2022.04.20
学生長距離Close-upインタビュー
伊地知賢造 Ijichi Kenzo 國學院大學3年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。18回目は、昨年の全日本大学駅伝で最長区間(19.7km)の8区で区間賞を獲得した國學院大の伊地知賢造(3年)をピックアップ。
1年目からチームの主力として台頭し、学生三大駅伝は皆勤賞。今年1月の箱根駅伝ではエース区間の2区を担い、前田康弘監督からの評価も高い。決して派手さはないものの、確実にチームの期待に応える、そんな「いぶし銀」のような活躍を見せるエース候補に、これまでの振り返り、現在地、今後の競技生活などを語ってもらい、人物像を探った。
高校までは全国大会未経験
3月13日の日本学生ハーフマラソンで1位、2位独占を飾った國學院大。平林清澄(2年)と中西大翔(4年)がFISUワールドユニバーシティゲームズの男子ハーフマラソン日本代表に内定した。平林のスパートを真っ先に追いかけた伊地知賢造(3年)も8位に入り、チームはトリプル入賞を達成している。しかし、伊地知は悔しさをあらわにした。
「8位という結果は正直、うれしくありません。ユニバ代表を狙って取り組んできたのに、平林と大翔さんに続いて、3位には箱根2区で負けた東洋大・松山和希君が入りました。身近な選手が代表になったことを含めて悔しかったです。タイム(1時間2分22秒)も納得いかなくて、最低でも1分台を出したかった……」
伊地知はユニバ代表を逃したが、前田康弘監督は「逆に良かった」と思っている部分もあるようだ。
「伊地知はパッションのある選手。負けをただでは終わらせないので、今後が楽しみです。性格的にも強気ですし、安定感があり、仲間からの信頼も厚い。練習を人一倍やりますし、悪条件のときは(チームで)最強のランナーだと思っています」
前田監督が絶大な信頼を寄せる伊地知は「悔しさ」を味わう度に強くなってきた。
競技を始めたのは小学6年生の時だ。埼玉県鶴ヶ島市の駅伝大会に出場して、区間2位。区間賞を取ることができなかった悔しさもあり、中学では2学年上の兄が所属していた陸上部に入部した。
2年時の冬から春にかけては腰椎分離症で走れない時期があり、治っても「選手として続けられる保証がなかった」という理由で続ける意味を見失い、「一回腐りかけた」時期もあったという。
それでも顧問の先生をはじめ、周囲のサポートもあって3年時に復活。1500mで全中に出場した。
中学卒業後は県立男子校である松山高に進学。高校時代の一番の思い出を聞くと、「2年時の埼玉県県新人戦5000mで優勝したこと」と返ってきた。
「初めての14分台で、しかも初タイトルだったのでめちゃめちゃうれしかったですね。ただ、高校時代はロードで長い距離をじっくり踏むような練習が多かったこともあり、トラックよりロードのほうが戦えるのかなと思っていました」
高校駅伝の埼玉県大会は1年時が6区で区間7位、2年時は1区で区間7位、3年時は1区で区間5位。関東大会の出場を目指した3年間でロードの楽しさを見つけられたという。一方、高校時代の5000mベストは3年秋に出した14分43秒97だった。
「高校2年の終わりに疲労骨折して、そこから復帰しての自己ベストです。高校時代は縛られることもなく、メニューも顧問の先生と相談としながら、伸び伸びとやらせていただきました。自分で考えながらできたのが良かったと思っています」
高校2年時には関東高校駅伝に出場。エース区間の1区を走った
進学先は自ら國學院大を希望。顧問の青木美智留先生が前田監督に連絡を取り、「逆指名」するかたちで入学した。
「國學院大は地道に努力して速くなっている印象があり、そこに惹かれました。大学時代から活躍している浦野雄平さん(現・富士通)、土方英和さん(現・Honda)も高校時代はそこまで強くなかった。自分も強くなれるんじゃないのかなと思ったんです」
大学入学初年度で急成長、チームの主軸に
伊地知の予感は的中することになる。入学時の5000mベストは同学年の中でも下のほうだったが、3年冬の奥武蔵駅伝と埼玉県駅伝で好走。その実力を前田監督に評価され、1年時は当時の3年生主将・木付琳(現・九電工)と同部屋になった。そして1年時から全日本大学駅伝(6区区間10位)と箱根駅伝(8区区間9位)に出場した。
「正直、駅伝に出るのが目標だったんですけど、1年目から走らせていただいて、見る景色が変わりました。出るだけではなくて、上で活躍するためには何をすべきなのか。自分には何が足りないのか。このチームでイチから教えてもらいました」
2年生になり伊地知はチームの主力に成長する。出雲駅伝を5区で区間2位と好走すると、全日本大学駅伝はアンカーに抜擢された。その期待に応えて、最終8区で区間賞を獲得。3人を抜き去り、4位でゴールテープに飛び込んでいる。
「1年時は自分の区間で順位を落としてシード権を逃したので、全日本には人一倍の思いがあったんです。1年かけてリベンジすることができてうれしかったんですけど、表彰台に一歩届かなかった。もうちょっとできたんじゃないかなという悔しさもありましたね」
しかし、箱根駅伝で実力不足を実感することになる。花の2区を任されて、区間12位。6位から10位に順位を落としてしまった。
「藤木宏太さん(現・旭化成)がいい位置でつないでくれるベストな展開で、自分の持っている力も100%出すことができたと思います。だけど、他校のエースとの差をすごく感じましたね。下りで少し溜めて走れれば良かったんですけど、周囲のペースが速く、想定上に脚を使ってしまいました。最後は粘り切ることができず、正直、人生で一番きついレースになりました」
そして学生ハーフでもチームメイト2人に先着されて、目標のユニバ代表を逃した。だからこそ、伊地知は燃えている。
「新チームになって副将をさせてもらっているので、三大駅伝で目標を達成できるようにしっかりとチームを引っ張っていきたいです。自分はタフさが売りなので2区はもちろん、5区も見据えてやっていきたいと思っています。とにかく与えられた区間で望まれた結果を残したいですね」
駅伝シーズンで「エース」としての役割を期待されている伊地知は、平林とともに来冬のマラソンに参戦するプランも立てている。
「エースはどんな時でも強くなくてはいけません。調子がいいときだけでなく、どの区間を任されても、どんなコンディションでも求められた結果を残すのがエースだと思っています。自分はロードが得意なので三大駅伝は区間賞、マラソンはMGCを目標にやっていきたいです」
國學院大はユニバーシティゲームズの代表に選出された平林と中西、2月の全日本実業団ハーフで日本人学生歴代2位タイの1時間0分43秒で走った山本歩夢(2年)、5年目も学生駅伝シーズンを戦うことになった島崎慎愛(4年)に伊地知を加えた「5本柱」を形成する。その中で最もタフな男、伊地知が上昇気流のチームを次のステージに引き上げる。
◎いじち・けんぞう/2001年8月23日生まれ。埼玉県出身。鶴ヶ島藤中→松山高→國學院大。自己記録5000m14分09秒88、10000m28分56秒08。高校時代は2年時の関東高校新人5000m7位が個人での最高成績で、5000mの高校ベストは14分43秒97で全国レベルではなかったものの、國學院大に進学して急成長。学生駅伝は1年時からフル出場中で、昨年は全日本大学駅伝8区で区間賞を獲得した。
文/酒井政人
高校までは全国大会未経験
3月13日の日本学生ハーフマラソンで1位、2位独占を飾った國學院大。平林清澄(2年)と中西大翔(4年)がFISUワールドユニバーシティゲームズの男子ハーフマラソン日本代表に内定した。平林のスパートを真っ先に追いかけた伊地知賢造(3年)も8位に入り、チームはトリプル入賞を達成している。しかし、伊地知は悔しさをあらわにした。 「8位という結果は正直、うれしくありません。ユニバ代表を狙って取り組んできたのに、平林と大翔さんに続いて、3位には箱根2区で負けた東洋大・松山和希君が入りました。身近な選手が代表になったことを含めて悔しかったです。タイム(1時間2分22秒)も納得いかなくて、最低でも1分台を出したかった……」 伊地知はユニバ代表を逃したが、前田康弘監督は「逆に良かった」と思っている部分もあるようだ。 「伊地知はパッションのある選手。負けをただでは終わらせないので、今後が楽しみです。性格的にも強気ですし、安定感があり、仲間からの信頼も厚い。練習を人一倍やりますし、悪条件のときは(チームで)最強のランナーだと思っています」 前田監督が絶大な信頼を寄せる伊地知は「悔しさ」を味わう度に強くなってきた。 競技を始めたのは小学6年生の時だ。埼玉県鶴ヶ島市の駅伝大会に出場して、区間2位。区間賞を取ることができなかった悔しさもあり、中学では2学年上の兄が所属していた陸上部に入部した。 2年時の冬から春にかけては腰椎分離症で走れない時期があり、治っても「選手として続けられる保証がなかった」という理由で続ける意味を見失い、「一回腐りかけた」時期もあったという。 それでも顧問の先生をはじめ、周囲のサポートもあって3年時に復活。1500mで全中に出場した。 中学卒業後は県立男子校である松山高に進学。高校時代の一番の思い出を聞くと、「2年時の埼玉県県新人戦5000mで優勝したこと」と返ってきた。 「初めての14分台で、しかも初タイトルだったのでめちゃめちゃうれしかったですね。ただ、高校時代はロードで長い距離をじっくり踏むような練習が多かったこともあり、トラックよりロードのほうが戦えるのかなと思っていました」 高校駅伝の埼玉県大会は1年時が6区で区間7位、2年時は1区で区間7位、3年時は1区で区間5位。関東大会の出場を目指した3年間でロードの楽しさを見つけられたという。一方、高校時代の5000mベストは3年秋に出した14分43秒97だった。 「高校2年の終わりに疲労骨折して、そこから復帰しての自己ベストです。高校時代は縛られることもなく、メニューも顧問の先生と相談としながら、伸び伸びとやらせていただきました。自分で考えながらできたのが良かったと思っています」 高校2年時には関東高校駅伝に出場。エース区間の1区を走った 進学先は自ら國學院大を希望。顧問の青木美智留先生が前田監督に連絡を取り、「逆指名」するかたちで入学した。 「國學院大は地道に努力して速くなっている印象があり、そこに惹かれました。大学時代から活躍している浦野雄平さん(現・富士通)、土方英和さん(現・Honda)も高校時代はそこまで強くなかった。自分も強くなれるんじゃないのかなと思ったんです」大学入学初年度で急成長、チームの主軸に
伊地知の予感は的中することになる。入学時の5000mベストは同学年の中でも下のほうだったが、3年冬の奥武蔵駅伝と埼玉県駅伝で好走。その実力を前田監督に評価され、1年時は当時の3年生主将・木付琳(現・九電工)と同部屋になった。そして1年時から全日本大学駅伝(6区区間10位)と箱根駅伝(8区区間9位)に出場した。 「正直、駅伝に出るのが目標だったんですけど、1年目から走らせていただいて、見る景色が変わりました。出るだけではなくて、上で活躍するためには何をすべきなのか。自分には何が足りないのか。このチームでイチから教えてもらいました」 2年生になり伊地知はチームの主力に成長する。出雲駅伝を5区で区間2位と好走すると、全日本大学駅伝はアンカーに抜擢された。その期待に応えて、最終8区で区間賞を獲得。3人を抜き去り、4位でゴールテープに飛び込んでいる。 「1年時は自分の区間で順位を落としてシード権を逃したので、全日本には人一倍の思いがあったんです。1年かけてリベンジすることができてうれしかったんですけど、表彰台に一歩届かなかった。もうちょっとできたんじゃないかなという悔しさもありましたね」 しかし、箱根駅伝で実力不足を実感することになる。花の2区を任されて、区間12位。6位から10位に順位を落としてしまった。 「藤木宏太さん(現・旭化成)がいい位置でつないでくれるベストな展開で、自分の持っている力も100%出すことができたと思います。だけど、他校のエースとの差をすごく感じましたね。下りで少し溜めて走れれば良かったんですけど、周囲のペースが速く、想定上に脚を使ってしまいました。最後は粘り切ることができず、正直、人生で一番きついレースになりました」 そして学生ハーフでもチームメイト2人に先着されて、目標のユニバ代表を逃した。だからこそ、伊地知は燃えている。 「新チームになって副将をさせてもらっているので、三大駅伝で目標を達成できるようにしっかりとチームを引っ張っていきたいです。自分はタフさが売りなので2区はもちろん、5区も見据えてやっていきたいと思っています。とにかく与えられた区間で望まれた結果を残したいですね」 駅伝シーズンで「エース」としての役割を期待されている伊地知は、平林とともに来冬のマラソンに参戦するプランも立てている。 「エースはどんな時でも強くなくてはいけません。調子がいいときだけでなく、どの区間を任されても、どんなコンディションでも求められた結果を残すのがエースだと思っています。自分はロードが得意なので三大駅伝は区間賞、マラソンはMGCを目標にやっていきたいです」 國學院大はユニバーシティゲームズの代表に選出された平林と中西、2月の全日本実業団ハーフで日本人学生歴代2位タイの1時間0分43秒で走った山本歩夢(2年)、5年目も学生駅伝シーズンを戦うことになった島崎慎愛(4年)に伊地知を加えた「5本柱」を形成する。その中で最もタフな男、伊地知が上昇気流のチームを次のステージに引き上げる。 ◎いじち・けんぞう/2001年8月23日生まれ。埼玉県出身。鶴ヶ島藤中→松山高→國學院大。自己記録5000m14分09秒88、10000m28分56秒08。高校時代は2年時の関東高校新人5000m7位が個人での最高成績で、5000mの高校ベストは14分43秒97で全国レベルではなかったものの、國學院大に進学して急成長。学生駅伝は1年時からフル出場中で、昨年は全日本大学駅伝8区で区間賞を獲得した。 文/酒井政人
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