ハンガリー・ブダペストで開催されている第19回世界選手権(8月19日~27日)で行われた男子10000m。日本からただ1人出場した田澤廉(トヨタ自動車)は28分25秒85で15位だった。2008年北京五輪5000m、10000m代表の竹澤健介さん(摂南大ヘッドコーチ)に、そのレースを振り返ってもらった。
◇ ◇ ◇
今回は暑さも含めて日本人に合った気候も味方して、前半は1000mごとに2分50秒前後のペースで5000m通過が14分21秒。そこから前回のように一気にペースが上がるのではなく、1周ごとに上がっていくような流れでした。日本人選手にとって、一番順位を取りやすい展開となり、しかも田澤選手自身も力を出し切ったレースだったと思います。
それでも前回から5つ順位が上がったとはいえ15位で、最後の3000mだけで35秒近い差をつけられました。その要因としては、まずは「スピード」の差があるでしょう。
今回の田澤選手の場合は、1000m2分45秒がリミットだったのかなと感じました。6000mから7000mで2分44秒に上がったあたりからきつくなったようですが、夏のレースで、日本人にとって1周64秒に入ると、10000mというよりは5000mのレースペースに近くなります。5000mで12分40秒前後のベストを持っている世界の選手と比べ、田澤選手は13分22秒60。このスピード差は、やはり大きいと言わざるを得ません。
それに加えて、「スピードに対する余裕度」にも差があるように感じました。田澤選手は今年に入って、これが5本目の10000mレース。参加標準記録(27分10秒00)を突破できなかったため、ワールドランキングやエリアチャンピオン(アジア選手権優勝)での代表入りを狙う取り組みとなり、出場試合が増えました。すると、どうしても10000m仕様のトレーニングになり、スピードを磨く部分にどこまで入り込めたか。
1周だけのスピードであればそれでも対応できるかもしれませんが、2周、3周と続けてペースが上がり続ける展開になると、そのペースに余裕を持って対応するだけのスピード持続能力が求められます。
長い距離からのアプローチで善戦はできると思いますし、実際に田澤選手はその力を出し切れていました。では、今回生まれた差をどう埋めていけばいいのか。私は「5000m」がポイントであると考えます。
5000mで12分台、少なくとも12分台に近い13分台を持って、日本人らしい粘りを発揮する。そうすれば入賞のチャンスが生まれてくるでしょう。
そのチャンスをつかむために、まずは標準記録を突破を念頭に置いた強化を目指すことが大切です。そして、自分の身体を万全の状態に仕上げておくことが最低条件。そのうえで、世界大会は今回のように気候が味方する場合が多いので、女子10000mで集団の中で粘って入賞を勝ち取った廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)のようなレースにもっていくことで、可能性をさらに広げることができるのではないでしょうか。
もちろん、それが簡単なことではないということは重々承知のうえで、それでも世界へのチャレンジを続けてほしいと思います。
史上4人目の3連覇を飾ったジョシュア・チェプテゲイ選手(ウガンダ)は、自分の勝負パターンをしっかりと把握し、それを体現しました。
ラスト1周で前にいれば負けないとわかったうえで、ラスト500mから前に出た。瞬発力はエチオピア勢が上かもしれませんが、長いスパートでそれを封じた走りは、世界の中でも一枚も二枚も上の選手だと感じました。
ラスト1000mは2分25秒、ラスト800mは1分53秒、ラスト400mは53秒でカバーできるスピードは、見事と言うほかありません。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.03.28
-
2025.03.28
-
2025.03.28
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.28
【世界陸上プレイバック】五輪ボイコットきっかけに創設!クラトフヴィロヴァが女子400mと800mで今も大会記録に残る2冠 日本は室伏重信ら出場も入賞ゼロ
今年、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪大会を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。これま […]
2025.03.28
【高校生FOCUS】女子三段跳・山﨑りりや(鳴門渦潮高)日本高校女子初の13m到達、大学で学生記録挑戦
FOCUS! 高校生INTERVIEW 山﨑りりや Yamasaki Ririya 鳴門渦潮高3徳島 高校アスリートをフォーカスするコーナー。年度末を迎えますが、振り返ってみれば、2024年度は高校生による日本記録樹立を […]
2025.03.28
3泊4日の全国高体連合宿終了! 「高め合える仲間がいっぱいできた」 来年度は宮崎で開催予定
大阪・ヤンマースタジアム長居を主会場に行われた2024年度の日本陸連U-19強化研修合宿・全国高体連陸上競技専門部強化合宿が3月28日、3泊4日の全日程を終えた。全国から集まった選手たちは交流を深め、試合での再会を誓った […]
2025.03.28
資格停止中の競歩・池田向希がCASに不服申し立て「一日も早く競技 を再開」
旭化成は3月28日、所属選手である競歩の池田向希が受けたアンチ・ドーピング規則違反による4年間の資格停止処分について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服申し立てを行ったと発表した。 男子20km競歩で東京五輪銀メダリスト […]
2025.03.28
【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー
3月28日、東京都多摩市の国士大多摩陸上競技場で第7回国士大競技会が行われ、高校用規格の男子円盤投(1.75kg)において福宮佳潤(東京高1)が50m73をマークした。この記録は高校1年生の歴代ランキングで2位。高1で史 […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報