2022.08.31
学生長距離Close-upインタビュー
石原 翔太郎 Ishihara Shotaro 東海大学3年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。22回目は、7月16日のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会5000mで13分29秒21をマークし、約1年2ヵ月ぶりに自己記録を更新した石原翔太郎(東海大)に話を聞いた。このコーナーには昨年3月以来の登場となる。
2020年度の大学1年目、駅伝シーズンに鮮烈なブレイクを果たした。全日本大学駅伝は4区で、箱根駅伝は3区で区間賞を獲得。昨年度も春先は関東インカレで活躍し、チームのエースへと成長したが、その後、故障で戦線離脱を余儀なくされた。回復が長引き、今年5月に実戦に復帰するまでに、実に約1年という時間を要した石原は、どのような思いを抱えてケガを乗り越え、表舞台に帰ってきたのか――。
1年ぶりの復帰戦から2ヵ月で5000m自己新
5月15日の「森永inゼリーエネルギーチャージゲームズ」5000mは、石原にとって約1年ぶりの実戦だった。まだ100%の状態ではなかったが、それまでの練習はしっかりできていた。スタートラインに立った時の心情を「久しぶりのレースで、周りに速い選手がたくさんいて緊張しましたが、久しぶりの実戦でうれしさもありました」と振り返る。
結果は14分12秒64。当時の自己記録が13分30秒98の石原からすれば、平凡なタイムかもしれない。それでも、「だいぶ走れてきたなという印象でした。復帰段階だったので、スピード面や体力面の課題が見つかりました」と得たものは多かった。
それから約2ヵ月間は、「スピード練習も多くなってきたので、スピードに対応できる脚作りを日頃から意識して、少しずつ距離を踏んでいきました」という。
今季トラックシーズンは、7月のホクレンを一番のターゲットに定め、5月のレースはホクレンのための〝試運転〟でもあった。6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会をチームメイトに託さなければいけなかった点は「申し訳ない」と感じていたが、「秋シーズンのために、自分のケガを完治させる」ことに努めた。
ホクレン千歳大会の5000mは、5月のレースより良い状態でスタートラインに立てていた。同じ最終組にいた東海大OBの先輩・塩澤稀夕(富士通)や同学年の吉居大和(中大)といった実力者の存在を気にすることなく、自らの走りだけに意識を集中させた。
「13分40秒台ぐらいで走れれば、と考えていました。ペースは速くなると思っていたので、後ろからついて、無理しないで行こうと思って走り始めました。風もなくて気象コンディションも良かったので、すごく走りやすかったです」
序盤から中盤にかけて集団の後方でレースを進めた石原は、「前と間が空いたら詰めていくイメージで走っていた」と話す。3000m通過は8分06秒。それを確認した時、「もしかしたら自己ベストを上回れるかもしれない」と思った。その後も快走は続き、吉居や塩澤に先着する6着(日本人3番手)でフィニッシュすると、驚きを隠さなかった。
「自分の状態や気象コンディションなど、いろいろな良い条件がかみ合ったと思いますが、予想以上の結果ですごく驚きました。タイムが出てしまった、という感じでした」
両角速駅伝監督からお褒めの言葉とともに、「秋のシーズンに合わせてがんばってくれ」と言われると、「自信もつきましたし、今後ももっとがんばれそうな気がしています」と、石原の胸にはポジティブな思いがふつふつと湧き上がっていた。
1年間の長期離脱中に得たもの
石原は1年時の駅伝シーズンに、衝撃的な活躍でその名を轟かせた。大学駅伝デビューとなった全日本大学駅伝の4区で、5人抜きの快走を見せ、区間新記録を打ち立てて区間賞獲得。箱根駅伝でも3区で区間賞の快走を演じ、一時はトップを走った。2年時も関東インカレ10000mで、28分05秒91の2位(日本人トップ)。東海大の新たなエース誕生に大きな期待が注がれた。
異変が起きたのは、6月の練習中だった。
ジョグをしていた時に、股関節あたりに急に痛みが出た。当初は検査を何度しても、これといった原因がわからず、8月下旬にようやく恥骨結合炎と、大腿骨の2ヶ所の疲労骨折が判明した。
病名がはっきりしない時期は多少、焦りもあったというが、「走ろうにも走れないですし、治ってから本格的に走るしかない。11月の全日本(大学駅伝)ぐらいに復帰できれば」と、それほど深刻には捉えていなかった。
ただ、痛みはなかなか引かず、全日本どころか、結局、箱根駅伝にも間に合わなかった。
その間、東海大は出雲駅伝9位、全日本12位、箱根11位。全日本は5年ぶり、箱根は8年ぶりにシード権を失い、石原はチームメイトが苦しい戦いを強いられるのを見ていることしかできなかった。
箱根では2日間、5区と6区で走路員を務めたが、「結構しんどかったです。走ったほうが楽だなと思いました」と苦笑する。
痛みがなくなり、本格的に走り始めたのは今年4月に入ってからだ。自身のキャリアでこれほどの長期離脱は初めてだったが、「回復が遅くなるので歩くこともあまりしないほうが良いということで、腹圧やお尻周り、股関節周りの補強をメインにやっていました」と、できることを地道に取り組むだけだった。肉体的にも精神的にも「きつかった」という時期は、両角監督やコーチ、治療院の人たちからの「無理しないで」という温かい励ましが支えになった。
一度も試合に出られなかった1年間を「棒に振ってしまった」と取るか、「今後に生かそう」と考えるか。決めるのは本人以外にないが、次の言葉からも石原が後者であることがわかる。
「今まではケアも治療院の方にお任せしていて、自分で積極的にやることがありませんでした。今回のケガを通して、どの筋肉を使っているとか、ここが張りやすいなど、自分の脚の状態を知るきっかけになりましたし、ケアや疲労抜きをより考えるようになりました」
上級生となった今年度、石原の視線は駅伝シーズンだけに向いている。
「トラックシーズンはそれほど考えずに、駅伝に間に合うように距離を踏んでいこうと考えていました。駅伝では他大学に負けないように、上位でフィニッシュできるような走りでチームに貢献したいです。箱根は予選会からで、久しぶりの長い距離になるので、苦戦する部分はあるかもしれませんが、今は順調に練習できています」
東海大の復活は、石原の走りにかかっていると言っても過言ではないだろう。「ずっと見ているだけでは退屈だったので、走れて楽しかった」という、練習を再開し始めた春先の感情がある限り、もはや遮るものはない。
石原が本当の意味で〝完全復活〟を果たす日は近い。
◎いしはら・しょうたろう/2002年1月4日生まれ。兵庫県出身。龍野東中→岡山・倉敷高→東海大。自己記録5000m13分29秒21、10000m28分05秒91。1年時に全日本大学駅伝4区、箱根駅伝3区で区間賞を獲得した東海大のエース。2年目は度重なるケガでシーズンを棒に振ったが、今年5月に1年ぶりのレース復帰した。7月には5000mで自己記録を更新し、早くもチームを牽引。駅伝シーズンに向けてさらに強くなって帰ってきた。
文/小野哲史
1年ぶりの復帰戦から2ヵ月で5000m自己新
5月15日の「森永inゼリーエネルギーチャージゲームズ」5000mは、石原にとって約1年ぶりの実戦だった。まだ100%の状態ではなかったが、それまでの練習はしっかりできていた。スタートラインに立った時の心情を「久しぶりのレースで、周りに速い選手がたくさんいて緊張しましたが、久しぶりの実戦でうれしさもありました」と振り返る。 結果は14分12秒64。当時の自己記録が13分30秒98の石原からすれば、平凡なタイムかもしれない。それでも、「だいぶ走れてきたなという印象でした。復帰段階だったので、スピード面や体力面の課題が見つかりました」と得たものは多かった。 それから約2ヵ月間は、「スピード練習も多くなってきたので、スピードに対応できる脚作りを日頃から意識して、少しずつ距離を踏んでいきました」という。 今季トラックシーズンは、7月のホクレンを一番のターゲットに定め、5月のレースはホクレンのための〝試運転〟でもあった。6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会をチームメイトに託さなければいけなかった点は「申し訳ない」と感じていたが、「秋シーズンのために、自分のケガを完治させる」ことに努めた。 ホクレン千歳大会の5000mは、5月のレースより良い状態でスタートラインに立てていた。同じ最終組にいた東海大OBの先輩・塩澤稀夕(富士通)や同学年の吉居大和(中大)といった実力者の存在を気にすることなく、自らの走りだけに意識を集中させた。 「13分40秒台ぐらいで走れれば、と考えていました。ペースは速くなると思っていたので、後ろからついて、無理しないで行こうと思って走り始めました。風もなくて気象コンディションも良かったので、すごく走りやすかったです」 序盤から中盤にかけて集団の後方でレースを進めた石原は、「前と間が空いたら詰めていくイメージで走っていた」と話す。3000m通過は8分06秒。それを確認した時、「もしかしたら自己ベストを上回れるかもしれない」と思った。その後も快走は続き、吉居や塩澤に先着する6着(日本人3番手)でフィニッシュすると、驚きを隠さなかった。 「自分の状態や気象コンディションなど、いろいろな良い条件がかみ合ったと思いますが、予想以上の結果ですごく驚きました。タイムが出てしまった、という感じでした」 両角速駅伝監督からお褒めの言葉とともに、「秋のシーズンに合わせてがんばってくれ」と言われると、「自信もつきましたし、今後ももっとがんばれそうな気がしています」と、石原の胸にはポジティブな思いがふつふつと湧き上がっていた。1年間の長期離脱中に得たもの
石原は1年時の駅伝シーズンに、衝撃的な活躍でその名を轟かせた。大学駅伝デビューとなった全日本大学駅伝の4区で、5人抜きの快走を見せ、区間新記録を打ち立てて区間賞獲得。箱根駅伝でも3区で区間賞の快走を演じ、一時はトップを走った。2年時も関東インカレ10000mで、28分05秒91の2位(日本人トップ)。東海大の新たなエース誕生に大きな期待が注がれた。 異変が起きたのは、6月の練習中だった。 ジョグをしていた時に、股関節あたりに急に痛みが出た。当初は検査を何度しても、これといった原因がわからず、8月下旬にようやく恥骨結合炎と、大腿骨の2ヶ所の疲労骨折が判明した。 病名がはっきりしない時期は多少、焦りもあったというが、「走ろうにも走れないですし、治ってから本格的に走るしかない。11月の全日本(大学駅伝)ぐらいに復帰できれば」と、それほど深刻には捉えていなかった。 ただ、痛みはなかなか引かず、全日本どころか、結局、箱根駅伝にも間に合わなかった。 その間、東海大は出雲駅伝9位、全日本12位、箱根11位。全日本は5年ぶり、箱根は8年ぶりにシード権を失い、石原はチームメイトが苦しい戦いを強いられるのを見ていることしかできなかった。 箱根では2日間、5区と6区で走路員を務めたが、「結構しんどかったです。走ったほうが楽だなと思いました」と苦笑する。 痛みがなくなり、本格的に走り始めたのは今年4月に入ってからだ。自身のキャリアでこれほどの長期離脱は初めてだったが、「回復が遅くなるので歩くこともあまりしないほうが良いということで、腹圧やお尻周り、股関節周りの補強をメインにやっていました」と、できることを地道に取り組むだけだった。肉体的にも精神的にも「きつかった」という時期は、両角監督やコーチ、治療院の人たちからの「無理しないで」という温かい励ましが支えになった。 一度も試合に出られなかった1年間を「棒に振ってしまった」と取るか、「今後に生かそう」と考えるか。決めるのは本人以外にないが、次の言葉からも石原が後者であることがわかる。 「今まではケアも治療院の方にお任せしていて、自分で積極的にやることがありませんでした。今回のケガを通して、どの筋肉を使っているとか、ここが張りやすいなど、自分の脚の状態を知るきっかけになりましたし、ケアや疲労抜きをより考えるようになりました」 上級生となった今年度、石原の視線は駅伝シーズンだけに向いている。 「トラックシーズンはそれほど考えずに、駅伝に間に合うように距離を踏んでいこうと考えていました。駅伝では他大学に負けないように、上位でフィニッシュできるような走りでチームに貢献したいです。箱根は予選会からで、久しぶりの長い距離になるので、苦戦する部分はあるかもしれませんが、今は順調に練習できています」 東海大の復活は、石原の走りにかかっていると言っても過言ではないだろう。「ずっと見ているだけでは退屈だったので、走れて楽しかった」という、練習を再開し始めた春先の感情がある限り、もはや遮るものはない。 石原が本当の意味で〝完全復活〟を果たす日は近い。 ◎いしはら・しょうたろう/2002年1月4日生まれ。兵庫県出身。龍野東中→岡山・倉敷高→東海大。自己記録5000m13分29秒21、10000m28分05秒91。1年時に全日本大学駅伝4区、箱根駅伝3区で区間賞を獲得した東海大のエース。2年目は度重なるケガでシーズンを棒に振ったが、今年5月に1年ぶりのレース復帰した。7月には5000mで自己記録を更新し、早くもチームを牽引。駅伝シーズンに向けてさらに強くなって帰ってきた。 文/小野哲史
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