2022.01.24
2022年の箱根駅伝で光り輝いた大学生ランナーたち。最終学年を迎えた選手の中には実業団に進んで世界を目指す選手もいれば、ここを区切りに新たな道へ進む学生もいる。お届けするのは、最後の箱根駅伝できらりと光った4年生たち幾人かの物語――。
柏原竜二以来の連続区間賞
箱根駅伝5区で、2年連続で区間賞を獲得したのが帝京大の細谷翔馬(4年)だ。「2年連続で区間賞を取った選手がなかなかいなかったので、意識して走りました」。狙い通りの快挙だった。
山を駆け上がる特殊区間ゆえに、複数年連続で担う選手が多い。それにもかかわらず、細谷が言う通り、第85回~第88回(2009年~12年)に4年連続で区間賞を獲得した柏原竜二さん(東洋大)以降、意外なことに、2大会以上連続で獲得する選手が現れていなかった。
第89回大会に日体大優勝の立役者となった服部翔大(現・日立物流)は、当時3年生で区間賞を獲得したが、翌年は同級生の東洋大・設楽啓太(現・日立物流)に1秒差で敗れ、連続区間賞を逃している。山で圧倒的な存在感を示した青学大の神野大地(現・セルソース)も、翌年は万全な状態で望めず区間2位。東京五輪に出場した法大・青木涼真(Honda)は、2年生で区間賞を獲得したが、3、4年時と記録を短縮しながら区間賞は取れなかった。
5区は毎年新たなヒーローが誕生する区間でもあり、山を沸かせた彼らを持ってしても、連続区間賞を果たせない難しい区間。だが、近年続いていたそのジンクスをついに細谷が破った。
そもそも、前回区間賞獲得者でありながら、細谷の前評判は今回、突出して高かったわけではなかった。区間記録保持者の宮下隼人(東洋大4年)、11月の激坂最速王決定戦で学生トップの2位に入った殿地琢朗(國學院大4年)、青山学院大・原晋監督が太鼓判を押す若林宏樹(1年)、今季一躍ブレイクを果たした四釜峻佑(順天堂大3年)ら、新たな“山の神”候補も多く、むしろ細谷よりもライバルたちのほうが、前評判は上だった。
それもそのはず、細谷は10月の出雲駅伝には不出場。11月の全日本大学駅伝では、アンカーを任されながらも区間13位と振るわなかったからである。秋以降の細谷の走りを見れば、下馬評が低かったのも仕方がないことだった。
だが、細谷の不調の原因は明確だった。公務員試験の勉強が深夜まで及ぶこともあり、コンディションを整えられなかったことが、パフォーマンスに影響していたという。実際は、前半戦から夏にかけて絶好調。群馬・万座合宿の30km走では、チーム過去最高タイムを叩き出したほどで、走力は昨年度以上にアップしていたと言っていい。2年連続で区間賞を獲得したのみならず、記録が前回から1分19秒も縮めたのも、十分に納得のいくことだった。
卒業後は天童市で公務員ランナー
山で苦しむことの多かった帝京大にとって、ついに現れた山の名手。細谷が箱根の山を初めて意識したのは、宮城・東北高3年の時に参加した帝京大の万座合宿だったという。アップダウンの厳しい高所の万座で、上りの練習の時に大学生と渡り合うことができた。「意外に上りがいけるんじゃないか」。大学に入学してからは密かに5区を志すようになった。
「帝京大は山が苦手って周りからも見られていたと思うので、自分が走って、それを覆したかったんです」
下級生の頃はチームの選手層も厚く、なかなかメンバーに割って入ることができなかったが、3年生で出番が回ってくると、いきなり結果を残した。そして、今回も――。目標の往路優勝には届かなかったものの、帝京大過去最高順位となる往路2位の立役者の1人であり、箱根路には確かな足跡を残した。
大学卒業後は、地元の山形に戻り、天童市役所に勤務して実業団ランナーとは違ったかたちで走り続ける。山形県縦断駅伝や奥羽横断駅伝などの東北の駅伝大会ではもちろん、いずれはマラソンでの活躍を夢見ている。
実は、細谷が得意なのは上りだけではない。箱根では2区候補にも挙がったほどで、平地の走力もある。下りも決して不得手ではなく、今回の箱根でも最高点を越えてから若林を逆転し、区間賞を獲得。たまたま箱根5区の活躍が目立つが、オールマイティーにこなせるランナーだ。
“公務員ランナー”といえば、埼玉県庁に所属していた川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)が有名だが、数年後には細谷の代名詞になっているかもしれない。
細谷翔馬(ほそや・しょうま/帝京大)/2000年2月13日生まれ。山形県寒河江市出身。宮城・東北高卒。自己ベスト5000m13分55秒77、10000m28分53秒90。箱根駅伝:3年時5区区間賞、4年時5区区間賞
文/和田悟志

柏原竜二以来の連続区間賞
箱根駅伝5区で、2年連続で区間賞を獲得したのが帝京大の細谷翔馬(4年)だ。「2年連続で区間賞を取った選手がなかなかいなかったので、意識して走りました」。狙い通りの快挙だった。 山を駆け上がる特殊区間ゆえに、複数年連続で担う選手が多い。それにもかかわらず、細谷が言う通り、第85回~第88回(2009年~12年)に4年連続で区間賞を獲得した柏原竜二さん(東洋大)以降、意外なことに、2大会以上連続で獲得する選手が現れていなかった。 第89回大会に日体大優勝の立役者となった服部翔大(現・日立物流)は、当時3年生で区間賞を獲得したが、翌年は同級生の東洋大・設楽啓太(現・日立物流)に1秒差で敗れ、連続区間賞を逃している。山で圧倒的な存在感を示した青学大の神野大地(現・セルソース)も、翌年は万全な状態で望めず区間2位。東京五輪に出場した法大・青木涼真(Honda)は、2年生で区間賞を獲得したが、3、4年時と記録を短縮しながら区間賞は取れなかった。 5区は毎年新たなヒーローが誕生する区間でもあり、山を沸かせた彼らを持ってしても、連続区間賞を果たせない難しい区間。だが、近年続いていたそのジンクスをついに細谷が破った。 そもそも、前回区間賞獲得者でありながら、細谷の前評判は今回、突出して高かったわけではなかった。区間記録保持者の宮下隼人(東洋大4年)、11月の激坂最速王決定戦で学生トップの2位に入った殿地琢朗(國學院大4年)、青山学院大・原晋監督が太鼓判を押す若林宏樹(1年)、今季一躍ブレイクを果たした四釜峻佑(順天堂大3年)ら、新たな“山の神”候補も多く、むしろ細谷よりもライバルたちのほうが、前評判は上だった。 それもそのはず、細谷は10月の出雲駅伝には不出場。11月の全日本大学駅伝では、アンカーを任されながらも区間13位と振るわなかったからである。秋以降の細谷の走りを見れば、下馬評が低かったのも仕方がないことだった。 だが、細谷の不調の原因は明確だった。公務員試験の勉強が深夜まで及ぶこともあり、コンディションを整えられなかったことが、パフォーマンスに影響していたという。実際は、前半戦から夏にかけて絶好調。群馬・万座合宿の30km走では、チーム過去最高タイムを叩き出したほどで、走力は昨年度以上にアップしていたと言っていい。2年連続で区間賞を獲得したのみならず、記録が前回から1分19秒も縮めたのも、十分に納得のいくことだった。卒業後は天童市で公務員ランナー
山で苦しむことの多かった帝京大にとって、ついに現れた山の名手。細谷が箱根の山を初めて意識したのは、宮城・東北高3年の時に参加した帝京大の万座合宿だったという。アップダウンの厳しい高所の万座で、上りの練習の時に大学生と渡り合うことができた。「意外に上りがいけるんじゃないか」。大学に入学してからは密かに5区を志すようになった。 「帝京大は山が苦手って周りからも見られていたと思うので、自分が走って、それを覆したかったんです」 下級生の頃はチームの選手層も厚く、なかなかメンバーに割って入ることができなかったが、3年生で出番が回ってくると、いきなり結果を残した。そして、今回も――。目標の往路優勝には届かなかったものの、帝京大過去最高順位となる往路2位の立役者の1人であり、箱根路には確かな足跡を残した。 大学卒業後は、地元の山形に戻り、天童市役所に勤務して実業団ランナーとは違ったかたちで走り続ける。山形県縦断駅伝や奥羽横断駅伝などの東北の駅伝大会ではもちろん、いずれはマラソンでの活躍を夢見ている。 実は、細谷が得意なのは上りだけではない。箱根では2区候補にも挙がったほどで、平地の走力もある。下りも決して不得手ではなく、今回の箱根でも最高点を越えてから若林を逆転し、区間賞を獲得。たまたま箱根5区の活躍が目立つが、オールマイティーにこなせるランナーだ。 “公務員ランナー”といえば、埼玉県庁に所属していた川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)が有名だが、数年後には細谷の代名詞になっているかもしれない。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.03.29
青学大・若林宏樹の学生ラストランは2位!TBS感謝祭マラソン激走「箱根よりきつかった」
-
2025.03.29
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.29
青学大・若林宏樹の学生ラストランは2位!TBS感謝祭マラソン激走「箱根よりきつかった」
青学大の若林宏樹がTBSの「オールスター感謝祭2025春」に出演した。若林は番組恒例の赤坂ミニマラソンに出場して2位だった。 約5km、心臓破りの坂がランナーたちを苦しめる番組の人気企画。今年の箱根駅伝で5区区間新を出し […]
2025.03.29
女子やり投で16歳・嚴子怡が64m83 自身のU20世界記録を42cm塗り替え3度目の更新
3月28日に中国・成都で行われた投てきの招待競技会女子やり投で、16歳の嚴子怡が自身の持つU20世界記録を42cm更新する64m83を放った。 嚴は2008年5月生まれ。2023年に国際学校スポーツ連盟が主催するU15世 […]
2025.03.29
鈴木琉胤5000mで高校歴代2位13分25秒59 “世界”のレースを体感して日本人トップ 4月から早大へ/WAコンチネンタルツアー
2025年の世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ゴールド初戦となるモーリー・プラント競技会が3月29日、豪州・メルボルンで行われた。 男子5000mには4月から早大に進学する鈴木琉胤(八千代松陰高3千葉)が出場。高校歴 […]
2025.03.29
走高跳で男女上位 真野友博1位、髙橋渚1m86で2位 100mH田中佑美Vで3位まで日本勢/WAコンチネンタルツアー
2025年の世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ゴールド初戦となるモーリー・プラント競技会が3月29日、豪州・メルボルンで行われた。 日本からは22名が出場し、2種目で優勝。走高跳では男子が昨年のパリ五輪代表で22年世 […]
2025.03.29
編集部コラム「いつのまにか700号超え」
攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム?? 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。 編集スタッフが週替りで […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報