HOME 学生長距離

2021.12.20

箱根駅伝Stories/帰ってきた青学大の駅伝男・岸本大紀「強くなったことを実感したい」
箱根駅伝Stories/帰ってきた青学大の駅伝男・岸本大紀「強くなったことを実感したい」

箱根駅伝Stories

岸本大紀
Kishimoto Hironori(青山学院大学3年)

12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。本日から「箱根駅伝Stories」と題し、本番まで計19本の特集記事を掲載していく。

第2回目は青学大の「駅伝男」こと岸本大紀(3年)に話を聞いた。1年時に衝撃的な箱根デビューを飾った男は、ケガに苦しんだ2年時を経て、さらにパワーアップした姿を見せるつもりだ。

明暗分かれた2年間

11月7日の全日本大学駅伝。青学大に頼もしい男が帰ってきた。

2019-20年シーズン、1年生ながら岸本の活躍は華々しいものだった。学生三大駅伝デビュー戦となった出雲駅伝2区(5.8km)で区間賞を獲得。全日本大学駅伝2区でも区間5位ながら、従来の区間記録を上回る走りを見せた。

箱根では2004年からの原晋監督体制では初となる1年生での「花の2区」に抜擢。日本人1年生歴代最高記録の1時間7分03秒(区間5位)をマークし、チームを首位に押し上げる快走を見せた。その走りに誰もが「青学大・新エース誕生」を予感したことだろう。

だが、2年目は春先に故障で出遅れると、8月の夏合宿では右股関節を疲労骨折。急ピッチで箱根に間に合わせようと練習を再開したが、11月にも脚に痛みが出るなど、度重なる故障に見舞われた。

駅伝シーズンを棒に振った1年時を振り返り、岸本は「チームに貢献できないことがなにより悔しかった」と振り返る。

故障に苦しんだ高校時代

中学3年時の全中3000mは決勝12位だった岸本(右から3人目)。右端は大学でチームメイトになる同じ新潟出身の横田俊吾

思い返せば、節目で故障に悩まされる陸上人生を歩んできた。新潟県燕市出身の岸本は、小学2年の時に5歳年上の兄の影響で地元の分水ジュニア陸上クラブに加入。分水中3年時には全中3000mに出場(ラスト1周で転倒し12位)し、三条高時代も県高校総体5000mで3連覇を達成している。高3の11月には14分10秒35の新潟県高校記録(当時)も樹立するなど、着実に力をつけてきた。

その一方で、「高校時代は故障が多く、年間通して練習できたことがなかった」。特にインターハイなど大事なレース前の故障が多く、全国大会で結果を残すことができなかったという。

「高校時代は練習後のケアとかまったくしてなかったので、今思えば故障して当然だったなと思います」

ケアへの意識改革

青学大では「青トレ」と呼ばれるコアトレーニングのメソッドがある。岸本もその重要性を理解し、日々のケアに時間を費やすようになった。1年目からの快進撃の裏で、「練習の強度にリカバリーが追いついていなかった」と分析。故障中はコアトレーニングに取り組みながら、負荷の強弱をつけたバイクトレーニング等で再び走り出せる時への準備を行なってきた。

さらに今季はより一層ケアへの意識は高くなった。故障続きで「『陸上を辞めたい』と思うこともありましたが、家族も支えてくれましたし、なにより自分は陸上しかないと思った」時期も、「自分ができることはこれを乗り越えること」と復活への道を愚直に歩み続けてきた。

故障が癒えた今季は5月に5000mで13分58秒18の自己新をマーク。夏合宿も「2次合宿は100%練習を消化することができた」と手応えをつかんだ。

進化を証明する2年ぶりの箱根駅伝

そして迎えた駅伝復帰戦となる全日本では、前半のエース区間である3区でイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)、ジョセフ・ラジニ(拓大)に次ぐ、日本人トップの区間3位の好走。「さすがに1週間前は緊張もありましたが、大会が近づくにつれて調子も上がってきて、復活をアピールできて良かったです」と振り返る。

全日本後は、「久しぶりにレースで出力した影響が出た」と臀部付近の違和感を訴えたものの大事には至らず。原監督も「スタートラインに立てばあれくらいで走れるんだから」と勝負強さに太鼓判を押しており、2年ぶりの箱根路出走が近づいている。

「集団での走りが強いと思っているので、往路を走りたいなと思っていますし、もちろん2区も意識しています。2年前のような走りができるかはわかりませんが、強くなったと実感できるのは2区で自分の記録を超すことだと思っています」

今年のチームはエントリー選手16人全員が10000m28分台という驚異の選手層を誇る。だが岸本の持つ「駅伝力」はチーム内でもひと際輝く。

出雲、全日本であと一歩届かなかった優勝、そして箱根での王座奪還へ。苦境を乗り越えた男の力が絶対に必要となるはずだ。

◎きしもと・ひろのり/2000年10月7日生まれ。新潟県出身。173cm、52kg。分水中(新潟)→三条高→青学大。5000m13分58秒18、10000m28分32秒33。

文/田中 葵

箱根駅伝Stories 岸本大紀 Kishimoto Hironori(青山学院大学3年) 12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。本日から「箱根駅伝Stories」と題し、本番まで計19本の特集記事を掲載していく。 第2回目は青学大の「駅伝男」こと岸本大紀(3年)に話を聞いた。1年時に衝撃的な箱根デビューを飾った男は、ケガに苦しんだ2年時を経て、さらにパワーアップした姿を見せるつもりだ。

明暗分かれた2年間

11月7日の全日本大学駅伝。青学大に頼もしい男が帰ってきた。 2019-20年シーズン、1年生ながら岸本の活躍は華々しいものだった。学生三大駅伝デビュー戦となった出雲駅伝2区(5.8km)で区間賞を獲得。全日本大学駅伝2区でも区間5位ながら、従来の区間記録を上回る走りを見せた。 箱根では2004年からの原晋監督体制では初となる1年生での「花の2区」に抜擢。日本人1年生歴代最高記録の1時間7分03秒(区間5位)をマークし、チームを首位に押し上げる快走を見せた。その走りに誰もが「青学大・新エース誕生」を予感したことだろう。 だが、2年目は春先に故障で出遅れると、8月の夏合宿では右股関節を疲労骨折。急ピッチで箱根に間に合わせようと練習を再開したが、11月にも脚に痛みが出るなど、度重なる故障に見舞われた。 駅伝シーズンを棒に振った1年時を振り返り、岸本は「チームに貢献できないことがなにより悔しかった」と振り返る。

故障に苦しんだ高校時代

中学3年時の全中3000mは決勝12位だった岸本(右から3人目)。右端は大学でチームメイトになる同じ新潟出身の横田俊吾 思い返せば、節目で故障に悩まされる陸上人生を歩んできた。新潟県燕市出身の岸本は、小学2年の時に5歳年上の兄の影響で地元の分水ジュニア陸上クラブに加入。分水中3年時には全中3000mに出場(ラスト1周で転倒し12位)し、三条高時代も県高校総体5000mで3連覇を達成している。高3の11月には14分10秒35の新潟県高校記録(当時)も樹立するなど、着実に力をつけてきた。 その一方で、「高校時代は故障が多く、年間通して練習できたことがなかった」。特にインターハイなど大事なレース前の故障が多く、全国大会で結果を残すことができなかったという。 「高校時代は練習後のケアとかまったくしてなかったので、今思えば故障して当然だったなと思います」

ケアへの意識改革

青学大では「青トレ」と呼ばれるコアトレーニングのメソッドがある。岸本もその重要性を理解し、日々のケアに時間を費やすようになった。1年目からの快進撃の裏で、「練習の強度にリカバリーが追いついていなかった」と分析。故障中はコアトレーニングに取り組みながら、負荷の強弱をつけたバイクトレーニング等で再び走り出せる時への準備を行なってきた。 さらに今季はより一層ケアへの意識は高くなった。故障続きで「『陸上を辞めたい』と思うこともありましたが、家族も支えてくれましたし、なにより自分は陸上しかないと思った」時期も、「自分ができることはこれを乗り越えること」と復活への道を愚直に歩み続けてきた。 故障が癒えた今季は5月に5000mで13分58秒18の自己新をマーク。夏合宿も「2次合宿は100%練習を消化することができた」と手応えをつかんだ。

進化を証明する2年ぶりの箱根駅伝

そして迎えた駅伝復帰戦となる全日本では、前半のエース区間である3区でイェゴン・ヴィンセント(東京国際大)、ジョセフ・ラジニ(拓大)に次ぐ、日本人トップの区間3位の好走。「さすがに1週間前は緊張もありましたが、大会が近づくにつれて調子も上がってきて、復活をアピールできて良かったです」と振り返る。 全日本後は、「久しぶりにレースで出力した影響が出た」と臀部付近の違和感を訴えたものの大事には至らず。原監督も「スタートラインに立てばあれくらいで走れるんだから」と勝負強さに太鼓判を押しており、2年ぶりの箱根路出走が近づいている。 「集団での走りが強いと思っているので、往路を走りたいなと思っていますし、もちろん2区も意識しています。2年前のような走りができるかはわかりませんが、強くなったと実感できるのは2区で自分の記録を超すことだと思っています」 今年のチームはエントリー選手16人全員が10000m28分台という驚異の選手層を誇る。だが岸本の持つ「駅伝力」はチーム内でもひと際輝く。 出雲、全日本であと一歩届かなかった優勝、そして箱根での王座奪還へ。苦境を乗り越えた男の力が絶対に必要となるはずだ。 ◎きしもと・ひろのり/2000年10月7日生まれ。新潟県出身。173cm、52kg。分水中(新潟)→三条高→青学大。5000m13分58秒18、10000m28分32秒33。 文/田中 葵

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.11.22

3000m障害・三浦龍司インタビュー「雰囲気をガラリと変えられるような選手になりたい」東京世界陸上のメダル争いに求められるものとは

男子3000m障害日本記録保持者で、今夏のパリ五輪8位入賞の三浦龍司(SUBARU)がインタビューに応じ、今シーズンを振り返った。 パリでは自己4番目となる8分11秒72をマークして8位入賞。前回の東京(7位)に続く2大 […]

NEWS 積水化学が連覇に再挑戦!日本郵政グループ、資生堂、第一生命グループが追う パリ五輪代表らの激突にも注目/クイーンズ駅伝見どころ

2024.11.22

積水化学が連覇に再挑戦!日本郵政グループ、資生堂、第一生命グループが追う パリ五輪代表らの激突にも注目/クイーンズ駅伝見どころ

第44回全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝in宮城2024)は11月24日、宮城県松島町の文化観光交流館前をスタート、仙台市の弘進ゴムアスリートパーク仙台(仙台市陸上競技場)へフィニッシュする6区間42.195km […]

NEWS マキシマム クッショニングを搭載した新作ランニングシューズ「ナイキ ボメロ 18」が登場!

2024.11.22

マキシマム クッショニングを搭載した新作ランニングシューズ「ナイキ ボメロ 18」が登場!

ナイキは22日、全てのランナーに向け、マキシマム クッショニングとロードランニングの快適さに新しい基準をもたらす新作シューズ「ナイキ ボメロ 18」を発売することを発表した。 女性ランナーのニーズと詳細な意見を取り入れつ […]

NEWS WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価

2024.11.22

WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価

世界陸連(WA)は11月20日、ワールド・アスレティクス・アワード2024の「加盟国賞」の最終候補6カ国を発表した。この賞は年間を通して陸上競技の成長と知名度に貢献する功績をおさめた連盟を表彰するもので、各地域連盟から1 […]

NEWS パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー

2024.11.22

パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー

11月21日、米国テキサス州オースティンで世界陸連(WA)クロスカントリーツアー・ゴールドのクロス・チャンプスが開催され、男子(8.0km)はパリ五輪5000m7位E.クルガト(ケニア)が22分51秒で、女子(8.0km […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年12月号 (11月14日発売)

2024年12月号 (11月14日発売)

全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会

page top