2019.08.29
WEB特別記事
マラソンランナー・村山謙太の現在地(前編)
「チャンスがある限りは走りたい」
学生時代にトラック、ロード、駅伝と、フィールドを問わずに華々しい活躍を見せ、将来は日本のマラソン界を背負って立つ選手になると言われた村山謙太(旭化成)。だが、9月15日に開催される東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)の舞台に、村山は立つことができなかった。彼は今、何を目指し、どんな展望を描いているのか。2019シーズン後半戦を前に、村山の〝現在地〟を探った。
苦難の2019シーズン
駒大を2015年春に卒業し、社会人5年目となった2019年は、村山謙太(旭化成)にとって苦しいシーズンとなった。9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権を目指し、当初は3月の東京マラソン出場を予定していたが、「忘れもしない」(村山)2月1日に交通事故に遭って負傷。右膝内側の骨挫傷と診断された。自転車で信号待ちをしていたところ、後方から来た乗用車に巻き込まれて転倒したという。
自身の過失はなく、「一歩間違ったら死んでいたかもしれない」という不測の事態だったが、2日後の香川国際丸亀ハーフマラソンには強行出場した。しかし、そこでも序盤に脚を取られて転倒し、無念の途中棄権。痛みが悪化し、東京マラソン出場も断念せざるを得なくなった。
「ケガが長引いて、走り始めたのは3月中旬でした。MGCの参加資格を取ろうと4月末のハンブルク(ドイツ)には出場したのですが、やっぱり準備不足でダメで……」
こうして村山のMGC出場はなくなった。昨年7月の豪州・ゴールドコースト・マラソン(2位)では2時間9分50秒の自己新をマークしており、MGCの出場権を獲得するには期間内に2時間12分09秒でマラソンを完走するだけで良かった。だが、それができなかった。
恩師が絶賛する逸材
宮城・八軒中時代は自己ベストが1500m4分46秒、3000mも9分32秒に過ぎなかった村山が台頭したのは明成高時代。身長が伸び、1年時に5000mで14分22秒79をマークした。高3では13分49秒45(当時高校歴代7位)まで短縮し、10000mは28分24秒18(高校歴代3位)という大学生顔負けの快記録を叩き出した。
駒大でも1年で日本インカレ5000mを制し、3年時にはハーフマラソンで日本人学生最高となる1時間0分50秒(当時日本歴代3位)。4年時には10000mも日本人学生歴代5位(当時)の27分49秒94で走っている。
学生駅伝でも活躍し、3年時は出雲(3区)と全日本(4区)で区間新記録を樹立(距離の変更で現在は参考記録)。特に全日本の4区は、10000mとハーフで日本学生記録を持ち、ハーフでは59分台で3回も走破した世界レベルの留学生、山梨学大のメクボ・ジョブ・モグスのタイムを8秒上回るもので、関係者の度肝を抜いた。
さらに、村山は練習の40km走などでもマラソンの適性を示していたといい、マラソン元日本記録保持者の藤田敦史(現・駒大ヘッドコーチ)を育てた駒大の大八木弘明監督が「今まで指導した選手の中でも素材はピカイチ」と絶賛するほどだった。
類稀な才能を持つ反面、失速するレースも多かった。それでも、村山は駒大での4年間で着実に成長した。社会人1年目の2015年には10000mで当時日本歴代5位の27分39秒95をマークし、北京世界選手権に出場している。
そして、2016年2月には満を持して東京マラソンに出場。2時間16分58秒(30位)に終わったものの、前半は日本人でただ1人海外勢を追う積極性を見せた。
爆走か、失速か。その振れ幅が村山の魅力であり、持ち味だった。ところが、マラソン転向後はその輝きが急速に鳴りを潜めていく。レースの出場機会が減り、出場しても本調子とは思えない走りが目立つようになった。
「練習はやれていますし、試合前も調子はいいと思っているんです。でも、試合の結果が結びついてこない。ここ5年ほどそんな状態が続いています」
学生時代から変わらない気さくな笑顔を見せながらも、村山はその中にふと苦悩をにじませる。
文/山本慎一郎
<関連書籍>
『月刊陸上競技』2014年9月号:村山兄弟の対談が掲載
『月刊陸上競技』2015年3月号:「追跡 箱根駅伝」……指導者が語る村山兄弟の4年間
『月刊陸上競技』2011年11月号:村山謙太選手の特集あり
『箱根駅伝公式ガイドブック2015』
<PR>
この秋発売の『出雲駅伝30年史』には村山謙太選手のインタビュー記事が掲載されます
WEB特別記事 マラソンランナー・村山謙太の現在地(前編) 「チャンスがある限りは走りたい」
学生時代にトラック、ロード、駅伝と、フィールドを問わずに華々しい活躍を見せ、将来は日本のマラソン界を背負って立つ選手になると言われた村山謙太(旭化成)。だが、9月15日に開催される東京五輪マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)の舞台に、村山は立つことができなかった。彼は今、何を目指し、どんな展望を描いているのか。2019シーズン後半戦を前に、村山の〝現在地〟を探った。 [caption id="attachment_4197" align="aligncenter" width="700"]
苦難の2019シーズン
駒大を2015年春に卒業し、社会人5年目となった2019年は、村山謙太(旭化成)にとって苦しいシーズンとなった。9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権を目指し、当初は3月の東京マラソン出場を予定していたが、「忘れもしない」(村山)2月1日に交通事故に遭って負傷。右膝内側の骨挫傷と診断された。自転車で信号待ちをしていたところ、後方から来た乗用車に巻き込まれて転倒したという。 自身の過失はなく、「一歩間違ったら死んでいたかもしれない」という不測の事態だったが、2日後の香川国際丸亀ハーフマラソンには強行出場した。しかし、そこでも序盤に脚を取られて転倒し、無念の途中棄権。痛みが悪化し、東京マラソン出場も断念せざるを得なくなった。 「ケガが長引いて、走り始めたのは3月中旬でした。MGCの参加資格を取ろうと4月末のハンブルク(ドイツ)には出場したのですが、やっぱり準備不足でダメで……」 こうして村山のMGC出場はなくなった。昨年7月の豪州・ゴールドコースト・マラソン(2位)では2時間9分50秒の自己新をマークしており、MGCの出場権を獲得するには期間内に2時間12分09秒でマラソンを完走するだけで良かった。だが、それができなかった。恩師が絶賛する逸材
宮城・八軒中時代は自己ベストが1500m4分46秒、3000mも9分32秒に過ぎなかった村山が台頭したのは明成高時代。身長が伸び、1年時に5000mで14分22秒79をマークした。高3では13分49秒45(当時高校歴代7位)まで短縮し、10000mは28分24秒18(高校歴代3位)という大学生顔負けの快記録を叩き出した。 駒大でも1年で日本インカレ5000mを制し、3年時にはハーフマラソンで日本人学生最高となる1時間0分50秒(当時日本歴代3位)。4年時には10000mも日本人学生歴代5位(当時)の27分49秒94で走っている。 学生駅伝でも活躍し、3年時は出雲(3区)と全日本(4区)で区間新記録を樹立(距離の変更で現在は参考記録)。特に全日本の4区は、10000mとハーフで日本学生記録を持ち、ハーフでは59分台で3回も走破した世界レベルの留学生、山梨学大のメクボ・ジョブ・モグスのタイムを8秒上回るもので、関係者の度肝を抜いた。 さらに、村山は練習の40km走などでもマラソンの適性を示していたといい、マラソン元日本記録保持者の藤田敦史(現・駒大ヘッドコーチ)を育てた駒大の大八木弘明監督が「今まで指導した選手の中でも素材はピカイチ」と絶賛するほどだった。 類稀な才能を持つ反面、失速するレースも多かった。それでも、村山は駒大での4年間で着実に成長した。社会人1年目の2015年には10000mで当時日本歴代5位の27分39秒95をマークし、北京世界選手権に出場している。 そして、2016年2月には満を持して東京マラソンに出場。2時間16分58秒(30位)に終わったものの、前半は日本人でただ1人海外勢を追う積極性を見せた。 爆走か、失速か。その振れ幅が村山の魅力であり、持ち味だった。ところが、マラソン転向後はその輝きが急速に鳴りを潜めていく。レースの出場機会が減り、出場しても本調子とは思えない走りが目立つようになった。 「練習はやれていますし、試合前も調子はいいと思っているんです。でも、試合の結果が結びついてこない。ここ5年ほどそんな状態が続いています」 学生時代から変わらない気さくな笑顔を見せながらも、村山はその中にふと苦悩をにじませる。 [caption id="attachment_4198" align="aligncenter" width="700"]
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