中学時代から陸上競技に取り組み、今も市民ランナーとして走り続けている月陸編集者(マラソンの自己ベストは2時間43分)が、注目のシューズをトライアル! 今回はアシックスが6月14日に発売したレーシングシューズ「METASPEED SKY+(メタスピード スカイプラス)」(税込27,500円)を紹介する。
アシックスが6月に発売した「METASPEED SKY+(メタスピードスカイプラス)」
エネルギー効率をさらに追求
アシックスが新コンセプトのレーシングシューズ「METASPEED(メタスピード)」シリーズを発売してから1年。その新作となる「METASPEED+(メタスピードプラス)」シリーズがこの6月に登場した。
今回もストライド走法のランナーには「METASPEED SKY+(メタスピードスカイプラス)」、ピッチ走法のランナーには「METASPEED EDGE+(メタスピードエッジプラス)」と、走法に合ったモデルを開発して同時に発売。ブランドポリシーの通り、ランナーに寄り添った『パーソナライズ化』を進め、パフォーマンスアップを妥協なく追求している。
METASPEED SKY+(左)とMETASPEED EDGE+の分解図。カーボンプレートの角度とミッドソールの上下比率が異なっている
METASPEED+シリーズが前作と大きく変わったのは、ミッドソール素材(フォーム材)である「FF BLAST TURBO(エフエフブラストターボ)」の量を増やしたこと。METASPEED SKY+の場合はフォーム材を前作と比べて約4%増量し、より反発性を高めている。
加えて、METASPEED SKY+は2つのフォーム材に挟まれたフルレングスのカーボンプレートの角度も調整。METASPEED Sky(初代)ではカーボンプレートを湾曲させて前足部は地面から近い位置に、かかと部分は高い位置にプレートを内蔵していたが、METASPEED SKY+は全体的にプレートの位置を高くし、角度も水平に近くなった(ただし、つま先部分は変わらずに反り上がっている)。こうすることで地面を踏み込む際に力がシューズ全体にかかるようになり、高い反発力を得られるためだ。「ストライドを伸ばす」という初代からのテーマを軸に、エネルギー効率の改善をさらに目指している。
METASPEED SKY+(上)はMETASPEED EDGE+(下)と違ってプレートが地面と平行に近い角度で内蔵されている
なお、アシックスは4月下旬にはスペイン・マラガで「META : Time : Trials(メタ・タイムトライアル)」という世界陸連公認大会を開催し、そこではMETASPEED+シリーズを履いた世界のトップアスリートたちが5km、10km、ハーフマラソンのいずれかを走り、合わせて4つのナショナルレコードと29の自己新を出している。「PB(パーソナルベスト)を破るためのシューズ」というキャッチフレーズにふさわしい実績を出して発売されることになった。
重心移動が“自動化”
実は、このMETASPEED SKY+はプロトタイプ(開発段階のモデル)でも日本国内の着用アスリートが目覚ましい結果を残している。12月の福岡国際マラソンでは細谷恭平(黒崎播磨)が日本人最上位となる2位でフィニッシュ。さらに、細谷は元日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)でも各チームのエースが集う最長区間(22.4km)の4区で区間賞(区間新)を獲得し、この2大会で履いていたMETASPEED SKY+のプロトタイプ(※開発段階の名称は「METASPEED SKY2」)が話題になった。なお、1月は川内優輝(ニッセイあいおい同和損保)も10kmの公認レースでトラックを含めても自身初となる28分台(28分53秒)をMETASPEED SKY2でマークしている。
全日本実業団対抗駅伝の4区では細谷恭平(黒崎播磨)が区間賞(区間新)を獲得。この時に履いていたシューズが「METASPEED SKY+」のプロトタイプ
そんな“高速仕様”のMETASPEED SKY+に足を通してみると、最初に感じたのはフィット性の違いだ。初代METASPEED Skyに比べてやや長くなり、足幅や指周りの構造も調整された。普段25.0~25.5cmのシューズを履いている筆者は、初代だと25.5cmのウィメンズモデルが一番フィットしたが、METASPEED SKY+は25.5cmだと長さが余りすぎるため、25.0cmに変更した(METASPEED+に男女の区別はなく、ユニセックスのみ)。こうすることで長さも幅もタイト気味のフィット感になり、走行時のブレはほとんどなくなった。
フォーム材を増やした影響から重量(27.0cm基準)は約205gと、前作の約199gよりは重くなったが、筆者はサイズを0.5cm落としたこともあってまったく影響がなかった。むしろ、気になるのは走行感の違いだろう。METASPEED SKY+のミッドソールは最大33mmで、ドロップ(前足部と踵の高低差)は5mmと、前作に比べて数字上の設計は変わらないが、実際に履いてみると前足部のミッドソールの存在感が強調されており、これをどう扱えるかで走りやすさが変わってくるように感じた。
METASPEED+シリーズはミッドソールのボリュームが増加。初代METASPEED Sky(右)と比べても前足部のフォーム材が横にはみ出しているのがわかる
アシックスは走行時に足首の角度変化を少なくすることがエネルギーロスの軽減につながるという検証結果から、初代METASPEED Skyではつま先部分のソールが急カーブを描くように薄くなっていく構造だった。このため、足が地面に着地してからは最後のキック動作が楽にできたが、接地からキック動作に移行するまでは自分で重心移動をコントロールする必要があった。ところが、METASPEED SKY+の場合は接地してからキック動作に移行する局面でシューズが自動的に重心移動を導いてくれるのだ。
このため、ランナーとしては足が地面に着地してからはシューズの導く重心移動に身を任せ、地面から反発が戻ってくるタイミングに合わせて脚を回していけばいい。「自分で脚を回す」必要がある初代に対し、METASPEED SKY+は「勝手に回る脚にタイミングを合わせていく」というイメージだ。筆者はピッチ走法のため本来METASPEEDシリーズは「EDGE」のほうが合うはずだが、初代METASPEED Skyに比べてスピードの微調整もしやすくなり、ピッチ型のランナーでも使いやすくなった印象を受けた。これは初代METASPEED Skyだとつま先部分でのキック動作が強くなりすぎてスピードを出しすぎてしまう時があったのに対し、METASPEED SKY+はそれがややマイルドになったように感じたからだ。
つま先部分のソール角度も初代(右)から改良。これによって筆者はスピードの微調整がしやすくなっている印象を受けた
カギはフォームを維持できること
METASPEED SKY+を使いこなすポイントは、接地の際にフォーム材全体に力を加えること。注意点としては、フォーム材に加える力が弱くなると性能を十分に発揮できなくなる場合がある点だろう。
筆者が6月に行われたアシックスのイベント「META : Time : Trials」特別レース(非公認)でこのMETASPEED SKY+を履いて5000mを18分03秒で走った時は、ピッチが約200歩/分と速いこともあって、レース後半は地面からもらう反発のタイミングが少し合わなくなる感覚があった。これがストライド走法のランナーであれば終始スムーズに走り切れるのだろうが、ピッチ走法である筆者の場合は後半になると疲労によって踏み込む力が足りなくなり、シューズ本来の性能を引き出せなくなったのかもしれない。
一方で、ラストスパートでは普段以上のスピードが出せて、別の日に行ったスピード練習では200mを32秒台で走っても問題なく対応できた。このことから、ミッドソールに力を加えられる適切なフォームを維持できれば、ピッチ・ストライドのどちらの走法でもMETASPEED SKY+を使いこなせるように思う。また、構造上の特徴として接地が踵から入っても大きくエネルギーをロスすることはないため、多少の走りづらさを感じたとしても実際にはそこまでスピードが落ちていないケースも多い。ピッチ型のランナーであれば自分が「使いこなせる距離」を把握した上でMETASPEED SKY+を選ぶ戦略もありだろう。
初代METASPEED Skyとは一味違った進化を遂げ、METASPEEDシリーズの“別バージョン”と言えるモデルになったMETASPEED SKY+。走法にかかわらず一度は試す価値がありそうだ。
文/山本慎一郎

エネルギー効率をさらに追求
アシックスが新コンセプトのレーシングシューズ「METASPEED(メタスピード)」シリーズを発売してから1年。その新作となる「METASPEED+(メタスピードプラス)」シリーズがこの6月に登場した。 今回もストライド走法のランナーには「METASPEED SKY+(メタスピードスカイプラス)」、ピッチ走法のランナーには「METASPEED EDGE+(メタスピードエッジプラス)」と、走法に合ったモデルを開発して同時に発売。ブランドポリシーの通り、ランナーに寄り添った『パーソナライズ化』を進め、パフォーマンスアップを妥協なく追求している。

重心移動が“自動化”
実は、このMETASPEED SKY+はプロトタイプ(開発段階のモデル)でも日本国内の着用アスリートが目覚ましい結果を残している。12月の福岡国際マラソンでは細谷恭平(黒崎播磨)が日本人最上位となる2位でフィニッシュ。さらに、細谷は元日の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)でも各チームのエースが集う最長区間(22.4km)の4区で区間賞(区間新)を獲得し、この2大会で履いていたMETASPEED SKY+のプロトタイプ(※開発段階の名称は「METASPEED SKY2」)が話題になった。なお、1月は川内優輝(ニッセイあいおい同和損保)も10kmの公認レースでトラックを含めても自身初となる28分台(28分53秒)をMETASPEED SKY2でマークしている。


カギはフォームを維持できること
METASPEED SKY+を使いこなすポイントは、接地の際にフォーム材全体に力を加えること。注意点としては、フォーム材に加える力が弱くなると性能を十分に発揮できなくなる場合がある点だろう。 筆者が6月に行われたアシックスのイベント「META : Time : Trials」特別レース(非公認)でこのMETASPEED SKY+を履いて5000mを18分03秒で走った時は、ピッチが約200歩/分と速いこともあって、レース後半は地面からもらう反発のタイミングが少し合わなくなる感覚があった。これがストライド走法のランナーであれば終始スムーズに走り切れるのだろうが、ピッチ走法である筆者の場合は後半になると疲労によって踏み込む力が足りなくなり、シューズ本来の性能を引き出せなくなったのかもしれない。 一方で、ラストスパートでは普段以上のスピードが出せて、別の日に行ったスピード練習では200mを32秒台で走っても問題なく対応できた。このことから、ミッドソールに力を加えられる適切なフォームを維持できれば、ピッチ・ストライドのどちらの走法でもMETASPEED SKY+を使いこなせるように思う。また、構造上の特徴として接地が踵から入っても大きくエネルギーをロスすることはないため、多少の走りづらさを感じたとしても実際にはそこまでスピードが落ちていないケースも多い。ピッチ型のランナーであれば自分が「使いこなせる距離」を把握した上でMETASPEED SKY+を選ぶ戦略もありだろう。 初代METASPEED Skyとは一味違った進化を遂げ、METASPEEDシリーズの“別バージョン”と言えるモデルになったMETASPEED SKY+。走法にかかわらず一度は試す価値がありそうだ。 文/山本慎一郎
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