男子走高跳で五輪2大会連続出場の衛藤昂(味の素AGF)、女子跳躍の中野瞳(和食山口)らが運営する一般社団法人Jump Festivalは10月23日、大阪市のヤンマースタジアム長居で跳躍種目に特化した公認競技会「JUMP FESTIVAL in OSAKA」を開催。無観客ながら、競い合いの中にも選手同士で互いに盛り上げ合うなど、大会名の通りの「FESTIVAL」の雰囲気で行われた。
衛藤は筑波大大学院に通い、中野も筑波大、同大学院の出身。さらに同じエージェントを通じて海外遠征をしていた縁もあり、それぞれが海外の競技会などで感じたこと、経験したことを日本でも広めていくことを目指して同法人を立ち上げたという。
「東京五輪を競技生活の区切りと考えていましたが、今後は陸上競技にどう貢献しようかと考えていました。そんな時に、ふと中野さんに相談してみたら、『ぜひやろう』と言ってくれたんです」(衛藤)
中野も、あこがれである東京五輪金メダリストのマライカ・ミハンボ(ドイツ)を例に挙げ、「海外のトップ選手は社会貢献を積極的に行っています。ミハンボ選手は昨年のコロナ禍の時も、SNSを通じてさまざまな発信をしていました。私も『何かをやりたい』と思っていた時に、衛藤君から連絡をもらったんです」。
5月頃から徐々に準備を始め、法人を立ち上げたのが8月。その時点では、11月頃に跳躍イベントを企画していたのだが、新型コロナ感染の第5波によって三重国体をはじめ中止・延期になる競技会が相次いだ。
そこで、公認競技会ができないかどうかを検討し、開催への道を探った。それを快諾してくれたのが大阪陸協。学生やシニア、マスターズの選手たちがより試合の機会を失ったことを聞き、記録会の部と選手権の部を設けた今大会の開催にこぎつけた。
残念ながら、準備時間や予算面の関係などから、棒高跳は断念せざるを得なかった。しかし、男女の走高跳、走幅跳、三段跳の跳躍種目の選手たちにとって、「あったらいいな」を実現させる大会を目指した。
そんな運営側の思いを、出場した選手たちもしっかりと感じ取っていた。男子走幅跳を7m61(±0)で制した遠藤泰司(新日本住設)は、「ジャンプがメインの大会を取り入れてくれて、本当にありがたいです。こういう試合がもっと増えてほしい」。大阪桐蔭高、立命大で全国トップクラスの成績を残してきた社会人2年目は、今季はアキレス腱痛の影響と、日本選手権の参加標準を100mでしか切れなかったことからスプリントに専念するかたちになったが、「走幅跳でやり残したことがあるので、橋岡君(優輝、富士通)を倒すつもりでやっていきたい」と再起を誓う。
1m76で女子走高跳1位の竹内萌(栃木スポ協)、6m03(+1.1)で女子走幅跳1位の平加有梨奈(ニッパツ)も、跳躍だけの競技会のおもしろさを口した。
「競技場をこんなに跳躍だけで使えることなんてなかった。もっとやってほしいです」(竹内)
「お祭りのように楽しく跳ぶことができました。こういう試合があったらいいなと思っていたことを実現してくれた。こういう試合が増えたらいいですね」(平加)
女子三段跳で中野とのV争いを制した金子史絵奈(青学大)は、「日本インカレの後は大きな大会がなく、引退試合をどうしようと思っていました。そんな時にこの大会の話を聞いたので、もう1度ギアを上げることができた」と言う。午後になって気温が下がり、向かい風2.4mの条件下ながら、2週間前に出した自己記録(12m84)に近づく12m64をマークし、「学生最後として、本当にいい試合になりました」。
そして、15m48(-0.9)で優勝を決め、大会最後の跳躍者として会場中から手拍子を受けて6回目を跳んだ男子三段跳の香嶋隼斗(大阪陸協)は、「最後だったので自分から手拍子を求めてみました。16mぐらいいったけど、ほんの少しファウルしてしまったのは残念。でも、普段は緊張ばかりの中で、今日は周りが盛り上げてくれたので、楽しく跳ぶことができました」と笑顔で振り返った。
「運営をすることで1人ひとりストーリーを知ることができました」と振り返る中野は、三段跳に出場して2位。今季限りでの引退を表明している衛藤も、東京五輪以来のピットに立ち、2m20で優勝して会場中の拍手を浴びた。ともに準備でほとんど寝ていないという中で、パフォーマンスでも大会をしっかりと盛り上げた。
「途中までは談笑していたけど、『どうしたら勝てるだろう』と試合モードに切り替わりました(笑)。選手だからこそ見せられるものがある。2m20という高さを間近に見られる大会はなかなかないので、そこは見せたいと思っていた。達成できて良かったです」
あくまでも競技会だったことで、イベント的な要素が主になるのではなく、「ピリッとした部分を出すことができた」と衛藤。切磋琢磨があるからこそ、跳ぶことの楽しさをより一層感じることができるのだろう。
ジャンパーたちの「あったらいいな」が、一つ現実となった。競技を終えた選手たちのほとんどが、笑顔で競技場を後にしていた。それを支えたスタッフたちにもまた、笑顔が広がっていた。
競技会だからこそ生まれる一体感があった


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