2020.12.22
箱根駅伝直前Special
学生長距離Close-up
加藤 淳
Kato Atsushi(駒澤大学4年)
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューを毎月お届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。12月は箱根駅伝直前Specialと題し、8チームの選手・監督のインタビュー記事を掲載していく。
第4回目は、11月の全日本大学駅伝を6年ぶりに制した駒大から、4年生の加藤淳に話を聞いた。中学、高校と世代の代表格として活躍。大学では苦しく辛抱の時期もありながら、ここにきてスポットを浴びる存在に浮上してきた。伊勢路で1区を好走した“切り込み隊長”の、最後の箱根駅伝にかける思いとは――。
4年目にして練習の成果が結実
「全日本では、個人としては区間賞を狙っていました。レースの作り方、流れの乗り方などにミスがあって、集団が動いた時にうまく反応ができなかったり、飛び出すタイミングが少し早かったり。最後まで冷静に進めることができれば、もう少し順位が変わったかな、と。そういうレース運びの課題を解決して箱根に臨みたいです」
全日本大学駅伝1区(9.5km)で区間3位(27分13秒=区間新)。加藤はこれまでの学生駅伝の個人成績では最高の区間順位をつかんで見せた。しかし、本人は反省が口をつく。自身の意識はもっと高いところにあったようだ。
ただ、トップとは6秒差。その後の優勝争いを展望すれば、ライバルの東海大に対して10秒、青学大に対して13秒のアドバンテージを作ったのは、大きな貢献だと言える。駒大は2区でいったん後退したが、中盤から巻き返し、好位置でアンカー・田澤廉(2年)にリレー。加藤の働きを起点として、6年ぶりの優勝に結びついた。
今季、加藤は上昇気流に乗っている。2月22日の日本選手権クロカン(10km)は43位(31分29秒)に終わったが、7月18日のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会5000mD組では13分53秒48で組1着。兵庫・西脇工高時代の2016年以来、4年ぶりに自己記録を更新した。さらに、9月13日の日本インカレ5000mでは13分43秒61と再び自己新をマークして4位に入った。
5000mを皮切りに、この秋は一気に学生トップクラスの仲間入りを果たした印象だが、この勢いは何が源泉なのだろうか。加藤はこう自己分析する。
「元々故障が多く、特に大学1、2年と続けて、長期の故障がありました。今年はそれがなく、継続して練習ができています。また、今年は練習の質がかなり高く、練習での設定ペースが例年より格段に違ったりしています。自分はゆっくりのペースではなく、スピードに乗っていかないと身体が動かないタイプ。自分に合った練習ができてるというのも、好調の要因でしょうか」
加藤のコメントを、大八木弘明監督の解説が裏付ける。
「シーズン前期はスピード系の練習を重点的にやって、夏はゆっくり長い距離に取り組み、そこをうまく区分けしてやれましたね。スピード練習と持久走のバランスが、4年になってようやくうまく噛み合ってきた感じです。下級生の頃は距離走をやると身体にダメージがあり、スピードを生かせていなかったんです。もう少しスタミナの裏付けがしっかりしてきたら、近く5000m13分30秒台はいくでしょう」
伸び悩んでも腐らず歩み続けた4年間
兵庫・大久保中時代、全中3000mで4位入賞の実績がある。県内の名門・西脇工高に入学すると、1年時から世代を代表する活躍が続く。国体少年B3000mは3位、全国高校駅伝は1年生にして最長区間の1区(10km)を任された(区間39位)。
2年生にしてインターハイ5000mの決勝進出を果たし(11位)、秋の国体少年A5000mは3年生に混じって8位。3年時はインターハイ5000m6位、国体少年A5000m7位、全国高校駅伝1区6位と堂々たる成績を残してきた。国体は種目や区分が変わるが、3年連続入賞である。
高3のインターハイでは5000m6位と活躍(左から2人目が加藤)
駒大の門を叩き、1年目から出雲駅伝で1区(13位)を任されていることからも、大八木監督らスタッフの期待が大きかったことがわかる。以後、駒大のレギュラー格ではあり続けたが、下記にある通り好走と凡走の波があり、不完全燃焼が続いた。
■加藤淳の学生三大駅伝&箱根駅伝予選会成績
<1年時>
出雲1区(8.0km) 区間13位(24分27秒)
全日本5区(11.6km) 区間 7位(35分13秒)
<2年時>
全日本1区(9.5km) 区間 8位(27分40秒)
箱根予選会(ハーフ) 19位(1時間3分12秒)
箱根4区(20.9km) 区間11位(1時間4分03秒
<3年時>
全日本6区(12.8km) 区間 4位(38分10秒)
箱根8区(21.4km) 区間11位(1時間6分52秒)
<4年時>
全日本1区(9.5km) 区間 3位(27分13秒)
「大学に入った時は1年目から箱根を走って活躍するというビジョンを持って入学したのですが、それが思い通りにいかなくて……。中学、高校と全国を一緒に走った選手たちが活躍している姿を見て、悔しい思いをする時期もありました」
実業団で活躍する遠藤日向(福島・学法石川高→住友電工)、名取燎太(長野・佐久長聖高→東海大)、塩澤稀夕(三重・伊賀白鳳高→東海大)、西田壮志(熊本・九州学院高→東海大)、吉田圭太(広島・世羅高→青学大)、西山和弥(群馬・東農大二高→東洋大)、1学年下の中谷雄飛(長野・佐久長聖高→早大)らは、高校時代に全国大会で競り合ったライバルたちだ。かつて肩を並べ、さらなる躍進を誓った仲間たちの、自分より上のステージで輝く姿がまぶしく感じた。
だが、真面目な性格。コツコツ取り組み伸び悩んだ時期も、腐ることなく歩み続けた。4年近く時間を使い、地中に伸ばした根は太く長い。その分だけ、大きく高く伸びようとしている。
「『ようやく』でしょうか?」と語りかけると、加藤はこう答えた。「今でもまだまだ、同期たちには置いて行かれていると思っているんです。『まだまだ』です」。
11月の全日本大学駅伝では1区区間3位と好走。チームの6年ぶり優勝に貢献した
いよいよ最後の箱根駅伝を迎える。2年時(4区)と3年時(8区)に2度、区間11位と辛酸をなめた舞台だ。
「どちらも後半に大きく失速する走りで、長い距離のスタミナ不足が分かりやすいぐらい結果に出ていた。スタミナ不足という課題に一生懸命取り組んできました」
高校時代、1年時から駅伝で最長区間の1区(10km)に登場し、2年時の全国高校選抜10000m2位の実績などから、長い距離への適応が早いタイプだと誤解されがちだが、加藤はむしろ距離への対応には苦労してきたと言う。「高校時代はチーム事情もあって1年の頃から1区を走っていたのですが、なかなか距離に対応できず、3年になってやっと結果が出たんです」。
言葉通り、全国高校駅伝の成績は1年時が1区39位、2年時は1区29位と苦戦。3年時に1区6位と花開いた。振り返れば、高校時代に10kmを克服するまでの軌跡と、大学で20kmに取り組んできた過程が似ている。高校の最終学年で成績を上げたように、大学最後の箱根が殻を破る舞台になる。
◎かとう・あつし/1998年8月19日生まれ。兵庫県出身。166cm、50kg。大久保中(兵庫)→西脇工高→駒大。5000m13分43秒61、10000m28分36秒59
文/奥村 崇
4年目にして練習の成果が結実
「全日本では、個人としては区間賞を狙っていました。レースの作り方、流れの乗り方などにミスがあって、集団が動いた時にうまく反応ができなかったり、飛び出すタイミングが少し早かったり。最後まで冷静に進めることができれば、もう少し順位が変わったかな、と。そういうレース運びの課題を解決して箱根に臨みたいです」 全日本大学駅伝1区(9.5km)で区間3位(27分13秒=区間新)。加藤はこれまでの学生駅伝の個人成績では最高の区間順位をつかんで見せた。しかし、本人は反省が口をつく。自身の意識はもっと高いところにあったようだ。 ただ、トップとは6秒差。その後の優勝争いを展望すれば、ライバルの東海大に対して10秒、青学大に対して13秒のアドバンテージを作ったのは、大きな貢献だと言える。駒大は2区でいったん後退したが、中盤から巻き返し、好位置でアンカー・田澤廉(2年)にリレー。加藤の働きを起点として、6年ぶりの優勝に結びついた。 今季、加藤は上昇気流に乗っている。2月22日の日本選手権クロカン(10km)は43位(31分29秒)に終わったが、7月18日のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会5000mD組では13分53秒48で組1着。兵庫・西脇工高時代の2016年以来、4年ぶりに自己記録を更新した。さらに、9月13日の日本インカレ5000mでは13分43秒61と再び自己新をマークして4位に入った。 5000mを皮切りに、この秋は一気に学生トップクラスの仲間入りを果たした印象だが、この勢いは何が源泉なのだろうか。加藤はこう自己分析する。 「元々故障が多く、特に大学1、2年と続けて、長期の故障がありました。今年はそれがなく、継続して練習ができています。また、今年は練習の質がかなり高く、練習での設定ペースが例年より格段に違ったりしています。自分はゆっくりのペースではなく、スピードに乗っていかないと身体が動かないタイプ。自分に合った練習ができてるというのも、好調の要因でしょうか」 加藤のコメントを、大八木弘明監督の解説が裏付ける。 「シーズン前期はスピード系の練習を重点的にやって、夏はゆっくり長い距離に取り組み、そこをうまく区分けしてやれましたね。スピード練習と持久走のバランスが、4年になってようやくうまく噛み合ってきた感じです。下級生の頃は距離走をやると身体にダメージがあり、スピードを生かせていなかったんです。もう少しスタミナの裏付けがしっかりしてきたら、近く5000m13分30秒台はいくでしょう」伸び悩んでも腐らず歩み続けた4年間
兵庫・大久保中時代、全中3000mで4位入賞の実績がある。県内の名門・西脇工高に入学すると、1年時から世代を代表する活躍が続く。国体少年B3000mは3位、全国高校駅伝は1年生にして最長区間の1区(10km)を任された(区間39位)。 2年生にしてインターハイ5000mの決勝進出を果たし(11位)、秋の国体少年A5000mは3年生に混じって8位。3年時はインターハイ5000m6位、国体少年A5000m7位、全国高校駅伝1区6位と堂々たる成績を残してきた。国体は種目や区分が変わるが、3年連続入賞である。 高3のインターハイでは5000m6位と活躍(左から2人目が加藤) 駒大の門を叩き、1年目から出雲駅伝で1区(13位)を任されていることからも、大八木監督らスタッフの期待が大きかったことがわかる。以後、駒大のレギュラー格ではあり続けたが、下記にある通り好走と凡走の波があり、不完全燃焼が続いた。 ■加藤淳の学生三大駅伝&箱根駅伝予選会成績 <1年時> 出雲1区(8.0km) 区間13位(24分27秒) 全日本5区(11.6km) 区間 7位(35分13秒) <2年時> 全日本1区(9.5km) 区間 8位(27分40秒) 箱根予選会(ハーフ) 19位(1時間3分12秒) 箱根4区(20.9km) 区間11位(1時間4分03秒 <3年時> 全日本6区(12.8km) 区間 4位(38分10秒) 箱根8区(21.4km) 区間11位(1時間6分52秒) <4年時> 全日本1区(9.5km) 区間 3位(27分13秒) 「大学に入った時は1年目から箱根を走って活躍するというビジョンを持って入学したのですが、それが思い通りにいかなくて……。中学、高校と全国を一緒に走った選手たちが活躍している姿を見て、悔しい思いをする時期もありました」 実業団で活躍する遠藤日向(福島・学法石川高→住友電工)、名取燎太(長野・佐久長聖高→東海大)、塩澤稀夕(三重・伊賀白鳳高→東海大)、西田壮志(熊本・九州学院高→東海大)、吉田圭太(広島・世羅高→青学大)、西山和弥(群馬・東農大二高→東洋大)、1学年下の中谷雄飛(長野・佐久長聖高→早大)らは、高校時代に全国大会で競り合ったライバルたちだ。かつて肩を並べ、さらなる躍進を誓った仲間たちの、自分より上のステージで輝く姿がまぶしく感じた。 だが、真面目な性格。コツコツ取り組み伸び悩んだ時期も、腐ることなく歩み続けた。4年近く時間を使い、地中に伸ばした根は太く長い。その分だけ、大きく高く伸びようとしている。 「『ようやく』でしょうか?」と語りかけると、加藤はこう答えた。「今でもまだまだ、同期たちには置いて行かれていると思っているんです。『まだまだ』です」。 11月の全日本大学駅伝では1区区間3位と好走。チームの6年ぶり優勝に貢献した いよいよ最後の箱根駅伝を迎える。2年時(4区)と3年時(8区)に2度、区間11位と辛酸をなめた舞台だ。 「どちらも後半に大きく失速する走りで、長い距離のスタミナ不足が分かりやすいぐらい結果に出ていた。スタミナ不足という課題に一生懸命取り組んできました」 高校時代、1年時から駅伝で最長区間の1区(10km)に登場し、2年時の全国高校選抜10000m2位の実績などから、長い距離への適応が早いタイプだと誤解されがちだが、加藤はむしろ距離への対応には苦労してきたと言う。「高校時代はチーム事情もあって1年の頃から1区を走っていたのですが、なかなか距離に対応できず、3年になってやっと結果が出たんです」。 言葉通り、全国高校駅伝の成績は1年時が1区39位、2年時は1区29位と苦戦。3年時に1区6位と花開いた。振り返れば、高校時代に10kmを克服するまでの軌跡と、大学で20kmに取り組んできた過程が似ている。高校の最終学年で成績を上げたように、大学最後の箱根が殻を破る舞台になる。 ◎かとう・あつし/1998年8月19日生まれ。兵庫県出身。166cm、50kg。大久保中(兵庫)→西脇工高→駒大。5000m13分43秒61、10000m28分36秒59 文/奥村 崇
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