2020.11.15
「あの選手はすごいですよ」――。何度、こんな噂を聞いただろうか。高校時代から福田翔大(日大)の潜在能力は高い評価を得ていた。高校時代はタイトルこそなかなかつかめなかったが、それも将来を見越して土台を作っていたからこそ。日大に進学して2年目。〝アジアの鉄人〟室伏重信氏の下で研鑽を積み、その才能は少しずつ花開こうとしている。究極の〝DNA〟を吸収している日本男子ハンマー投の未来を担う若者。その成長曲線はとどまるところを知らない。
●文/向永拓史 撮影/船越陽一郎
今季2度の69m超えで存在感
あの室伏広治の記録を超えた――。日本ハンマー投において、あらゆるカテゴリーで〝室伏超え〟は一つのトピックになる。189㎝、まだまだ細身な身体。日本インカレ男子ハンマー投で優勝した日大2年の福田翔大が放った69m61は、室伏が中京大2年時のベスト69m54を上回った。続く日本選手権ではまたも69mを超えて3位(69m30)。そのポテンシャルの一端が輝き始めた。
「室伏広治」の名を一つ塗り替えたのは「試合が終わってから知りました」。学生記録(73m82)は頭に入れていたが、さすがに大学2年時の記録までは意識していなかったという。
「日本インカレの69mは行けると思っていませんでした。日本選手権も良くない投げだったので……。でも、69mを2回投げられたことはうれしかったです」
秋シーズンになってからは調子もそれほど上がらず、投げが崩れていたという。それでも投げられたのは土台が少しずつ作り上げられている証だろう。
「まず身体が大きい。リーチの長さはハンマー投にとって非常に重要です」
福田の第一印象についてこう語るのは、室伏広治氏の父である室伏重信コーチ。大学に入学してから福田を指導しているのが重信氏であるのも因果なのだろうか。
今年は自粛期間に入る直前の4月の記録会で64m95を投げていた福田。その頃の評価としては「今年は65mくらい行けるだろう」というもの。だが、自粛期間が明けて練習が再開し、6月頃になると練習で67mを投げるようになった。コロナ禍によってしばらくは地元の大阪に戻っていた福田。その間は「基礎体力の向上を目指した」。タンクに水を入れてウエイトトレーニングしたり、倒立やダッシュなどを繰り返したり。時折、空き地でハンマーを投げることはあったが、身体作りに精を出した。大学に戻ると、「投げがすごく良くなって、ターンのスピードが上がった感じがしました」と成長を実感。コントロールテストとして行っている砲丸(4㎏)のバック投も昨年から2m伸びて26mに届いた。
好調だった6月に比べると、日本インカレと日本選手権は「調子が良くなかった」。それでも、日本インカレでは一時トップに立ち、その後、古旗崇裕(中京大院)に逆転されてから「集中して投げられた」。特に室伏コーチが評価したのがその修正力の高さ。「1回目に両脚の接地の瞬間に加速できていなかった。それを伝えると、空ターンで2回目以降しっかり修正できたのです」。好調ではない中で勝ち切ったことに「少しは力がついてきたのかな」と照れた。
“アジアの鉄人”室伏重信氏(左)が週2回ほどグラウンドで指導に当たる
〝最強世代〟に揉まれた高校時代
その潜在能力は大阪桐蔭高時代から高く評価されていた。長身で細身だが運動能力が高く、走れる投てき選手。「小学校のとき、好きだった先生が陸上を教えていて、週1回のクラブ活動で陸上を選びました」。箕面六中(大阪)で本格的に陸上を始めた時は、ハードルや走幅跳に出場していた。
学年が上がるにつれて身長が一気に10㎝伸び、中3時には184㎝に。その反動もあってか、「全然走れなくなった」という。200mのタイムでは3秒も悪くなったうえ、左脚を痛めて走ることもできなくなった。元々投てきを勧めていたという顧問の先生は「走れないから砲丸投をしておこう」と声をかけた。すると、なんと右脚だけで8mを投げてしまう。これが投てき人生のスタートだった。
この続きは2020年11月13日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。
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今季2度の69m超えで存在感
あの室伏広治の記録を超えた――。日本ハンマー投において、あらゆるカテゴリーで〝室伏超え〟は一つのトピックになる。189㎝、まだまだ細身な身体。日本インカレ男子ハンマー投で優勝した日大2年の福田翔大が放った69m61は、室伏が中京大2年時のベスト69m54を上回った。続く日本選手権ではまたも69mを超えて3位(69m30)。そのポテンシャルの一端が輝き始めた。 「室伏広治」の名を一つ塗り替えたのは「試合が終わってから知りました」。学生記録(73m82)は頭に入れていたが、さすがに大学2年時の記録までは意識していなかったという。 「日本インカレの69mは行けると思っていませんでした。日本選手権も良くない投げだったので……。でも、69mを2回投げられたことはうれしかったです」 秋シーズンになってからは調子もそれほど上がらず、投げが崩れていたという。それでも投げられたのは土台が少しずつ作り上げられている証だろう。 「まず身体が大きい。リーチの長さはハンマー投にとって非常に重要です」 福田の第一印象についてこう語るのは、室伏広治氏の父である室伏重信コーチ。大学に入学してから福田を指導しているのが重信氏であるのも因果なのだろうか。 今年は自粛期間に入る直前の4月の記録会で64m95を投げていた福田。その頃の評価としては「今年は65mくらい行けるだろう」というもの。だが、自粛期間が明けて練習が再開し、6月頃になると練習で67mを投げるようになった。コロナ禍によってしばらくは地元の大阪に戻っていた福田。その間は「基礎体力の向上を目指した」。タンクに水を入れてウエイトトレーニングしたり、倒立やダッシュなどを繰り返したり。時折、空き地でハンマーを投げることはあったが、身体作りに精を出した。大学に戻ると、「投げがすごく良くなって、ターンのスピードが上がった感じがしました」と成長を実感。コントロールテストとして行っている砲丸(4㎏)のバック投も昨年から2m伸びて26mに届いた。 好調だった6月に比べると、日本インカレと日本選手権は「調子が良くなかった」。それでも、日本インカレでは一時トップに立ち、その後、古旗崇裕(中京大院)に逆転されてから「集中して投げられた」。特に室伏コーチが評価したのがその修正力の高さ。「1回目に両脚の接地の瞬間に加速できていなかった。それを伝えると、空ターンで2回目以降しっかり修正できたのです」。好調ではない中で勝ち切ったことに「少しは力がついてきたのかな」と照れた。
〝最強世代〟に揉まれた高校時代
その潜在能力は大阪桐蔭高時代から高く評価されていた。長身で細身だが運動能力が高く、走れる投てき選手。「小学校のとき、好きだった先生が陸上を教えていて、週1回のクラブ活動で陸上を選びました」。箕面六中(大阪)で本格的に陸上を始めた時は、ハードルや走幅跳に出場していた。 学年が上がるにつれて身長が一気に10㎝伸び、中3時には184㎝に。その反動もあってか、「全然走れなくなった」という。200mのタイムでは3秒も悪くなったうえ、左脚を痛めて走ることもできなくなった。元々投てきを勧めていたという顧問の先生は「走れないから砲丸投をしておこう」と声をかけた。すると、なんと右脚だけで8mを投げてしまう。これが投てき人生のスタートだった。 この続きは2020年11月13日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。
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