2023.12.23
新春の風物詩・箱根駅伝の100回大会に挑む出場全23校の選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。それぞれが歩んできた1年間の足跡をたどった。
不思議な縁に結ばれて東農大に入学
「11位、東京農業大学」のアナウンスを聞くと、涙があふれてきた。
10月14日の箱根駅伝予選会を突破し、10年ぶり70回目の出場を決めた東農大に、“新たな一歩”を呼び込んだのが主将の高槻芳照(4年)だ。
箱根予選会は1年時から3年連続のチームトップ。1年時には関東学生連合で8区に出走すると、今季は主将としてチームを引っ張ってきた。高槻が入学して、東農大は明らかに変わり始めたのだ。
そして高槻自身も、東農大と不思議な縁で結ばれていた。
福島・飯野中時代はバスケ部だったが、2年時に赴任してきた事務職員が高槻の走りを見て、「陸上を始めたほうがいいよ」と声をかけてきたという。
その職員は東農大OBで、福島市陸上競技協会の会長を務めていた。通っていた中学に陸上部はなかったが、そこから高槻は長距離レースに出場するようになり、「走るのが楽しくなって、強豪校に行きたいと思うようになったんです」。
中学時代の3000mベストが9分19秒だった高槻は、全国屈指の強豪校である学法石川高に入学。より本格的に競技に取り組むようになる。
次の転機は高校2年時の7月にあった福島県選手権10000m。現在もチームメイトの長谷部慎と高槻が1位(32分00秒62)、2位(32分06秒09)と、暑さの中でも粘り強い走りを見せた2人は、東農大の小指徹監督から勧誘を受けて、東農大の進学を決めた。
「小指さんから『絶対に伸びるぞ』と言われたんです。その後、農大以外から特に勧誘もなかったですし、必要とされたのがうれしくて、力になりたいなと思ったんです」
故障がありながらも、高槻は徐々に力をつけていき、3年時はインターハイを狙える位置にいた。
しかし、福島県大会の3000m障害を予選通過した後、胃腸炎になり、決勝は棄権している。
その後はロードで安定した走りを見せるようになり、全国高校駅伝は4区(区間20位)で出場。同学年の松山和希(東洋大)、2学年下の山口智規(早大)、長谷部らとタスキをつないで5位入賞を果たしている。
高3時の都大路は「雰囲気に飲まれた感じがありましたね」と振り返る。「長距離区間は別メニューで練習したんですけど、松山と渡辺亮太(現・東洋大4)は5000mベストが自分(14分22秒82)より20秒以上も速かったので、合わせるのが大変でした。特に松山とは実力差があったと思います」。
「今は任せられた区間を必死に走りたい」
高槻は長谷部とともに東農大に入学。2020年の箱根予選会は総合17位に終わるも、高槻が個人34位、同期の並木寧音が同47位。学内ワン・ツーを飾ったルーキーが確実に成長していくことになる。
高槻は関東学生連合のメンバーに選ばれ、8区(区間12位相当)に出場した。実は往路を走る予定だったが、12月上旬に体調を崩してしまい、復路に回った経緯がある。当時を振り返り、「最初は悔しかったのですが、応援してくれる人が多く、すごく楽しかった思い出があります」と高槻。箱根路を駆け抜け、「自分のチームで走りたい」という気持ちが強くなった。
2年時は11月の日体大長距離競技会10000mで並木が28分20秒49、高槻が28分22秒69。3年時は12月の日体大長距離競技会10000mで高槻が28分11秒99、並木が28分16秒30をマークし、戸田雅稀(現・芝浦工大プレイングコーチ)が持っていた東農大記録(28分28秒27)を2人で幾度も更新した。
「2年時はまぐれと思われたかもしれませんが、3年時でベストを更新できて、自分たちの実力を証明できたと思います」
しかし、箱根予選会の結果は伸び悩む。高槻と並木が3年連続で学内ワン・ツーを果たすも、一昨年は総合18位、昨年は夏に集団でコロナ感染してしまい、同17位だった。
今季は、インターハイ5000m日本人トップの肩書きを持った前田和摩というスーパールーキーが加入。高槻、並木、前田の強力3本柱を形成し、6月の全日本大学駅伝選考会を14年ぶりに突破した。
箱根復帰の気運は高まっていたが、高槻は夏に左足底を痛めて戦線離脱。主将不在の夏合宿でチームの足並みが乱れかけるも、主将は決戦に向けて急ピッチで仕上げてきた。
「体調的には4割くらいだった」という予選会を個人67位(1時間3分36秒)でカバー。日本人トップの快走を見せた前田の快走はあったものの、主将として伝統校を10年ぶりの箱根駅伝出場に導いた。
春先は花の2区を希望していたが、エース区間へのこだわりは消えつつある。
「2区は前田がいますし、並木も狙っている。今は任せられた区間を必死に走りたいと考えています」
自身では1区、3区、4区を考えているようで、「1区はあまり経験がないですけど、任せられたら早めにスパートしていきたい。3区なら結構前のほうでもらうことになると思うので、どんどん逃げたいですね。4区は起伏があるので、自分の得意なコース」と分析。いずれにしても、「思う存分、実力を発揮したい」と意気込む。
10月の予選会で安堵の涙を流した高槻。2024年の正月は笑顔でレースを終えるつもりだ。

21年箱根駅伝では関東学生連合の8区に出走した高槻芳照
たかつき・よしてる/2001年5月18日生まれ。福島県福島市出身。福島・飯野中→学法石川高。5000m13分53秒02、10000m28分11秒99、ハーフ1時間2分19秒
文/酒井政人
不思議な縁に結ばれて東農大に入学
「11位、東京農業大学」のアナウンスを聞くと、涙があふれてきた。 10月14日の箱根駅伝予選会を突破し、10年ぶり70回目の出場を決めた東農大に、“新たな一歩”を呼び込んだのが主将の高槻芳照(4年)だ。 箱根予選会は1年時から3年連続のチームトップ。1年時には関東学生連合で8区に出走すると、今季は主将としてチームを引っ張ってきた。高槻が入学して、東農大は明らかに変わり始めたのだ。 そして高槻自身も、東農大と不思議な縁で結ばれていた。 福島・飯野中時代はバスケ部だったが、2年時に赴任してきた事務職員が高槻の走りを見て、「陸上を始めたほうがいいよ」と声をかけてきたという。 その職員は東農大OBで、福島市陸上競技協会の会長を務めていた。通っていた中学に陸上部はなかったが、そこから高槻は長距離レースに出場するようになり、「走るのが楽しくなって、強豪校に行きたいと思うようになったんです」。 中学時代の3000mベストが9分19秒だった高槻は、全国屈指の強豪校である学法石川高に入学。より本格的に競技に取り組むようになる。 次の転機は高校2年時の7月にあった福島県選手権10000m。現在もチームメイトの長谷部慎と高槻が1位(32分00秒62)、2位(32分06秒09)と、暑さの中でも粘り強い走りを見せた2人は、東農大の小指徹監督から勧誘を受けて、東農大の進学を決めた。 「小指さんから『絶対に伸びるぞ』と言われたんです。その後、農大以外から特に勧誘もなかったですし、必要とされたのがうれしくて、力になりたいなと思ったんです」 故障がありながらも、高槻は徐々に力をつけていき、3年時はインターハイを狙える位置にいた。 しかし、福島県大会の3000m障害を予選通過した後、胃腸炎になり、決勝は棄権している。 その後はロードで安定した走りを見せるようになり、全国高校駅伝は4区(区間20位)で出場。同学年の松山和希(東洋大)、2学年下の山口智規(早大)、長谷部らとタスキをつないで5位入賞を果たしている。 高3時の都大路は「雰囲気に飲まれた感じがありましたね」と振り返る。「長距離区間は別メニューで練習したんですけど、松山と渡辺亮太(現・東洋大4)は5000mベストが自分(14分22秒82)より20秒以上も速かったので、合わせるのが大変でした。特に松山とは実力差があったと思います」。「今は任せられた区間を必死に走りたい」
高槻は長谷部とともに東農大に入学。2020年の箱根予選会は総合17位に終わるも、高槻が個人34位、同期の並木寧音が同47位。学内ワン・ツーを飾ったルーキーが確実に成長していくことになる。 高槻は関東学生連合のメンバーに選ばれ、8区(区間12位相当)に出場した。実は往路を走る予定だったが、12月上旬に体調を崩してしまい、復路に回った経緯がある。当時を振り返り、「最初は悔しかったのですが、応援してくれる人が多く、すごく楽しかった思い出があります」と高槻。箱根路を駆け抜け、「自分のチームで走りたい」という気持ちが強くなった。 2年時は11月の日体大長距離競技会10000mで並木が28分20秒49、高槻が28分22秒69。3年時は12月の日体大長距離競技会10000mで高槻が28分11秒99、並木が28分16秒30をマークし、戸田雅稀(現・芝浦工大プレイングコーチ)が持っていた東農大記録(28分28秒27)を2人で幾度も更新した。 「2年時はまぐれと思われたかもしれませんが、3年時でベストを更新できて、自分たちの実力を証明できたと思います」 しかし、箱根予選会の結果は伸び悩む。高槻と並木が3年連続で学内ワン・ツーを果たすも、一昨年は総合18位、昨年は夏に集団でコロナ感染してしまい、同17位だった。 今季は、インターハイ5000m日本人トップの肩書きを持った前田和摩というスーパールーキーが加入。高槻、並木、前田の強力3本柱を形成し、6月の全日本大学駅伝選考会を14年ぶりに突破した。 箱根復帰の気運は高まっていたが、高槻は夏に左足底を痛めて戦線離脱。主将不在の夏合宿でチームの足並みが乱れかけるも、主将は決戦に向けて急ピッチで仕上げてきた。 「体調的には4割くらいだった」という予選会を個人67位(1時間3分36秒)でカバー。日本人トップの快走を見せた前田の快走はあったものの、主将として伝統校を10年ぶりの箱根駅伝出場に導いた。 春先は花の2区を希望していたが、エース区間へのこだわりは消えつつある。 「2区は前田がいますし、並木も狙っている。今は任せられた区間を必死に走りたいと考えています」 自身では1区、3区、4区を考えているようで、「1区はあまり経験がないですけど、任せられたら早めにスパートしていきたい。3区なら結構前のほうでもらうことになると思うので、どんどん逃げたいですね。4区は起伏があるので、自分の得意なコース」と分析。いずれにしても、「思う存分、実力を発揮したい」と意気込む。 10月の予選会で安堵の涙を流した高槻。2024年の正月は笑顔でレースを終えるつもりだ。 [caption id="attachment_124200" align="alignnone" width="800"]
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