◇第99回箱根駅伝予選会(10月15日/東京・陸上自衛隊立川駐屯地スタート、昭和記念公園フィニッシュ:21.0975km)
来年正月の第99回箱根駅伝の出場権を懸けた箱根駅伝予選会が行われた。伝統校や強豪校がひしめく中、10時間40分39秒で堂々のトップ通過を果たしたのが、前回まで3年連続で本戦行きを逃していた大東大だった。
関東学生連合で前回8区を走ったチーム唯一の箱根経験者・大野陽人(4年)は、「ボードの用意がなくて途中の順位がわからず、2位か3位と思っていたので……」と1位通過に驚きつつ、「いろいろな方々のサポートのお陰です」と語った際には思わず涙が頬を伝った。
ただ、1年前に流した悔し涙とは意味合いが全く違う涙だ。
1990年度に史上初の学生駅伝3冠を達成した大東大も、近年は苦戦を強いられ、悪い流れを変えるべく、今年4月にOBの真名子圭監督が就任。当初は「箱根を目指せるようなチームではなかった」というチームを毎日の生活やジョグの考え方から見直し、戦える集団へと変えていった。
その成果は、早くもトラックシーズンから発揮される。特に6月の全日本大学駅伝関東地区選考会では、10000m28分台の主将・谷口辰熙や木山凌(ともに4年)らを欠きながら、5位で5年ぶりの本戦出場を決めるなど、選手層は厚みを増し、個々の選手も着実に力をつけていた。
しかし、箱根駅伝に関して、現役選手は予選会突破の喜びを誰一人として知らないチームである。真名子監督も「練習はしっかりできていたので、ウチだけで言えば自信はありましたが、他の大学さんの方が良いタイムを持っていたり、経験値が高かったりしたので、良くても3位くらいかな」と思っていたという。
とはいえ、自分たちがやれることをやる以外に道はない。指揮官は緻密なレースプランを立てて選手を送り出した。
「大きく3グループに分けて、設定したタイムを刻みながら、(14km過ぎの)公園に入るまで余裕を持たせて、そこから余力がある者は上げていこうと。全体的には最初がスローペースだったので、この後がどういう展開になるか少し不安でしたが、選手たちはほぼ設定通りに行ってくれました」
チームを牽引したのは、留学生のピーター・ワンジル(2年)だった。前回の予選会は後半の大失速でチーム10番手にも入れなかったが、宮城・仙台育英高時代も指導を受けていた真名子監督に対し、「練習では厳しいけれど、普段は優しい」と絶大な信頼を寄せ、今季は安定感に磨きがかかった。この日も他大学の留学生を競り合いを演じ、1時間2分16秒の5位でフィニッシュしている。
チーム上位の力を持つ大野と久保田徹(3年)が、ともに1時間3分10秒台の20位と24位で続くと、真名子監督は「公園に入って、第2グループから1人で飛び出してくれた。後ろを走る選手を助けてくれました」と、1時間3分27秒(32位)で好走した菊地駿介(3年)を高評価。菊地自身も「後半も余裕があってペースを上げましたが、最後まで粘り切れて良い走りができました」と胸を張った。
結果発表の1位で大学名が読み上げられた時は、4年分の思いを爆発させた。ただ、目指すゴールはここではない。数分後にはほとんどの選手たちが気持ちを切り替えていた。
「前半シーズンは全日本選考会で、チームが勢いづきましたが、今日の結果でもっと勢いがつくと思います。全日本や箱根でもその勢いで走りたい」(大野)
「4年目ということもありますし、しっかり区間賞を狙って強さが見える走りをしたいです」(谷口)
ホッと安堵の表情を浮かべつつ、あくまでも「次」を強調したのは、真名子監督も同じだった。
「選手には『おめでとう』と言いたいですが、これが復活への第一歩。ここから次を見据えてやっていこうと伝えたいです。本戦に出る以上は将来的には優勝を目指したいですが、まず今年度はシード権を狙っていきたいです」
結果発表後には真名子監督のHonda時代の後輩で、仙台育英高時代の教え子である吉居大和・駿恭兄弟が在籍する中大の藤原正和駅伝監督が訪れ、「本戦で会いましょう」と固い握手を交わした。
明けない夜はない。信じて努力を重ねれば、必ず目標を達成できるのだ。〝山の大東〟が4年ぶりに箱根路に戻ってくる。
文/小野哲史
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