2024.02.16
最先端スポーツ科学による検査・分析・評価を行うフィジカル検診センター「アローズラボ」と、子どものためのスポーツ科学センター「アローズジム」を全国で展開している株式会社スポーツ科学は1月6日、同社20店舗目となる施設を日本橋三越本店(東京都中央区)に開設した。新店舗のメインメニューは既存店と異なり、日本で初となる「スポーツ科学で〝健康寿命〟を測る」こと。超高齢化社会の日本において、健康のために自分の体力を測る・記録するというニーズに応えていく。代表の山下典秀氏に新店舗出店の経緯やスポーツ科学の現状とこれから、そして、思い描くアローズラボ&アローズジムの今後の目標や夢をうかがった。
次なるフェーズ〝健康〟分野への進出
日本にスポーツ科学を広めたい――。山下代表の強い思いで2011年に誕生したアローズジムおよびアローズラボは、その後、各地で施設を増やしながら、ジュニア世代を中心にトップアスリートまでの競技力向上に大きな貢献をしてきた。これまでの事業は継続しつつ、次のフェーズとして目を向けるのが〝健康〟の分野だ。
「〝健康〟は、当初から多くの大手企業さんがトライしており、当時は新参者の私たちが参入しても結果を出せないだろうと思い、ブルーオーシャン(注:まったく新しい市場)だった子どもに目を向けました。体力データは、大人は1回取ればある程度わかりますが、発育・発達に違いがある子どもは、継続して取ったデータにこそ価値があります。私たちは親御さんの同意を得た上で、10年以上もデータを蓄積してきましたから、これを持って〝健康〟のステージでも戦えるのではないか。そう考えて次へのチャレンジを決めました」
山下代表は、自身も会社も「30年かけて成長、発展していきたい」というテーマを掲げている。医学で言えば、基礎研究から実践研究を経て、応用研究とつながっていく。陸上競技の三段跳で言えば、ホップ・ステップ・ジャンプと、3段階での飛躍をイメージする。
「スポーツでも何でも基礎の部分をおろそかにすると、次の段階に行った時に必ず失敗します。ですから私たちはこれまでの10年で、子どもの体力を測るということを通して、一番地味な土台を固めてきました。生まれてから20歳前後までのアスリートだった対象を、〝人生100年時代〟と言われる今、20歳より上のすべての方も対象にしていくということです。アローズ(ARROWZ)のつづりは、最初がAで、最後はZ。それこそ、子どもからお年寄りまで、すべての人にスポーツ科学を提供するという意気込みでいます」
基礎や土台の重要性を強調するあたりに、かつて静岡県や愛知県で鍼灸整骨院7院を経営する一方で、2000年シドニー、04年アテネ、08年北京と五輪3大会にトレーナーとして日本代表選手に帯同した経歴を持つ山下代表らしさが垣間見える。
健康寿命を延ばすため「フィットネスドック」で体力年齢を測定
高齢者までの幅広い世代にスポーツ科学を提供する――。それを健康軸で考えると、「健康寿命を測る体力検診」になるという。
「病気の有無や体内の数値が正常かどうかをチェックするために人間ドックに行くように、健康を保つには基礎体力も定期的に測定する必要があります。健康志向の高まりからトレーニングや運動をする方が増えましたが、基準の体力がわかっていないと、運動効果がどれくらいあるのか、正確に判断することはできません」
基礎体力を正確な数値で表すには、専門的な機材とスポーツ科学に精通した測定員が欠かせない。フィジカル検診センター「アローズラボ」は、それらをパッケージした施設と言える。これまでのアローズラボでは、競技ごとに必要な5大基礎体力(視力・筋力・持久力・瞬発力・跳躍力)を検査し、パフォーマンス向上のための課題がわかる「スポーツドック」が行われてきた。健康寿命を測る検診メニュー「フィットネスドック」は、そのノウハウを生かし、ブラッシュアップさせたものだ。
「測定に関しては、同じ機材を使いますが、強度が変わってきます。アスリートは限界まで追い込んで測定し、トレーニングを提供します。フィットネスドックで健康寿命を測る場合は、おそらく中高年の方が多くなるので、今までのデータを基に推定で数値を弾き出します。アスリートのように追い込む必要はありません」
フィットネスドックは年1回~4回コースが用意され、1回ごとに身体組成、視力、筋力、持久力の4つの検査を行う。そして、総合的な体力年齢の他、視力年齢、筋力年齢、持久力年齢を科学的に算出する。
「検診の結果、実際の年齢よりも若ければ、運動をもっと継続しようと前向きになれますし、何か問題があれば、今後どのようにしていくべきかをご提案させていただきます。最近の研究では、例えば有酸素運動は距離よりスピードが平均寿命に影響すると言われています。ただ毎日ゆっくり10km歩くより、短くてもある程度の速さで歩いた方が効果的とされています。検査を受けられる方には、そうした最新情報も発信し、健康寿命を延ばすためのきっかけ作りにしていただきたいと考えています」
自分の体力年齢などがかわると、日常生活での転倒リスク、筋力低下による肥満・生活習慣病・寝たきりのリスクといった課題を早期発見できる。さらに山下代表は、近年社会問題になっている高齢者による自動車運転中の事故も減らせると断言する。
「アスリートはスポーツビジョンと呼ばれる目のトレーニングによって、パフォーマンス向上につなげています。高齢者はアスリートほど視力が高くなくても、10段階の1が2に上がるだけで事故はかなり防げます。講習時間を長くして免許を与えるのではなく、例えば一瞬で判断してブレーキをかけられるようにするなど、運動能力に着目し奨励することで、確実に交通事故は減っていくと思っています」
体力年齢が実年齢より若ければ、生命保険の保険料が安く抑えられるという日が来るのも、そう遠くないかもしれない。
多くの国民が自分の体力状態を知り、そのレベル向上に向けて取り組むことは、結果的に健康寿命の延伸という国の大きな目標に貢献することになる。企業は労働災害が減少し、労働生産性の向上を実現できるだろうし、医療機関は人間ドックと合わせることで、より一層精密な身体の状態を把握し、健康寿命を延ばすための指導ができる。
健康寿命を測る体力検診が人間ドックに並ぶ認知度を経て、実際に多くの人が定期的に検診に出向くようになった時、本当の意味で国民のヘルスリテラシー(健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力)が向上したと言えるのだろう。
ラボの展開を加速させ日本全国、そして海外へ
フィットネスドックをきっかけに身体への投資に関心を持った方は、アローズラボでスポーツ科学の専門家から「貯筋®運動」などのアドバイスも受けられる。「貯筋®運動」とは、スポーツ科学の世界的な権威で、アローズ研究所の所長を務める福永哲夫氏(東京大学名誉教授、鹿屋体育大学前学長)が提唱する理論をさす。「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間を少しでも長くするために蓄えておくべきは筋力。筋力は蓄えることができる」という考えから、体力や運動能力の低下を防ぐため、どこでも簡単にできる筋力トレーニングを毎日行いながら、お金を貯めるように筋力も貯めていこうという運動だ。
「80代や90代、あるいはもう少しで寝たきりになりそうな方は貯筋®運動が最適です。年齢や過去の運動経験によって筋肉量や動ける能力は変わりますが、一般的には若い方は強度を高くして、高齢者になるほど強度を少なくしていきます。貯筋®運動は選択肢の1つで、健康寿命を延ばす方法として趣味のゴルフやジョギングを行うというのでもまったく構いません」
近年は健康ブームの流れも相まって、自治体が運営するスポーツジムや民間で24時間営業しているトレーニングジム、コーチがマンツーマンで指導してくれるパーソナルジムなど、各地にトレーニングできる場所がある。山下代表は「トレーニングの方法や種類も豊富にあり、すべてエビデンスに基づいて指導されているので、どれも正しい」とし、だからこそ体力を測れる場所を作りたいと熱望してきた。
「今後は体力を測って数値化し、〝見える化〟させることが私たちの最大の使命。ですから、ここからはラボの展開を加速させていきます。トレーニングに関しては、それぞれの方が好きなものを、理想と思われるやり方でやっていただき、私たちがその成果を測ることで、課題や次なる目標を明確にするためのお役に立ちたい、というスタンスです」
山下代表は現在進行形でスポーツ科学の素晴らしさを広めつつ、産学官連携で人々の健康に寄与する道を突き進んでいる。その取り組みに対して初代スポーツ庁長官の鈴木大地氏(順天堂大学スポーツ健康科学部教授)からも熱いエールが送られている。
そして、近未来に向けては「海外に進出したい」という明確なビジョンがあり、すでに数ヵ国で折衝に入っているという。
「今はまだ国内だけですが、今後は海外の大学や研究所と連携を取って、私たちが今やっている日本の基準を海外にそのまま持っていけるのか。いけないならどんなハードルがあって、別の測定を増やすべきなのか、プロトコル(データ、情報を互いに活用できる規約)を海外仕様に変えるべきなのかといった協議の必要性を感じています。夢にチャレンジするスポーツの観点でも、すごく高い運動能力や体力を持っている国がありますから、そういうところにラボを置いて、オリンピックでメダルを取る、プロ選手になるという夢を叶えてもらいたい。子どもからお年寄りまでが体力を測り、健康やスポーツでの成功という流れをもっと世界に広げていきたい。そういうモデルケースを作ることが大切だと考えています」
日本橋三越本店への出店を契機に新たなステージへ
アローズラボ&アローズジムでは、創業からこれまで約12年間で、子どもたちを中心に延べ3万人近い体力データを取ってきた。それらの実績や経験を基に、今度は〝健康〟の分野に本格参入し、山下代表は「企業として日本全国へ、そして世界へと羽ばたきたい」と考えていた。
そんな折、日本橋三越本店も「コロナ禍を経て、お客様の消費スタイルや生活スタイルが大きく変化し、健康維持や体力増進といったコンテンツに対するニーズが高まっている」と感じ、創業350周年の節目を迎えた昨年、新たなサービス展開を模索していたという。
「常連のお客様が高齢になられて、足が思うように動かなくなり、それまでのように買い物を楽しめなくなってきた方もいらっしゃるとうかがいました。そうすると、孫の教育と自分の健康を意識し始めていきます。三越さんも『百貨店サービスも変わらないといけない』と健康分野へのトライを考えていく中、私たちの取り組みがマッチして出店に向けたお話をいただきました」
これまでのアローズラボ&アローズジムは、ららぽーと豊洲(東京)など〝子連れの聖地〟とも呼ばれる各地の大型ショッピングモールを中心に出店してきた。新たに取り組む健康分野はどこを拠点にするかという時、日本の道路の起点である日本橋はこれ以上ない場所に山下代表には思えた。
日本橋三越本店では従来の百貨店の枠にとらわれず、新しいサービスコンテンツとして『グッドヘルス&ウェルビーング』をキーワードに店舗内のライフソリューション型施設を再構築。新館5階に歯科クリニック、カフェ&レストランとともに迎えられたのがアローズラボ&アローズジムだった。そこには三越側の「新しいサービスコンテンツを提案することで、お客様の悩みや困りごとに対して革新的かつ具体的な提案ができるはず」という思いとともに、「お客様だけでなく、従業員の健康寿命も向上させていきたい」という期待もあるようだ。
◆
日本橋三越本店への出店は、「スポーツ科学を当たり前の世の中にしたい」と願う株式会社スポーツ科学の重要なマイルストーンになる。今後、日本中や世界に進出していくため、アローズラボ&アローズジムのフラッグシップ(旗艦店)に位置づけられると言っても過言ではないだろう。
「スポーツ科学で人々の運動能力を高めたい」、「人々の健康寿命を延ばしたい」という目的と同時に、山下代表には「スポーツ科学の価値を高める」、「スポーツ科学に携わる人々自体の価値を高める」という青写真も胸に秘める。
スポーツ科学イノベーターである山下代表率いる株式会社スポーツ科学の取り組みが、日本橋三越本店への出店をきっかけに新しいステージに入った。
アローズラボ&アローズジム 日本橋三越本店
東京都中央区日本橋室町1丁目4-1新館5階
開校時間 10:00 ~ 19:00
株式会社スポーツ科学
静岡県浜松市中央区新津町534
公式ホームページ
※この記事は『月刊陸上競技』2024年3月号に掲載しています
文/小野哲史、撮影/船越陽一郎
次なるフェーズ〝健康〟分野への進出
日本にスポーツ科学を広めたい――。山下代表の強い思いで2011年に誕生したアローズジムおよびアローズラボは、その後、各地で施設を増やしながら、ジュニア世代を中心にトップアスリートまでの競技力向上に大きな貢献をしてきた。これまでの事業は継続しつつ、次のフェーズとして目を向けるのが〝健康〟の分野だ。 「〝健康〟は、当初から多くの大手企業さんがトライしており、当時は新参者の私たちが参入しても結果を出せないだろうと思い、ブルーオーシャン(注:まったく新しい市場)だった子どもに目を向けました。体力データは、大人は1回取ればある程度わかりますが、発育・発達に違いがある子どもは、継続して取ったデータにこそ価値があります。私たちは親御さんの同意を得た上で、10年以上もデータを蓄積してきましたから、これを持って〝健康〟のステージでも戦えるのではないか。そう考えて次へのチャレンジを決めました」 山下代表は、自身も会社も「30年かけて成長、発展していきたい」というテーマを掲げている。医学で言えば、基礎研究から実践研究を経て、応用研究とつながっていく。陸上競技の三段跳で言えば、ホップ・ステップ・ジャンプと、3段階での飛躍をイメージする。 「スポーツでも何でも基礎の部分をおろそかにすると、次の段階に行った時に必ず失敗します。ですから私たちはこれまでの10年で、子どもの体力を測るということを通して、一番地味な土台を固めてきました。生まれてから20歳前後までのアスリートだった対象を、〝人生100年時代〟と言われる今、20歳より上のすべての方も対象にしていくということです。アローズ(ARROWZ)のつづりは、最初がAで、最後はZ。それこそ、子どもからお年寄りまで、すべての人にスポーツ科学を提供するという意気込みでいます」 基礎や土台の重要性を強調するあたりに、かつて静岡県や愛知県で鍼灸整骨院7院を経営する一方で、2000年シドニー、04年アテネ、08年北京と五輪3大会にトレーナーとして日本代表選手に帯同した経歴を持つ山下代表らしさが垣間見える。健康寿命を延ばすため「フィットネスドック」で体力年齢を測定
高齢者までの幅広い世代にスポーツ科学を提供する――。それを健康軸で考えると、「健康寿命を測る体力検診」になるという。 「病気の有無や体内の数値が正常かどうかをチェックするために人間ドックに行くように、健康を保つには基礎体力も定期的に測定する必要があります。健康志向の高まりからトレーニングや運動をする方が増えましたが、基準の体力がわかっていないと、運動効果がどれくらいあるのか、正確に判断することはできません」 基礎体力を正確な数値で表すには、専門的な機材とスポーツ科学に精通した測定員が欠かせない。フィジカル検診センター「アローズラボ」は、それらをパッケージした施設と言える。これまでのアローズラボでは、競技ごとに必要な5大基礎体力(視力・筋力・持久力・瞬発力・跳躍力)を検査し、パフォーマンス向上のための課題がわかる「スポーツドック」が行われてきた。健康寿命を測る検診メニュー「フィットネスドック」は、そのノウハウを生かし、ブラッシュアップさせたものだ。 「測定に関しては、同じ機材を使いますが、強度が変わってきます。アスリートは限界まで追い込んで測定し、トレーニングを提供します。フィットネスドックで健康寿命を測る場合は、おそらく中高年の方が多くなるので、今までのデータを基に推定で数値を弾き出します。アスリートのように追い込む必要はありません」 フィットネスドックは年1回~4回コースが用意され、1回ごとに身体組成、視力、筋力、持久力の4つの検査を行う。そして、総合的な体力年齢の他、視力年齢、筋力年齢、持久力年齢を科学的に算出する。 「検診の結果、実際の年齢よりも若ければ、運動をもっと継続しようと前向きになれますし、何か問題があれば、今後どのようにしていくべきかをご提案させていただきます。最近の研究では、例えば有酸素運動は距離よりスピードが平均寿命に影響すると言われています。ただ毎日ゆっくり10km歩くより、短くてもある程度の速さで歩いた方が効果的とされています。検査を受けられる方には、そうした最新情報も発信し、健康寿命を延ばすためのきっかけ作りにしていただきたいと考えています」 自分の体力年齢などがかわると、日常生活での転倒リスク、筋力低下による肥満・生活習慣病・寝たきりのリスクといった課題を早期発見できる。さらに山下代表は、近年社会問題になっている高齢者による自動車運転中の事故も減らせると断言する。 「アスリートはスポーツビジョンと呼ばれる目のトレーニングによって、パフォーマンス向上につなげています。高齢者はアスリートほど視力が高くなくても、10段階の1が2に上がるだけで事故はかなり防げます。講習時間を長くして免許を与えるのではなく、例えば一瞬で判断してブレーキをかけられるようにするなど、運動能力に着目し奨励することで、確実に交通事故は減っていくと思っています」 体力年齢が実年齢より若ければ、生命保険の保険料が安く抑えられるという日が来るのも、そう遠くないかもしれない。 多くの国民が自分の体力状態を知り、そのレベル向上に向けて取り組むことは、結果的に健康寿命の延伸という国の大きな目標に貢献することになる。企業は労働災害が減少し、労働生産性の向上を実現できるだろうし、医療機関は人間ドックと合わせることで、より一層精密な身体の状態を把握し、健康寿命を延ばすための指導ができる。 健康寿命を測る体力検診が人間ドックに並ぶ認知度を経て、実際に多くの人が定期的に検診に出向くようになった時、本当の意味で国民のヘルスリテラシー(健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力)が向上したと言えるのだろう。ラボの展開を加速させ日本全国、そして海外へ
フィットネスドックをきっかけに身体への投資に関心を持った方は、アローズラボでスポーツ科学の専門家から「貯筋®運動」などのアドバイスも受けられる。「貯筋®運動」とは、スポーツ科学の世界的な権威で、アローズ研究所の所長を務める福永哲夫氏(東京大学名誉教授、鹿屋体育大学前学長)が提唱する理論をさす。「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間を少しでも長くするために蓄えておくべきは筋力。筋力は蓄えることができる」という考えから、体力や運動能力の低下を防ぐため、どこでも簡単にできる筋力トレーニングを毎日行いながら、お金を貯めるように筋力も貯めていこうという運動だ。 「80代や90代、あるいはもう少しで寝たきりになりそうな方は貯筋®運動が最適です。年齢や過去の運動経験によって筋肉量や動ける能力は変わりますが、一般的には若い方は強度を高くして、高齢者になるほど強度を少なくしていきます。貯筋®運動は選択肢の1つで、健康寿命を延ばす方法として趣味のゴルフやジョギングを行うというのでもまったく構いません」 近年は健康ブームの流れも相まって、自治体が運営するスポーツジムや民間で24時間営業しているトレーニングジム、コーチがマンツーマンで指導してくれるパーソナルジムなど、各地にトレーニングできる場所がある。山下代表は「トレーニングの方法や種類も豊富にあり、すべてエビデンスに基づいて指導されているので、どれも正しい」とし、だからこそ体力を測れる場所を作りたいと熱望してきた。 [caption id="attachment_128367" align="alignnone" width="994"] フィットネスドックをきっかけに身体への投資に感心を持った方は、どこでも簡単にできる「貯筋®運動」のアドバイスも受けられる[/caption] 「今後は体力を測って数値化し、〝見える化〟させることが私たちの最大の使命。ですから、ここからはラボの展開を加速させていきます。トレーニングに関しては、それぞれの方が好きなものを、理想と思われるやり方でやっていただき、私たちがその成果を測ることで、課題や次なる目標を明確にするためのお役に立ちたい、というスタンスです」 山下代表は現在進行形でスポーツ科学の素晴らしさを広めつつ、産学官連携で人々の健康に寄与する道を突き進んでいる。その取り組みに対して初代スポーツ庁長官の鈴木大地氏(順天堂大学スポーツ健康科学部教授)からも熱いエールが送られている。 そして、近未来に向けては「海外に進出したい」という明確なビジョンがあり、すでに数ヵ国で折衝に入っているという。 「今はまだ国内だけですが、今後は海外の大学や研究所と連携を取って、私たちが今やっている日本の基準を海外にそのまま持っていけるのか。いけないならどんなハードルがあって、別の測定を増やすべきなのか、プロトコル(データ、情報を互いに活用できる規約)を海外仕様に変えるべきなのかといった協議の必要性を感じています。夢にチャレンジするスポーツの観点でも、すごく高い運動能力や体力を持っている国がありますから、そういうところにラボを置いて、オリンピックでメダルを取る、プロ選手になるという夢を叶えてもらいたい。子どもからお年寄りまでが体力を測り、健康やスポーツでの成功という流れをもっと世界に広げていきたい。そういうモデルケースを作ることが大切だと考えています」 [caption id="attachment_127870" align="alignnone" width="1134"] アローズラボは、スポーツ科学の世界的な権威であるアローズ研究所の福永所長(左)のノウハウを最大限に活用して運営。膨大な体力データを持つ民間企業が大学や医療機関、自治体とも連携して〝健康寿命〟の延伸に取り組み出したことに、初代スポーツ庁長官である鈴木大地
氏(順天堂大学スポーツ健康科学部教授)も大いにエールを送っている[/caption]
日本橋三越本店への出店を契機に新たなステージへ
アローズラボ&アローズジムでは、創業からこれまで約12年間で、子どもたちを中心に延べ3万人近い体力データを取ってきた。それらの実績や経験を基に、今度は〝健康〟の分野に本格参入し、山下代表は「企業として日本全国へ、そして世界へと羽ばたきたい」と考えていた。 そんな折、日本橋三越本店も「コロナ禍を経て、お客様の消費スタイルや生活スタイルが大きく変化し、健康維持や体力増進といったコンテンツに対するニーズが高まっている」と感じ、創業350周年の節目を迎えた昨年、新たなサービス展開を模索していたという。 「常連のお客様が高齢になられて、足が思うように動かなくなり、それまでのように買い物を楽しめなくなってきた方もいらっしゃるとうかがいました。そうすると、孫の教育と自分の健康を意識し始めていきます。三越さんも『百貨店サービスも変わらないといけない』と健康分野へのトライを考えていく中、私たちの取り組みがマッチして出店に向けたお話をいただきました」 これまでのアローズラボ&アローズジムは、ららぽーと豊洲(東京)など〝子連れの聖地〟とも呼ばれる各地の大型ショッピングモールを中心に出店してきた。新たに取り組む健康分野はどこを拠点にするかという時、日本の道路の起点である日本橋はこれ以上ない場所に山下代表には思えた。 日本橋三越本店では従来の百貨店の枠にとらわれず、新しいサービスコンテンツとして『グッドヘルス&ウェルビーング』をキーワードに店舗内のライフソリューション型施設を再構築。新館5階に歯科クリニック、カフェ&レストランとともに迎えられたのがアローズラボ&アローズジムだった。そこには三越側の「新しいサービスコンテンツを提案することで、お客様の悩みや困りごとに対して革新的かつ具体的な提案ができるはず」という思いとともに、「お客様だけでなく、従業員の健康寿命も向上させていきたい」という期待もあるようだ。 [caption id="attachment_127872" align="alignnone" width="1089"] 「スポーツ科学で人々の運動能力を高め、健康寿命を延ばすことの役に立ちたい」と意気込む山下代表には、「スポーツ科学に携わる人々自体の価値も高めたい」という思いもある[/caption]◆
日本橋三越本店への出店は、「スポーツ科学を当たり前の世の中にしたい」と願う株式会社スポーツ科学の重要なマイルストーンになる。今後、日本中や世界に進出していくため、アローズラボ&アローズジムのフラッグシップ(旗艦店)に位置づけられると言っても過言ではないだろう。 「スポーツ科学で人々の運動能力を高めたい」、「人々の健康寿命を延ばしたい」という目的と同時に、山下代表には「スポーツ科学の価値を高める」、「スポーツ科学に携わる人々自体の価値を高める」という青写真も胸に秘める。 スポーツ科学イノベーターである山下代表率いる株式会社スポーツ科学の取り組みが、日本橋三越本店への出店をきっかけに新しいステージに入った。 アローズラボ&アローズジム 日本橋三越本店 東京都中央区日本橋室町1丁目4-1新館5階 開校時間 10:00 ~ 19:00 株式会社スポーツ科学 静岡県浜松市中央区新津町534 公式ホームページ ※この記事は『月刊陸上競技』2024年3月号に掲載しています 文/小野哲史、撮影/船越陽一郎RECOMMENDED おすすめの記事
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