか、東京五輪に出られるのか。不安がありました」と打ち明ける。 練習を再開して本格的に歩き出したのは、出場予定だった日本選手権の直後。しかし、そこからは急ピッチで調子を戻し、能美大会には、万全とは言わないまでも「痛みもなく強い気持ちで臨めた」と言う。 昨年2月の日本選手権で五輪派遣設定記録(1時間30分00秒)は突破済みで、あとは優勝すれば五輪代表に決まる状況。「記録よりトップでフィニッシュすることだけを考えていました」。雨予報もあったが、当日は晴れ間ものぞいた。 規模縮小の中でレースはスタート。序盤から1㎞4分50秒前後のスローな展開に。渕瀬真寿美(建装工業)と競り合いとなったが、残り3㎞から満を持してスパート。初優勝を果たし、東京五輪代表に内定した。 自己ベストより4分以上遅い1時間33分20秒ながら、「思い描いたプラン通り」と藤井。「最後まで落ち着いて歩けました。多くの方々のサポートがあったから、試練を乗り越えて代表に内定できました。今はホッとしています」と、周囲への感謝を口にした。「世界選手権とは違ったプレッシャーを感じました」と、改めて五輪選考独特の雰囲気を肌で感じ取ったという。 プロセスで苦しんだぶん、収穫もあった。故障の原因の1つに挙げる「腰の使い方からくる右膝が内向きに入る」歩型も、患部周囲の筋力アップや、体幹を鍛え直すことで修正することができた。フォーム全体のバランスも良くなり、能美では注意も警告も出ることなく歩き切った。「スピードの切り替えもスムーズでした」と歩型にも自信を深めたようだ。 レース展開でも新しい感覚を得た。これまでは第一人者・岡田久美子(ビックカメラ)の後ろにつくことが多かったが、すでに日本選手権でひと足先に代表内定を獲得して能美は不在。準備段階から自分でレースを組み立てて主導権を握って勝つことを想定し、実践できたことも成長の証だ。 昨年のドーハ世界選手権は、初出場ながら7位入賞。今回、東京五輪代表に内定し、岡田と並んで日本女子競歩界を牽引する存在になったと言える。それでも「世界選手権は一度も先頭争いに加わることなく、後半で順位を上げていった結果」と淡々と話す藤井。「後半のペースアップやスピード面など、まだまだ世界のトップとは差があります」と、自分の現在地を冷静に受け止めている。

競歩で快進撃も「メインは長距離」

高校時代はインターハイ5000m競歩を連覇(ゼッケン15番が藤井)。3年時は6位だった同級生の林奈海(藤井の右、現・順大)とダブル入賞 代表内定獲得に向けて苦しみと成長を感じたのがケガなら、競歩の道へ進むきっかけとなったのも高校時代のたび重なる故障だった。「高校時代は肝心なところでいつも疲労骨折ばかりしていました」と苦笑いを見せる。 小さい頃から走るのが大好きで、陸上を始めたのは山口に住んでいた小学校3年生の時。小4からは福岡のクラブチーム・那珂川ジュニアに入部した。「最初は短距離で5・6年生の頃から長距離にも取り組むようになりました」。那珂川北中(福岡)に入学してからは800mと1500mを中心に全中出場を目標に練習に励んだ。だが、800mは0秒64、1500mは1秒90、全中の参加標準記録に届かなかった。あと一歩のところで全国の舞台に立つことはできなかった藤井は、多くの中学生ランナーたちと同様に、全国高校駅伝を目指し、地元の名門・北九州市立高に進んだ。 しかし、運命の歯車はどこでどう回り出すかわからない。高2のシーズン直前。インターハイの県大会につながる支部大会前に発症した疲労骨折が、その後の陸上人生を大きく変えることになる。 ※この続きは2020年4月14日発売の『月刊陸上競技5月号』をご覧ください。
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.11.24

小江戸川越ハーフで東洋大勢がワン・ツー 吉田周が2年連続1時間2分台で連覇 2位は西村真周

小江戸川越ハーフマラソンが11月24日、埼玉県川越市の川越水上公園発着で行われ、男子の招待ハーフでは吉田周(東洋大4年)が1時間2分54秒(速報値)で2年連続優勝を果たした。 吉田は前回大会を1時間2分43秒の自己ベスト […]

NEWS 全国高校駅伝男子代表校決定!地区代表で須磨学園や豊川が都大路へ、水戸葵陵と西武台千葉が初出場 トップは大牟田の2時間3分25秒

2024.11.24

全国高校駅伝男子代表校決定!地区代表で須磨学園や豊川が都大路へ、水戸葵陵と西武台千葉が初出場 トップは大牟田の2時間3分25秒

全国高校駅伝(12月22日/京都)の出場権をかけた地区高校駅伝(地区大会)が11月24日の東海と近畿をもってすべて終了した。これで都道府県代表と合わせて、出場する116校が出そろった。 【女子】浜松商、聖カタリナ、自由ケ […]

NEWS 全国高校駅伝女子の代表校出そろう!浜松商、聖カタリナ、自由ケ丘、鹿児島が初の都大路 昨年全国Vの神村学園が1時間7分58秒

2024.11.24

全国高校駅伝女子の代表校出そろう!浜松商、聖カタリナ、自由ケ丘、鹿児島が初の都大路 昨年全国Vの神村学園が1時間7分58秒

全国高校駅伝(12月22日/京都)の出場権をかけた地区高校駅伝(地区大会)が11月24日の東海と近畿をもってすべて終了した。これで都道府県代表と合わせて、出場する116校が出そろった。 【男子】地区代表で須磨学園や豊川が […]

NEWS パナソニック4位!黄金時代知るアンカー森田香織がクイーンズラストラン「後輩たちに支えられた」/クイーンズ駅伝

2024.11.24

パナソニック4位!黄金時代知るアンカー森田香織がクイーンズラストラン「後輩たちに支えられた」/クイーンズ駅伝

◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) クイーンズ駅伝が行われ、JP日本郵政グループが2時間13分54秒で4 […]

NEWS 資生堂・一山麻緒は急きょ変更の5区で粘走 ダイハツ・松田瑞生は悔しさ胸に1月の大阪国際へ/クイーンズ駅伝

2024.11.24

資生堂・一山麻緒は急きょ変更の5区で粘走 ダイハツ・松田瑞生は悔しさ胸に1月の大阪国際へ/クイーンズ駅伝

◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) クイーンズ駅伝が行われ、JP日本郵政グループが2時間13分54秒で4 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年12月号 (11月14日発売)

2024年12月号 (11月14日発売)

全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会

page top