2021.02.15
1月1日に行われた第65回全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)は富士通、トヨタ自動車、旭化成の強豪3チームが予想通り強さを発揮してトップスリーを占めたが、その次の4位に入ったのが東日本実業団対抗駅伝で5位だった日立物流。日立電線のチームを譲り受けるかたちで2012年4月に創部し、16年の9位がこれまでのチーム最高成績だった。昨年4月に就任したばかりの別府健至監督は、兵庫・西脇工高では全国高校駅伝で、進学した日体大では全日本大学駅伝で優勝メンバーに名を連ね、さらに1999年に母校・日体大の駅伝監督になってからは、2013年の箱根駅伝で指導者として優勝を経験している。そんな駅伝を知り尽くした男が、実業団の監督1年目に掲げた目標が「ニューイヤー駅伝8位入賞」。選手たちには何を伝え、どんなチーム作りをしてきたのだろうか。
◎文/小森貞子
◎撮影/奥井隆史
東日本も全日本も監督の読み通りの結果に
これも縁だろう。山梨学院大4年の永戸聖が上田誠仁監督から「日清食品の内定、なくなった」と知らされたのが、2019年1月の箱根駅伝直後だった。就職先として内定をもらっていた日清食品グループが陸上部の規模を縮小することになり、進路が白紙
に。卒業間際の苦境に声をかけてくれたチームの1つが日立物流で、永戸は2月に入社が決まり、あれから2年が経とうとしている。
入社1年目のニューイヤー駅伝に出番はなく、今年が初出場。1区を走るのは大学3年の箱根駅伝以来だが、「それほど緊張はなかった」と永戸。スタート前、別府監督には「前に出て行かなくていいから」と声をかけられたそうだ。
「1区の役目って自分が『区間賞を取りたい』というより、先頭といかに秒差を小さくするかだと思うんです。だから、スローペースの中で、『最後に出ればいいから』と後ろで我慢していました」
永戸は高崎中継所を目前にしてのスパート合戦で、トップの富士通から6秒遅れの6位。自身「上出来」という走りで2区のリチャード・キムニャンにタスキをつなぐと、昨年の全日本実業団対抗選手権10000m優勝のキムニャンが5人抜きでトップに躍り出る快走。3区の栃木渡は「うれしい気持ちもありましたけど、まさかトップで来るとは……」と、想定外の驚きもあったようだ。
栃木は順大3年時の箱根駅伝で4区の区間賞を取った、入社3年目の選手。松戸市に拠点を置く日立物流は大学と同じ千葉県内にあり、「江戸川沿いの堤防や21世紀の森など、練習環境がいいので決めた」と言う。入って1年目からニューイヤー駅伝で各チームのエースが集う最長4区(22.4㎞)を任されたのはいいが、区間29位の洗礼。「チームの中ではしっかり練習を積めていたと思ったんですけど、いざ走ってみて、実業団の厳しさを知りました」と、栃木は苦い思い出を振り返った。
今回は「どの区間も走れるように準備をして」というコーチングスタッフからの指示を受けていた中での3区。11月末の八王子ロングディスタンス10000mで28分09秒05の自己ベストを出し、上り調子で迎えた元日の駅伝は区間13位。順位は5番手に下がったが、4区にエースの設楽啓太、7区に移籍1年目の服部翔大と経験豊富な29歳コンビを配した今回は、「4区以降に(順位を)上げることができると踏んでいた」(別府監督)。
案の定、いったん7位まで下げた順位をアンカーの服部が4位へ引き上げてフィニッシュし、上には〝3強〟と言われたチームだけ。別府監督は「いきなり4位は出来すぎですね」と笑うが、内心「6位ぐらいを考えていた」とも。栃木は「東日本実業団対抗駅伝は5番を目指すと言って5番。全日本は入賞と言っていて4番ですから、監督の思惑通りなんです」と、今度の結果でまた選手たちの信頼感が高まった。
チームの目標が「駅伝入賞」で一つに
別府監督が日立物流の関係者から「お会いしたい」と連絡を受けたのは、昨年のニューイヤー駅伝が終わってそれほど時間が経っていない時期だった。2015年に日体大の駅伝監督を退いてから同大学の教職に就いていたが、その間、指導者の話がまったくなかったわけではない。しかし、「まずは勧誘した学生が卒業するまでは」と次は考えていなかった。それでも会うことを承諾したのは、「5年経って、やはり現場でやりたいという思いが強くなったんでしょうね」。
結論を出すのは早かった。「ぜひやらせてほしい」と返事をするまでに、1ヵ月はかかっていない。
今年の4月で55歳。「陸上が好きだから」という別府監督の受託理由は、西脇工高時代の恩師・渡辺公二先生譲りかもしれない。渡辺監督率いる兵庫の西脇工高が、全国高校駅伝で初優勝を飾ったのが1982年(昭和57年)の第33回大会。その時のアンカーが1年生の別府健至だった。
ちなみに、監督と同時期にHondaから移籍してきた服部は、2013年の箱根駅伝で優勝した時の日体大の5区を務め、ぶっちぎりの区間賞で30年ぶり栄冠の立役者となった。別府監督の教え子になるが、日立物流入りの話はまったく別に進行していたという。ここにも不思議な縁があった。
この続きは2021年2月13日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから
東日本も全日本も監督の読み通りの結果に
これも縁だろう。山梨学院大4年の永戸聖が上田誠仁監督から「日清食品の内定、なくなった」と知らされたのが、2019年1月の箱根駅伝直後だった。就職先として内定をもらっていた日清食品グループが陸上部の規模を縮小することになり、進路が白紙 に。卒業間際の苦境に声をかけてくれたチームの1つが日立物流で、永戸は2月に入社が決まり、あれから2年が経とうとしている。 入社1年目のニューイヤー駅伝に出番はなく、今年が初出場。1区を走るのは大学3年の箱根駅伝以来だが、「それほど緊張はなかった」と永戸。スタート前、別府監督には「前に出て行かなくていいから」と声をかけられたそうだ。 「1区の役目って自分が『区間賞を取りたい』というより、先頭といかに秒差を小さくするかだと思うんです。だから、スローペースの中で、『最後に出ればいいから』と後ろで我慢していました」 永戸は高崎中継所を目前にしてのスパート合戦で、トップの富士通から6秒遅れの6位。自身「上出来」という走りで2区のリチャード・キムニャンにタスキをつなぐと、昨年の全日本実業団対抗選手権10000m優勝のキムニャンが5人抜きでトップに躍り出る快走。3区の栃木渡は「うれしい気持ちもありましたけど、まさかトップで来るとは……」と、想定外の驚きもあったようだ。 栃木は順大3年時の箱根駅伝で4区の区間賞を取った、入社3年目の選手。松戸市に拠点を置く日立物流は大学と同じ千葉県内にあり、「江戸川沿いの堤防や21世紀の森など、練習環境がいいので決めた」と言う。入って1年目からニューイヤー駅伝で各チームのエースが集う最長4区(22.4㎞)を任されたのはいいが、区間29位の洗礼。「チームの中ではしっかり練習を積めていたと思ったんですけど、いざ走ってみて、実業団の厳しさを知りました」と、栃木は苦い思い出を振り返った。 今回は「どの区間も走れるように準備をして」というコーチングスタッフからの指示を受けていた中での3区。11月末の八王子ロングディスタンス10000mで28分09秒05の自己ベストを出し、上り調子で迎えた元日の駅伝は区間13位。順位は5番手に下がったが、4区にエースの設楽啓太、7区に移籍1年目の服部翔大と経験豊富な29歳コンビを配した今回は、「4区以降に(順位を)上げることができると踏んでいた」(別府監督)。 案の定、いったん7位まで下げた順位をアンカーの服部が4位へ引き上げてフィニッシュし、上には〝3強〟と言われたチームだけ。別府監督は「いきなり4位は出来すぎですね」と笑うが、内心「6位ぐらいを考えていた」とも。栃木は「東日本実業団対抗駅伝は5番を目指すと言って5番。全日本は入賞と言っていて4番ですから、監督の思惑通りなんです」と、今度の結果でまた選手たちの信頼感が高まった。チームの目標が「駅伝入賞」で一つに
別府監督が日立物流の関係者から「お会いしたい」と連絡を受けたのは、昨年のニューイヤー駅伝が終わってそれほど時間が経っていない時期だった。2015年に日体大の駅伝監督を退いてから同大学の教職に就いていたが、その間、指導者の話がまったくなかったわけではない。しかし、「まずは勧誘した学生が卒業するまでは」と次は考えていなかった。それでも会うことを承諾したのは、「5年経って、やはり現場でやりたいという思いが強くなったんでしょうね」。 結論を出すのは早かった。「ぜひやらせてほしい」と返事をするまでに、1ヵ月はかかっていない。 今年の4月で55歳。「陸上が好きだから」という別府監督の受託理由は、西脇工高時代の恩師・渡辺公二先生譲りかもしれない。渡辺監督率いる兵庫の西脇工高が、全国高校駅伝で初優勝を飾ったのが1982年(昭和57年)の第33回大会。その時のアンカーが1年生の別府健至だった。 ちなみに、監督と同時期にHondaから移籍してきた服部は、2013年の箱根駅伝で優勝した時の日体大の5区を務め、ぶっちぎりの区間賞で30年ぶり栄冠の立役者となった。別府監督の教え子になるが、日立物流入りの話はまったく別に進行していたという。ここにも不思議な縁があった。 この続きは2021年2月13日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2024.11.22
WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価
2024.11.22
パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー
-
2024.11.22
-
2024.11.21
-
2024.11.21
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
-
2024.11.20
2024.11.01
吉田圭太が住友電工を退部 「充実した陸上人生を歩んでいきたい」競技は継続
2024.11.07
アシックスから軽量で反発性に優れたランニングシューズ「NOVABLAST 5」が登場!
-
2024.10.27
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2024.11.22
マキシマム クッショニングを搭載した新作ランニングシューズ「ナイキ ボメロ 18」が登場!
ナイキは22日、全てのランナーに向け、マキシマム クッショニングとロードランニングの快適さに新しい基準をもたらす新作シューズ「ナイキ ボメロ 18」を発売することを発表した。 女性ランナーのニーズと詳細な意見を取り入れつ […]
2024.11.22
WA加盟連盟賞に米国、インド、ポルトガルなどがノミネート 育成プログラム等を評価
世界陸連(WA)は11月20日、ワールド・アスレティクス・アワード2024の「加盟国賞」の最終候補6カ国を発表した。この賞は年間を通して陸上競技の成長と知名度に貢献する功績をおさめた連盟を表彰するもので、各地域連盟から1 […]
2024.11.22
パリ五輪7位のクルガトが優勝!女子は地元米国・ヴェンダースがV/WAクロカンツアー
11月21日、米国テキサス州オースティンで世界陸連(WA)クロスカントリーツアー・ゴールドのクロス・チャンプスが開催され、男子(8.0km)はパリ五輪5000m7位E.クルガト(ケニア)が22分51秒で、女子(8.0km […]
2024.11.22
田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設
来春、開幕する陸上リーグ「グランドスラム・トラック」の“レーサー”として、女子中長距離の田中希実(New Balance)が契約したと発表された。 同大会は1990年代から2000年代に男子短距離で活躍したマイケル・ジョ […]
2024.11.21
早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結
11月21日、株式会社コラゾンは同社が展開する麹専門ブランド「MURO」を通じて、早大競走部駅伝部とスポンサー契約を結んだことを発表した。 コラゾン社は「MURO」の商品である「KOJI DRINK A」および「KOJI […]
Latest Issue 最新号
2024年12月号 (11月14日発売)
全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会