2019.09.15
Athlete Feature 城山正太郎(男子走幅跳・ゼンリン)
衝撃を与えた道産子アスリート
「跳ぶのが好き。それが一番」
日本記録が4つ誕生した福井の夜で、最大のサプライズをもたらした城山正太郎(ゼンリン)。世界ジュニア選手権銅メダル、日本代表など実績を残してはいたものの、この日を境に、一躍注目を集める存在となった。物静かで、表情を崩すことはほとんどない。数々の名選手を輩出している北の大地が育んだ、24歳のロングジャンパーの素顔とは――。
文/奥村 崇 写真/有川秀明
北海道の静かなるジャンパー
「性格ですか? 人見知りです」と苦笑した城山正太郎(ゼンリン)。日本記録を大幅に更新する8m40を跳んだ直後、観ている方がうなり、小躍りするようなビッグレコードに対して、表情を変えることなく記録を見届けると、右手で軽く拳を握り、ジャンパー仲間の祝福にほほ笑みを浮かべただけだった。
メインスタンド前でマイクを向けられ、続いてテレビ向けのインタビュー、ペン記者向けの取材をこなし、さらに記者会見が設定されて、東海大北海道の監督である広川龍太郎コーチと2人で席についた。日本記録保持者となった気持ちを聞かれる。
「まだ実感はないです」
日本新3つ、日本タイ1つが生まれた〝福井の奇跡〟の中で、もっとも大きな衝撃をもたらした男は、とても物静かだ。その一方で、「緊張すればするほど、集中が深くなる感覚はあります」と言う。
8m40が生まれる直前に、橋岡優輝(日大)による一足先の日本新、津波響樹(東洋大)の大ジャンプを間近で見たことで「自分も跳びたい」と心に燃えるものがあった。刺激を受け、静かなるゾーンへと転換していたのだ。
北海道を拠点にし続ける道産子アスリートだ。小学3年時に函館市の千代台陸上スクールに入り、小5の時には全国小学生100mにも出場している。クラブには中学卒業まで在籍。クラブの1学年後輩には金井大旺(ミズノ)がいて、昨年110mハードルで日本記録を更新した後輩の存在は大いに刺激になった。
この冬、クラブ時代の恩師である田口純子さんが亡くなったという。やんちゃ盛りの城山少年は「競技場の外から聞こえるくらいの声で怒られていました」と在りし日を懐かしむ。「『東京オリンピックに出るところが観たかった』とおっしゃっていたと伝え聞いて、がんばろうという気になりましたし、田口さんの教えは今もずっと生きています」と思いを馳せる。
短距離から跳躍へと戦場を移したのは、函館大有斗高1年の時。「短距離の学校出場枠が空いてない試合で走高跳に出場したことがきっかけ」だという。走幅跳はその冬から始めた。
「100mでなくても活躍できる種目があるならそれでいい。たぶん(跳ぶのが)楽しかったのだと思います」
高2でインターハイ初出場を果たすと、高3時にインターハイ北海道地区大会で優勝。全国では2年連続予選落ちに終わったが、東海大北海道の広川監督は「粗削りながらも助走に光るものを感じた」と振り返る。秋には国体少年Aで5位に入り、他大学からも声がかかったが、城山は地元の東海大北海道への進学を決めた。
大学1年時の日本インカレは1年生ただ1人の入賞(7位)。東海大北海道として初のインカレ入賞者でもある。この頃から頭角を表すと、大学2年時には世界ジュニア選手権(現・U20世界選手権)で銅メダルを獲得。順調にキャリアを重ねていった。道内に残るかどうかが、大きな岐路だったと言える。2学年上で混成競技に取り組む兄・光太郎が一足先に同大学へ進んでおり、兄との共同生活で生活が安定していた。小所帯の緩やかな雰囲気や、広川監督の「見守り型」指導が、性に合っていたのだろう。
3年時はユニバーシアード代表を逃した。選考会で学生1位となったものの、記録が追い風2.7mでの非公認だったことが影響したようだ。しかし、その後はU23強化のバックアップを得て7月に欧州へ遠征。チェコ・プラハに拠点を置き、1ヵ月近く滞在した中で、数々の試合に出場。ダイヤモンドリーグ観戦にも足を運んだ。また北米合宿を敢行するなど、広川監督は積極的に海外に連れ出した。
これらの経験が土台となり、元来の動じない性格も手伝って、城山の海外成績は安定しているといえる。
※この続きは2019年9月14日発売の『月刊陸上競技』10月号をご覧ください
Athlete Feature 城山正太郎(男子走幅跳・ゼンリン) 衝撃を与えた道産子アスリート
「跳ぶのが好き。それが一番」
日本記録が4つ誕生した福井の夜で、最大のサプライズをもたらした城山正太郎(ゼンリン)。世界ジュニア選手権銅メダル、日本代表など実績を残してはいたものの、この日を境に、一躍注目を集める存在となった。物静かで、表情を崩すことはほとんどない。数々の名選手を輩出している北の大地が育んだ、24歳のロングジャンパーの素顔とは――。 文/奥村 崇 写真/有川秀明北海道の静かなるジャンパー
「性格ですか? 人見知りです」と苦笑した城山正太郎(ゼンリン)。日本記録を大幅に更新する8m40を跳んだ直後、観ている方がうなり、小躍りするようなビッグレコードに対して、表情を変えることなく記録を見届けると、右手で軽く拳を握り、ジャンパー仲間の祝福にほほ笑みを浮かべただけだった。 メインスタンド前でマイクを向けられ、続いてテレビ向けのインタビュー、ペン記者向けの取材をこなし、さらに記者会見が設定されて、東海大北海道の監督である広川龍太郎コーチと2人で席についた。日本記録保持者となった気持ちを聞かれる。 「まだ実感はないです」 日本新3つ、日本タイ1つが生まれた〝福井の奇跡〟の中で、もっとも大きな衝撃をもたらした男は、とても物静かだ。その一方で、「緊張すればするほど、集中が深くなる感覚はあります」と言う。 8m40が生まれる直前に、橋岡優輝(日大)による一足先の日本新、津波響樹(東洋大)の大ジャンプを間近で見たことで「自分も跳びたい」と心に燃えるものがあった。刺激を受け、静かなるゾーンへと転換していたのだ。 [caption id="attachment_4386" align="aligncenter" width="296"] 8m40の日本新を確認しても表情1つ変えなかった城山正太郎[/caption] 北海道を拠点にし続ける道産子アスリートだ。小学3年時に函館市の千代台陸上スクールに入り、小5の時には全国小学生100mにも出場している。クラブには中学卒業まで在籍。クラブの1学年後輩には金井大旺(ミズノ)がいて、昨年110mハードルで日本記録を更新した後輩の存在は大いに刺激になった。 この冬、クラブ時代の恩師である田口純子さんが亡くなったという。やんちゃ盛りの城山少年は「競技場の外から聞こえるくらいの声で怒られていました」と在りし日を懐かしむ。「『東京オリンピックに出るところが観たかった』とおっしゃっていたと伝え聞いて、がんばろうという気になりましたし、田口さんの教えは今もずっと生きています」と思いを馳せる。 短距離から跳躍へと戦場を移したのは、函館大有斗高1年の時。「短距離の学校出場枠が空いてない試合で走高跳に出場したことがきっかけ」だという。走幅跳はその冬から始めた。 「100mでなくても活躍できる種目があるならそれでいい。たぶん(跳ぶのが)楽しかったのだと思います」 高2でインターハイ初出場を果たすと、高3時にインターハイ北海道地区大会で優勝。全国では2年連続予選落ちに終わったが、東海大北海道の広川監督は「粗削りながらも助走に光るものを感じた」と振り返る。秋には国体少年Aで5位に入り、他大学からも声がかかったが、城山は地元の東海大北海道への進学を決めた。 大学1年時の日本インカレは1年生ただ1人の入賞(7位)。東海大北海道として初のインカレ入賞者でもある。この頃から頭角を表すと、大学2年時には世界ジュニア選手権(現・U20世界選手権)で銅メダルを獲得。順調にキャリアを重ねていった。道内に残るかどうかが、大きな岐路だったと言える。2学年上で混成競技に取り組む兄・光太郎が一足先に同大学へ進んでおり、兄との共同生活で生活が安定していた。小所帯の緩やかな雰囲気や、広川監督の「見守り型」指導が、性に合っていたのだろう。 3年時はユニバーシアード代表を逃した。選考会で学生1位となったものの、記録が追い風2.7mでの非公認だったことが影響したようだ。しかし、その後はU23強化のバックアップを得て7月に欧州へ遠征。チェコ・プラハに拠点を置き、1ヵ月近く滞在した中で、数々の試合に出場。ダイヤモンドリーグ観戦にも足を運んだ。また北米合宿を敢行するなど、広川監督は積極的に海外に連れ出した。 これらの経験が土台となり、元来の動じない性格も手伝って、城山の海外成績は安定しているといえる。 ※この続きは2019年9月14日発売の『月刊陸上競技』10月号をご覧ください
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