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2025.02.17

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蘇った山西利和 異次元世界新で世界陸上へ「新しいトライで優勝を」誰もまねできない境地へ/日本選手権20km競歩
蘇った山西利和 異次元世界新で世界陸上へ「新しいトライで優勝を」誰もまねできない境地へ/日本選手権20km競歩

25年日本選手権20km競歩で世界記録を樹立した山西利和

◇第108回日本選手権20km競歩(2月16日/兵庫県神戸市・六甲アイランド付設コース)

東京世界選手権代表選考会を兼ねた第108回日本選手権20km競歩が2月16日行われ、男子は山西利和(愛知製鋼)が1時間16分10秒の世界新記録で4大会ぶり3度目の優勝を果たし、東京世界選手権の代表に内定した。従来の世界記録は鈴木雄介が15年に出した2時間16分36秒だった。

1年前は涙に暮れた男が、堂々と“世界一”に返り咲いた。パリ五輪を懸けた前回は競技生活初の失格。23年ブダペスト世界選手権後にトライした厚底シューズへのフィットに「思った以上に時間がかかった」。戻すか、戻さないか。それも含めて時間が足りなかった。

世界選手権2連覇を果たしているが、21年東京五輪の銅メダルは、今も完全には受け入れられていない。「東京五輪は他の大会とは違う」。おそらく、どの大会で勝ち進めても、リベンジはできない。ただ、やはり五輪の借りは五輪で、と挑みながら、その舞台にさえ立てなかった。両親の元を訪れると涙があふれた。

「1回でも代表から漏れたら辞めるぐらいの気持ちでやってきた」。あの頃の自分が何度も問いかけてきた。「そんな覚悟でやっていないだろう」。その“覚悟”に「嘘をつきたくない」思いに後ろ髪を引かれつつ、その日の夜には「ヨーロッパの試合スケジュールを考えていた」。

その転戦が、山西を新たな境地へと誘う。初めて欧州シリーズを転戦し、厚底シューズの感触を身体にすり込ませながら、審判の判定も確認。さらに、以前から交流のあった東京五輪金メダリストのマッシモ・スタノ(イタリア)に誘われ、パリ五輪前のスタノの練習に合流した。

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「僕がもらうことのほうが多かった。トレーニングのリズムや考え方を共有し、お互いの特性を見られた。貴重な経験でした」

厚底シューズは昨年10月の高畠競歩まで「まだ練習でのばらつきがあった」と探り探り。この冬季でその振り幅が「小さくなってきた」という。

「スピードが出しやすい」というのが最大の利点。だが、「やっぱりコントロールが難しく、調整が必要」だという。骨格や筋力のある海外選手ほうが先に順応した。「割と意識的に踏み込んでいかないといけないんです」。イタリアで教わったという筋力トレーニングは「これまであまりやっていなかった」。瞬発系ではなく、「ガツガツやるわけではないですが、スクワットなどパワー系もやるようになった」と話す。

この日は前半のハイペースに丸尾知司(愛知製鋼)や濱西諒(サンベルクス)らが食らいついたことで、「あまりハマらなかった」とリズムに乗れなかった。しかし、中盤以降は力の差を見せつける。12km付近から一人旅になった。

「最初の5kmを19分7秒くらいでいき、10kmを38分10秒ほど。このタイムなら後半を考えれば世界記録が出るだろう、と。範囲内でした」

13km以降は、1kmあたり3分50秒を一度も越えないハイラップ。実は昨年9月の全日本実業団対抗選手権の10000m競歩で38分27秒34を出した時点で「この感覚から、マックスまで出し切れて、整えれば1時間15分台」とイメージできていたという。

世界新のフィニッシュは、山西らしいものだった。雄叫びもガッツポーズもない。ロードに向かって真摯に、深々と一礼。そして、静かに笑みを浮かべ、感謝を表わした。沿道で何度も日本語で「頑張れー!」と叫んでいたスタノと抱擁すると笑顔があふれた。スタノの目には光るものもあった。勝者、追われる立場だからこそ分かり合える感情がある。

自身4度目の世界選手権に内定。しかも、21年には歩けなかった東京が舞台になる。

「海外レースを1、2試合挟みたいと思っています。海外勢がいる中で難しいのは前半です」とイメージしている。

レース後の第一声は「ホッとしました」だった。「1年、やりたいことをやらせてもらいました。その自由に対する結果という責任は必要だと思っていたので、それは最低限果たせたと思います。この1年がなければ、また同じことを繰り返しだったでしょう。ちょっと違う世界線、違う箱に入れてもらえました」。

3度目の世界王者へ。「今度こそ。新しいトライとして優勝を狙っていきたい」。新生・山西利和が、堂々『世界記録保持者』として東京でライバルたちを迎え撃つ。

◇第108回日本選手権20km競歩(2月16日/兵庫県神戸市・六甲アイランド付設コース) 東京世界選手権代表選考会を兼ねた第108回日本選手権20km競歩が2月16日行われ、男子は山西利和(愛知製鋼)が1時間16分10秒の世界新記録で4大会ぶり3度目の優勝を果たし、東京世界選手権の代表に内定した。従来の世界記録は鈴木雄介が15年に出した2時間16分36秒だった。 1年前は涙に暮れた男が、堂々と“世界一”に返り咲いた。パリ五輪を懸けた前回は競技生活初の失格。23年ブダペスト世界選手権後にトライした厚底シューズへのフィットに「思った以上に時間がかかった」。戻すか、戻さないか。それも含めて時間が足りなかった。 世界選手権2連覇を果たしているが、21年東京五輪の銅メダルは、今も完全には受け入れられていない。「東京五輪は他の大会とは違う」。おそらく、どの大会で勝ち進めても、リベンジはできない。ただ、やはり五輪の借りは五輪で、と挑みながら、その舞台にさえ立てなかった。両親の元を訪れると涙があふれた。 「1回でも代表から漏れたら辞めるぐらいの気持ちでやってきた」。あの頃の自分が何度も問いかけてきた。「そんな覚悟でやっていないだろう」。その“覚悟”に「嘘をつきたくない」思いに後ろ髪を引かれつつ、その日の夜には「ヨーロッパの試合スケジュールを考えていた」。 その転戦が、山西を新たな境地へと誘う。初めて欧州シリーズを転戦し、厚底シューズの感触を身体にすり込ませながら、審判の判定も確認。さらに、以前から交流のあった東京五輪金メダリストのマッシモ・スタノ(イタリア)に誘われ、パリ五輪前のスタノの練習に合流した。 「僕がもらうことのほうが多かった。トレーニングのリズムや考え方を共有し、お互いの特性を見られた。貴重な経験でした」 厚底シューズは昨年10月の高畠競歩まで「まだ練習でのばらつきがあった」と探り探り。この冬季でその振り幅が「小さくなってきた」という。 「スピードが出しやすい」というのが最大の利点。だが、「やっぱりコントロールが難しく、調整が必要」だという。骨格や筋力のある海外選手ほうが先に順応した。「割と意識的に踏み込んでいかないといけないんです」。イタリアで教わったという筋力トレーニングは「これまであまりやっていなかった」。瞬発系ではなく、「ガツガツやるわけではないですが、スクワットなどパワー系もやるようになった」と話す。 この日は前半のハイペースに丸尾知司(愛知製鋼)や濱西諒(サンベルクス)らが食らいついたことで、「あまりハマらなかった」とリズムに乗れなかった。しかし、中盤以降は力の差を見せつける。12km付近から一人旅になった。 「最初の5kmを19分7秒くらいでいき、10kmを38分10秒ほど。このタイムなら後半を考えれば世界記録が出るだろう、と。範囲内でした」 13km以降は、1kmあたり3分50秒を一度も越えないハイラップ。実は昨年9月の全日本実業団対抗選手権の10000m競歩で38分27秒34を出した時点で「この感覚から、マックスまで出し切れて、整えれば1時間15分台」とイメージできていたという。 世界新のフィニッシュは、山西らしいものだった。雄叫びもガッツポーズもない。ロードに向かって真摯に、深々と一礼。そして、静かに笑みを浮かべ、感謝を表わした。沿道で何度も日本語で「頑張れー!」と叫んでいたスタノと抱擁すると笑顔があふれた。スタノの目には光るものもあった。勝者、追われる立場だからこそ分かり合える感情がある。 自身4度目の世界選手権に内定。しかも、21年には歩けなかった東京が舞台になる。 「海外レースを1、2試合挟みたいと思っています。海外勢がいる中で難しいのは前半です」とイメージしている。 レース後の第一声は「ホッとしました」だった。「1年、やりたいことをやらせてもらいました。その自由に対する結果という責任は必要だと思っていたので、それは最低限果たせたと思います。この1年がなければ、また同じことを繰り返しだったでしょう。ちょっと違う世界線、違う箱に入れてもらえました」。 3度目の世界王者へ。「今度こそ。新しいトライとして優勝を狙っていきたい」。新生・山西利和が、堂々『世界記録保持者』として東京でライバルたちを迎え撃つ。

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