◇東京マラソン(3月6日/都庁前スタート、東京駅前・行幸通りフィニッシュ)
「東京マラソン2021」の男子は、世界記録(2時間1分39秒)保持者で五輪2連覇(16年、21年)のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が2時間2分40秒の大会新で優勝。鈴木健吾(富士通)が2時間5分28秒で日本人トップの4位でフィニッシュした。
フィニッシュ後のインタビューで、鈴木の目には光るものがあった。
「昨年日本記録を出してから1年間とても苦しかったんですけど、それを今日乗り越えられたかなと思います」
昨年2月のびわ湖毎日マラソンを2時間4分56秒で優勝。日本人で初めて2時間5分を切り、この1年は目に見えぬプレッシャーとの戦いもあったのだろう。自身の日本記録に次ぐパフォーマンス歴代2位で駆け抜け、安堵の涙を見せた。
鈴木が東京に出場するのは、初マラソンとなった神奈川大4年時の2018年以来。日本記録保持者として「積極的にチャレンジしていきたい」と話していたが、エリウド・キプチョゲ(ケニア)らの第1集団(1km2分54秒設定)には付いていかず、第2集団で進めた。
レース前々日の記者会見では「コンディションはぼちぼち。(日本記録を樹立した)びわ湖の時とだいたい同じ流れでやってきているので、そこまで悪くない」と話していたが、実は「5、6割できたかどうかぐらいの練習内容だった」と万全な状態ではなかったことをレース後に明かした。
「本来なら前の集団でチャレンジしたいなっていう気持ちもあったんですけど、調子があまり良くないというのもあって、(第2集団の)2分58秒ペースに乗っかって走りました」
あえて第2集団につけたが、不調というのが嘘かのような貫禄のレースを見せた。
前半は、日本歴代5位の記録を持つ土方英和(Honda)が積極的に集団を引っ張ったが、鈴木も15km以降ポジションを上げると、ペースメーカーのペースが落ちかけると見るや、「ちょっと上げてほしい」とペースアップを促した。
「あまり状態が良くなかったので早い段階で勝負を決めたいなと思っていて、20kmぐらいからペースメーカーを少しあおりました。それで、ペースメーカーが外れた時に一気に勝負を仕掛けました」
23km過ぎにペースが上がると、先頭集団の日本人選手は徐々に次第にふるいにかけられていく。そして、25kmを前にペースメーカーが外れると、今度は鈴木は吉田祐也(GMOインターネットグループ)らを引き離し、日本人トップ争いに終止符を打った。
ここからは自らの日本記録への挑戦に。35kmまでは、1年前のびわ湖を上回るスプリットでレースを展開。しかし、終盤は向かい風が強かったこともあってペースダウンする。日本記録更新時は35kmから40kmまでを14分39秒でカバーしたが、今回は15分08秒かかった。
それでも、後半はほぼ単独走となる状況で、2時間5分台でまとめた。びわ湖の日本記録がフロックではないことを示すのに、十分なレース内容だっただろう。
元日本記録保持者で、日本陸連強化委員会中長距離・マラソン担当シニアディレクターの高岡寿成氏(カネボウ監督)は、「昨年のびわ湖では後半に強さを見せたが、今回はまた違った強さを見せた。1人でレースを組み立てて、終盤までもたせた。たぶんカツカツだったり、後半向かい風があったり、厳しいところもあったと思うんですけど、そこをうまく乗り切れた。マラソンのコツみたいなものを非常にうまくとえているようにも思いました」と評した。
鈴木は、己に打ち克ち、精神的な強さが増し、マラソンランナーとしていっそう磨きがかかった印象さえある。
このレースでジャパン・マラソン・チャンピオンシップ(JMC)シリーズ1のランキング1位を確定させ、目標としていた今夏の世界選手権代表の座も、妻の一山麻緒(ワコール)とともに、ほぼ手中に収めた。
その一方で、世界のトップとの差を改めて実感した。「世界を見据えていく上で、自分らしくチャレンジしながら少しずつ距離を縮めていきたいなと思っています」と、気を引き締めることも忘れなかった。
この謙虚さこそが、鈴木の魅力であり、伸びしろにもなっているだろう。今夏、ますます進化した鈴木の走りが見られそうだ。
文/和田悟志

|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.03.28
【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー
-
2025.03.28
-
2025.03.27
-
2025.03.27
-
2025.03.27
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
-
2025.03.21
-
2025.03.23
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.28
【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー
3月28日、東京都多摩市の国士大多摩陸上競技場で第7回国士大競技会が行われ、高校用規格の男子円盤投(1.75kg)において福宮佳潤(東京高1)が50m73をマークした。この記録は高校1年生の歴代ランキングで2位。高1で史 […]
2025.03.28
セイコーGGP100m サニブラウン、桐生祥秀、坂井、栁田がコールマンと激突 女子は23年世界陸上金のリチャードソン
日本陸連は3月28日、セイコーゴールデングランプリ2025(5月18日/東京・国立競技場)の男女100m出場予定選手を発表した。 男子の日本勢は22年、23年と世界選手権で2大会連続入賞を果たしているサニブラウン・アブデ […]
2025.03.28
日本選手権10000mエントリー確定! 男子・塩尻和也、吉田祐也、若林宏樹や女子・五島莉乃、廣中璃梨佳らが新たに出場登録
日本陸連は3月28日、第109回日本選手権10000m(4月12日/熊本総合)のエントリー選手を発表した。 21日には途中経過として男子は前回優勝者・葛西潤(旭化成)ら15人、女子は9人が登録されていたが、そこから新たに […]
2025.03.28
セイコーの東京世界陸上に向けた新CM「A TRUE MOMENT」が3月29日より公開
セイコーグループは3月28日、今年の9月に開催される東京2025世界陸上に向けた新CM「A TRUE MOMENT」を制作したことを発表した。新CMは、3月29日より特設サイトで公開し、今後テレビでも順次放映する。 セイ […]
2025.03.27
ミキハウスに東京五輪4×100mR出場の青山華依が入社 パリ五輪4×400mR代表の吉津拓歩が移籍
ミキハウスは3月27日、4月1日付で入社するミキハウススポーツクラブ所属の選手を発表した。陸上では女子短距離の甲南大を卒業する青山華依が加入し、男子短距離の吉津拓歩がジーケーラインから移籍する。 青山は2002年生まれ。 […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報