2024.09.18
2010年の設立以来、数々の独創的なシューズを世に出してきたスイスのスポーツブランド「On(オン)」。業界ナンバーワンの成長率で近年著しく市場シェアを拡大し、その勢いはとどまるところを知らない。そんなOnが2年の歳月をかけて開発したブランド史上最高のレーシングシューズ「Cloudboom Strike(クラウドブーム ストライク)」が7月11日に発売され、注目を集めている。その革新的テクノロジーが盛り込まれたシューズは、いったいどのようにして生み出されたのか。今回はOnのスイス本国で、アスリートに向けた商品開発に携わるジョーダン・ドネリー氏に、開発への想いや構造についてうかがった。また、昨年より同ブランドのアスリートストラテジーアドバイザーを務める横田真人氏によるOnのシューズ開発や今作についてのコメントも紹介する。
革新技術「ドロップインミッドソール」を採用
Onがこの夏発売した最新レーシングモデル「Cloudboom Strike(クラウドブーム ストライク)」は、従来のランニングシューズ構造から一線を画していると言っていいだろう。その特徴として最も注目されるのが、新たに取り入れた「ドロップインミッドソール構造」だ。
ランニングシューズはアッパー素材とシューズ内部のインソールで足入れ部分を構成し、外側にミッドソールやアウトソール、カーボンなどのプレート素材を組み合わせて走行性能を生み出しているのが一般的だ。
だが、クラウドブーム ストライクはブランド最大の軽量性・高反発性を備える「Helion™ HF ハイパーフォーム」を使用した「Bounceboard (バウンスボード)」というパーツをシューズ内へ内蔵。ミッドソールのHelion™ HF ハイパーフォームとの2層構造となり、その間にカーボン製のSpeedboard®(スピードボード)をつま先からかかと部分までフルレングスで搭載することで、圧倒的な反発性と衝撃吸収性を備える。

取り外し可能なインソール「バウンスボード」にクッション性を持たせることで、規定内のスタックハイトでエネルギーリターンを最大化し、バウンス感を高めている。まさに長距離走に最適なクッショニング抜群の走り心地を生み出す
さらに、Onの代名詞と言える特許技術、CloudTec®(クラウドテック)も配置されてスムーズな重心移動も実現する。この効果について、Onアスリートが着⽤するシューズ・アパレルを開発するチーム「ライトニング プロダクト ストラテジー」のジョーダン・ドネリー氏は以下のように語る。
「この2つの部分からなるミッドソールは、2枚のフォームを接着剤で貼り合わせるのではなく、フリーフローティングのベッドマットレスを2枚重ねた上で⾛っているようなものです。歩幅が2mの平均的なランナーは約21000歩かけてマラソンを走ることになりますが、その⾝体への負荷を軽減する効果を可能にするため大変重要なのです」
本来インソールが搭載される部分に採用されているHelion™ HF ハイパーフォーム製のドロップインミッドソールは、2層を合わせたミッドソール全体の約8%に相当する3mmに設計され、足にダイレクトにフォーム材のクッション性が感じられ、走行時には最適な衝撃吸収力をもたらす。ドネリー氏は、「性能を発揮するために最適な高さについても、今回改めて追求しました」と明かす。
「必要ないものをすべて取り除いた」アスリートのための速さを追求した1足
この革新的な構造を実現したレーシングシューズの構想は、2022年8月にスタートした。「アスリートをスタートラインから42.195km先のゴールラインまで可能な限り速く送り届ける」というシンプルなテーマを追求する過程で「シューズの細部にまで注⽬し、1%でも最適化することで、全体として⼤きな違いを⽣み出すにはどうすればいいかを考えました。そのために、私たちはあらゆるディテールを検証し、『性能を発揮しない素材』はすべて取り除いたため、ランナーの足は直接フォームの上に立つことになったのです」とドネリー氏。
その開発は、シューズの軽量性にも着手した。アッパーは1枚のみで構成される半透明の素材を使用。26.5cmで約210gと、ボリューム満点の作りからは感じさせない軽量性を実現している。
アスリートがより⾼いレベルでパフォーマンスを発揮するためのアドバンテージを与えることを目標に開発された年月を経て遂に完成したクラウドブーム ストライク。「これはOn史上最⾼のマラソンシューズです。マラソンは過酷でハードな競技ですが、⾝体へのストレス、衝撃、プレッシャーを軽減し、すべてのランナーに精神的、⾁体的な⾃信を与えることができる」とドネリー氏は誇らしげに話し、多くのランナーに履いてほしいと願っていた。
横田真人氏が語るOnの開発技術と「Cloudboom Strike」の魅力
男子800mの元日本記録保持者で、2023年から同ブランドのアスリートストラテジーアドバイザーを務める横田真人氏は、その開発のこだわりに〝アスリート目線〟の着眼点があると感じている。
「従来のシューズと違い、Onのシューズの特徴であるCloudTec®は、ソールの構造⾃体に着⽬することで、他のシューズとはまったく違うクッション性や反発性を⽣み出しています。そして、今回はアスリートのパフォーマンスに不要と考える部分を徹底的に省くことで新しいシューズを⽣み出しています。また、徹底したアスリート⽬線も特長です。アスリートは開発者ほどシューズについての知識はありませんが、だからこそ⽣まれる着眼点があります。そんなアスリートたちの生の声を大切にして、スピード感を持って製品を開発。着想が常にアスリートのパフォーマンスにあることが根付いているブランドだからこそできることだと思います」
新たに登場したクラウドブーム ストライクについては、「走る距離が長いほど、力を発揮するシューズだと感じます。マラソンペースだと、足を置けば反発が返ってくる」と横田氏。

「Cloudboom Strike」の履き心地や機能性を絶賛した横田真人さん
自身もこの秋に出走を計画しているハーフマラソンで着用を予定しており、「⻑い距離を⾛る時に欲しいクッション性があって、トラックと⽐べて路⾯の硬いロードに威⼒が発揮されそうなモデル。足がしっかり残るので、レース終盤では大きなサポートになると思います」とマラソン、ハーフマラソンでのレースシューズとして太鼓判を押している。
9月に入って早くも新色が登場するほど人気が高まっているクラウドブーム ストライク。秋冬のロードレースシーズンには大きな旋風を巻き起こしそうだ。

近年、国内トップ選手の間でもシューズやスパイクの着用者が増加しているOn。その勢いはアスリートから市民ランナーまでさらに拡大していきそうだ
構成/田中 葵
※この記事は『月刊陸上競技』2024年10月号にも掲載しています
革新技術「ドロップインミッドソール」を採用
Onがこの夏発売した最新レーシングモデル「Cloudboom Strike(クラウドブーム ストライク)」は、従来のランニングシューズ構造から一線を画していると言っていいだろう。その特徴として最も注目されるのが、新たに取り入れた「ドロップインミッドソール構造」だ。 ランニングシューズはアッパー素材とシューズ内部のインソールで足入れ部分を構成し、外側にミッドソールやアウトソール、カーボンなどのプレート素材を組み合わせて走行性能を生み出しているのが一般的だ。 だが、クラウドブーム ストライクはブランド最大の軽量性・高反発性を備える「Helion™ HF ハイパーフォーム」を使用した「Bounceboard (バウンスボード)」というパーツをシューズ内へ内蔵。ミッドソールのHelion™ HF ハイパーフォームとの2層構造となり、その間にカーボン製のSpeedboard®(スピードボード)をつま先からかかと部分までフルレングスで搭載することで、圧倒的な反発性と衝撃吸収性を備える。 [caption id="attachment_145816" align="alignnone" width="800"]
「必要ないものをすべて取り除いた」アスリートのための速さを追求した1足
この革新的な構造を実現したレーシングシューズの構想は、2022年8月にスタートした。「アスリートをスタートラインから42.195km先のゴールラインまで可能な限り速く送り届ける」というシンプルなテーマを追求する過程で「シューズの細部にまで注⽬し、1%でも最適化することで、全体として⼤きな違いを⽣み出すにはどうすればいいかを考えました。そのために、私たちはあらゆるディテールを検証し、『性能を発揮しない素材』はすべて取り除いたため、ランナーの足は直接フォームの上に立つことになったのです」とドネリー氏。 その開発は、シューズの軽量性にも着手した。アッパーは1枚のみで構成される半透明の素材を使用。26.5cmで約210gと、ボリューム満点の作りからは感じさせない軽量性を実現している。 アスリートがより⾼いレベルでパフォーマンスを発揮するためのアドバンテージを与えることを目標に開発された年月を経て遂に完成したクラウドブーム ストライク。「これはOn史上最⾼のマラソンシューズです。マラソンは過酷でハードな競技ですが、⾝体へのストレス、衝撃、プレッシャーを軽減し、すべてのランナーに精神的、⾁体的な⾃信を与えることができる」とドネリー氏は誇らしげに話し、多くのランナーに履いてほしいと願っていた。横田真人氏が語るOnの開発技術と「Cloudboom Strike」の魅力
男子800mの元日本記録保持者で、2023年から同ブランドのアスリートストラテジーアドバイザーを務める横田真人氏は、その開発のこだわりに〝アスリート目線〟の着眼点があると感じている。 「従来のシューズと違い、Onのシューズの特徴であるCloudTec®は、ソールの構造⾃体に着⽬することで、他のシューズとはまったく違うクッション性や反発性を⽣み出しています。そして、今回はアスリートのパフォーマンスに不要と考える部分を徹底的に省くことで新しいシューズを⽣み出しています。また、徹底したアスリート⽬線も特長です。アスリートは開発者ほどシューズについての知識はありませんが、だからこそ⽣まれる着眼点があります。そんなアスリートたちの生の声を大切にして、スピード感を持って製品を開発。着想が常にアスリートのパフォーマンスにあることが根付いているブランドだからこそできることだと思います」 新たに登場したクラウドブーム ストライクについては、「走る距離が長いほど、力を発揮するシューズだと感じます。マラソンペースだと、足を置けば反発が返ってくる」と横田氏。 [caption id="attachment_145818" align="alignnone" width="800"]


RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.03.29
編集部コラム「いつのまにか700号超え」
-
2025.03.28
-
2025.03.28
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
-
2025.03.23
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.29
走高跳で男女上位 真野友博1位、髙橋渚1m86で2位 100mH田中佑美Vで3位まで日本勢/WAコンチネンタルツアー
2025年の世界陸連(WA)コンチネンタルツアー・ゴールド初戦となるモーリー・プラント競技会が3月29日、豪州・メルボルンで行われた。 日本からは22名が出場し、2種目で優勝。走高跳では男子が昨年のパリ五輪代表で22年世 […]
2025.03.29
編集部コラム「いつのまにか700号超え」
攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム?? 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。 編集スタッフが週替りで […]
2025.03.29
齋藤みう3000m障害で9分41秒57 自己ベスト4秒以上更新して日本歴代6位、学生歴代2位
第319回日体大長距離競技会初日が3月29日、神奈川・横浜市の同大学健志台キャンパス競技場で行われ、女子3000m障害で齋藤みう(日体大4)が日本歴代6位、学生歴代2位の9分41秒57をマークした。 齋藤のこれまでのベス […]
2025.03.28
【世界陸上プレイバック】五輪ボイコットきっかけに創設!クラトフヴィロヴァが女子400mと800mで今も大会記録に残る2冠 日本は室伏重信ら出場も入賞ゼロ
今年、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪大会を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。これま […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報