静岡で長きにわたって高校の指導に携わった杉井將彦先生が今年度で退職するにあたり、静岡健浜松市内のホテルで退職記念パーティーが開かれ、教え子が多くかけつけた。
母校・浜松商高で13年、浜松市立高で20年務めた杉井先生。1963年生まれで、110mハードルで中学時代から活躍し、浜松商高では名伯楽・山下昌彦先生(故人)のもと、3年時に高校新記録を樹立してインターハイに優勝した。筑波大に進学し、手動で13秒9の日本新記録を樹立し、日本選手権も2度制すなどトップハードラーとして活躍している。
私立高校での勤務などを経て、母校に赴任。恩師の山下先生の後を継ぎ、1995年の鳥取インターハイでは中長距離の古田哲弘、村松寛久らを擁し、男子総合優勝に導いた。2005年に女子校から共学になった浜松市立高へ赴任すると、その1年目に棒高跳の笹瀬弘樹が入学。4月1日に「3年目にインターハイ総合優勝しよう」と声をかけ、男子は創部3年目の佐賀インターハイは有言実行の総合優勝を果たした。別々の高校でインターハイ総合優勝をしている指導者は今もって杉井先生ただ1人である。さらに、2013年の新潟インターハイも、400m高校記録保持者の杉浦はる香、松本奈菜子(東邦銀行)らを擁して女子総合優勝している。
日本陸連の役職も歴任し、特にジュニア育成に尽力。北口榛花(JAL)ら日本陸連ダイヤモンドアスリートの立ち上げなどにも携わり、現在も強化委員会のシニアディレクターを務めている。
式には両校の教え子約250人が出席。挨拶を終えて歓談タイムに入ると、教え子たちとの撮影タイムに列ができ、一人ひとりとコミュニケーションを取ると、あっという間に時間が過ぎた。
浜松商高着任時の主将だった400mの服部光仁さんは「これだけの人が集まるのは人望。当時はまだトップ選手で、“杉井さん”だった。インターハイの準決勝で敗退し、国体でも2位になって迷惑をかけてしまった」と当時を振り返る。
浜松市立高1期生の笹瀬さんは壇上でのあいさつから涙ぐむ。「本当に愛のある優しい先生で、高校新で優勝したインターハイが一番の思い出」と話し、昨年から非常勤講師として母校に勤め、杉井先生とともに教員として、そして部活動でもアドバイスをもらった。「僕にはできない芸当ですが、先生を超えるために精進していきたい」と決意を語る。13年のインターハイ女子総合優勝時の主将を務めた走高跳の松島美羽留さんは「今までで一番濃い3年間。個性的な選手ばかりでしたが、一人ひとりしっかり見てくださった」と笑顔で当時を振り返る。
幹事の1人は、浜松市立高の教え子で、現在は浜松商高で教員を務める平龍彦先生。2024年度はインターハイの県大会で男子が浜松商高、女子は浜松市立高が総合優勝し、年末の全国高校駅伝には師弟そろって出場した。「生徒として、今日の立場になって、どちらもすごく響く言葉をたくさんかけてくださいます。愛を感じますし、この人のために頑張ろうと思えた」。最近では他地区の先生から「杉井先生と話しているよう」と言われたといい、「それが一番うれしかった。先生になろうとしてもなれないので、僕なりにやっていって自然と先生に追いつけたら」と話す。
式ではサプライズで盟友とも言える同学年で洛南高顧問の柴田博之先生、日本陸連強化委員長の山崎一彦氏、そして2人の愛娘と孫たちからのビデオメッセージも。
壇上で挨拶した杉井先生は「家内が全部支えてくれました」とこの日、誕生日を迎えた奥さんへの感謝を最初に伝えた。続けて教員生活を振り返り「日常の中で私なりに必死で向き合ってきました」と語る。この日も部活があり、「教え子のお嬢さんを叱ることがあった」と明かす。生徒がそろっていないのを言わずに練習が始まったからだといい、「私は切り捨てることはできない」と言うと涙ぐむ。「ここにいる中にはたくさん活躍した選手もいれば、あの時はたくさん叱って悪かったなと思う子もいます。こんなにたくさんの人が集まると思っていなかった」。これまでの指導人生において、誰一人として切り捨てなかった信念があったからこそ、これだけ愛されたのだろう。
今後は日本陸連の役職はそのまま、浜松市立高の外部コーチも担当。さらに、部活の地域移行の土台になれればと『SUGII PHYSICAL TRAINING ACADEMY』を立ち上げ、浜松を中心に小学生~中学生が対象で、理学療法士や鍼灸師などとも連携しながら「スポーツ医学とフィジカルの融合と遊び」をコンセプトに新たなかたちのスクールを運営していく。
見送りでも、最後の最後まで一人ひとり、互いに懐かしみ、別れを惜しんでいた。立場は変わるが、今後も大好きな陸上と携わり、陸上界、スポーツ界の普及と発展に尽力していくことだろう。
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