写真/時事
◇東京五輪(7月30日~8月8日/国立競技場)陸上競技8日目
陸上競技8日目のモーニングセッション、男子50km競歩が札幌で行われた。
国際大会で50km競歩が行われるのはこれが最後。その舞台で「高校生の時から50km競歩で東京五輪」を目指してきた22歳の川野将虎(旭化成)がやってのけた。
前日、20km競歩で同じ旭化成の池田向希が銀メダルを獲得。「おめでとう」とメッセージを送ると、「ありがとう。明日は笑顔で終わろうな」と返ってきた。同じ静岡出身(※川野は宮崎県生まれ)の同学年。高校時代からライバルとして歩き、東洋大、そして旭化成とチームメイトとなった。
20kmと同様に、1人中国の羅亜東が抜け出す。世界記録保持者のY.ディニズ(フランス)が離脱したりペースアップしたり揺さぶりをかける。そんななか、川野は静かに勝負所を待った。30km手前でD.トマラ(ポーランド)が抜け出す。そこにはつけなかったが、2集団をしっかりキープ。トマラが一人旅となるなか、異変は41kmすぎに起こる。
「暑さで内臓がやられて、途中から気持ち悪くなっていました」。川野は嘔吐し、倒れ込んだ。両拳で地面を叩く。すぐさま起き上がり、前を追った。大学時代から指導を受ける酒井瑞穂コーチからは「吐いてもいいから」と言われていたという。
2位集団まで一気に戻す。最後はベテラン勢の駆け引きにメダル争いから脱落したものの、3時間51分56秒で完歩。初出場で6位入賞をもぎ取った。
「50kmは今回が最後。本当は今村(文男)コーチたちがつないできてくださった方々への恩返しとしてメダルが取れればよかったのですが、今の力を出し切りました」
そして、「弱虫だった自分の背中を常に押してくれた瑞穂コーチに感謝したいです」と言う。
川野は礼儀正しく、優しい男。瑞穂コーチいわく「虫も殺せない」。幼い頃は柔道を習っていたが、相手を投げ飛ばせなかった。高校時代からその才能を買われて競歩でも結果を残してきたが、今ひとつタイトルに届かなかったのも、その弱さがあったからかもしれない。
だが、東洋大で瑞穂コーチと出会い、上を目指す長距離ブロックの姿勢を学び、池田の強気な姿勢に触れ、少しずつだが精神的にも成長していった。2019年4月の日本選手権50kmで鈴木雄介(富士通)に敗れて世界選手権は出られず。池田はその舞台(20km)で6位だった。同年の関東インカレ10000m競歩では失格で泣き崩れた。何かが足りなかった。
それからはスピードにも磨きをかけ、秋の高畠では3時間36分45秒の日本新で東京五輪代表に内定。「ここぞという度胸は実は池田より川野のほうがある」と瑞穂コーチが評価していた。
倒れ込んでからの追い上げに「弱虫」だった姿はない。1歩でも前へ、1つでも上へ、そして東洋大の象徴でもある「1秒をけずりだす」ために歩いた。
「50kmはこれで終わりですが、次は新しい競歩(35km)の世界が始まる。それを自分がつないでいけるようなつもりでやっていきたい」
歩き続けた先に待っていた世界。次はもっと上を目指す。

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