2022.10.21
DLファイナルで4位の三浦龍司(順大、左)、U20世界選手権1500m6位の澤田結弥選手(浜松市立高2静岡)など若手が積極的に海外挑戦を始めている
7月15日~24日に米国オレゴン州ユージンで第18回世界選手権が開催され、日本は2013年のモスクワ大会に並ぶ入賞9(メダル4を含む)。国別のプレイシングテーブルでは過去最高の40点を挙げ、11位に入った。8月1日~6日にコロンビア・カリで開かれた第19回U20世界選手権では、メダル4・入賞7の成果を収めた。
オレゴンでシニアチームを率いた日本陸連の山崎一彦強化委員長と、カリでU20チームを統率した強化育成部の杉井將彦ディレクターにそれぞれの大会を総括してもらいながら、もう一度ジュニアからシニアへつないでいく強化のあり方を探ってもらった。
前編はこちら
ジュニア世代からの海外経験がシニアにつながる
U23やU20の世代をどう強化するかは、大きな課題となっている。今回はU20世界選手権とインターハイの日程が重なったこともあり、高校生にとっては海外経験か、高校日本一かの難しい決断を迫られた。
山崎 三浦選手は海外経験を目指してトライし、オレゴン世界選手権の前と後にヨーロッパへ行きましたが、やはりダイヤモンドリーグ・ファイナルに出場し、4位と成果が出ています。若い人たちのインフルエンサーになってくれたのではないでしょうか。突出した選手に関しては、チャンスがある時にやる。勝負の世界に「学生だから」というのは関係ありませんし、陸連としても支援できるような形を作りたいです。今回は安藤財団グローバルチャレンジプロジェクトから遠征費用を出していただきました。大変ありがたいことです。
杉井 インターハイの出場権を持っていながら、それを辞めてU20世界選手権へ行くのは、ものすごく大きな決断だったと思います。
例えば、女子走幅跳の近藤いおん選手(城西高1東京)は、インターハイで優勝候補の1人でした。結果は、「世界はこんなにレベルが上がっているんだ」と驚くほどにまったく歯が立たなかったのですが、海外の世界大会で高校1年生がしっかり6m(6m01)を跳びました。これがいかにすごいことなのか。もっと評価されるべきだと思いました。ここでの経験がシニアにつながって、シニアの結果が日本の陸上競技の価値を高めていくのですから。
女子1500mに澤田結弥選手(浜松市立高2静岡)が出場して6位に入賞しましたが、タイムテーブルは予選、決勝の間に中1日あったので、どちらも全力です。国内のインターハイなどは種目によって予選、準決勝、決勝が1日で行われて、決勝まで一番体力を残していた人が勝つ。では、何が必要かといえば、体力勝負のトレーニングです。世界大会が示しているのは、「この世代に必要なのは練習量ではなく一発目から全力で行くこと」というところなのではないでしょうか。
私も高校教員としてインターハイにたっぷりと情熱を注ぎ込んでやってきた1人ですので、インターハイの素晴らしさは十分にわかっています。ただ、そこに注がれるエネルギーの方向を変えていかないといけない時期に来ていると思っています。選手たちがいずれ世界へ羽ばたいていけるように、機会を見つけて訴えていきたいです。
山崎 杉井ディレクターは、インターハイ男女ともに総合優勝監督でもありますので、これらの決断は相当なエネルギーがいることをお察しします。将来的に「日本代表になりたいんだ」という選手は、やはりU20の国際大会を経験してほしい。そういうチャンスがあったら、ぜひチャレンジしてほしいと思います。ここ数年は、U20やU18の世界大会に出て活躍した人たちがシニアの世界大会に出る確率が高いのはもうわかっていることなので、そこは指導者も含めて意識していただきたいと思います。
2023年やさらなる未来へのプランを語った山崎一彦強化委員長(左)と杉井將彦ディレクター
2023年シーズンへの取り組み
来年、シニアはブダペスト世界選手権(8月19日~27日)を中心に、アジア選手権(7月12日~16日/タイ・パタヤ)、アジア大会(9月23日~10月8日/中国・杭州)、U23・U20世代はワールドユニバーシティゲームズ(7月28日~8月8日/中国・成都)などいかに国際経験を積む機会を作るかが大きなテーマになる。
山崎 来年のカレンダーはブダペスト世界選手権が8月開催で、日本選手権は6月上旬にあります。日本選手権後に海外へ行って、例えばヨーロッパの試合にチャレンジできるようなスケジュールを考慮しました。「(代表を)1人でも多く」という観点で見ると、春のうちに国内の競技会でポイントを稼ぐか、日本選手権後に海外へ行くパターンの二通りが考えられます。
また、オレゴン世界選手権入賞者は、当該年(2023年)に標準記録を突破することで内定としました。参加資格を得られれば、日本代表として出場できるとしているので、入賞者はそのまま引き続いてがんばってもらいたいところです。
杉井 U20世代については、まず2月18日の世界クロカン(オーストリア・バサースト)に積極的に選手を派遣することになったので、そこからですね。来年はU20アジア選手権(6月4日~7日/韓国・醴泉)があります。しかし、そのU20アジア選手権の日程が日本選手権・U20日本選手権と重なってしまったので、相当難しい派遣になると思います。ただ、こちらの目的をちょっと変えれば、本来なら国際大会に行けないような次の層をそこに派遣できるのではと考えています。
もう一つ、強化委員長にお願いしていることがあります。それは2019年にU20フランス選手権に日本選手を代表としてではなく交流のようなかたちで参加させていただきました。それは世界大会がない年に、空白の年代ができないようにという狙いで企画していただいたのですが、この企画がとても良い経験となりました。そこで、また派遣をしてもらえないかとリクエストしています。 2024年の8月下旬には、ペルーの首都・リマでU20世界選手権が開かれます。何とか来年、海外経験を作らないといけないなと思っています。
山崎 2024年はオリンピックイヤーですから、ジュニア世代もどんどん日の丸をつけて活躍してもらいたいですね。
ジュニア世代からの海外経験がシニアにつながる
U23やU20の世代をどう強化するかは、大きな課題となっている。今回はU20世界選手権とインターハイの日程が重なったこともあり、高校生にとっては海外経験か、高校日本一かの難しい決断を迫られた。 山崎 三浦選手は海外経験を目指してトライし、オレゴン世界選手権の前と後にヨーロッパへ行きましたが、やはりダイヤモンドリーグ・ファイナルに出場し、4位と成果が出ています。若い人たちのインフルエンサーになってくれたのではないでしょうか。突出した選手に関しては、チャンスがある時にやる。勝負の世界に「学生だから」というのは関係ありませんし、陸連としても支援できるような形を作りたいです。今回は安藤財団グローバルチャレンジプロジェクトから遠征費用を出していただきました。大変ありがたいことです。 杉井 インターハイの出場権を持っていながら、それを辞めてU20世界選手権へ行くのは、ものすごく大きな決断だったと思います。 例えば、女子走幅跳の近藤いおん選手(城西高1東京)は、インターハイで優勝候補の1人でした。結果は、「世界はこんなにレベルが上がっているんだ」と驚くほどにまったく歯が立たなかったのですが、海外の世界大会で高校1年生がしっかり6m(6m01)を跳びました。これがいかにすごいことなのか。もっと評価されるべきだと思いました。ここでの経験がシニアにつながって、シニアの結果が日本の陸上競技の価値を高めていくのですから。 女子1500mに澤田結弥選手(浜松市立高2静岡)が出場して6位に入賞しましたが、タイムテーブルは予選、決勝の間に中1日あったので、どちらも全力です。国内のインターハイなどは種目によって予選、準決勝、決勝が1日で行われて、決勝まで一番体力を残していた人が勝つ。では、何が必要かといえば、体力勝負のトレーニングです。世界大会が示しているのは、「この世代に必要なのは練習量ではなく一発目から全力で行くこと」というところなのではないでしょうか。 私も高校教員としてインターハイにたっぷりと情熱を注ぎ込んでやってきた1人ですので、インターハイの素晴らしさは十分にわかっています。ただ、そこに注がれるエネルギーの方向を変えていかないといけない時期に来ていると思っています。選手たちがいずれ世界へ羽ばたいていけるように、機会を見つけて訴えていきたいです。 山崎 杉井ディレクターは、インターハイ男女ともに総合優勝監督でもありますので、これらの決断は相当なエネルギーがいることをお察しします。将来的に「日本代表になりたいんだ」という選手は、やはりU20の国際大会を経験してほしい。そういうチャンスがあったら、ぜひチャレンジしてほしいと思います。ここ数年は、U20やU18の世界大会に出て活躍した人たちがシニアの世界大会に出る確率が高いのはもうわかっていることなので、そこは指導者も含めて意識していただきたいと思います。 2023年やさらなる未来へのプランを語った山崎一彦強化委員長(左)と杉井將彦ディレクター2023年シーズンへの取り組み
来年、シニアはブダペスト世界選手権(8月19日~27日)を中心に、アジア選手権(7月12日~16日/タイ・パタヤ)、アジア大会(9月23日~10月8日/中国・杭州)、U23・U20世代はワールドユニバーシティゲームズ(7月28日~8月8日/中国・成都)などいかに国際経験を積む機会を作るかが大きなテーマになる。 山崎 来年のカレンダーはブダペスト世界選手権が8月開催で、日本選手権は6月上旬にあります。日本選手権後に海外へ行って、例えばヨーロッパの試合にチャレンジできるようなスケジュールを考慮しました。「(代表を)1人でも多く」という観点で見ると、春のうちに国内の競技会でポイントを稼ぐか、日本選手権後に海外へ行くパターンの二通りが考えられます。 また、オレゴン世界選手権入賞者は、当該年(2023年)に標準記録を突破することで内定としました。参加資格を得られれば、日本代表として出場できるとしているので、入賞者はそのまま引き続いてがんばってもらいたいところです。 杉井 U20世代については、まず2月18日の世界クロカン(オーストリア・バサースト)に積極的に選手を派遣することになったので、そこからですね。来年はU20アジア選手権(6月4日~7日/韓国・醴泉)があります。しかし、そのU20アジア選手権の日程が日本選手権・U20日本選手権と重なってしまったので、相当難しい派遣になると思います。ただ、こちらの目的をちょっと変えれば、本来なら国際大会に行けないような次の層をそこに派遣できるのではと考えています。 もう一つ、強化委員長にお願いしていることがあります。それは2019年にU20フランス選手権に日本選手を代表としてではなく交流のようなかたちで参加させていただきました。それは世界大会がない年に、空白の年代ができないようにという狙いで企画していただいたのですが、この企画がとても良い経験となりました。そこで、また派遣をしてもらえないかとリクエストしています。 2024年の8月下旬には、ペルーの首都・リマでU20世界選手権が開かれます。何とか来年、海外経験を作らないといけないなと思っています。 山崎 2024年はオリンピックイヤーですから、ジュニア世代もどんどん日の丸をつけて活躍してもらいたいですね。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.11.20
【箱根駅伝2025名鑑】早稲田大学
-
2024.11.23
-
2024.11.24
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.01
吉田圭太が住友電工を退部 「充実した陸上人生を歩んでいきたい」競技は継続
2024.11.07
アシックスから軽量で反発性に優れたランニングシューズ「NOVABLAST 5」が登場!
-
2024.10.27
-
2024.11.10
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.11.24
小江戸川越ハーフで東洋大勢がワン・ツー 吉田周が2年連続1時間2分台で連覇 2位は西村真周
小江戸川越ハーフマラソンが11月24日、埼玉県川越市の川越水上公園発着で行われ、男子の招待ハーフでは吉田周(東洋大4年)が1時間2分54秒(速報値)で2年連続優勝を果たした。 吉田は前回大会を1時間2分43秒の自己ベスト […]
2024.11.24
全国高校駅伝男子代表校決定!地区代表で須磨学園や豊川が都大路へ、水戸葵陵と西武台千葉が初出場 トップは大牟田の2時間3分25秒
全国高校駅伝(12月22日/京都)の出場権をかけた地区高校駅伝(地区大会)が11月24日の東海と近畿をもってすべて終了した。これで都道府県代表と合わせて、出場する116校が出そろった。 【女子】浜松商、聖カタリナ、自由ケ […]
2024.11.24
全国高校駅伝女子の代表校出そろう!浜松商、聖カタリナ、自由ケ丘、鹿児島が初の都大路 昨年全国Vの神村学園が1時間7分58秒
全国高校駅伝(12月22日/京都)の出場権をかけた地区高校駅伝(地区大会)が11月24日の東海と近畿をもってすべて終了した。これで都道府県代表と合わせて、出場する116校が出そろった。 【男子】地区代表で須磨学園や豊川が […]
2024.11.24
パナソニック4位!黄金時代知るアンカー森田香織がクイーンズラストラン「後輩たちに支えられた」/クイーンズ駅伝
◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) クイーンズ駅伝が行われ、JP日本郵政グループが2時間13分54秒で4 […]
2024.11.24
資生堂・一山麻緒は急きょ変更の5区で粘走 ダイハツ・松田瑞生は悔しさ胸に1月の大阪国際へ/クイーンズ駅伝
◇第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝:11月24日/宮城・松島町文化観光交流館前~弘進ゴムアスリートパーク仙台、6区間42.195km) クイーンズ駅伝が行われ、JP日本郵政グループが2時間13分54秒で4 […]
Latest Issue 最新号
2024年12月号 (11月14日発売)
全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会